世界を君は救えるか×NARUTO

□世界を君は救えるか
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  NARUTO疾風伝


「どうする、俺等も行こうか?」

『いや、私1人で行く。…あ、鋼夜も留守番ね』

【チッ】



 ずるりと陰から抜け出した鋼夜。
 その様子を見ていた閃は結界を足場に里の端へ向かい始めた黒凪の背中を見送った。
 里の領地から抜けた瞬間、草木の中に目立つ黒いコートを見つける。
 黒凪の気配に気付いたイタチが振り返った。



『どしたの、里に戻って来るなんて』

「…間一族にもサスケの暗殺命令が入ったと聞いたもので」

『あぁ、それで心配して来たのね。…暁の方は?抜けて来て大丈夫?』

「ええ」



 暁のコートで顔を半分隠すようにして言ったイタチに眉を下げ、結界から降りて地面に降り立つ。
 三代目火影様が死んじゃったからねぇ。
 目を逸らして言った黒凪にイタチも少し目を伏せた。



『まあ一応受理した形だけど殺しはしないよ。安心して。』

「…安心しました」

『それより、木ノ葉崩しの後に里に来たらしいね』



 その所為でサスケが里を抜けたんだったかな?
 片眉を上げて言った彼女にイタチは何も返さない。



『随分と危ない橋を渡らせるものだよ、私がいち早く扇一族に声をかけてなければ死んでた。』

「…その節は世話になりました。俺の考えをある程度把握した上での判断にも、感謝しています」

『自分を殺させて英雄にでも仕立て上げるつもり?』



 イタチは続けて言った彼女の言葉にも何も返さなかった。
 そんなイタチに黒凪は目を伏せ、ため息交じりに言う。



『何処の世界にも犠牲になる人間はいるもんだねぇ』

「…では、俺はそろそろここを離れます」

『待ちなよ。』



 去ろうとしたイタチを止めた途端にチラリと向いた写輪眼にぶわ、と黒凪の身体が一瞬で絶界に囲まれた。
 その様子にイタチが目を逸らし絶界が解かれる。
 咄嗟に絶界を発動した自分を自嘲する様に黒凪は薄笑いを浮かべた。



『あー…ごめん。拒絶し切れる自信がないもの、ちょっと怖くて。』

「……。1つ頼みがあります」

『うん?』

「…俺がサスケに殺されたあかつきには、サスケを力づくで里に連れ戻して戴けませんか。」



 俺を殺せる程になったのなら里の後ろ盾が無くとも生きては行けるでしょう。
 ただ…。
 そこで言葉を止めたイタチにゆっくりと近付いて行く。
 そして背伸びをして彼の襟元を掴みぐっと顔を近付けさせた。
 赤く染まった写輪眼が黒凪を見る。



『頼まれごとはいいけど、あんたからまだ大事なこと聞いてないよ。』

「…」

『私はね、君も知っている通りあの夜のことをすべて把握してる』



 でもまだ分からない事があるのよ。
 そういった途端に一瞬イタチの写輪眼が揺れた様に見えた。
 相反する意見を持ったあんたの父親は、サスケにあんたへの復讐を望んでいるのか。
 君はサスケや家族の事を心の底ではどう思っているのか…。



『それを教えてもらえない限りは君の為には動けないよ。』

「…父が考えたクーデターは里、そしてうちはの両方を尊重した故の苦渋の策だった」

『……』

「里とうちはが衝突して無駄な血を流すより、うちはが里の上層部を無傷で捕縛し革命を起こす…。」



 それ程の策を考えなければならぬほど、里とうちはの因縁は深いものでした。
 ゆっくりと、噛み締める様に言うイタチの言葉をただ黙って聞いている。
 しかし俺の考えはどうしても父とは交わることはなかった。
 …俺は里の意向通り一旦うちはをリセットして、うちはの全てをサスケに託すつもりでいたんです。



「だから父を、…家族を。一族全員を、殺しに行きました」

『…』

「…父はそんな俺の意志を尊重し抵抗せずに死んでいきました。母も同じです。」



 だから父は、サスケに俺への復讐を望んではいないはずです。
 真っ直ぐと黒凪を見て言ったイタチに小さく笑みを見せて「うん」と頷いた。
 少しの沈黙の後「サスケの事は」と話し始めたイタチにまた小さく頷く。



「幸せになってほしいと思っています。だからこそ俺は、サスケが俺への復讐を終えたのちのことをあなたに頼みたい」

『…私?』



 静かに頷いたイタチに黒凪が少し眉を寄せた。
 俺がこのボロボロになった身体をまだこの世に繋ぎ止めていられるのは貴方や間一族の者達のおかげです。
 …じきにサスケの身体も俺と同じように限界を迎える様になるでしょう。



