真珠の蒼

□第3章
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深い眠りから目覚め、ゆっくりと目を開ける。

ボンヤリと、けれども少しずつしっかり視界が開け、薄汚い天井が飛び込んできた。

もう、朝か。・・・全然寝てねえな。

ソファの下に落ちている自分の帽子を頭に被り直し、俺は黒のネクタイをユルユルと緩めながらユニットバスへと向かう。

皆はまだ寝ているようで、俺一人の足音だけが室内に響いた。

カーテンの窓からチラリと外を覗けば、黒い雲の隙間からキラキラと日の光が指してくるのが確認できた。

今日は良い天気になりそうだ、と思うのと同時に蛇口を捻り、冷たい水でバシャバシャと顔を洗う。

すると普段に感じない気配が俺に近づいてくるのが分かった。

一瞬誰だと警戒したが、すぐに、そういえば訳あり少女がいたなと思い直す。

キィ、と俺がいるユニットバスの扉の開く音がした。

俺が振り向く前に、ポコンと背中に彼女の頭が当たり、それから自分の腰に白くて細い彼女の腕が見える。

同時に感じる、彼女の柔らかな感触に俺は少し驚愕した。

・・・おいおい、何抱きついてんだ。

俺が振り返るにもガッチリと手を回されているため、振り向くことが出来なかった。



「おい、お前何やって・・・」

「お、とう・・・さ」

「・・・」



俺はお前の父親じゃねーよ。

どうやら寝ぼけているらしい彼女は、俺を父親と勘違いしているようで。

はあ、と溜息を付き無理矢理彼女の腕を引き離す。

それからスパンッ!と容赦なく彼女の頭にチョップを入れる。

これでコイツも目が覚めるだ、ろ・・・?

俺は視界に飛び込んできた彼女の姿に、思わず目眩を感じる。



「・・・いたい」

「お前、なんでカッターシャツ一枚だけなんだ!」

「へ、次元さん?・・・ッ!?」



自分の身体を確認するなり、カッターシャツ一枚という薄着で俺の前に立っていることを理解したようで。

顔をボンッ!と赤くさせ、ヘロヘロとその場でへたり込んだ。

そうすれば、シャツの丈で隠れていた白くてスラリとした太ももまでもが露出して。

俺は痛む頭を抑え、彼女に怒りと共に困惑を口にする。



「下も履け!ズボンは?スカートは!?」

「ふ、不二子ちゃんがコッチのが涼しいからって〜・・・」

「だからと言ってその格好で出てくるな、この馬鹿ッ!!」



でも確かにこの格好で寝るのは涼しかった、とボソボソと言い訳をする彼女に俺は叱咤をする。

すれば彼女は小さく小さく身体が縮んでいく。

俺は自分の顔を拭くことすら忘れていて、ポタポタと髭から滴り落ちる水滴で下に水たまりを作っていた。

そんな混沌の場にカタン、と扉を持つ音がして。



「・・・うるさいぞ、何をして・・・ブッ!!」

「ッ!五エ門さん!?」

「おい、五エ門!!しっかりしろ!!」



彼女の一枚しか布を纏わない姿に欲情したのか、鼻血をぶっ飛ばし、顔を真っ赤にさせて倒れる五エ門。

大丈夫ですか、と奴に駆け寄る彼女は五エ門にとってはただただ毒に過ぎなくて。

出血多量で瀕死しそうな五エ門に俺も介抱を加担する。

大丈夫か?と俺が聞けば、五エ門は震える右手でグッと親指を立て一言。

「せ、拙者・・・生きてて良かっ、た」

俺は即座に五エ門を支えていた手を離す。すればゴツンと頭を打ち、沈む五エ門。

俺はそれを放置し、一緒になってかがみ込んでいる彼女の腕を掴み、ユニットバスを飛び出す。

戸惑う彼女をよそに、俺は勢いよく不二子の部屋の扉を開けた。

すると下着姿のルパンと不二子が・・・って、



「お前ら!!朝から不健全過ぎる!!!!」

「ごめ〜んなしゃ〜い!!」



不二子の強烈な蹴りを受け入れて部屋からロケットのように飛び出てくるルパンと引き換えに、

俺は星海をその部屋へと押し込む。



「じ、じげっ・・・ごめんなさ」

「知らん!!」



バンッ!!と扉をはち切れんばかりに閉めれば、途端に襲う静寂。

ルパンがメソメソと、これからだったのに〜、と服を着ている以外は。

イライラと腹を煮やすのは、寝不足と、少しの困惑。

どう、彼女に接していいのか分からないのだ、俺は。

大人の女性ならともかく、まだ子供。しかも一番複雑な時期。

絡みにくい、というのが一番の悩みだった。

そして、まだ仲間と認めたわけじゃねえ、と。

ドカリとソファに座り込めば、五エ門がズリズリと寝たまま、足を使って俺の元へとやってくる。

本当に今日、テストをするのか。

鼻血垂らした顔で妙に真剣に聞く奴は、やっぱり彼女を心配しているようで。

俺は目を合わせずに、帽子を深く被りながら言った。

「初っ端からの銃撃戦で死なせたくないだろ」

五エ門は理解するように静かに目を閉じ、脇で着替えていたルパンはニヤリと口元を緩ませた。










「も〜、次元ったら!女の子には優しくしなさいよぉ」

「・・・」

「じ、次元さん。ごめんなさい・・・」

「ふッじこちゃぁ〜ん!おっかわり〜!!」

「ご自分でどうぞ」



なんとも気まずい朝食が始まり、早十分。

ルパンはガツガツと食べ、五エ門はボソボソと食べ、星海はメソメソと食べる。

不二子は頬を膨らませながらガスコンロの近くで立ち食い。

俺は複雑な気持ちで一杯だった。別に彼女に対して怒ってる訳じゃあない。

どう、切り出していいのか分からない。自分のこの心情を。

五エ門がチラリと俺を見れば、俺は軽く舌打ちをした。



「・・・別に怒っちゃいねえよ」

「でも・・・」

「いいんだ。俺も、すまなかった」



俺がそう言って席を立ち、お馴染みのソファへ座れば、ホッと空気が緩くなったのを感じた。

これで、良かったのか?

俺は足を組み、ズリズリと背もたれにもたれ掛かる。

ふと視線を上げて、彼女をのぞき見れば、安心したように微笑む顔が見れて、心なしか俺も心を落ち着かせる。

皆がどうやら食べ終わったみたいで、不二子と星海で片付けをしていた。時々五エ門も手伝って。

二人でキッチンに並ぶ後ろ姿は本当に姉妹みたいで(歳はだいぶ離れているが)、俺は口元を上げた。

ルパンはルパンで昨日の機械弄りの続きで忙しそうに。

チクタクと時が流れるのを感じる。

部屋に差し込む光も徐々に強くなって、やはり今日はいい天気なようだった。

俺だけが一人ソファでゆったりしていれば、ゆっくりと暗くなる視界。

見上げれば星海が立っていて。

「テスト、しよっか」

そう言ってコートを開いた中の彼女の身体は前夜のように銃で武装されていた。















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