世界を君は救えるか×NARUTO
□世界を君は救えるか
43ページ/92ページ
雪の国編
『あの雪忍達はどうだった?ちゃんと片せそう?』
「あれぐらいのレベルの奴ならそう時間もかからねェ…。どっかのバカ共は苦戦してたらしいがな…」
「そりゃオイラの事言ってんのかよ? 旦那」
「てめぇがそう思うならそうなんじゃねえのか…」
てかあんたヒルコの中に入るの速いねえ…。
黒凪がそう呆れた様に言えば「引きこもりだもんなァ、サソリちゃんはよォ!」と飛段が重ねる様に余計な事を言いサソリが殺気を飛ばす。
すると背後から「ちょっと、殺気出さないでよ」とイラついた声が聞こえた。
『あ、おはようございます小雪姫。』
「やめてよ姫だなんて。私はこの国の姫になるつもりはないわ」
「姫様、そんな事をおっしゃらずに…」
「大体無理に私を此処に連れてきてどうするつもりなのよ。ドトウに勝てるわけもないのに」
ドトウって誰だ?と飛段が聞いてきた為現在雪の国を掌握している男だと手短に説明した。
ドトウは先代主君であった風花早雪の弟であり、クーデターの主犯でもある。
今回の間一族の任務はこのドトウを殺す以外に成功は無く、言ってしまえばドトウと奴の手下を皆殺しにすれば任務完了なのだ。
『ドトウに勝てますよ』
「!」
『と言うか勝たないといけないので。とりあえず勝ちます。と言うより殺します。絶対に。』
真顔でそう言い放った黒凪に小雪姫がごくりと生唾を飲み込んだ。
しかし一旦黒凪の勢いに呑まれかけた彼女だったがはっと我に返り「こんな人数で一国をどう落とすって言うのよ!」と悲痛に叫ぶ。
その言葉にサソリ達が目を向けた。
「現実は映画とは違う…、絶対なんて無い。ハッピーエンドも無い。絶対に無理よ!」
「絶対が無いなどと喚くわりには貴様もその言葉を使っている様だが」
「っ!」
「それに一国を落とすなんざそう夢物語でもねえぞ…。俺ぁ1人で一国を落とした事がある…」
角都の正論とサソリの言葉にまた小雪姫が言葉を飲み込んだ。
そんな小雪姫に黒凪がにっこりと笑って口を開く。
『まあどーんと構えてくださいよ小雪姫。うちの人間は馬鹿みたいに強いのばかりですし。それにあと2人増員が来る予定なので。』
「あと2人って…それでも7人じゃないの…」
『大丈夫ですって。』
「あと2人って誰だァ?」
「俺も知らねえな。うん」
サソリと角都の視線も黒凪に向き、当の本人はその視線を受けてまたにっこりと笑う。
それは出会ってからのお楽しみ。間違えて殺さないでね。
そう言った黒凪に「顔も名前も知らない奴なら殺しかねないんだが…」と4人の考えがシンクロした事は誰も知らない。
やがて積み荷を全ておろし船から降りて三太夫の仲間達が住む集落へと荷台車などで向かって行く。
そうして集落へと近付いた頃、小雪姫の様子を見に行ったスタッフが1人三太夫の元へ駆け寄ってきた。
「た、大変です!雪絵がまた逃げました!」
「姫様が!?」
『…仕方ない、探しますか』
「んじゃあじゃんけんするぞ、うん」
そう言ってデイダラを筆頭にじゃんけんをする彼等に小首をかしげていると負けた角都が嫌な顔をしながら近付いてきた。
黒凪の目の前に立って此方を睨んでくる角都を黒凪もじーっと見上げ続ける。
デイダラやサソリ、飛段もその様子を興味津々で眺めていた。
「…乗れ」
『何に』
「俺にだ」
『………。…ああ!』
気付いてなかったのかよ!とデイダラが声を掛ければ「えへへ」と言いながら黒凪が角都の首に抱き着いて背中に乗った。
黒凪を支えようとしない角都にデイダラと飛段がせっせと角都の腕を移動させる。
徐に黒凪を支えた角都は深い深いため息を吐いた。
