世界を君は救えるか×NARUTO

□世界を君は救えるか
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  認めて、自分を


『やあ、デイダラ。昨晩はよく眠れた?』

「んな得体の知れねー所で寝れるかってんだ、うん」

『あはは。そっかそっか、予想通り。』

「チッ、へらへら笑いやがって…」



 息を吐いてドカッと座ったデイダラが腕を組む。
 我愛羅によって潰されていた彼の左腕は既に夜行の救護班によって再生済みとなっている。
 そんなデイダラの周りには綺麗に形作られた起爆粘土達が散乱していた。
 恐らく何度もこの檻を爆破して逃げようとしたのだろう。…しかし出来なかった。



『この牢屋…って言うかこの場所全体がチャクラは使えない様になってる。だから君達忍にとっては本当に怖い場所なんだよね』

「…お前等だってチャクラは使うんじゃねえのかよ。そんな術掛けて…」

『そこの所は大丈夫。私達が使ってるのはチャクラじゃなくて呪力だから』



 眉を寄せてデイダラが首を傾げる。
 その顔を見て笑った黒凪の後ろを染木が忙しなく動いていた。
 そんな染木を目で追うデイダラに黒凪が口を開く。



『君と一緒に連れて来たサソリが身体を傀儡にしてるでしょ?傀儡ってチャクラで動くから身動き取れなくなっちゃって』

「!…旦那も此処にいるのかよ…」

『うん。その内暁の大半を此処に連れて来る予定。』



 その言葉を聞くとデイダラがやっと合点が行ったように肩の力を抜いた。
 何だよ、暁に敵討ちでもしようって魂胆か。うん。
 そう言ったデイダラにまた黒凪が笑う。



『残念。違いまーす』

「あぁ!?じゃあなんだってんだよ、うん!」

『引き抜き。ちょっと人手不足だから腕の立つ人間が欲しかっただけ。』



 あっけらかんと言った黒凪に一瞬黙ったデイダラだったが、眉間の皺を深くしてため息を吐いた。



「チッ、またかよ…」

『…ああそっか。君はこういうの慣れてるんだったね。』

「ああ?」

『かなり優秀な爆遁使いってんで前々から有名だったから、日ごろからスカウトは多かったんだろうね。』



 そんな黒凪の言葉に黙るデイダラ。
 そのデイダラの様子に目を細めた黒凪は牢屋を開いた。
 そうして中に入って来た黒凪にデイダラの眉間に皺が寄る。



『ね、この起爆粘土ってどうやって作るの?』

「……。」

『教えてよ。どうせ暇なんだし良いでしょ。』



 デイダラの目がチラリと爆発させるでもなく放置された起爆粘土に向かう。
 作ってるところ見せて。
 掛けられた言葉に息を吐いてデイダラの左手が粘土の入ったポーチに向けられる。
 そうして左手の"口"が粘土を含むとその手を開いてくちゃくちゃと咀嚼する様子を見せた。



『わ、手の平に口あるんだ。』

「…」



 んべ、と吐き出された粘土を片手で器用に握り、一瞬で鳥の形を造形した。
 その早業に目を見開いた黒凪の反応をデイダラの目がじっと見つめる。
 差し出された黒凪の両手にぽいと放り投げると黒凪がその鳥を覗き込んだ。



『へー、凄いね。私不器用だから絶対こんなの作れない。』

「…フン。」

『でも折角作ったのに此処では爆発できないなんて嫌じゃない?』

「当たり前だ。爆発する事で昇華するオイラの芸術がその意味を果たせずにこんな所で転がる有様なんざ…もう見たくねえ。うん」



 爆発させる?
 首を傾げて言った黒凪にデイダラの目が向いた。
 何も言わないが是非ともやってもらいたいと言った風な目に黒凪が小さく笑う。
 牢屋全体を結界で囲み、起爆粘土を放り投げて結界に閉じ込めた。
 デイダラは自分自身を囲う結界を警戒しつつも目の前で結界の中に入っている起爆粘土に目を向ける。



『チャクラ練ってみな』

「…。」



 半信半疑の顔でチャクラを練ったデイダラは目を見開き、目の前の起爆粘土に目を向けた。
 起爆粘土は彼の意志通りに爆発しバラバラに砕け散る。
 デイダラの驚いた様な反応に笑顔を見せ、黒凪は牢屋に散乱した起爆粘土達を結界で全て囲った。



