Long Stories

□世界を変えたのは
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「ちなみに妖怪の大半は火の妖怪だとも言われている!そして――」



 意気揚々と話し続ける人一倍大きな声。
 その声の主にちらりと席に座っていた限が目を向けた。
 その目付きの悪さに「ゔ、」と話していた本人、清継が言葉を止める。



「…な、何かな志々尾君…。もしかして君も妖怪に興味なんかあったりし」

「いや、」

「ですよねー…」



 あははは…。と眉を下げた清継に限が目を逸らし再び正面に目を向ける。
 その先にはつい本日転校してきたばかりの影宮閃、間黒凪が座っていた。
 その様子を見てリクオは「凄いなあ志々尾君…転校してきた子達ともう仲良くなってるや…」とお門違いな事を考えていたのだが、話を再開した清継に意識を戻す。



「そして!ほとんどの妖怪の目的が――」

「…人を畏れさせる事。」

「んあ?…なんだ、詳しいじゃないか転校生。えー…」

「花開院ゆらです。」



 ぶっと飲んでいたお茶を吹きだし咳き込む黒凪に「大丈夫かお前…」と閃が背中を擦る。
 そんな中でも気の抜けた様な無表情で「その中でも危ないのは獣が妖怪化した者達…」と話し続けるゆら。
 黒凪はゆっくりと息をしながら自己紹介をまともに聞いていなかった自分を呪った。
 ちなみに現在の黒凪の姿は道端を歩いていた女子中学生のものを借りており、本人の姿とは似ても似つかぬ姿になっている。



「そう言った類の妖怪は知性はあるが理性はない。…もしも見かけたら近付かん事です。」

『…知性はあるのに』

「理性はない…」

「…何故俺を見る」



 じーっと限を見てぼそっと言った黒凪と閃に本人が眉を寄せる。
 素晴らしい!君の様な人を待っていたのだよゆら君!
 がっしりとゆらの手を握って言った清継は「君も是非清十字怪奇探偵団へ入りたまえ!」と嬉しげにかつ声高らかに言った。
 その言葉に遠目に話を聞いていたリクオが近付いて行き「清十字怪奇探偵団?」と訊き返す。
 振り返った清継がふふん、と笑った。



「僕が結成した団体だよ。主な活動は妖怪探し!」

「え、妖怪探し…」

「早速今日結成式を行おうと思っていてね!奴良君のうちで!」

『(お、行きたい)』



 え、僕のうち!?
 勢いよく聞き返したリクオに「君のうちは妖怪屋敷だと陰で噂されているのを聞いてるからね…是非頼むよ…」と清継が嫌な笑みを浮かべて返す。
 ぬらも"妖怪屋敷"のワードを聞くと気になる事があるらしくちらりとリクオに目を向けた。



「君に拒否権はないぞ奴良君!僕の情報網は完璧だ…恐らく君のうちには妖怪がいる!」

「え、ええー…」

「さっきから妖怪妖怪ってうるせえなァ」

「うわっ!?」



 真上から聞こえた低い声に清継が顔を上げて飛び上がる。
 そこには名簿帳を片手に佇む人皮をかぶった火黒が立っていた。
 …裏会の力は凄い。転校生を入れるついでに新任教師として火黒まで赴任させるとは。
 ちなみに浮世絵中学校での火黒の名は"不知火 理一(しらぬい りいち)"である。
 更に言うとその名前を考えたのは黒凪と正守。先生なんだから頭の良さそうな名前にした。



「し、不知火先生…」

「お前等中学生だけで夜に変なパーティでもおっぱじめる気か?」

「へ、変なパーティじゃありません!清十字怪奇探偵団の結成式です!」

「だぁからその清何とかが変なんだよ」



 そ、そんなあ!そう言ってショックを受ける清継に「よし、このまま不知火先生に止められれば結成式は中止になる!」とリクオが微かに笑みを浮かべた。
 しかしその先に待ち受けている結末はまたリクオの予想とは違ったもので。
 どうしてもやりたいんだったら保護者として俺も連れて行きなァ。
 火黒の言葉に皆が一瞬固まり、「えっ、えええ!?」と一斉に声を上げた。



「あァ?文句あんのか?」

「めめめ滅相も無い!」

「…不知火先生って今日赴任してきた先生だよね?格好良いから早速人気だけど何考えてるか分からないって友達が…。」

「そ、そうなんだ…(え、本当に不知火先生も来るの…?)」



 折角の結成式だ、人は多い方が良いよなァ。
 そう言った火黒に「しかも乗り気だー!」とリクオが目をひん剥いた。
 ワザとらしく部屋を見渡した火黒の目が黒凪達で止まる。



