世界を君は救えるか×NARUTO

□世界を君は救えるか
5ページ/92ページ



  NARUTO疾風伝


「すげー…でっけー屋敷だってば…」

『いやー、自慢出来るよナルト。間一族の屋敷に入れるなんてさ。』

「そーなんだってば?」

『そうそう。なんたって入れる人間はごく少数だからね。里の人間を入れたのは…2、3人目ぐらいかな。』



 そう言った黒凪の言葉に小首を傾げる。
 間一族も里の人間だろ?
 不思議気な顔をして言ったナルトに微かに目を見開いて、そして眉を下げ笑った。



『そだね。確かにそうだ。』

「?」

『…あ、今から地下に入るから』

「…地下?」



 足を止めた場所は屋敷の一室。
 部屋の壁や襖にはびっしりとまじないが掛けられていた。
 襖をピタリと閉めしゃがみ込んで黒凪が床に手を着く。



『地下に入ったら静かにね。これから入るのは神佑地だから。』

「しんゆーち?」

『しんゆうち。神様が住む場所の事。』



 神様の機嫌を損ねたら即殺されるから。
 本当に気を付けてね。真剣な顔で言った黒凪に何度も頷く。
 すると何もなかった筈の畳の表面が水の波紋の様に揺れた。
 その様子にナルトが釘付けになっていると小さく笑って黒凪が彼の手を引く。



『私の手を離さない様に。』

「お、おう!」



 ぐっと握られた逞しい手に一瞬目を向けて異界に入り込む。
 地面に足が付くと徐に手を離した。
 きょろきょろとススキ野原を見渡すナルトに静かにする様にと己の唇に人差し指を寄せ、黒凪が歩き出す。
 彼女が向かう方向に目を向けたナルトはその景色に目を見開いた。



「…すげ、」

『あ。しゃべった。』

「へ?」



 黒凪の言葉に見渡す限りの城下町から目を逸らし彼女に目を向けるナルト。
 すると彼の目の前に1匹の蟲が近付いた。
 蟲はじーっとナルトを見ると徐に黒凪の目の前に移動する。
 そんな蟲の真上にモニターの様なものが表示されそこに白髪の男が映り込む。



≪…間黒凪か≫

『おはよう白。ごめんね、アポ無しだったから静かにそっち行こうとしてたんだけど』

≪…侵入するぐらいなら蟲を呼べ。≫

『閃が嫌がるから蟲を呼ばないの癖になってさ。』



 えへ、と悪びれる様子の無い黒凪にため息を吐いて再び白が口を開いた。
 その男は。感情の無い目がナルトに向かう。
 ナルトはその目に一瞬硬直した。



『この前姫様が会いたい言ってた子だよ。ほら、九尾の。』

≪…あぁ、うずまきナルトか≫

「!」

≪事情は分かった。今から紫遠を向かわせる≫



 その場で待て。その言葉を最後に途切れたモニター。
 蟲も徐に何処かへ飛んで行った。
 さっきの白って奴、誰だってば?
 そう問うたナルトに周りを見渡しながら黒凪が口を開く。



『この場所のナンバー2って所かな。君に逢いたがってるのはこの場所のお姫様。』

「お姫様…」

【お、いたいた。】



 よ。と片手を上げて無表情に首を傾ける紫遠。
 彼女はナルトをじっと見ると静かに目を細めた。
 ふーん。確かに中にデカいのがいるな。
 ボソッと言った紫遠はついてきな、と歩き出した。



