Long Stories

□桃色に染まる
27ページ/31ページ



「……。」



 日も落ちた里のとある道。
 そこに設置されたベンチに座って足を抱えた。
 サクラは自分の手の平を徐に見る。



《――…最後の手向けだよ》



 空を切った私の手に伸ばされた黒凪の手が脳裏に過った。
 これで最後だ。
 …彼女の声が過る。



《サスケはサクラが気を失っていた時、殺したい相手だと言っていた兄に出会ってる》

《!》

《その兄に完膚なきまでにやられた。》



 あいつ、絶対に兄を倒す為に大蛇丸の所に行くよ。
 私には分かる。
 サクラが目を見開いた。
 こんな生温い場所じゃサスケは納得しない。
 カツ、と聞こえた足音に顔を上げた。



「――!」

「……。」



 振り返って見えたのはサスケで、ギリッと歯を食いしばった。
 本当に黒凪の言った通りだった。
 …黒凪が教えてくれなかったらサスケ君が里を抜けるだなんて考えもしなかった。
 彼の背に担がれたリュックに眉を下げる。



「…夜中に何してる。サクラ」

「……。里を出る為にはこの道しか無いって知ってるから」



 サスケが目を細めた。
 そうか。そうとだけ言ってサクラの横を過ぎて行くサスケ。
 サクラの頬を涙が伝う。



「黒凪が、」

「……」

「黒凪が言ったの。…サスケ君は里を抜けるだろうって」



 サスケの足が止まる。
 私には、本当に何も言ってくれないのね。
 震えたサクラの声にサスケが目を伏せた。



「お前に話す必要はないだろ」

「それは黒凪にもでしょう?」

「アイツにも話した事は無い。」



 サクラの言葉が止まる。
 アイツは単に勘が良いだけだ。
 ぽたた、と涙が地面に落ちる。



「…私には確かに黒凪程の勘は無い、よね」

「……。」

「なんでサスケ君の事、黒凪はそんなにわかっちゃうんだろう。」



 私は何も分からないのに。
 …黒凪の事も、サスケ君の事も。
 サスケは振り返る事はせず黙ってその言葉を聞いている。



「サスケ君の一族の事は知ってる。…黒凪の事も、知ってる」

「…」

「確かに2人はそう言う面では似てるよね。でも復讐の為だけにとか、…そんなの虚しいだけじゃない」



 誰も幸せになれないよ。
 サスケ君も、周りの人も。
 サスケがフッと笑った。



「それでも俺は結局復讐の道を選んだ。俺とお前達はやっぱり違う」

「そんな事ない!そうやって孤独になろうとしないでよ…!」



 やっと解ったの、孤独って何か。
 涙がまた地面に落ちた。
 黒凪はもう私の中に居ない。
 サスケが微かに目を見開いた。



「私はこれで、自分の一番の理解者を無くした!…私が拒絶した…!」

「……。」

「サスケ君が言った通りだった!私を護ってくれた人を一方的に嫌って、黒凪は最後まで私の味方だったのに…!」



 サスケが拳を握りしめる。
 自分が他人を拒絶するから孤独が生まれるんだよ!
 …相手は、黒凪はあんなに手を伸ばしてくれたのに。
 私が辛い時も手を伸ばしてくれて、危険な時も代わりになろうとしてくれて。
 それを拒絶し続けた結果黒凪は私の元から居なくなった。



「サスケ君まで居なくなっちゃったら、私…っ」

「……」

「私はサスケ君が好きなの、大好きなの…!」



 だから此処に居て!私と一緒に、
 そこまで言った所でサスケがサクラの背後に一瞬で移動した。
 俺は。サスケの声が耳に届く。



「俺はお前を通して黒凪しか見ていない」

「…罰が当たったのかなぁ」



 私、ずうっと黒凪に全部、任せてきたから…。
 トンッとサクラの首元に手刀が入った。
 ドサッと倒れたサクラを持ち上げ側のベンチに寝かせる。
 そうしてサスケは静かに里の出口に向かって歩き出した。






























 里の出口に向かって走る。
 そうして辿り着いたサクラにシカマルが率いるチームの全員が振り返った。
 彼等は里を抜けたサスケを連れ戻す為に集められたと聞いている。
 そのチームにサクラが呼ばれる事は無かった。



