世界を君は救えるか×NARUTO

□世界を君は救えるか
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  みかづき島


『で、任務ってのは?』

「要人の警護だ。」

『要人?…お、一国の王子様だ。凄いね。』



 そんな風に呟きながら資料に目を通していると「任務か!?」と笑顔で飛段が走ってくる。
 飛段の声に反応したのか角都も徐に襖を開き顔を覗かせた。
 そんな彼等を見ると資料を閉じて片手に持ち「一緒に行きたい人!」と黒凪がもう片方の手を上げる。
 資料を持っていたデイダラ、サソリ、偶然居合わせた飛段、角都、そしてイタチ。
 彼等が徐に顔を見合わせ全員が徐に手を上げた。



『え゙、全員?』



 各々の顔を見渡して再び資料に目を向ける。
 要人の警護、しかも一国の王子であれば狙う輩は多いだろう。
 しかしあまり大人数でぞろぞろ歩いてもなぁ…。



『…よし、じゃんけんで。』

「っしゃあ!テメェ等恨むなよ!」

「まだお前が勝つって決まったわけじゃないだろ、うん…」

『あ、イタチは一緒に行くって約束してるからじゃんけんいいよ。』



 あんだと!?と飛段が振り返る。
 そんな飛段の顔を結界で元の方向に戻し「ほらじゃんけんするの。」と黒凪が腕を組んだ。
 するとそんな黒凪の背後に竜巻が巻き起こり、中から七郎が姿を見せる。



「こんにちは黒凪さん。お出かけですか?」

『うん、今から任務行くんだぁ』

「へー。…実は僕、これから1週間ほど非番なんです。」

『非番?そんなの始めてじゃない?』



 はい。最近働き詰めだったので紫島が父さんに掛け合ってくれたみたいで。そしたら1週間も休みを貰っちゃって。
 暇だから黒凪さんの所に来ちゃいました。
 笑って言った七郎に「それじゃあ偶には一緒に任務に行く?」と黒凪が言うと彼は予想以上に嬉しそうに目を見開いた。



「本当ですか?」

『うん。君が居れば多分すぐに片付くし。』



 そう言って黒凪が笑ったとほぼ同時にギャー!と男の図太い声が聞こえてくる。
 そんな声に其方へ目を向ければ角都以外の全員が悔しそうに拳を握りしめていた。
 …独り勝ちしたの?黒凪の問いに「あぁ」となんでもない事の様に角都が言った。



「くそー…、…黒凪!あと1人ぐらいは連れて行くよな!?」

『あ、このメンバーで行くわ。』

「はぁ!?」



 今回の任務はイタチと角都と七郎君と行ってきます。
 笑顔で言った黒凪に「なんだとォ!?」と飛段の声が響き渡る。
 そうして俺も連れて行けやら言って来る彼等を放って黒凪がイタチを部屋に案内する為に歩き始めた。
 角都も自室に向かって歩きだし、七郎は「玄関で待ってますねー」と歩き出す。
 その様子を見ていたイタチは歩き出した黒凪の後に無言で続く。



「…普段からあのような感じなんですか?彼らは…」

『あの4人?…そうだね、基本的に誰が行っても良い様な任務の時はじゃんけんかな。』

「…そうですか…」

『それにここではチャクラが使えないから暇だって言うのは本当だろうし、ストレス溜まるんでしょ。』



 だからあの子達の為に任務を沢山受けてたら私だけなんか疲れて来てさ…。
 と眉を下げた黒凪の後姿をイタチが眺めながら屋敷の中を歩いて行く。
 しかも面倒臭そうなのとか積極的に私達に渡す様になり始めたし!
 そう言って「正守めー…」と悔しそうに眉を寄せた黒凪にイタチが小さく笑った。



「恨み言を吐いている割には、楽しそうに見えますが」

『…まあそうだね。楽しいから続けられてんだけどね。』



 そう言ってから足を止め、此処がイタチの部屋だよと声を掛けられイタチが襖に目を向ける。
 適当に荷物広げて任務の準備してから玄関で集合ね。
 そうとだけ言って歩いて行った黒凪の背中を見送って部屋に入る。
 随分と殺風景な部屋の中にはタンスが1つあり、中には数枚の間一族の羽織と畳まれた着物が入っていた。