『どう?この城下町。』

【あ?…あー…、良いんじゃね?あたしは結構気に入ってるぜ。】

『そっか、よかった。苦労して作った甲斐があるってもんだよ』

【何言ってんだよ、5分で全部作った癖に】



 …黒凪が作ったんだってば…?
 ひく、と口元を引き攣らせて言ったナルトに2人が振り返る。
 彼女達はナルトの表情を見ると何も言わずニヤリと笑いまた正面を向いた。



【でもちょっとデカく作り過ぎだって。移動するの面倒だし】

『大きく作れって言ったのはそっちの姫様だよ?その所為で良守君の力まで借りたんだから』

【あぁ、あいつね。何かスゲー成長してたな。】



 そこまで話した所で巨大な妖が1匹近付いてくる。
 蟲の様であり鳥の様な奇妙な生物。
 その姿にナルトが軽く引いているとその上に乗っていた藍緋が顔を覗かせた。



【乗れ。姫がお呼びだ】

【お、藍緋気が利くねー】

『火黒が居る時は意地でも迎えに来ないのにね。』

【あの男の居る場所に行きたくないんでな】



 しゅる、と紫遠の糸がナルトに巻き付き乱暴に妖に乗せた。
 そして物凄い勢いで城下町の中心にある楼閣へ登って行く。
 ナルトは楼閣の周りを浮遊する蟲達や城下町を歩く妖達に終始目を瞬かせていた。
 やがて楼閣の頂点に辿り着きするりと中に入り込む。
 顔を上げると丁度目の前にゆるりと座る姫とその側に立つ白が居た。



「よくやった。藍緋、紫遠」

【私はもう実験に戻らせて貰うぞ】

【んじゃあたしも抜けるわ】



 一瞬で姿を消した藍緋と紫遠にもナルトが驚いていると彼を音も無く姫の9本の尾が包み込んだ。
 不思議と力が抜けた己自身に目を見開いたナルト。
 九尾のチャクラが溢れ出すと良くないと思い黒凪が姫の尾を掻き分けナルトの顔を覗き込んだ。



『焦らないで、殺されないから。』

「わ、分かったってば」

【……。確かに居るわねぇ】



 懐かしいわぁ。ゆるく笑って姫が立ち上がりナルトの目の前に移動する。
 彼女の冷たい手がナルトの頬に触れ姫が目を閉じた。
 それを見た黒凪も姫に触れ目を閉じる。
 次に目を開くと九尾が封印されたナルトの精神世界の中の檻の前に居た。



【…あぁ?…懐かしいのが居るな…】

【久しぶりじゃない。無様に封印されちゃったのね。】

【…テメェ、儂を侮辱しに来たのか…?】

【そんな事しないわ、興味無いもの。】



 笑った姫に九尾の目が細まる。
 彼も恐らく姫の性格を理解しているのだろう。
 彼女の考え自体が我々では理解出来ない事も、彼女の行動原理が気まぐれだと言う事も。
 九尾の目が黒凪に向いた。



【んでェ?そこの女ァ…】

【ふふ、私のお気に入りの子よ。人間にしては随分と力の大きな子でしょう?】

【……。】

【あら、黙っちゃった。…ねえ、今日は貴方を解放してあげようかと思って呼んだんだけれど】



 チラリと九尾の目が再び姫に向く。
 しかし姫の手を掴んだ黒凪にまた目が向いた。
 それは駄目ですよ、姫様。
 姫の目も黒凪に向く。黒凪の目は有無を言わせない目だった。



『九尾を解放すればナルトが死ぬでしょう』

【…あら、駄目なの?】

『駄目です。』

【……ふうん。随分気に入ってるのねぇ】



 分かったわ、貴方がそう言うなら止めときましょう。
 おい。と不機嫌な九尾の声が掛かる。
 姫は笑顔のまま顔を上げた。



【そう言う事だわ。貴方を解放しちゃダメなんですって。】

【人間の事情なんざ知るか…さっさと出せ…!】

【駄目よ。この子が私の味方をしてくれなくなったら色々と面倒だもの】

【…それ程の力をこのガキが持ってると…?】



 ええ。とあっけらかんと言った姫にぶわ、とチャクラが溢れ出した。
 舐めるなよ…、と低い声が響く。
 少し離れた所に居たナルトが「だ、大丈夫かよ」と近付いてきた。
 そんなナルトを片手で制し黒凪が眉を寄せる。
 一瞬で檻を補強する様に結界が設置された。



『悪いが、あんたを出すわけにはいかない』

【…テメェ…!!】

『ナルトを死なせるわけにはいかない。…この子は里に必要な子だ』



 我々間一族は木ノ葉の為にうずまきナルトを護る。
 ゆっくりとナルトが黒凪に目を向けた。
 誰にもその任を邪魔させるつもりはない。
 ガンッと九尾の額を結界で思い切り殴り飛ばす。



【ガキがぁ…!!】

『……』

【どうして儂がお前等人間の理屈で閉じ込められる!?】



 低く憎しみに塗れた言葉が響く。
 咄嗟にナルトの額に指先を当て、彼を精神世界から追い出した。
 はっと目を見開いたナルトは目の前で目を閉じる姫と黒凪に目を向ける。



