世界を君は救えるか×NARUTO
□世界を君は救えるか
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暗部編
【おい頭領】
「ん?」
開かれた襖に正守が目を向ける。
彼は今しがた目を通していた資料を机に置き、ずかずかと中に入って来た火黒に向き直る。
既に九尾の事件が起きてから4年と言う月日が流れていた。
火黒は相変わらず暗部としてこの里の裏側でカカシと共に暗躍し続けている。
しかし四代目火影が居なくなったことで此方も色々と状況が変わった。
彼が此処に赴いたのもその事についてだろう。
「…その顔は、やっぱりそうだった?」
【あァ。三代目の奴、ありゃ俺を信用してねェな。】
「だろうね…。今もカカシさんを中心に裏でゴタゴタが起きてるらしいし。」
【らしいな。俺はなんも知らされてねェから知らねえけど。】
座っている正守の前に雑に胡坐をかいてそう言った火黒は「俺はカカシと違って根にも誘われなかったしよォ」と付け足す様に言って欠伸を漏らす。
火黒を里の暗部に組み込む為にと時守がミナトの班に組み込み、そのもくろみ通り彼が暗部に入ったまでは良かった。
その後は火黒とカカシを四代目が暗部として積極的に起用し、間一族にも里の裏側の情報が流れていたのだ。
しかしその四代目が死亡し、里の暗部を三代目が、そして過激派の暗部である根をダンゾウが扱っている現在、間一族を信用し切れない両者は火黒をあまり起用しなくなった。
「(三代目は本当は火黒を排除したいだろうが、恐らくカカシさんの計らいで存続しているだけ…)」
「頭領、火黒は来ていますか」
「ん、ああ。居るよ。」
「失礼します。」
襖を開いて入って来たのは刃鳥。彼女は胡坐を掻く火黒を見ると「ろ班から呼び出しよ」と文を差し出した。
"ろ班"とはカカシの率いる暗部の名前だ。火黒はその班に副隊長として参加していた。
恐らくこの待遇も隊長であるカカシの計らいだろう。
彼は火黒の一種の"危うさ"に気付いている節があり、何かと火黒の側に居たがっている様に思う。
「(ま、同期2人の死が根本に関係してるんだろうけど。)」
「呼び出しは今から?」
【あァ。新米が入って来るんだとよ。】
「へえ、仲良くね。」
笑って言った正守に「へいへい」と生返事をして出て行った。
そしてそんな火黒を見送った正守は「何か対策を立てないとな…」と呟いて目を伏せる。
刃鳥もその言葉に頷き、机に置かれた資料に目を向けた。
そこにある資料はどれも現在夜行に居る異能者や妖のものだった。
「また新しく此方の人間を里に売り込むつもりですか?」
「ん、いや…、それも考えたけど現実的に無理っぽくてね。なんたって俺と三代目とのパイプが0に等しいからさ。」
「…。三代目火影様は我々間一族を毛嫌いしてらっしゃるのでしょうか。」
「いや、そうでもないよ。ただ仲間として信用出来るだけのものがないだけ。実績としては申し分ないけど。…ま、立場的には暗部の根と同じ様なものだよ。」
根なんかよりは大分マシだと思うけどね。開祖が居るから。
そう言って笑った正守が火黒が出て行った時に閉められる事の無かった襖の外側を見上げる。
もうあれから4年も経ってしまったのだな、と改めて思う。
かつては自分も里の長と親しくしていただなんて、夢だったのではないかとすら思う。
今ではもはや里の人間には関わる事は勿論、姿を見せる事さえ止めてしまった。
「…時間が経つのは早いね。」
「…。そうですね。」
火黒が街を歩いて行く。
彼は間一族でありながら里の人間に姿形を認識されている唯一の人物だ。
かつての大戦に参加し、その影響で大きな火傷を負った。
猫背のままで歩く火黒の目がちらりと町中に立つ建物に目を向ける。
中では父親と母親らしき人物と会話をする3人の子供が見えた。
【……。】
まず最初に見えたのは光に反射した白髪。そして金髪、黒髪。
その顔は自分がよく知る人物そのもので。