「………。」



 木ノ葉を抜けてからは安心していられる居場所など1つも無かったし、こんな風に自分の為にと畳まれた衣服なども長らく見て居なかった。
 子供の頃は母が任務の時の服を畳んで準備していてくれたりしたな、と思い返して畳まれた着物を持ち上げる。
 すると「ごめんね、ちょっと入っても良いかな」と声を掛けられ「はい」と返答を返した。



「ごめんね、着物は準備していたんだけど笠を置いておくのを忘れてて…」

「いえ…」



 ささっと中に入り込んだ修史は壁の突起に笠を引っ掛けて再び襖へ戻ると「ごゆっくり」と微笑んで静かに襖を閉じた。
 先程の彼の言動から着物も部屋の整理も彼が全てやってくれたのだろう。
 ニコニコと穏やかな笑顔を見せてくれた修史を思い返し、あんな笑顔を向けられたのもいつぶりだろうかと物思いにふける。
 そんなイタチの部屋の前をすたすたと角都が歩いて行く様子が見えた。



「……。」

「おいイタチ。」

「!…サソリか、なんだ?」

「どうせ玄関までの道なんざ分からねぇだろ。俺も暇だからな、一緒に行ってやる。」

「…ありがとう。少しだけ待ってくれ。」



 サソリの気遣いに少しだけ驚いて身支度を整える。
 そして外に出ればサソリが徐に此方を見上げて来た。
 そんなサソリを暫し見つめていると「あんだよ」と少しイラついた様にサソリが言う。



「いや、本体は今朝初めて見たからな」

「チッ。どいつもこいつも第一声はそれかよ…」

「当たり前だろう。お前は仲間の俺達にも素顔は見せなかったんだからな。」

「此処で晒す羽目になったのはこの屋敷でチャクラが使えねェ所為だ…」



 それよりお前笠は持ったか。
 そう訊いたサソリに頷いて笠を持ち上げれば「よし」と呟いてサソリが玄関に向かって歩いて行く。
 そんなサソリの背中に「やはり顔は見られるとまずいのか」と声を掛ければ「当たり前だろ」とサソリが振り返らずに返答を返した。



「俺達は世間じゃ死んだ事になってるからな…。とは言っても実際は俺達が間一族に居ようが文句は入らねぇらしいが、黒凪の野郎が里に配慮してんだと。」

「成程な…」

「…お前あいつがガキの頃から知ってんだろ。昔からあんななのかよ」

「あんな?」



 平気な顔して俺等の代わりにミンチになったりしやがる。目の前でやられると癪に障るんだよ。
 低い声で言ったサソリに「さあ…」と返答を返したイタチはちらりと間一族の屋敷の中に在る庭で遊ぶ異能者の子供達に目を向けた。
 死ぬ事は怖くないと、ずっと言ってはいたがな。
 無邪気に遊ぶ子供達の笑顔を見て黒凪のあんな顔を見た事がないとふと思い返す。



「黒凪さんの事だ。自分が死ぬ事なんて何とも思ってないんだろう。」

「…何だよその黒凪"さん"ってのは。気持ち悪ィ。」

「あの人を呼び捨てる方が俺は気持ちが悪い。明らかに目上の人間だ。」

「……はっ。好きにしやがれ。」



 そんな会話をしながら玄関に着くと既にイタチ以外の全員が集合していた。
 イタチとサソリを見ると黒凪が微笑み「ありがと。」とサソリに礼を言って彼に背を向ける。
 それから数時間程で七郎の能力によって4人は合流地点として指定されている真夏の荒野へと辿りついた。



「…え、要人の警護なんですか?この任務。」

『うん。一国の王子様?が馬鹿みたいな金額出して来たからそれ相応の対応をしたら…』

「間一族に任務が回って来たと…。」



 にしても暑いね、鋼夜置いて来て良かったよほんと…。
 しみじみと言った黒凪に「そうですね」と笑って返答を返す七郎。
 随分と仲の良い2人の様子など気にせず今回の任務の資料を読む角都とイタチ。
 そんな彼等を地面に降ろした七郎は「あれじゃないですか?」と遠くから此方に向かってくる大量の荷台車を目を細めて眺める。
 目の前を進み始める随分と数の多い荷台車を眺めているとやはりこれらは今回護衛を依頼してきた王子の所有物らしく、やあやあ皆さん!と陽気にその王子が現れた。
 王子と言えば容姿端麗な人物を微かに想像していたわけだが、まあこれが現実か。
 金がある故に美味しい食べ物をたらふく食べて来たのだろう、現れた王子は随分と身体の大きな人だった。