【貴様等人間は身勝手な奴等ばかりだ…力もねぇくせに…!!】

『力が無いからお前を封じて来たんだ。』

【屁理屈を…】

『君にとってはそうかもね。…でも安心していい』



 笑顔で顔を上げた黒凪に九尾の目が細まる。
 ナルトがどうにかしてくれる。
 言い切った彼女に九尾が眉を寄せた。



『だからそれまでは、…精々人を恨んでいればいい』

【……貴様ァ…】

『…姫様、戻りましょう』

【相変わらず強引な子ねぇ】



 これじゃあ九喇嘛が怒るわよぉ。
 言っている内容に反して特に焦っている様子でもない姫は黒凪と共に現実世界に戻った。
 ナルトはゆるゆると離れていく尾に目を向ける。
 姫は離れた位置で座っていた。



【もう帰りなさい。…さっきから外が喧しいわ】

『…外?』



 顔を上げた黒凪は小さく首を傾げナルトの手を引いて異界の外へ出る。
 間一族の屋敷へ戻った2人は外から聞こえる声に顔を見合わせ玄関に向かった。
 そこにはサクラやカカシ、シカマルにキバなど沢山のナルトの同期達が居る。



「あ!ナルト!」

「お前無事なのか!?」

「へ?…特に何もないってば…」

「ほら、何もないでしょ?」



 にっこりと胡散臭い笑顔を振り撒き正守が言った。
 話は大体読める、得体の知れない間一族の屋敷へナルトが1人で入っていく事に驚き、中に入れろと心配になった者達が押し寄せる。
 しかし間一族の領地へは里の者は基本的に進入禁止だ。
 その為正守や周りに居る夜行の面々が押し寄せる忍達を止めていたのだろう。
 その結果、余計に心配になり門の前で騒いでいた。



「…あんたが俺達を中に一歩でも入れてくれりゃ、それ程心配はしなかったんだがな」

「いやいや。やっぱり暗黙とは言えルールは守ってもらわないと。」

「…」

「君だってご両親から聞いてる筈だろ?間一族への干渉は全て禁止って事。」



 実際は僕等と会話を交わす事すらあまり良しとはされてない。
 …その理由は、そこまで言った正守にシカマルが少し眉を寄せた。
 静かにピンと立てられた2本の指を持ち上げる。
 シカマル達が身構え、その様子に正守が笑った。



「ああ、身構えないで。…どれもこれも、君達や里を護る為だよ」

「…上層部の意向、って奴か。」

『まあそうだね。里の人間にさえも我々の情報を与えない事で最強の切り札を隠してるって事だと思うよ。』



 口を開いた黒凪を見てシカマルが息を飲む。
 周りに居たキバ達も目を見開いた。
 …あ、そっか。ここ数年は会ってなかったもんね。
 困った様に笑った黒凪に一様に眉を顰める。



『久しぶり。わけあって歳は取ってないけど黒凪だよ』

「わけあって、って」

『この姿が1番動き易くてさ。力のコントロールも効くし1番身軽で…』



 そうじゃない。
 シカマルの声が響いた。
 黒凪の目が彼に向かう。
 その表情を見て分かっていた反応だと言う様に眉を下げた。



『このカラクリを話せば君達を殺さなきゃならなくなるよ』

「っ、」

『…ホント、何も話せなくてごめんね』



 でも君等を護る意志は本物だから。
 そう言った黒凪にシカマルが再び口を開こうとした時、彼女の肩を限が無言で叩いた。
 振り返った黒凪は耳元で周りに聞こえない様に何かを伝えた限に頷いてナルト達に背を向ける。



「、おい!」

『ごめん、急用。』

「黒凪…!」

『!』



 シカマルの声に振り返った。
 …あぁ、懐かしいな。アカデミー以来だ。
 彼に名を呼ばれるのは。



「…黒凪」

『あ、ごめん。懐かしくて。』

「おい!」

『どうしても外せない用事なの。話ならまた今度聞くから』



 走って屋敷に入って行った黒凪にシカマルが言葉を飲み込んだ。
 それを見た正守は小さく笑うと「出口はあっちだよ」と門を示す。
 ナルト達は有無を言わせぬ正守の様子に渋々屋敷を出て言った。



 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