「!…サクラちゃん」

「…火影様に話は訊いてる。お前でも説得出来なかったんだろ」

「っ、」

「後は力尽くで連れ戻すしか手はねぇ。…お前の出番はもう無ぇよ」



 サクラの頬を涙が伝った。
 ナルトがその涙に微かに眉を寄せる。
 がしがしと後頭部を掻いたシカマルが再び口を開いた。



「…お前じゃなくて黒凪って奴なら」

「!」



 サクラが顔を上げた。
 黒凪が行くって言うなら火影様の所まで行け。
 あいつならまだ説得出来る可能性があるんだろ?
 シカマルが面倒臭げに言った。



「俺はその黒凪ってのを知らねーが、ナルトが言ってる分にはお前の頼みなら聞くらしいじゃねーか」

「…黒凪は、もう…」

「だったら」

「俺が!」



 シカマルの言葉を遮ってナルトが言った。
 俺が絶対連れ戻すから。
 だから、そう言ったナルトにサクラの目にまた涙が浮かぶ。



「…黒凪に頼んでみる。…でも、多分無理だと思う」

「……」

「だからナルト、…お願い」

「…おう!」



 ニッと笑ってサクラに拳を向け、チームが走り去る。
 シカマルが徐に口を開いた。



「本当にその黒凪ってのは信用出来るのか?中忍試験で暴れてたあの黒髪の奴だろ?」

「大丈夫だってばよ。アイツはサクラちゃんの頼みだけは絶対に無視しねえ。」

「でもサクラはもう無理だって言ってただろ。本当に来るのかよ」

「来る。…絶対アイツは来る。」



 それが黒凪だ。
 ナルトの言葉にシカマルがため息を吐く。
 んじゃまあ、その黒凪を待ちつつやりますか。
 おう!とナルトが笑顔を見せた。






























「…黒凪、」



 両手をぎゅっと祈る様に握り名前を呼ぶ。
 やはり返事は無い。目に残っていた涙がまた零れた。
 お願い、そう震える声で言った。



「これで最後にするから、…だからお願い黒凪」

『――――…』

「…今まで面倒な事ばかり頼んでごめんなさい。…怒ったよね、疲れたよね」



 もう湖は無い。花畑も無い。
 …カツ、と頭の中で音がした。
 これで本当に最後にする。だから、



『…最後だからね』

「!」



 はっと顔を上げると目の前に薄く微笑んだ黒凪が立っていた。
 思わず抱き着きそうになるのを彼女の顔を見て踏み止まる。
 口元にまで達しているヒビ。
 手や足を見ると亀裂ばかりで今にも崩れてしまいそうだった。



『でもごめん、サクラの意識があると私はもう外に出られない』

「…うん」

『新しい火影の所に行かなきゃ駄目なんでしょ?…そこに行って、』

「分かってる。…そこで私が気を失えば良いのよね」



 ごめんね、そう言って抱きしめてきた黒凪はとても冷たくて。
 目を閉じたサクラはその目を見開くと綱手の元へ走り出した。
 すぐに火影室の扉の前に到達したサクラはノックをして中に入る。
 座っていた綱手はサクラを見ると微かに目を見開いて手元の資料を机に置いた。



「…話は訊いている。サクラだな」

「はい」

「此処へ来たと言う事は…」

「綱手様、私を気絶させてください」



 は?と眉を寄せた綱手。
 サクラは目を閉じ「黒凪と代わる為に必要なんです」と言った。
 サクラの逸る気持ちを理解した綱手は立ち上がりサクラのうなじに手を伸ばす。
 構わないんだな、そう言った綱手にサクラが頷いた。
 トン、と入った手刀に倒れ掛かるサクラだったがすぐさま踏み止まる彼女に微かに目を見開く。



『…どうも。』

「……ナルトから聞いている。黒凪だな」

『ええ』



 コキ、と首を鳴らす黒凪の目を覗き込む綱手。
 その目を静かに見返した黒凪は片眉を上げた。
 綱手は目を伏せると再び席に戻り指を組む。



「夜兎だと聞いている」

『!』

「…もう巻き込みたくは無かったんだがな」



 綱手の言葉を聞いた黒凪は眉を寄せる。
 その様子を見た綱手は納得した様に笑うと徐に顔を上げた。



「サスケの奪還任務への参加を認めよう。」

『…アンタには聞きたい事が沢山在るけど』



 背を向けて言った。
 黒凪はチラリと綱手を見て目を細める。
 今はサスケの方が優先だからねぇ。
 その少し不機嫌そうな顔を見た綱手は眉を下げた。




 優先事項。


 (…我々の宿命なのかもしれないな)
 (もう出会う事は無いと思っていたのに。)


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