「だからこそ貴方に…間一族に任せれば安心なのですが」

『…。君がサスケにそう言ってくれるなら来てくれるかもね。』

「勿論、幻術を掛けてでもここに連れてくるつもりです」

『…まったく。間一族は託児所じゃないんだからね。』



 他の里にも、木ノ葉にさえも影響を受けない一族。
 貴方達の一員となれば誰も手出しは出来ない。…たとえそれが、どんな犯罪者であっても。
 貴方達なら十分匿う事が出来る筈です。
 淡々と言ったイタチに「んー、」と後頭部を掻いて眉を寄せる。
 しかし無表情でじっと見つめ続けるイタチを見ると眉を下げた。



『…君にはさ、無茶な事をさせてしまったよね。』

「!」

『私がもう少し早く生まれていて…力も制御できる状態だったら』



 君がやったうちはの暗殺ぐらい全部私がやってあげたのに。
 君が犠牲になる必要なんてなかったのにね。
 そう言って黒凪は先ほど自分に引き寄せて近づいたままだったイタチの頭にぽんと片手を乗せた。



『解った、サスケは任せな。…君が犠牲になった責任は私にもある』

「…その責任は、」

『あるの。…私ならどうにか出来たもん』



 ごめんね。静かに掛けられた言葉にイタチは目を伏せて屈んでいた腰を上げる。
 そうしてふと周りを見渡したイタチに眉を下げたまま口を開いた。



『あんたも絶対助けてあげるから』

「……」



 再び写輪眼が黒凪に向いた。
 絶対だよ。絶対助ける。



「…ありがとうございます」

『…』



 イタチはじっと黒凪の手を見ていた。
 先ほど俺に触れたその手を持つこの人が、俺は初めて会ったときに不気味でならなかった。
 …うちは一族を皆殺しにした、あの夜。



《――!》



 ざ、と聞こえた足音に目を見開いて振り返る。
 …おかしいな、殺し損ねた人間が居たか?
 少し眉を寄せて其方に近付く。
 サスケである筈はない。



《…わ、血だらけだ》

《ひっでー…》

《……》



 3人の子供。…サスケと同じぐらいか。
 見覚えのない3人だったがうちは一族は沢山居る。
 音も無くクナイを構え身を乗り出して放った。
 殺した。…そう思ったのに。



《…下がれ、敵がいる》

《この人達を殺した奴じゃない?》

《………。左側、此処から3軒目》



 遅れて聞こえた声に目を見開いた。
 自分が隠れている建物の位置はあの子供達の会話の通りの場所に位置している。
 クナイも難なく弾かれた。…だが武器を出す瞬間は見えなかった。



《(…何者だ…?)》

《ね、君が殺したの?》



 背後から聞こえた声。
 一瞬で状況を理解したイタチはクナイを振り降ろした。
 するとどうだろう、振り降ろしたクナイが一瞬で灰の様に消えていく。
 目を見開くと背後に立っていた少女の周りに丸い膜の様なものがあるのが分かった。



《っ…!?》

《あ、待って。私達ただの通り掛かった子供。》



 ただの子供がそんな事を言うものか。
 そう言いたげな顔が見えたのだろう、困った様に少女が右上を見る。
 はっと顔を上げると彼女の視線の先に金髪の少年がしゃがんでいるのが見えた。



《…ふーん。結構強い忍だぜ、そいつ。》

《そーなの?》

《うん。つかもう帰った方が良くね?母さんが心配するだろ》

《あー…そろそろ抜け出したのバレるね。》



 帰ろっか。そう言った少女がまた一瞬で姿を消す。
 一瞬の気配に顔を上げると金髪の少年の側にもう1人少年が増えていた。
 その背中に少女が乗っている。
 少女は血まみれのイタチに笑顔を見せた。



《いつでも帰っておいで、うちはイタチ。》

《!》

《歴史的な大虐殺が見れるっていうから来ただけなんだ。手助けできればよかったんだけど、どうも難しくてね》



 どこでこの事を、この任務は極秘の筈だ。
 問い掛けたい事は沢山ある。…だが声が出なくて。
 サスケは里に害が無い限りはちゃんと護るよ。
 もうちょっとで"家"に帰れるから、…そしたら正式に任務として受け取るから。



《(何の話だ、何を言ってる)》

《じゃあね。》



 何も言えぬままに去って行った彼等にただただ立ち竦む。
 その様子を感じ取っていた閃は距離が離れると興味を無くした様に前を進む限に目を向けた。
 "今"、彼等の帰る場所はこの世界で3人を生んだ両親の元だ。
 …だが3人は知っている。自分達が本当に帰るべき場所を。
 うちはの領地を抜けて家に向かう途中に大きな門を構える巨大な屋敷が1つある。
 その門には大きく"間"と記されていた。



《早く皆に会いたいなぁ》

《実際の所、本当に俺達の他に皆居るのか分かんねーけどな》

《居るよ、きっと。…だから早く殺そう》



 アカデミーの卒業までに。
 闇夜に響いた黒凪の声に2人が静かに頷いた。
 私達をこの世に生んでくれたあの人達を。父と母を。
 殺してしまおう――。




 そうして出会う、


 (この世界に生んでくれた両親さあ、)
 (うん)
 (私達の本当の名前を知らないんだ。…力だって知らない。)
 (うん、)

 (そして言うんだよ)
 (妙に大人びた私達に"気味が悪い"って。)


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