Long Stories

□京紫が咲いた
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「…はぁ?また芹沢さんがそんな事…。将軍様に対してよくそこまで言えるよな」

「……やっぱりまだ怒ってんのかな、あの事」

「あの事?」

「…俺が居ない間に起きた事か」



 龍之介と斎藤が平助の言葉に食いついた。
 あ、と思わず言った平助だったが観念した様に口を開く。
 平助が話した内容は芹沢達と上洛する時のものらしく、やはり斎藤は知らなかった。



「近藤さんが道中の宿を先に手配する役目だったんだけど、手違いで芹沢さんの分だけ取り損ねた事があってさ」

「短気な人だからね。近場の建物を壊して火を付けたんだよ。寒いとかそんな理由で」

「うげ、マジで…」

「その所為で近藤さんは芹沢さんに土下座して謝ってさ。結局京には無事に着いたけど…」



 あれは今思い出しても許せない。
 沖田が眉を寄せて刀に手を掛けた。
 おいおい、と龍之介が怯えた様に後ずさる。
 その様子を見て平助達が小首を傾げた。



「…お前この間不逞浪士を瞬殺してたじゃん。何ビビってんだよ」

「うえ?あ、それは…」

「へぇ、そうなんだ。今度一度手合せしてよ」

「あ、あぁ…また今度な」



 眉を下げて言った龍之介に沖田がため息を吐く。
 しかし斎藤は龍之介をじっと見つめ彼の目を凝視した。
 平助達も斎藤と同様に龍之介を見ている。





























「将軍様よ!いらっしゃったわ!」

「将軍様ー!」


「っ、これじゃ前に出られない…!」

「警護所じゃねぇぞこりゃあ…」



 人混みに弾かれ近藤率いる浪士組が眉を寄せる。
 その最も後方で様子を見ていた龍之介は将軍に近付く事すら出来ない近藤達に眉を下げた。
 人混みの向こうを将軍が通り過ぎていく。
 眉を寄せた近藤が走り出し土方達も付いて行った。



「…はぁ…。黒凪、」

『(ん?)』

「助けてやってくれねぇか?」

『(助けるったってどうすんのさ)』



 あー…、と困った様に眉を寄せながら龍之介が後を追う。
 とりあえず近藤さんが将軍を一目見たいみたいだからさ、と言う龍之介にため息を吐いた。
 瞳の色が金色に変色し一気に足の速度が上がる。
 平助達は横を走り抜けた龍之介に目を見開いた。



『近藤さん、ちょっと失礼』

「ん?…おぉ!?」



 近藤さんを抱え右肩に乗せて走り出す。
 大の大人を抱えても皆より足の速い龍之介に平助達は一様に目をひん剥いた。
 掴まってて下さいよ、と声を掛けた黒凪は一気に踏み込み屋根の上に跳び上がる。
 そのあまりにも危険な行動に沖田が「ちょっと!」と声を掛けるが安定した着地を見せた黒凪は屋根の上から将軍にゆっくりと付いて行った。



『これで警護出来ますね』

「…あの方が将軍殿か…!」

『あはは。感動してないで不逞浪士が居ないか見ないと』

「あ、あぁそうだな!」



 嬉しそうな近藤とそれを担ぐ龍之介。
 それを建物の下に居る土方達は目を見開いて見ていた。
 大丈夫なのかあれは、と話す土方と山南。
 その隣で平助、原田、永倉、斎藤はじっと龍之介の顔を見ている。
 ふっと見えた瞳の色は金色だった。



「金色だ…!」

「あぁ、間違いねえ。」

「ありゃあ不逞浪士を倒した方の龍之介だな」

「?…なんの話です、それは」



 山南が平助達の会話に加わった。
 土方や斎藤、沖田も会話に耳を傾ける。
 平助は微妙な顔をしながらも口を開いた。



「からくりは分かんねーけど、なんか違うんだ。アイツの目が茶色じゃなくて金色の時は」

「金色?…確かにその色だが、」

「ふむ…もしや自分以外のもう1つの人格を持っているのでは?」

「それにしたって身体能力が違い過ぎるよ!…そう言うもんなのか?」



 それは解りませんが、と山南も微妙な返答を返す。
 すると将軍が無事に目的地に着いたのか再び物凄い勢いで近藤を担いで龍之介が戻って来た。
 土方達も彼の瞳を見ると確かに金色になっている。
 あーあ疲れた。そう呟いて一瞬顔を伏せた龍之介。
 次に顔を上げた時は瞳の色が少し濁っていた。



「…茶色、」

「んあ?」

「…龍之介、お前…」

「……あ゙。煙草」



 は?と全員が訊き返した。
 俺芹沢さんに煙草頼まれてたんだ!と目を見開いた龍之介が走り出す。
 その足は決して遅くは無いものの先程と比べれば明らかに勢いがない。
 その様子を眉を寄せて見る土方達に1人近藤が首を傾げた。






























「間に合ってよかった…」

『(アンタって何かに興味を持つとすぐそれだよね)』

「うっせ。」

「ちょっと、何があったのそれ!?」



 沖田の声が聞こえてすぐさま走り出す。
 玄関に入ると血に塗れた永倉と斎藤が立っていた。
 思わず龍之介は「うわ、」と後ずさる。
 しかし傷は無い様子の2人に眉を下げると沖田と共に井戸まで付いて行った。