特に白髪の少女など、柄にもなく待ち望んでいた存在で。
その姿を一瞬の内に目に焼き付け、ふいと顔を逸らして歩いて行く。
「…ぁ、あの。本日より根から此方に配属になった甲です。よろしくお願いします。」
「よう、テンゾウ。」
「!…テンゾウ?」
「甲は根でのコードネームだろ?こっちではテンゾウを名乗ったら良い。」
知り合いですか、隊長。
そう問うた部下に「あぁ。色々あってな」と返答を返したカカシはテンゾウに笑顔を向けた。
テンゾウはその様子に眉を下げると「テンゾウです。よろしくお願いします」と改めて頭を下げる。
その様子に頷いたカカシは「実力は俺が保証する。」と笑顔で言って目の前に歩いてきたテンゾウに目を向けた。
「テンゾウ、お前の配属は俺が隊長をしてる"ろ班"だ。副隊長もいるんだが…」
【そいつが新人か?】
「お、来たな。あいつが副隊長だ。」
「…!」
振り返ったテンゾウが目を見張る。その反応は新人の恒例となっていた。
その様子に「最初は皆驚くよ。…でも慣れてやってくれな。」そう笑ってカカシが火黒に目を向ける。
「名前は火黒。ぶっきらぼうだが実力は確かだ。仲良くしてくれ。」
「はい。…テンゾウです、よろしくお願いします。」
【……】
「おい火黒。返事してやれ。」
【あ?…あぁ、…ま、気楽にやれば良いんじゃねえの】
そう言って背を向けて歩いて行く。
その背中を見てヤマトが目を伏せた。
彼の噂は聞いたことがある。かつての大戦で重要地とされていた神無毘橋を落とした班の1人だ。
ただ彼が有名になったのはそれだけではない。
彼は"あの"間一族の人間なのだ。
そしてその間一族の不気味な噂と比例する様に、死んでも可笑しくない様な火傷を負いながら今も何食わぬ顔で忍として働いている。
「(あの人が、間一族の火黒)」
【―――。…あ、頭領かァ?】
≪何かあった?態々電話までしてくるなんて。≫
【新しく班に加わった新人さァ、テンゾウってんだけど。】
テンゾウ?…あぁ、大蛇丸の実験台の生き残りで木遁使いの?
そう言った正守に「やっぱそうだよなァ」と火黒が返答を返す。
見た事ある顔だった?と言う問いかけにも肯定した火黒に「じゃあ間違いないね」と正守が言う。
≪カカシさんが最近関わってたゴタゴタの根本だよ、その彼。≫
【へえ】
≪あれ、興味なさそうだね。それで電話して来たんじゃないの?≫
【別に?ただ俺等の監視対象だろ?テンゾウってさァ】
そうだね。ついでに監視も頼むよ。
笑って言った正守に「わぁったよ」と気だるげに返答を返して携帯を閉じる。
通話の切れた火黒に小さく笑った正守が今しがた翡葉から渡された写真に目を向けた。
着々と成長している黒凪達の姿に目を細める。
「(火黒も随分とこの一族に貢献している…ってよりは、黒凪に貢献してる、の方が正しいか。)」
これで万が一戻って来なかったら色々とやばいなぁ、と思う。
しかし彼女の場合はまた特殊だった。
そもそもの生まれが間一族では無い。それはつまり。
今の家族を捨てると言う事だ。添付された彼等の両親の写真にも目を向けた。
「(…黒凪、)」
君の破天荒さがそろそろ懐かしくなってきたよ。
そう思い浮かべて写真を仕舞い込む。
彼女を必要としている人間はこの間一族には沢山居る。
どうにか保たれてはいるが、やはり彼女に従わんとしているものが沢山居るのは事実だ。
鋼夜や火黒がその筆頭で、彼等は黒凪の為だと称したものにのみ従っている。
「…俺1人じゃ限界があるんだよな…」
つくづく彼女のカリスマ性が羨ましい。
彼女が居なければそろそろ間一族は機能しなくなってくる。
長としてまとめている時守でさえ、彼女には勝てないのだから。
そんな事を考えていた矢先に「頭領!」と己を呼ぶ声とドタドタと足音が聞こえてくる。
ん?と襖を見ていると勢いよく開かれ、染木が姿を見せた。
「どうした?そんなに焦って…」
「っ、…いと、」
「え?」
「…絲が見つかりました…!」
