Long Stories

□桃色に染まる
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 木ノ葉病院。
 その一室に慣れた様に入ったサクラはベッドの上で項垂れているサスケに笑顔を見せた。



「おはよう、サスケ君」

「…あぁ」

「修行の度に怪我して帰ってくると怒られない?」

「……あぁ」



 素気ないサスケの態度に眉を下げてリンゴを手に取る。
 ナイフで皮を剥くサクラをチラリと見てサスケは己の拳に目を落とした。
 ――…私はね。
 自分の為に生きてるこの子が大好きなんだよ。
 言葉が過って拳を握りしめる。



「よし、上手に切れた。サスケく…」



 サスケの拳がリンゴにぶつかり皿ごと吹き飛ばされる。
 皿の割れる音が響き病室の前まで来ていたナルトが焦った様子で中に入って来た。
 ナルトの姿にサクラもサスケも同時に目を見開く。



「ナルト!?アンタ帰って来たの!?」

「う、うん…。てかどうしたんだってばよ、すげー音が…」

「…ナルト…」



 サスケの低い声にナルトが目を其方に向け彼の鋭い視線に眉を寄せた。
 なんだよ、とイラついた様子で言ったナルトを黙って睨み付けるサスケ。
 サクラが困った様に眉を下げ話を変える様に口を開いた。



「そ、そう言えば新しい火影様は?見つかった?」

「んえ?…まぁ…見つかったってば」

「じゃあご挨拶に行かなきゃね。黒凪の事も話さなきゃ…」

「ナルト!!」



 ビクッとサクラが肩を跳ねさせる。
 サスケの怒号に黒凪も微かに目を開いた。
 今すぐ俺と戦え…!
 低い声で言ったサスケにナルトが眉を寄せる。



「はぁ!?つい最近傷も治って修行始めたとこなんだろ!?それに明日には綱手のばーちゃんがお前の傷を見に来るって…」

「つ、綱手のばーちゃんって?」

「俺とエロ仙人が連れて来た火影の…」

「火影様をそんな呼び方、」



 サクラ。口を挟むな。
 またビクッと固まるサクラ。
 おいおい、とナルトがサクラの前に出た。
 するとサスケの写輪眼が向けられナルトも思わず動きを止める。



「五代目だか何だか知らないが余計な世話なんだよ」

「何ぃ!?」

「俺の傷はもうとっくに治ってる。俺と戦え。」

「…っ」



 サスケ君、止めようよ。ナルトも何とか言って。
 サクラが困った様に2人を見るとサスケが黙って歩き始めた。
 ナルトも何も言わず拳を握り付いて行く。
 ぐしゃ、とサスケが踏み潰したリンゴが目に入った。



「(どうしよう、)」

『(……)』



 ごぽ、と聞こえた水音に黒凪の方へ意識を持って行く。
 湖の底で黒凪が目を開いていた。
 どうしよう。もう一度声を掛ける。
 ゆっくりと背を起こす黒凪に手を伸ばしかけた。
 しかしサスケが脳裏に過り手を引っ込める。



「(…私がやるんだ)」

『(…。)』

「(私が、止める)」



 目を開きゆっくりと病室を後にした。
 屋上に2人を追って辿り着くと既に戦いは始まっていて。
 流れ込んできた熱気に目を見開くとサスケが上空に跳び上がり下にナルトが居た。
 まずはナルトを止めようと足を踏み出す。
 しかしナルトの手に集められたチャクラに足がすくんだ。



「(何…?あのチャクラ、)」

「サスケェ!お前いい加減にしろってばよ!!」

「……なら俺も見せてやる。」



 サスケの片手にもチャクラが集まりバチバチと電流の音が響いた。
 サクラの頬を汗が伝う。
 まずい、と黒凪が体を起こした。



『(サクラ!交代しないと…!)』

「(私が、私がやらなきゃ)」



 あぁ、あの時と同じだ。そう思った。
 このままじゃサクラと交代する事が出来ない。
 サクラが傷ついてしまう。



『(サクラ!!)』

「2人共止めて!!」

『(――どうして、)』



 どうして私を頼らないの、サクラ。
 そう呟いた時、また耳元で音が聞こえた。
 ピシ、と。



「「!」」



 ナルトとサスケが同時に目を見開いた。
 そしてサクラの両目の色を見て頬を汗が伝う。
 どうして黒凪じゃない?
 サスケが思った。
 このままじゃサクラちゃんが…!
 ナルトが眉を寄せる。



『(…駄目だ、)』



 意識が、薄れて行く。
 黒凪が湖の底に沈み目を閉じる。
 ヒビが彼女の頬にまで広がった。
 サクラに迫っていたナルトとサスケの手首を掴みカカシが2人を放り投げる。



「!…カカシ先生、」

「……。」



 2人はカカシによってそれぞれ貯水タンクに技をぶつけた。
 ナルトの技を受けた貯水タンクからは水がちょろちょろと落ち、サスケの方は勢いよく水が噴き出す。
 その様子を見てサスケが微かに微笑むと「ナルトを殺す気だったのか?」とカカシの声が掛かった。



「俺はそんな事の為に千鳥を教えたわけじゃあないんだがな」

「…フン」



 サスケはカカシから目を逸らし屋上から降りて行った。
 貯水タンクの裏側に着地したサスケは徐に顔を上げる。
 するとナルトの技を受けた貯水タンクの裏側に大きな穴が開いている様子を目撃した。
 裏側に巨大な穴が開いた為に先程は水が少ししか零れていなかったと知るとサスケの脳裏にまた怒りが込み上げる。



「くそ…!」



 サスケは壁を拳で殴り去って行った。
 息を吐いて前で泣きじゃくるサクラに目を移すカカシ。
 その目の前に着地するとサクラの顔を覗き込んだ。



「…黒凪じゃないのに飛び込んだのか」

「……私が止めようと思ったんです」

「!」



 こんなに何も出来ないなんて、思ってなくて。
 サクラの言葉にカカシが眉を下げた。
 んじゃあ俺はサスケの説教に行くから。
 ぽんと乗せられたカカシの手に顔を上げる。



「大丈夫。また昔みたいに戻れるよ」

「……」



 小さく頷いたサクラに笑顔を見せて去っていくカカシ。
 するとナルトがゆっくりとサクラに近付いてきた。
 ナルト、と顔を上げるサクラ。
 ナルトは眉を寄せて静かに言った。



「…邪魔しないでくれってばよ、サクラちゃん」

「!」

「黒凪じゃないのに飛び込んで来たら危ないだろ」



 目を大きく見開く。
 ぽろ、と零れた涙に気付かずナルトが走り去って行った。
 ピシッとまた音が鳴る。
 しかしサクラは気にする事無くその場に座り込んだ。



『……っ、』



 痛みに眉を寄せつつ己の手の平を見る黒凪。
 ヒビだらけになったその手は少しの衝撃を与えれば粉々になってしまいそうな程だった。
 潮時かなぁ、と目を細める。
 まさかサクラの為にとやって来た事が今更仇になるだなんて思わなかった。



『…ごめん、サクラ』

「――!」

『もう私は消えるから』



 いや、私の意志なんて関係ないか。
 目を閉じた黒凪の意識が更に薄まって行く。
 もう彼女の気配何て完全になくなってしまうのだろうか。
 サクラが思わず手を伸ばした。
 しかし黒凪の元まで手を伸ばさないサクラに黒凪が微笑む。



『…じゃあね』



 なんだかんだでしがみ付いて来たけど。
 サクラの手が大きく開かれる。
 もう、無理だ。
 サクラの手は空を掴んだ。



 
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