『結界の中でなら爆発させても構わないよ。ほらどーぞ。』

「…1つ頼みがある」

『ん?』

「オイラの爆発と同時にその結界も潰して欲しい。…囲ったものを押し潰す事、出来るだろ」



 眉を寄せて向けられた目に黒凪が片眉を上げた。
 そうしてチャクラを練ったデイダラに合わせて同タイミングで結界を押し潰す。
 同時に爆発した様な結界と起爆粘土をデイダラは黙って見つめ、全てを爆発させると小さく笑った。



『綺麗だね。』

「!」

『時音ちゃんとの戦いの中で見つけたの?』

「…まあな、うん」



 へー、芸術家が考える事はやっぱり違うねえ。
 ボソッと言った黒凪にデイダラの目が向けられた。
 じっと黒凪を見たデイダラが小さく舌を打って目を逸らす。
 そんなデイダラを見た黒凪はゆっくりと立ち上がった。



『お腹空いてない?よければご飯食べに行こうよ』

「…。確かに腹は減ったな、うん」

『じゃあ行こう。サソリも連れて行くからついて来て。』

「……。」



 共に牢屋を出たデイダラを横に少し離れた牢屋に向かって「文弥くーん」と声を掛ける。
 するとひょこっと顔を出した染木がくいくいと手首を縦に上下させた。
 デイダラと共にそこに近付くと牢屋の隅にぐったりと倒れているサソリが。
 彼の身体中にまじないが描かれ、染木は最後の仕上げにサソリの左の手の平に大きな模様の様なものを書いていた。



「…よし、出来た。黒凪も右手貸して」

『ほいよ。』



 差し出された黒凪の右の手の平にも同じ様な模様を描き、書き終わると染木がにっこりと笑った。
 そして黒凪の手を掴んでサソリに近付き彼女の右手の模様を彼に見せる。
 サソリの冷たい瞳が黒凪の右手を捉えた。



「このまじないは君の身体を傀儡から人のものに、人のものから傀儡に変化させるもの。」

「……」

「まじないを発動させるには黒凪の右手にあるまじないの模様と君の左手のを重ね合わせ、2つのまじないを媒体に黒凪が呪力を君に送る必要がある。」

『サソリ、君にはこの屋敷にいる間は人間の身体で生活して貰う。傀儡に戻すのは戦闘時だけ。…デイダラにした引き抜きの話は聞いてたよね?』



 返答はないが抜かりのない彼の事だ、確実に話は聞き理解している筈。
 黒凪が右手に呪力を籠め紋様が薄く光を帯びる。
 これからよろしくね。その言葉と共に重ねられた手にサソリの目がチラリと向いた。
 サソリの身体中にあった紋様がすうっと身体に解けるように消えていく。
 すると無機質だった傀儡の身体が瞬く間に生身の身体に変化していった。



「あ、よかった。上手く行ったね。」

『ありがと文弥くん。今日は非番なのにごめんね』

「良いよ良いよ。いつでも呼んで。」



 それじゃ。と一足先に牢屋から出て行った染木。
 黒凪は徐にしゃがみ込み気だるげに頭をもたげたサソリの顔を覗き込んだ。
 途端にサソリの顔が不機嫌に歪む。



『おはようございまーす』

「…テメェ、どうやって俺を此処に運びやがった」

『さっきの文弥くんのまじないで一気に転送したの。戦ってる間にアジト全体に大きなまじないを掛けてくれたんだ。』



 そんでタイミングを見て君を此処に転送した。
 ちゃんと君のコレクションも連れて来てるから、これから徐々に直していってね。
 にっこりと笑って言った黒凪に立ち上がりサソリが立っているデイダラに近付いて行く。
 その様子を特になんとも思っていない顔で見る黒凪にサソリの怪訝な目が向いた。



「…余程自信があるらしいな。俺達が逃げると思わねえのか」

『逃げられない事ぐらいは分かってるんでしょ?』

「「…」」



 恐らくチャクラを練ろうとしているのだろうが、勿論屋敷全体にチャクラを弾くまじないが掛かっている為それは叶わない。
 小さく笑って2人の間を通り牢屋から出て行く。
 その最中でサソリとデイダラが目を合わせた。何も言わないサソリにデイダラが小さく頷く。
 3人で階段を上り地下から上がると間一族の屋敷の中に移動した。
 途端に外に向かって走り出した2人をすぐさま黒凪が結界で閉じ込める。
 舌を打った2人が黒凪を睨むと彼女は笑って結界を解いた。



