世界を君は救えるか×NARUTO
□世界を君は救えるか
3ページ/92ページ
中忍試験編
『――折角他の世界にお邪魔するのであれば…我々はもう少し穏便に来るべきだと常々思うのだがね。』
そう、ぽつりと呟いて少女が地面に足をつけ、その顔を上げた。
視線の先にあるのは、屋敷。それも随分と巨大で、暗く…。
傍にはそこにある “力” に当てられた妖混じりたちが血走った目をしてうごめいている。
しかし中に入ることが出来ないのは、屋敷を囲う結界があるせいだろう。
「黒凪!」
「ごめん! 急だったから結構影響が広がって、今しがた抑え込めたところなの…!」
そう焦った様子で駆け込んできたのは、一足先にこの場で事の対処に当たっていた良守と時音。
この2人と共に結界を作ったであろう、2人の祖父母に当たる繁守、時子は恐らく反対側で結界の維持に努めているらしい。何やら言い争う声が聞こえる。
「悪い、少し遅れただけで夜行の面々はほとんど力に充てられて意識飛んでて…」
『そうだねえ。…七郎君、限と閃と火黒、離さないでね。』
「言われなくとも、結構本気で拘束中です。」
そう苦笑い気味に言った七郎の傍には邪気を抑えきれない様子の3人がいる。
彼らをそうさせる存在とは少し距離があるおかげでまだ自我を保っているようだが、これ以上近付くのは危険だろう。
「当てはあるのか? 黒凪。一応開祖が中に入ってるが…正直月影様も無事か分かったものじゃない。」
そう苦い顔で言った正守に眉を下げた少女…黒凪は屋敷の周辺をうごめく妖混じりたちを己の結界に閉じ込め、良守たちが作った巨大な結界に触れる。
『まあ、どうにかしてくるよ。…これでも ”姉" なのでね。』
どぷん、と水の中に入ったような音が響き、結界をすり抜けた黒凪が屋敷の中へと進んでいく。
本当、息をするように他人の結界をすり抜けていく。その神業にこめかみを掻き、息を吐いた正守が巨大な地響きに顔を上げた。
「里の方でも何か起こってる?」
「え? えーと…。」
正守の問いに顔を上げた七郎が上昇し、音のした方向へと目を向ける。
そしてしばし沈黙すると、正守へと目を向けた。
「一尾の尾獣が暴れてますね…。」
「え? 里で?」
「はい。…どうします? 見ている限りうちの人間も何人か加勢には行ってるみたいですが。」
「…ならどうにかなるか。正直こっちの方が重要だしな。…少なくとも俺たちには。」
それもそうですね。
そう呟くように返して、七郎の目が屋敷へと向かう。
まがまがしい邪気が変わらずあふれ出すこの屋敷の中に入った黒凪について行けないことが、彼を不安に駆り立てていた。
この屋敷の中にいる存在のことは、ある程度理解しているつもりだ。それでも。
「(黒凪さん、どうか無理はしないでくださいよ…)」
暗く広がる異界の中を通りながら黒凪は1人物思いにふけっていた。
ただただ、今自分が置かれた状況を不思議だと、そう考えていた。
『…』
思えば、以前の世界での死は随分とあっけないものだったように思う。
結局千年余りの時間を生きたが…最終的に自分の手でその命を絶った。
最期の最期まで一緒にいてくれたのは、火黒だけだった。
「――! 黒凪…」
赤ん坊の鳴き声が響き渡る中で、一番最初に黒凪に気が付いたのは妻である月影の肩を支え、必死に赤ん坊…宙心丸の力を抑える時守だった。
父を信じるならば、宙心丸は以前のように力を彼から与えられた存在ではなかったはず。
にもかかわらず、かつてあった烏森と同等の力を有する双子の弟を見て黒凪は…ああ、運命は覆せないのだなと、諦めの気持ちを浮かべた。
…一つだけ違うのは、父が必死に守った、母だけ。
『父様、母様。どうしましょうか、その子…』
2人の目が黒凪のものと交わる。
黒凪は沢山の意味を込めて、先ほどの言葉を放っていた。
どうする? 以前よりも私なら上手くやれる。どうする? 以前とは違って、早いうちに命を奪ってやった方が幸せかもしれない。
どうする? また私を…犠牲にするか?
「…黒凪、」
母が黒凪の名前を呼ぶ。
この世界に来てから何度か話したこの人とは、未だその距離を測りかねていた。
けれどこの時ばかりは以前自分が母だったことを思い出したか…まっすぐに私を、母がするように見つめて。
「まだ子供である貴方にこんなことを頼むのは、私もどうかと思います。けれど…助けてくれませんか?」
『……』
「時守様がこのような状況で、宙心丸を助けてやれるのは貴方だけなの…」
つい、と幽霊のように半分透けているような父を見て、目を伏せる。
まだマシなのは…私に決める猶予を残しているところ、か。
『…外の世界とは隔絶した、新しい異界を作ります。…この子の、この巨大な力をどうにかするすべができるまではそちらに留まっていただくしかない。それが、宙心丸を殺さずにできる最善策です。』
「…分かりました。私もこの子と一緒にそこで暮らします。」
母が迷いなく弟を選んだ事、哀しくはない。
私にはもう家族がいるーー寂しくはない。
『たまには会いにきます。母様、父様ーー宙心丸。』
白い結界が広がり、ぶつん、とこの空間と外側とを完全に隔てた。
邪気も何もない。ただの、静かな屋敷。
ここまで高度な事を、息をするようにやってのけた己の娘を見てーー時守は震えた。
単純に、その力量の高さに、自由さに。
まさに人間を超越した、その存在に。
『みんなの調子はどう?』
笑顔で屋敷から出てきた黒凪は目を回して倒れている妖や、妖混じりに眉を下げて言った。
随分と清々しい顔をしている。そう思った。
「ん、大丈夫。それより里なんだよね。」
『里?』
「尾獣…その一角、一尾が暴れてる。」
『ーー…。』
また地面が大きく揺れる。
強い風が吹き、黒凪の白い髪が揺らめいた。
『大丈夫、きっと木ノ葉の尾獣がどうにかする。私は壊れた器…里を治す。それだけのことだ。』
「君がそう言うなら、そうするけど。後々文句を言われるかもね。」
『構わない。説明しても彼らには分からない…里の危機の裏側で、私達にとっても危機と評して良いほどの出来事が起きていたことなど。』
彼らは我々が何者なのかも、分からないのだから。
緊急事態
(あーあ。下忍というものもそれなりに楽しかったのに。)
(良く似合ってましたよ、その額あて。)
(…捨てておくか?)
(…。そうだね。もう使わないからね。)
.