「ようそこの陰険トリオ」

『陰険トリオとはまたご挨拶ですね不知火先生…』

「あー、悪い名前なんだっけ?」



 ぴくっと片眉を上げ「間黒凪です」と引き攣った笑みを浮かべて黒凪が言った。
 あーそうだったそうだった。黒凪だなァ、そう言って火黒がニヤリと笑う。
 あの野郎、楽しんでやがる。
 閃と限がじとっと睨んでいると「お前等も来いよ、ケッセイシキ。」とこれまたわざとらしく誘った。
 本来あのような誘い方では行きたくないが、如何せんそう言う訳にもいかない。



『…解りましたよ、行きます。』

「(え゙)」

「んじゃあ俺と限も行くかな。良いよな?清継君」

「お、おお!是非とも来たまえ!」



 ちなみに妖怪に興味なんかは…。
 そう言った清継に頬杖をついて閃がにやりと笑った。
 あるよ。結構俺は詳しいぜ?
 そんな閃にリクオはげんなりと肩を落とし「それじゃあ僕は母さん達に話を通しておくよ…」と一足先に学校を出て行った。






























 そうして夕方になり、清継、カナ、ゆら、島、そして火黒と黒凪達と言った奇妙な面子でリクオの家の敷地へ入り込む。
 玄関で皆を出迎えたリクオはまだげんなりとしていて、その隣に立った山吹乙女はにっこりと微笑んだ。
 …こうして2人が並んでいる姿は初めて見る。その姿は立派に親子のものだった。



【いらっしゃい皆さん。リクオの母です。】

「は、初めまして…!」

【どうぞ中へ。リクオが案内しますからね】

「は、はいっ」



 見目麗しくおしとやかな山吹乙女の言葉に恐縮した様に清継が勢いよく返事を返す。
 一方のゆらはじーっと山吹乙女を見るとちらりとリクオに目を向け「ふーん…」と呟いた。
 その様子を黒凪が横目に見ていると閃が彼女の耳元に口を近付ける。



「早速妖がお出迎えだな」

『ん?あぁ、そうだねえ』

「…あ、そっか。裏会での管轄だもんな、東京って。知ってんのか」

「どーも。奴良君のクラス?の副担任…だったかな。不知火理一です」



 よろしく、と笑った火黒の笑顔は随分とわざとらしく何処か不気味だった。
 そんな笑顔にも臆さず「よろしくお願いします」と頭を下げた山吹乙女に火黒が一層笑みを深める。
 そんな火黒と山吹乙女を横目に皆で靴を脱いで屋敷の中へ。
 少し進むといつの間にか火黒もリクオについて行く皆の列に加わっていた。
 ゆらは周りを見渡しながらリクオについて行き「…そこはかとなく妖気を感じます」とぼそっと呟いた。
 その言葉に過敏に反応するリクオの背中を見ていた限と閃はちらりと顔を上げ首をひねって左斜め後ろの二階辺りに目を向ける。
 数秒程遅れてゆらも振り返った。



「(…上手く隠れたか)」

「(結構駄々洩れてんなー…)」

「(気の所為か…)」



 限と閃が呆れた様に息を吐き、ゆらは少し警戒した様な顔のままで廊下を進んで行く。
 やがて辿り着いた一室はとても広く、殺風景な部屋の中に座布団が敷かれていた。
 その座布団に1人ずつが座り清継が少し興奮した様子で口を開く。



「良い雰囲気だ…、まさしく清十字怪奇探偵団の結成式に相応しい!」

「そ、そうかな…」

【失礼致します。お茶をお持ちしました】

「(お。妖怪。)」



 閃が現れた毛倡妓に微かに目を見開き、リクオに目を向ける。
 リクオの表情は何処からどう見ても焦っていて、正直顔色は酷く悪かった。
 あ、あとは僕がやっておくよありがとう!そう言って毛倡妓を追い出すものの、やはり一度見てしまうと彼女の美しい容姿には食いつかずにいられない様で。



「奴良!お前あんなすげー姉ちゃんいたのかよ!?」

「ええっ?リクオ君お姉さんとかいた…?」

「い、いや!あの人はうちの事を色々お手伝いしてくれてる人で…」

「お手伝いさんって事か!?すげー、お前って金持ちなんだな…」



 島とカナがリクオにそう声を掛けると、彼は少し焦った様に襖に手を掛けお手洗いに立った。
 それを見送ったゆらは気配が遠ざかった事を確認するとゆっくりと立ち上がる。
 そんなゆらに皆が目を向けた。



「ゆら君?どうかしたかね?」

「…やはりこの屋敷は可笑しい。少し見て回ります」

「え、駄目だよ勝手に…ってゆらちゃん!」

『(あらら…)』



 静止の声などお構いなしに動き始めたゆらに清継達も顔を見合わせついて行く。
 それを見た黒凪は限達に目を向けた。
 その目を見た限達は小さく頷き、4人もゆら達について行く。
 そんな様子を影から見ていた首無達妖怪は困った様に息を吐いた。



『…清継君、足元に虫が。』

「ん?」

「え?」



 清継達が足元に目を向けた瞬間に廊下に偶然落ちていた石ころを火黒が庭に向かって蹴り飛ばす。
 コツッと木に当たるとその音に首無達が身体を草むらに忍び込ませた。
 はっとゆらが庭に目を向けるが、火黒が蹴った石の音に隠れた妖怪達の影は微塵も見えない。



