世界を君は救えるか×NARUTO

□世界を君は救えるか
44ページ/92ページ



  雪の国


≪久しぶりだな、小雪≫



 キ――ン、と機械音が微かに響く。
 汽車の拡声器を使って話している男に小雪姫が目を凝らし、その人物に眉を寄せた。
 風花ドトウ。そう呟いた小雪姫に「お、アイツか」と飛段やデイダラが小雪姫の前に立つ。
 そんな中で薄く笑みを浮かべてドトウに近付いて行く黒凪にドトウが怪訝に眉を寄せた。



『…あ、白。彼等氷遁使うんだけどさ』

「え?…あぁ、別に構いませんよ。今更同族に会った所でどうも…」



 思い出した様に言った黒凪に白が困った様に笑ってそう言った。
 そう?と首を傾げて再びドトウに目を向けた黒凪は鈍い音を立てて転がり落ちてくる丸太の音に顔を上げる。
 今しがた自分達が居る場所よりも高い場所から落とされた数本の丸太は崩れた雪と共にドトウの居る汽車へ直撃し、ドトウ達も顔を上げた。
 丸太が落とされた方向には雪の国の忍とみられる者達が沢山立っており、その中心には三太夫も居る。



「皆の者!我等が小雪姫様が見て下さっておる!今この時こそが宿敵ドトウを倒す時!!」



 そう皆を鼓舞する様に叫ぶ三太夫に黒凪達は一斉に顔を見合わせた。
 恐らくドトウ達が現れる事を察知した三太夫がかき集めた者達なのだろうが、彼等がどうにかできるならとっくにこの国は取り戻されている。
 雄叫びを上げながら三太夫達がドトウの居る汽車に向かって走り出し、汽車の側面が開きドトウの部下とみられる忍達が姿を見せ始めた。
 目を凝らせば汽車の側面に無数の穴の様なものがあるのがわかる。



『あ、まずい』



 汽車の穴から無数のクナイが三太夫達に向かって放たれる。
 すぐさま黒凪が壁を作る様に結界を張り全てのクナイを弾いた。
 続いて黒凪が結界で汽車の側面を殴りつけて汽車を横転させようとする。
 しかしドトウと共に居たナダレが氷河の様なものを術で作りすぐに汽車を支えた。
 目を細めた黒凪は次に細い無数の結界で汽車を貫通させドトウが不機嫌に眉を寄せる。



「間殿!この壁を消して下され!」

『貴方達に死なれると困るんですよ。我慢してください。』



 ドトウの乗る汽車が逃げる様に動き始める。
 その様子を見て黒凪が構えると「早雪様の仇ー!!」と三太夫が結界をよじ登り汽車へ近付いて行った。
 え゙。と目を見開いた黒凪はナダレが作り出した氷柱に貫かれた三太夫に眉を寄せる。
 デイダラや飛段も「あ。」と思わず声を漏らした。



『…しまった、依頼主が死んだ。』

「その場合はどうなるんだ?うん」

『え、うーん…。…撤退?』



 汽車が結界に貫かれた部分を切り離して走り去って行き、小雪姫が黒凪達に目を向ける。
 黒凪は結界の壁を解き「どうしようかな」とデイダラ達に目を向けた。
 すると隠れていた映画製作スタッフ達が三太夫に駆け寄り、腹部に大きな風穴があいた三太夫を抱えて此方に向かってくる。
 どうやらまだ息があるらしく彼の要望で小雪姫の元へ連れて来たらしい。



「…小雪、姫…様…」

「……。」

「申し訳、ございません。この三太夫…奴等に、傷1つ付ける事も、叶いませんでした…」



 三太夫の元に生き残った雪の国の忍達も駆け寄ってきた。
 そして三太夫の最期を看取ると皆整列してばっと小雪姫に頭を下げる。
 そんな忍達に小雪姫が眉を寄せ、目を逸らした。



「小雪姫様!我々は先代当主風花早雪様にお遣いしていた忍でございます!」

「貴方様のお帰りを心より待ち望んでおりました!」

「…。」

「どうか我々と共にドトウと戦ってください!貴方様がこの国を―――」



 もう止めて!!そんな小雪姫の叫び声が響く。
 忍達は一斉に口を閉ざし、沈黙が降り立った。
 映画製作スタッフ達も黒凪達もその行く末を見守っている。



「もう諦めなさいよ!!あの壁が無ければあんた達も三太夫の様に死んでいたのよ!?」

「…姫様、」

「私は姫じゃない!!」



 忍達が顔を見合わせる。
 まさかこれ程までに嫌がっているとは夢にも思っていなかったのだろう。
 彼女はこの国を取り戻さんと戻って来たのだと、一心に信じていたのではないだろうか。
 しかし目の前の現実を受け入れた所で、彼等の希望は小雪姫ただ1人である事に変わりはない。
 そんな空気を察した小雪姫は忍達から目を逸らし監督やスタッフ達に目を向けた。