『そんなに逃げるんだったら私から1メートル離れただけで激痛が走るまじない掛けるよ?』

「…チッ」

「あー…やっぱ無理だったな…うん」

『うんうん。大人しく私の近くに居なさいね。』



 大きな屋敷の中を歩く最中、サソリとデイダラは流石に諦めたのか何も言わず周りを見渡しているだけだった。
 そして1つの襖の前に辿り着くとガヤガヤと煩い室内に2人が一斉に嫌な顔をした。
 此処に入るのか。そんな視線をビシビシ受けつつ襖を開く。
 途端に中に居た全員の目が3人に向かった。



「あ、暁のサソリ君とデイダラ君だよね!?いらっしゃい!」

「…誰だっけ?」

「ほら、人手不足の件で黒凪が2人補充したって言ってただろ?」

「やっぱり全然話聞いてないじゃない、あんた。」



 ささ、此処に座って座って!
 ニコニコと優しい笑みを浮かべてサソリとデイダラを座らせその前にお米をよそったお茶碗を置いて行く。
 修史の勢いに怪訝な顔をする2人の隣に黒凪も座った。
 すると周りを見渡していたデイダラが行儀よく食事をする時音を見て動きを止める。



「あー!テメェあの時の女!うん!」

「あら、もう元気そうね。」

「時音を指差すんじゃねえ!行儀悪いぞ!」

「飯食ってる最中に立つお前も行儀悪いよ。」



 んだと兄貴!とばっと振り返って正守を威嚇する良守。
 あ゙ー…うるせえ。そう呟いて不機嫌に眉を寄せるサソリの前に味噌汁も添えられた。
 当たり前の様に並べられた食事を見てサソリが目を細める。
 デイダラは腹が空いていたのかすぐに茶碗を手に取り机の上に置かれているおかずに箸を伸ばした。



『…あ、久々過ぎて食べ方分かんない?』

「うるせえ。」

『食べなよ、美味しいよ。良守君のお父さんのご飯。』

「修史さん!相変わらずこの卵焼きはまっこと美味い!!」



 え、ホントですかー?
 そんな会話を耳に入れつつ箸を持ちサソリもゆっくりと食事を口に運んで行く。
 その様子を見て黒凪も食事を開始するとそんな彼女の隣にドカッと翡葉が座った。



「捕まえて2日だろ。もうこんな場所に出して良いのかよ、そいつ等」

『私達の脅威だったら出さないけどそれ程でもないし。』

「あ゙?」

「聞き捨てならねーな、うん」



 なー、醤油はー?
 そんな良守の声に目を向け側の醤油を蔦で掴み彼の元へ運んで行く。
 その蔦にサソリとデイダラが微かに目を見開いた。
 蔦がゆっくりと翡葉の左腕に戻るとサソリが「はっ」と鼻で笑う。



「何だ、あんたも俺と同じで身体を改造したクチか?」

「…いや、生まれつきだ」

『妖混じりって言ってね。妖の力を生まれつき宿してる人間も間一族の屋敷には沢山居るんだよ。』

「んな化け物を匿って何になるんだ?うん」



 そう言ったデイダラにばっと立ち上がった良守が持っていた湯呑の茶を掛けた。
 しかしその茶をすぐさま正守が結界で閉じ込め結界に小さく切り目を入れて他の湯呑に移しかえる。
 デイダラの目が良守に向いた。



「化け物って言うな!」



 しーんと静まり返った部屋にサソリが目を細め、デイダラが小さく笑った。
 良守を見るデイダラの目。その目を見ていた黒凪は徐に箸を進める。
 そんな黒凪に正守の目が向いた。
 その目を見て黒凪が口を開く。



『此処はそう言う人達の居場所なんだよ。…君みたいに化け物だって蔑む人ばっかりだから。』

「…俺は何とも思ってない。皆食事を続けてくれ」



 再び徐々にではあるがガヤガヤと騒がしくなり始めた。
 そんな中で黒凪は湯呑の茶を飲むと箸が止まっているサソリとデイダラに目を向ける。
 箸をおいて立ち上がろうとした2人の頭を黒凪の結界が同時に叩いた。



『まだ食べ終わってないでしょ。』

「テメェ…」

「っ〜、んな所に居てられるかってんだ!うん!」

『じゃあ何処に行くんだよ。君達はS級犯罪者。…私達と同じように外に居場所なんて無い』



 黙った2人をじっと黒凪の目が見つめる。
 此処はこの世の外れ者の居場所。



『…拒否権は無い。働いて貰う』



 有無を言わせぬ言葉に2人は黙ったまま。
 そんな2人に正守が徐に声を掛けた。
 どうやったって逃げられないよ。黒凪に捕まったら。
 そう言った正守に2人の目が向けられる。
 ガラ、と襖が開き閃が翡葉の横に座った。



 
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