短編

□一筋の光
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次元は必死になって私の上に乗ってる瓦礫を退かす。

それより、私は瓦礫の下だったんだと今知る。

聞きなれない優しい言葉ばかりが次元の口から溢れる。

それを愛しく思い、返事をしようとした。

が、声は出ない。

代わりに真っ赤な真っ赤な、血。

次元は泣く。

おいおい、アンタの泣き顔なんて見たくないよ、私。

アンタの笑った顔が好きなんだ。

私は笑う。

彼の笑顔を思い出して。

笑うときは本当に楽しそうに笑うんだ、次元は。

もう一度見せてよ。

また口から血が溢れる。

次元が冷たくなっていく私の手を握った。

熱かった。

温かいんじゃなくて、熱かった。

そんなに差を感じるほど、私は冷えていた。

次元は嗚咽を漏らして、私に愛を囁く。

都合のいい男。

普段は恥ずかしさを誤魔化してるくせに。

まるで私が死ぬみたいだ。

・・・死ぬんだった。

私は笑う。

良かった。死ぬのが私で。

次元じゃなくて。

ルパンじゃなくて。

不二子じゃなくて。

五エ門じゃなくて。

足でまといの私で、良かった。

足でまといの私?

そうだ。私は足でまといだ。

だって、今、次元がここにいるということは。

敵を、誘き寄せてる。

霞む視界の曇りを必死に無くす。

アイツの泣き顔の後ろに。

油断しきってる次元の後ろに。

醜い笑顔。

汚い微笑み。

腐った笑い。

敵がヒトリ。

きっと次元を殺せば裏世界の殺し屋をノっとれるだなんて甘い考えを。

許さない、私が。

守るよ、私が。

次元が、好きだから。

愛してるんだ、純粋に。

よくあるでしょ、気付いたら本当に愛してしまった。

私は笑う。

身体が軽いんだ。

あんだけ動かなかった身体が、動く。

ただし、大量の赤を流しながら。

次元は驚いた顔をして微笑む。

そんな次元を押しやって、銃を構えている敵に向かう。

地面を蹴る。

身体が飛ぶ。

こんなに早く移動できるものなんだ、と驚く。

敵が恐怖顔で銃を乱射する。

私はそれを全身で受け止める。

負けじと、愛するものを守るためだと。

私も銃を抜き、相手の心臓を撃ち抜く。

今の銃の勢いで、片手が、折れた。

ま、ぁいっか。

相手は赤が止まることなく噴出し続ける胸を押さえて、爆弾を投げ入れる。

懲りない奴。

敵は死んだ。

次元が私を守ろうと駆け寄って来る。

こっち来んな。

アンタも死んじゃうだろ?

せっかく守ったのにさ。

爆弾は宙を舞っている。

私は次元を避けた。

その勢いで次元は部屋の外に転がりこむ。

あぁ、良かった。

怯えたように。

信じたくないみたいに。

次元は叫ぶ。

私は笑う。


「ねぇ、笑ってよ。次元」


声が出た。

嬉しかった。

次元は笑う。

引きつった笑みが、水によって徐々に緩和される。

涙で顔をめちゃくちゃにして。

声を出して笑う。

帽子を深く、深く押さえて。

大口叩いて笑った。

ルパンと二人で笑ってるみたい。

私は嬉しかった。

最期にこの笑顔が見れて。


「お前は大馬鹿野郎だよ、星海!!!」


馬鹿はどっちだ。

私は野郎じゃないよ。女だし。

私は笑う。

コイツを愛して良かった。

幸せだった。

楽しかった。

バイバイ、次元。

爆弾が地面に落ちるのと同時に、

白く発光した光が部屋を包む。

次元の泣き顔が見えた。

大丈夫だって。

一度爆弾を受けてるんだ。

なんとかなるって。

泣くな、次元。

強い強い衝撃が私の身体を貫く。

私は笑う。

一筋の光が。

私を迎えに来たから。

さあ、行こう。

身体を軽くして。

新しい世界に踏み出すんだ。



そこは白くてきれいな世界。

天にある、美しい国。

私は笑う。










END 2014/8/4
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