「……成程な。町の人間に邪魔されたのか」

「あぁ!ったく…役人を通せだのなんだの、何考えたんだよ!」

「…。斎藤、お前はどう思う」

「…不逞浪士の剣術の技量はどれも拙い者ばかり。しかし此方は人数に限りがあります故、囲まれると危険かと」



 そうか…、と眉を下げる土方に龍之介が微かに目を見開いて「あの、」と声を掛けた。
 俺、多分50人ぐらい来ても大丈夫だと思う。
 突拍子も無く言った龍之介に全員が「は?」と眉を寄せた。
 黒凪も顔を片手で覆っている。



「(だよな?黒凪)」

『(…知らなーい。)』

「昔突っ込んで行った事があるんだ、鎧着けた侍相手に…」

「「鎧を着けた侍?」」



 土方と山南が口を揃えて言う。
 え?とその言葉に龍之介自身も驚いた様に目を見開いた。
 黒凪も微かに目を見開き龍之介を見る。



「あ、いや…それなのに俺生きてるから、…って何言ってんだ?」

「おいおい大丈夫か龍之介…」

「鎧なんていつの時代の話だよ。戦国時代じゃねぇんだから…」

『(龍之介?)』



 え?と振り返り光の元から出て行く龍之介。
 バタッと突然倒れた龍之介に「おい!?」と永倉が駆け寄った。
 頭の中では此方を唖然と見る龍之介を黒凪が見ている。
 …お前、右目。
 黒凪が唖然と言うど外゙で龍之介の名を呼ぶ声が聞こえる。
 呆然としている龍之介に眉を寄せた黒凪は光の元へ走った。



『…わ、悪ぃ』

「!!」

『?…あんだよ』

「…龍之介、お前ちょっと髪が黒くねぇか?」



 へ?と訊き返して長い髪を見る。
 1本1本を見れば確かに少量ではあるが黒髪が混ざっていた。
 目を見開いて固まる龍之介の目を覗き込む土方。
 彼は金色の瞳を見ると龍之介の肩をガッと掴み取る。



「お前は誰だ!いや、さっきまでの奴が偽物か!?」

『っ!?…な、何言ってんだよ土方さん…』

「とぼけるな、さっきまでの奴とお前は明らかに別物だ…!」



 ぐっと顔を近づけて言った土方の顔を見た黒凪は思わず顔を赤らめ飛び退いた。
 その力の強さに驚いた訳だが、その黒凪の反応に斎藤が目を見開き眉を寄せる。
 黒凪は熱を持った頬に手の甲を当て息を吐いた。



「…女子か?」

『っ!』

「……え、マジかよ」

「いやいやいや!俺龍之介の身体拭いたけど男だったぜ!?」



 …心が女だと言う事も稀にある。
 そう言った斎藤に妙に納得した様に全員の目が向いた。
 すると流石にまずいと感じた龍之介が表に出る。
 元の青い髪に戻り瞳の色も戻った。



「違う!俺は男だ!そりゃあもう1人の奴は女だけど…!」

「゙もう1人の奴゙?…ほう、やはり複数の人格を持ってるらしいな」

「ゔ、…そ、そうだよ!でも俺が龍之介だ!もう1人は…」

『黒凪だ』



 おい勝手に入れ替わるなよ、と1人で会話をするような龍之介。
 ころころと変わる瞳の色に本当だと悟った面々は顔を見合わせた。
 頷いた土方が一歩前に出て「おい」と声を掛ける。
 金色の目が土方に向いた。



「…黒凪の方か」

『うん。何?』

「さっき言った言葉はどういう事だ?」

『さっき?』



 龍之介が言っていただろう。
 その言葉に目を見開いた黒凪は目を逸らす。
 土方が続けて言った。
 お前の身体能力は異常だ。…一体何者なんだ?
 土方の核心を突いた問いに思わず龍之介も動きを止め黒凪に目を向けた。
 黒凪は龍之介に背を向けたまま口を閉ざす。



『……。只の人間だよ』

「嘘だ!お前人間じゃないって言ってただろ!」

『龍之介…!』

「人間じゃないなら何だ」



 土方が静かに言った。
 キッと顔を上げる。
 全員が此方を見ていた。
 …ただ、その目は見知った怯えた目でも好奇に満ちた目でも無くて。
 黒凪は思わず目を見開いて眉を下げる。



『…お前等絶対おかしいよ』

「あ?」

『よくもまあ俺みたいな得体の知れない奴を目の前にして…』

「変わらねぇよ、お前と俺達は何も。…近藤さんの為に動くお前を受け入れない道理はねぇ」



 だから余計な心配はするんじゃねえよ。
 その言葉に黒凪が目を大きく見開いた。
 変な奴、と小さく笑う黒凪。
 斎藤の目に一瞬映ったのは黒髪を1本の三つ編みで束ねた美しい女性だった。



『…私は夜兎。』

「やと?」

『あぁ。この星とは違う星から来た』

「…星ってお天道様にいるあれか?」



 うん。と頷く黒凪に龍之介が目を見開いた。
 だから根本的に体の作りが違うんだよ、と言った黒凪にすぐさま龍之介が表に出る。
 目の色が変わった事に気付いた平助が徐に「龍之介」と呟いた。



「だったらお前はいつから俺の中に居るんだ!?…お前は一体何なんだよ…!」

『…分からない』



 右目の色だけが金色に染まった。
 今2人は光の下に共に入っている。
 分からないんだよ。
 そう言った黒凪に皆が口を閉ざした。




 分からない。私は何処にいるんだろう


 (…なんで一君は黒凪が女だって分かったんだよ?)
 (……初めて会った時から何か違和感は感じていた。)
 (へー…すげーな)
 (…。)


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