「君達が今回僕等の護衛をしてくれる忍の皆かなぁ?」

『はい。木ノ葉隠れから来た間一族のものです。私は隊長の黒凪。』

「僕は扇七郎と言います。」

「…角都だ」

「イタチです。」



 随分と距離のある平和な国だから本名を名乗り、顔もそのままで良いと指示を出してある。
 彼等の様な極悪人の顔が知れ渡り、忍が狙ってくる様な場所は忍五大国などぐらいなものだ。
 遠方の里から忍を派遣させるような国等は抜け忍の存在など知らないに等しい。



「僕は月の国の王子、ツキミチルさぁ。これからよろしくね。…にしても君可愛いねえ」

『(お?)』

「こんなに小さくて可愛らしいのに隊長なの?」



 よろしく。と差し出された手に「あぁはい…」と手を差し出せば掴まれた手はすっぽりとミチルの両手の中へ。
 これはシェイクハンドとは言い難い。そんな風な事を考えて優しい手つきですりすりと擦られる己の右手を見ながら黒凪が苦笑いを溢した。
 すると「ミチル様、よろしくお願いします。」とほんの少しだけトーンの低い七郎の声が聞こえてくる。
 ああよろしくねぇ、と黒凪の手を片手で持ったままもう片方の手を差し出して来たミチルのその手を七郎が強く掴んだ。



「あいたたたっ!?」

『あ、こら七郎君。駄目だって。』

「あぁすみません。シェイクハンドがお好きなのかと思い、つい気合いが。」



 ははは、と爽やかに笑う七郎を横目に見ていた角都が黒凪に向かって放たれたおもちゃの矢を反射的に掴み取る。
 黒凪は己のすぐ前で止められたおもちゃの矢を見ると身体を横に傾けて角都の手の向こう側に目を向けた。
 そのおじさんが居なかったら死んでたんじゃない。そんな声が掛けられ、荷台車から1人の少年が降りてくる。



「パパ大丈夫なのその人達。強そうだけど隊長が女だし、子供だしさ。…矢にも反応出来て無かったし。」

『(…あ、子供居るって確か資料に書いてあったな)』

「これは僕の息子のヒカルだよ。今はわんぱく盛りだから許してあげてね」

『許すも何も怒ってませんよ。…よろしくお願いします、ヒカル君』



 ヒカルの挑発等何とも思っていない様な反応の黒凪に彼はむっと眉を寄せた。
 そんなヒカルから目を逸らし「それじゃあ出発しましょう」とミチルに声を掛ける。
 そうだね、と笑って荷台車に戻って行ったミチルはヒカルが乗り込んだ事を確認すると指示を出し荷台車を出発させた。
 今回の任務は南海の彼方にある"みかづき島"という常夏の島にある月の国へ王子達を送り届ける事。
 何故彼等王子が国から離れていたのかと言うと、諸国漫遊の旅に出ていたからだと言う。
 この長く続く荷台車は全てその旅の際に気に入って買い取ったものらしい。



『…角都、お金がある人を目の前にしてどうですか?どうぞ。』

≪何とも思わん≫

≪…数名岩肌に潜んでいるな…。≫

≪あ、本当ですか?ちょっと待ってくださいね。…えーっと、1、2、3…7人です。手分けして早めに叩きましょうか。どうぞ。≫

『はーい。』



 とても量の多い荷台車を警護している為、各々距離が離れている。
 その為無線機を使ってでの会話となっており、今の会話を皮切りに各々が動き出した。
 岩肌に隠れている賊を角都と七郎が、反対側から襲い掛かって来た賊はイタチと黒凪が対処する。
 荷台車の中に乗っているミチルとヒカルはぎゃああ、と微かに聞こえてくる賊の断末魔を聞き流しながら欠伸をしたりゲームをしたりしていた。



『こっちは片付いたよ。怪我ある人居る?どうぞ。』

≪僕と角都さんは大丈夫です。イタチさん無事ですか?どうぞ。≫

≪こっちも無事だ。ありがとう。≫



 随分とローテンションな会話が、無線を通して繰り広げられた。


 
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