息を切らせて言った染木にガタッと立ち上がった。
そして恥ずかしそうに顔を見せたツインテールの少女に安堵した様に息を吐いて笑顔を見せる。
そんな正守に驚いた様な顔をした絲は小さく笑顔を見せて口を開いた。
「解呪、ですよね」
小さな声でそう言った絲に正守が「あぁ」と頷いた。
彼女は噛み締める様にその返答を聞くと小さく頷き、嬉しそうな染木と共に救護室の入院棟へ走って行く。
その背中を見送って改めて安堵したように息を吐いた。
絲が夜行に戻り、テンゾウが暗部に加入してから、また2年が経った。
これまでに"ろ班"は何度か死亡や移転などで中の人間が変わって来たが、変わらず隊長はカカシ、副隊長は火黒のまま。
2年前と変わった事と言えば、実力や人格共に優れたテンゾウが主に後輩の教育や命令の伝達役になった事だろうか。
「――…火黒、はたけカカシが来てる」
【あ?】
「5分後に第三演習所に行くらしい。大方此方に連絡を飛ばしても反応が悪いから呼びに来たんだろう。」
【チッ、わぁったよ】
のそりと立ち上がり玄関に向かった。
そうして扉を開いた先には暗部の服装のカカシが居る。
よう。と掛けられた声に「あぁ」と返答を返して屋敷の扉を潜った。
「新人が入って来たんだ。今日はその実力を確認する。」
【チッ、また新人かよ…。】
「あぁ。しかも若い。11歳だそうだ」
【はァ?んなのゴメンだ。どうせ要領も分からずに飛び込んできて死ぬんだろ。】
実力はあるらしい。…殺すなよ。
カカシのその言葉にニヤリと笑う。
邪魔なら斬るかもなァ。火黒のその返答にカカシがため息を吐いた。
ま、簡単に殺されはしないだろう。変に平和ボケしている様な人間はまず暗部には来ない。
それにダンゾウ様の推薦で来た人間だ…。火黒が殺したくなるような奴ではないだろう。
【…あれか?】
「ん、…あぁ。」
【ふーん。悪くねェな。…馬鹿共は分かってねェケド。】
暗部の服装で歩く少年にクナイや手裏剣を投げる部下達にカカシがため息を吐くと火黒がクナイを投げた。
そのクナイは少年に向かっていた武器を全て正確に落とし、続けて重く冷たい殺気を落とす。
少年は機敏に察知し振り返り、暗部の部下達が一斉に立ち上がった。
「ふ、副隊長」
【下らねェ事すんなよ、ダッセェなァ】
「…申し訳ありません」
「彼の配属は上の決定だ。文句は通らないぞ。」
続けて放たれたカカシの言葉に「いえ、そういうわけでは、」と歯切れ悪く部下が答える。
そんなカカシと火黒の後ろに立つテンゾウは火黒をちらりと見上げて目を伏せた。
相変わらずの雰囲気だ。実力と人格で束ねるのはカカシ、恐怖や圧倒的な力でねじ伏せるのが火黒。
あーあ、新人の子も警戒しまくってる。そう考えてテンゾウが静かにため息を吐く。
その後、張り詰めた空気の中で新人の技能が試されたわけだが、やはり11歳と言う若さで入った事はあるらしく、随分と優秀な様だった。
「彼、ダンゾウ様の推薦でしたっけ。」
「あぁ。」
「へえ…、…妙だな、彼はダンゾウ様が気に入る様には思えないんですが」
「どういう事だ?」
ダンゾウ様の中で暗部と根とでは要員に独自の基準があるそうで。
らしくないってかァ?そう問いかけた火黒に「僕からは何とも。」とテンゾウが答えた。
そんなテンゾウに「へえ」と一言で応えて火黒が欠伸を漏らす。
「(…この人、カカシ先輩以外を仲間だなんて思っていないんだろうな。…いや、それも違うか。)」
単純に興味が無いんだろう。僕等に。
その底知れぬ冷たさに、これが間一族なのかと思う。
だからこそダンゾウ様はこの人を根には誘わないんだ。
「(きっとこの人は、ダンゾウ様の顔すらも覚えていないに違いない)」
上司を上司とも思わないこの人を、仲間を仲間とも認識しないこの人を。
…信用するなんて、僕には出来ない。
カカシ先輩ぐらいだ。この人の事を仲間だと思っているのは。
そう考えて、軽蔑の意を心に浮かべる。
――僕はこの人が苦手だ。