「もう帰りましょう。雪の国以外にも雪の降る場所は沢山あるわ、撮影はそこですれば良い。」

「で、でも三太夫さんは…。それにそこの忍さん達だってこの国を取り戻す為にって…」

「もうドトウとは戦わない。…そうよね。」



 そう言って向けられた小雪姫の言葉に応える様に黒凪が振り返った。
 依頼主は死んだわよ。ほら。
 小雪姫が亡骸となった三太夫を示す。
 黒凪の目がゆっくりと三太夫に向けられた。



『…そうですねえ。依頼主が死んだら報酬が出ませんし。』

「だそうよ。彼等が戦わないならドトウに勝てる筈がない。監督達も殺されるわよ。」

「え゙」

「だってもう任務じゃないんだから。助けてくれないわ。」



 お金出してくれるなら助けますよ。
 笑って言った黒凪に「汚い人間ね、貴方」と小雪姫が軽蔑する様に言った。
 その言葉に小雪姫を見た黒凪は「あれ?」と首を傾げる。



『それって無償で"助けてくれ"って事ですか?』

「…馬鹿じゃないの?貴方達が私達を助ける必要はないわ。もう帰るだけなんだから」

『そうですか。』



 黒凪がそう言って笑うと途端に上空にいつの間にか浮かんでいた飛行船からミゾレが鎧の腕を伸ばして小雪姫を掴み飛行船に引き摺り込んでいく。
 飛行船が近付いていた事に気付いていたのだろう。しかしデイダラ達は誰1人何もしなかった。
 小雪姫の視界に呑気に手を振る黒凪が見える。
 それを最後に彼女は飛行船の中へ引きずり込まれ、扉が閉められた。



「小雪姫様ー!!」

『それじゃあ帰ろうか。』

「え、あの…本当に雪絵を放って…?」

『これ以上働いたらタダ働きですし。』



 ええー…と映画製作スタッフ達が血も涙も無い回答に固まった。
 私達はもう帰りますけど一緒に行きますか?お金出すなら護りながら帰りますよ。
 そう言った黒凪に監督達が顔を見合わせる。
 すると雪の国の忍達の中から1人の男が黒凪に近付いた。



「報酬なら我々が出します!小雪姫様を助け出してください!」

『助け出すだけなら安く請け負いますけど、国を落とすってんなら額が跳ね上がりますよ。助けるだけで良いですか?』

「…国も、共に奪い返して頂きたい。」

『高いですよ。』



 念を押す様に言った黒凪にしっかりと忍が頷いた。
 必ず指定された額をお支払いします。
 強いまなざしを此方に向けて言った忍に徐に黒凪が笑った。



『了解しました。じゃあとりあえずお姫様を奪い返して来るのでスタッフの皆さんを頼みます。』

「んじゃああれに乗り込むか?うん」

『そだね。でもチャクラをコントロールできる鎧とか作ってるから、とりあえず私が乗り込むわ。』

「あァ?俺等はどうすんだよ?」



 下から追って小雪姫を私が確保したら攻撃してきて。タイミングの判断だとかは角都とサソリに任せる。
 そう言って結界を足場に跳び上がり、黒凪が目を細めて構えた。
 そして一瞬で姿を消した黒凪に「おー…」と飛段が声を漏らす。



「…あいつ今のどうやったんだァ?」

「俺が知るかよ、うん」

「角都分かるか?」

「さあな」



 ふーん。と飛段が目を細める。
 一方の黒凪は空間を歪めて飛行船のすぐ側に辿り着き、扉の鍵を破壊して中に入り込んだ。
 そして気配を消して小雪姫とドトウの居る部屋を見つけだし耳を凝らす。



「六角水晶は持っているか?」

「ええ」

「結構。…これで秘宝を取り出す事が出来る」

「…秘宝?」



 そうだ。そう言って頷きドトウが徐に話し始めた。
 兄である風花早雪からこの国を奪った後、様々な場所を探したがこの国の財産は何1つ無かったと言う。
 しかし何処かにある筈だと探し続けたドトウはやがて虹の氷壁にある六角水晶が見事に合致する鍵穴を見つけたのだ。



「風花の財宝さえ見つかれば雪の国は忍五大国をも凌駕する軍事力を手にする事が出来る」

『(何処の国も軍事力が欲しいんだねえ…。)』

「さあ小雪。六角水晶を渡しなさい。」

「……。」



 小雪姫がドトウの言葉に素直に従い首に掛けていた六角水晶を手渡した。
 数秒程手渡された六角水晶を満足げに微笑んで覗き込んだドトウだったが、すぐに顔色を変えて小雪姫の胸ぐらを掴む。
 小雪姫は小さな悲鳴を上げて驚いた様にドトウを見上げた。



「馬鹿にしているのか?これは真っ赤な偽物だ!」

「そ、そんな筈は…っ」

『(あ。そうだあれすり替えて今私が持ってるわ。)』



 小雪姫も誰がすり替えたのかすぐに予想が着いたのだろう。
 間一族の…。そう呟いた小雪姫に「成程、」とドトウの側に立っていたナダレが頷いた。
 そんなナダレにドトウの目が向けられ、彼が徐に口を開く。



