Long Stories

□桃色に染まる
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「……此処です」

「あぁ」



 微かな声に目を開いた。
 もう随分と時間が経っている。
 …再び此処に戻って来てから人が来るのは初めてだ。
 歪んだ視界の所為で誰が来たのかは分からない。



「では早速、」

「…悪かったな。」

「!…別に構いませんよ。本当はもう少し早く来れた事は分かっていますが」



 僕も彼女の術を解く時は貴方と一緒に行いたいと思っていましたから。
 そう言って目の前にしゃがんだ影が印を結び氷に触れた。
 ゆっくりと水となり溶け出す氷。
 その様子を見た影は立ち上がり背後に立っている人物に顔を向けた。



「では僕は外に出ています。」

「あぁ。」

「…そんな顔をしないでください。彼女が1番に会いたがっているのは貴方でしょうから」

「……どうだかな…」



 自嘲気味に言って氷の元に近付いてくる。
 氷が解けて倒れ掛かるとその人物がすぐさま体を支えた。
 目を開いた黒凪の視界に入ったのは黒い髪で。
 咄嗟に抱締められてその暖かさに眉を下げる。



『…サスケ…?』

「…あぁ」



 随分大きくなったねぇ。
 掠れた声にサスケも眉を下げてまた「あぁ」と言った。
 ぷっと黒凪が笑う。



『あんた、更に口下手になったんじゃ…』

「黒凪」

『ん?』

「…もう1人にしない」



 ずっと俺が、何があってもアンタの側に居てやる。
 そんなサスケの言葉に目を見開いてゆっくりと体を起こす。
 そうして改めてサスケの顔を見ると彼は小さく微笑んだ。



「だから一緒に帰ろう」

『!…立派になったね。ガキンチョだったのに』



 こつ、とサスケの額に着けられた額当てに自分の額をくっつけた。
 サスケは間近に迫った黒凪の顔を見て眉を下げ唇にキスを落とす。
 黒凪は驚いた様に目を見張ってすぐに離れた唇に笑顔を見せた。



「これからは自分の意志で生きる」

『うん』

「…アンタと生きていく」

『……うん』



 ありがとう。そう言ってサスケの言葉に応えるように彼の首に腕を回した。
 そんな黒凪に安心した様に笑って彼女の膝の下に腕を器用に滑り込ませる。
 そうして持ち上げると黒凪はまた少し目を見張って眉を下げた。



『…外には誰が居る?さっきのは白?』

「あぁ。」

『白だけ?あ、白が居るなら再不斬も居るか』

「自分の目で見れば良いだろ」



 ゆっくりと洞窟の外に足を踏み出した。
 日の光に思わず目を細め、そしてゆっくりと目を視界に入った者達に向ける。
 サスケと黒凪を見た彼等は一気に此方に走って来た。
 その笑顔を金色の瞳が映した時。
 彼女はとても嬉しげに笑った。



 帰ろう。

 (…なんだ、皆居たんだ)


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