『よし、小雪姫を探そう。進め角都!』
「殺すぞ」
『はい走る!』
「頑張れ角都、その内慣れるぜ…うん」
「ゲハハハァ!クソ面白ェなァ角都!」
ヒルコの足は遅い為荷台の方にサソリを残して4人で小雪姫を探し始める。
共に道を走る中で黒凪が徐に探査用の結界を雪の国全体に引き延ばした。
デイダラや飛段、角都は己を飲み込んだ不気味な気配にぴくりと眉を寄せ、雪の中を走っていた小雪姫は悪感に一度足を止める。
「…?…何よ、気持ち悪いわね…」
『…気持ち悪いって言われた。』
「あ?誰にだ、うん」
『小雪姫。…そこ左に行って思い切り走って。そこに小雪姫が居る』
っしゃあ!と走り出すデイダラと飛段に角都も無表情について行く。
すると黒凪が徐に「ん?」と眉を寄せてやがて「あ、なんだ。先客が居るじゃない」と嬉しそうに笑った。
その言葉を聞いていた角都はちらりと黒凪に目を向けて「何だ?」と言った飛段に目を向ける。
飛段は暫し黙ると徐に背中の鎌に手を伸ばし、デイダラもポーチに片手を差し込んだ。
「間抜けな姫様だなァオイ!逃げて早々敵に捕まってんじゃねぇよ!」
「肩慣らし程度に殺してやるか、うん」
飛び上がった飛段とデイダラに小雪姫を背負っていた青年が振り返る。
するとその青年と飛段達の間に現れた男が飛段の鎌を巨大な包丁の様な武器で受け止め、デイダラの起爆粘土には青年が放った針が突き刺さりダメージを与える前に爆発してしまった。
爆風で舞い上がった煙に角都が一旦足を止め目を細める。
そしてその先に見えた男と青年に微かに目を見開いた。
『ビンゴブックにでも載ってた?』
「……あれがお前の言っていた増援か」
『そうそう。良い人材が多いでしょ、間一族は。』
「忍を雇い始めたのは暁が最初だと言ってただろう」
"雇おう"って思って雇ったのはあんたらが最初なだけよ。あの2人はまあ成り行きで仲間になった感じだし。
…あ、でも仲間にする忍を死んだことにするって発想はあの2人から貰ったりしたかなぁ。
そう言いながら角都の背中から降りて結界で飛段とデイダラの動きを止める。
主に防戦ばかりだった男は武器を持ち上げる手を止め、徐に肩に担ぐ様にした。
青年も動きを止められた飛段とデイダラを見ると少し安心した様な顔をして小雪姫を抱えたままで此方に歩いてくる。
「さっさと止めろ。無駄な時間を食った」
「暁のメンバーを引き抜いているのは知っていましたが、これだけの人がいるなら僕達は必要無いのでは?」
『いやいや、雪の国と言えばあんたでしょうよ。それに暗殺って言ったら…ねえ?』
「あはは、確かに。」
談笑する彼等に眉を寄せ、デイダラは起爆粘土で結界を破壊し、飛段は角都に結界を壊してもらった。
そうして近付いてきた3人に黒凪が振り返る。
むすっとしているデイダラと何も考えていない様な顔で黒凪達を見ている飛段、無表情の角都に青年と男が困った様に顔を見合わせた。
「歓迎はされてないらしいな」
『あれ?何よあんた達その顔は。』
「そいつ等が増員か?うん」
『そうそう。…もー、無駄に戦わせたのは謝るよ。ごめんね?』
角都、誰だあれ?そんな風に問うた飛段に角都がちらりと黒凪に目を向ける。
まだ確信にまでは至っていないのだろう。彼等は表では死んだ事になっているから。
デイダラは飛段と同じくビンゴブックなどは見ていないだろうから本当に彼等が誰なのかは分かっていない。
『えっとねえ、小雪姫を抱えてる美青年が白で、こっちのデカい武器持ってるのが再不斬ね。』
「…やはりそうか」
「はく?ざぶざ?…聞いた事あるか?デイダラちゃんよォ」
「…どっかで聞いた様な気がな…うん…」
再不斬は霧隠れの鬼人って言ったら分かるんじゃない?