「小雪姫と共に雪の国に来ていた木ノ葉の一族です。恐らくその者達がすり替えたのでしょう。」



 侵入した扉から六角水晶を持たせた式神をデイダラ達に向けて放つ。
 そうして元の位置に戻れば「ならば小雪に用はない」とドトウがナダレに目を向けた。
 それを見た黒凪は扉を開き中に足を踏み入れる。



『小雪姫は殺されると困りますねえ』

「…何者だ。どこから入った」

『扉から入りました。…六角水晶はうちの部下が持ってます。小雪姫が殺されると部下には里に帰る様に言ってあるので生かしておかないと手に入りませんよ。』

「……。」



 ドトウがナダレに目を向け、一瞬でナダレとミゾレ、フブキが現れ黒凪を羽交い絞めにした。
 ドンッと床に押さえつけられた黒凪に小雪姫が顔を青ざめ駆け寄ろうとする。
 しかしそれをドトウが止め黒凪を見下して小さく笑った。



「良いだろう。小雪も貴様も此処から戻って来なければその部下とやらも我々の元へ現れる。」

『…言っておきますけど、こっそり小雪姫を殺してもばれる様になってますからね。』

「分かっているとも。忍五大国御抱えの暗殺集団をそこまで舐めてはおらぬよ。…殺さなければ良いのだろう?」

『!』



 ナダレが鎧の一部の様なものを取り出しそれを見たミゾレが黒凪の身体を持ち上げる。
 そしてその装置が黒凪の腹にめり込まれ、装置から触手の様なものが現れ腹部に突き刺さった。
 その痛みに黒凪が微かに眉を寄せドトウを睨む。



「間一族の忍であればそれ相応のチャクラを持っているだろう。その装置でチャクラを吸い取り、我等の鎧に使わせて貰うぞ。」

『…。…成程、力が入らない訳だ。』

「牢屋に連れていけ。小雪もな。」

「はい。」



 ぐったりとした黒凪と小雪姫は共に牢屋へ連れていかれ、互いに向かいの牢屋に放り込まれた。
 小雪姫は拘束はされなかったが黒凪は念には念をと手錠で拘束されぶら下げられる。
 去って行った忍達を見送り黒凪が気だるげにため息を吐いた。



「……良い気味ね。」

『あは、似合ってます?』

「ええ。お似合いよ。」

『そりゃどうも。』



 笑って言った黒凪をチラリと見て小雪姫が膝を抱えて縮こまる。
 黒凪は目に掛かった髪を退かす様に軽く頭を降った。



「…ねえ。貴方の髪ってなんでそんなに白いの?」

『老化現象です。』

「ふざけてる?」

『いいえ?…言っておきますけど、私貴方より何百歳も年上ですよ。』



 …笑えない冗談ね。
 そう言った小雪姫に「あはは、」と取り敢えず笑っておく。
 また少しの間だけ沈黙が降り立ち、次に彼女が言った言葉は「私、その色嫌いよ」だった。



『あ、白が嫌いな理由分かります。雪と同じ色だからでしょう。』

「よく分かったわね。…そうよ、雪の色が嫌いなの。だからこの国も嫌い。」

『そんなに嫌な国ですか?確かに寒くてずっと雪が降ってますけど、君主が変わればそこまで辛い国でもないと思うんですけど』

「…この国にはね、春が無いの。涙が凍り付いて…心が凍える国なのよ。」



 …春って好きですか?
 黒凪が小さく微笑んでそう問う。
 小雪姫が目を伏せて徐に口を開いた。



「…父が言ってたわ。諦めずに未来を信じれば、春は来ると」

『……』

「でもこの国に春は来ない。…父が死んで、この国から逃げて。嘘を付いて、自分を演じ続けてきた。」

『成程。そりゃあ実力派の女優になれるわけだ。』



 また沈黙が降り立つ。
 黒凪は徐に腹部に取り付けられた装置を見下した。
 ちらりとその様子を見た小雪姫は「苦しいの?」と少し心配した様子で言う。
 いいえ?と笑顔で本心を言ったつもりだが、彼女自身は相手の言っている事が嘘か真実かを見破る術は持っていないらしい。



「苦しいだろうけど、貴方にも、私にもどうする事も出来ないわ。」

『なぜそう言い切れるんです?世の中わからないものですよ。』

「どうにも出来ないわよ。」

『諦めると楽なのは知ってますが、私色々あってそれが怖くなりまして。』



 諦めるのが、怖い?
 怪訝に聞き返して小雪姫が此方を向いた。
 はい。と照れ臭そうに言った黒凪に小雪姫が微かに目を見開く。
 共に雪の国に来て、共に三太夫の集落に向かって。共にこうして捕まって。
 短い間だったかもしれないけれど、そんな中で今初めて見た表情に彼女は思わず驚いた。



『一度ね、私が諦めてた所為で大事な人達を危険な目に遭わせた事があるんですよ』

「……」

『私が諦めた所為で、自分よりも大事な人達を永遠に出られない空間に閉じ込めてしまう所でした。』

「…永遠に、出られない空間…」



 …それはどうして?
 問いかけて来た小雪姫に、黒凪が微笑んだ。


 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