「ちょっと皆!こんな所に…」

「やはり物凄い妖気を感じる…。この屋敷には絶対に何か…」

「(ゆ、ゆらちゃんって何者―――!?)」



 ひーっとあからさまに焦るリクオに限と閃がまた呆れた様に息を吐いた。
 既に限達は黒凪からゆらが陰陽師の花開院家の人間である事を聞いているし、奴良組が裏会とは良好な関係を築いている事も聞いている。
 その為黒凪達の今回の目標は妖怪の気配を機敏に感じ取る事が出来るゆらに奴良組にいる妖怪の存在を悟らせない事である。
 貴重である協力的な妖怪集団を見す見す滅却されるわけにはいかない。



「…うーん…居ませんねえ…」

「だ、だからうちには妖怪なんていないって!だから居間に戻ってお茶でも…」

「いえ、もう少しだけ。」

「(ええー…)」



 その後も清十字怪奇探偵団の捜索は続き、水場、脱衣所、そこらにある部屋等を続けて見て回る。
 やがてゆらが足を止めたのは仏壇を置いてある大きな部屋だった。
 中に足を踏み入れた一行が好き勝手に動き始める中、ゆらは的確に妖気のする仏壇へ近付いて行く。
 仏壇の中にきつきつで入っているのか、明らかに入り切っていない妖怪が見えるし妖気も強い。
 黒凪がちらりと火黒に目を向け、火黒はゆらが観察している仏壇から最も離れた仏壇に近付くと陰に隠れて指先の人皮を少し破いた。



「っ!(妖気!)」

「うわっ!?」

「(おーおー、食い付いた。)」

「不知火先生!その仏壇見せてください!」



 急いで向かってきたゆらから離れ、黒凪の前に火黒が破いた指先を差し出した。
 その指先を握った黒凪がすぐさま人皮を修復し、消えた妖気にゆらが眉を寄せる。
 上手く意識を逸らせたかな、と黒凪が目を向けていると仏壇の隅の方からまた1つ妖気を感じ其方に目を向けた。



『(全く、間抜けなのが増えたねえ)』

「…何かに見られてるような…」

『(そうら、気付かれた)』



 次に助け船を出そうとしたのは限。
 しかし飛び出してきた妖怪の様子に黒凪が彼を止めた。
 飛び出して来たのは小さな鼠だが、明らかに妖気を漂わせている。
 それを見たゆらはすぐさま逃げ出した鼠を追いかけ、リクオも焦った様に彼女について行った。
 キャーッと鼠に驚いて倒れ込んだカナの巻添えで島と清継も倒れ、彼等に駆け寄った黒凪は閃と限に目を向ける。
 頷いた2人はリクオ達について行き、部屋には火黒と黒凪、そしてカナ達が残った。



「ちょ、家長さん…重い…」

「ご、ごめんなさいっ」

「おいおい何の騒ぎだい?悲鳴が聞こえたが…。」

『!』



 顔を見せた男に皆が目を見開く。
 向こうも見慣れない人間に少し驚いた様に目を見張ると「あぁ、リクオの友達かい」と緩く微笑んだ。
 すぐさま妖気を完全に引っ込めた鯉伴に火黒が面白いものを見つけた様ににやりと笑う。



「あ、ええと…?」

「俺ぁリクオの父親だ。リクオはどうした?」

「リクオ君のお父様でしたか!ええと、リクオ君は先程現れた鼠を追って…。はっ、まさかあの鼠は妖怪…!?こうしちゃいられない!」

「あ、おい」



 走り出した清継に「待ってよ清継君!」と島とカナもついて行く。
 それを困った様に見送った鯉伴の目が火黒と黒凪に向いた。
 最初に動いたのは火黒。彼は鯉伴に近付き緩く頭を下げる。



「どォも。リクオ君の副担任をしてる不知火理一です。」

「あぁこりゃあご丁寧にどうも。リクオの父親です。」



 よろしく。と握手をした途端に鯉伴が少し驚いた様に火黒を見た。
 わざと妖気を出す火黒から微々たる妖気を感じ取ったのだろう。
 睨む様に火黒を見る鯉伴に黒凪が火黒に近付いた。



『ちょっと。リクオ君見に行きましょうよ不知火センセ。』

「んあ?…あぁ、そォだな」

『失礼します、リクオ君のお父さん』

「…あぁ。リクオによろしく」



 何気なく掛けられた言葉に小さく笑って「はい」と返答を返す。
 そうしてゆら達の居る庭へ出れば「居たんだ!本当に陰陽師は存在したんだー!!」ととてもとても嬉しそうな声が聞こえてきた。
 それだけで大抵の事は理解出来る、どうせ先程飛び出した鼠の妖怪をゆらが滅した瞬間を清継が見たのだろう。


 
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