そう言った黒凪にデイダラがすっきりした様に顔を上げた。
有名人ですね、再不斬さん。そう言って笑った白に「女?」と飛段が言った為黒凪が呆れた様に口を開く。
『美"青年"って言ったでしょバカ。』
「んだとコラ…ってお前男かァ!?」
「…桃地再不斬は既に死んでいた筈だ。まさか間一族がこの男までも手中に収めていたとはな」
『成り行きよ、成り行き。どうせ死ぬなら仲間になれーって』
ふん。計画的に暁を狙ってきたお前が成り行きで仲間にするのか。
疑った様に言った角都に徐に再不斬と白の目も黒凪に向いた。
黒凪は困った様に眉を下げて笑うと角都の元へ戻り「背負って」と言う様に手を伸ばす。
その手に応える様に角都が背中を向けるとその背中に手を伸ばしながら「私はね、」と黒凪が口を開いた。
『白と再不斬が大好きなんだよ。』
「「!」」
「……。」
『死なせたくなかったんだ。…幸せな時間だって知ってもらいたかったしね。』
ほら私諦めるの嫌いだし。なんやかんやで何とかなるから、出来るもんなら色々やってあげたいし。
そう言って角都の背に乗った黒凪はびしっと三太夫達が待つ方向を指差した。
じゃあ戻ろうか。そう言って笑った黒凪に眉を下げて白が笑う。
そんな白の背中に担がれている小雪姫はふいと目を逸らした。
そうして降りてきた雪道を登り、三太夫達が待つ場所へと続く洞窟に差し掛かる。
そこで小雪姫が角都の背に居る黒凪に目を向けた。その視線に気付いた黒凪は角都の肩を叩き足を止めさせる。
『どうしました、姫様。』
「…やっぱり嫌。」
『あはは…、でも逃げられませんよ。我慢してください』
「………。」
むすっと眉を寄せる小雪姫に困った様に息を吐き「此処から歩こうか」と黒凪が指示を出す。
せめて洞窟の中だけでもゆっくりと進んで心の準備でもさせようとしているのだろう。
その意志を感じ取った小雪姫はゆっくりと進む一行にため息を吐いた。
「…ねえ。」
『はい?』
「なんであんたみたいな子供が…。……、」
『…私みたいな子供が仕切ってると変ですよね。』
笑いながら言った黒凪に「あんた、一体何なの」と小雪姫の声が再び掛けられる。
何、かぁ。うーん…。そう困った様に言った黒凪は微かに聞こえた汽車の汽笛に振り返った。
そして氷が解ける様な微かな音も聞こえ始め、足元に線路が現れる。
『ん?此処って元々線路だったんだ。』
「…。線路に微量のチャクラが流れている。何者かが意図的に流しているな」
徐々に汽笛の音が近付き車輪の回る鈍い音も聞こえ始める。
そしてやがて巨大な汽車の光が黒凪達を照らし始めた。
その事に舌を打ち徐に全員が走り出す。此処で汽車を破壊しても良いがこの洞窟に何かあれば先に居る映画のスタッフ達が下に降りる事が出来なくなってしまう。
ドン!と時折伸び放題だった氷柱が砕かれる音が響き、その度に小雪姫がビクッと肩を跳ねさせた。
「ゲハハハァ!クソ面白ェじゃねーかァ!」
「あんな鉄の塊でオイラ達を殺そうとしてんのか?うん」
「おい黒凪。此処以外に下に降りる道は」
『もしかしたら無いかもだから走って〜』
笑いながら走る飛段と呆れた様にため息を吐くデイダラ、真顔でなんでもない事の様に走る再不斬、角都、白。
黒凪は角都に担がれているだけの為物凄い速度で走る彼等に「凄い凄い、速いねえ」と笑っている。
そんな風に走っていてもやはり徐々に汽車は迫っていて、小雪姫だけが焦った様に口を開いた。
「追いつかれる!」
『追いつかれませんよ。』
「絶対無理よ!もうそこまで…!」
「白、もう少し速度を上げてやれ。」
「はい。」
再不斬の言葉に白が頷き更に速度を上げる。
小雪姫はそんな白に1人焦る自分が可笑しいのかと疑り始めたのか「なんでそんなに落ち着いてられるのよ、」と微かな声で言った。
その声にちらりと小雪姫に目を向けた白が微笑む。
「このぐらいはどうって事ないんです。…良ければ目を瞑っていてください。耳も塞ぎたいなら、好きなように。」
「っ、」
洞窟の出口から漏れる光が大きくなっていく。
小雪姫はその光に大きく目を見開き、無意識の内に白にしがみ付く力を籠める。
そして全員が勢いのままに洞窟から飛び出し線路の上から離脱した。
足場の悪い雪の上に器用に着地したデイダラ達に待っていたサソリが何も言わず目を向ける。
途端に迫って来ていた汽車も洞窟から飛び出し少し進んだ所で動きを止めた。