世界を君は救えるか×NARUTO

□世界を君は救えるか
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  暗部


「頭領、当主から連絡です。お時間大丈夫でしょうか。」

「ん、大丈夫。入っていいよ。」

「失礼します。」



 イタチが暗部に加入してまた2年が経った。
 この2年間の間で火黒以外の間一族は全くと言って良い程表舞台に出ていない。
 代わりに裏側では時守を筆頭に里の為にと動き回っており、諜報を担当している翡葉が主に動き回っていた。



「うちはシスイが自殺しました。両目の写輪眼はどちらも抜き取られた状態で。」

「…。そうか。死んだ理由は?」

「判明しています。…うちはシスイは両目に万華鏡写輪眼を宿し、別天神と言う能力を有していた。それはご存知ですよね?」

「ああ。その能力を明かしているのは三代目火影と親友のうちはイタチ。…そして開祖だけだって事もね。」



 うちはシスイはヒルゼンやダンゾウと違って間時守と言う人間を深く信用していた。
 その理由は彼曰く"間時守は感情で動かないから"であると言う。
 シスイは間一族の根底に気付いていたのだ。
 我々間一族は身内を護る為、失わぬ為だけに動いている事を。…そして、



「(火の国の木ノ葉の里と言うこの巨大な器を容易に手放すつもりはないと言う事も。)」



 間一族は決して火の国を裏切らない。此方が彼等を見限らぬ限りは。
 だからこそシスイは隠す事は返って危険であると理解し、己の能力、うちはの状況など全てを時守に流していた。
 ――別天神の事を志村ダンゾウにも伝えた事が原因であると思われます。
 翡葉の言葉に伏せていた視線を上げる。



「志村ダンゾウはうちはを信用していない。あの男は里の事ばかりを考えていますから。」

「…成程ね。大方その能力に危機感を持ったダンゾウがシスイの目を奪ったわけだ?」

「ええ。…しかしうちはシスイは両目を奪われる程弱くはありません。片目は奪われたそうですが、もう片方はうちはイタチの元に渡ったそうです。」

「……。」



 恐らくこれで一旦はうちはの勢いも落ち、うちはが密かに企てているというクーデターの話も沈むだろう。
 しかしこれだけで止まる様な一族では無いだろう、と言うのがダンゾウや時守の考えだ。
 我々としては里を脅かす存在は邪魔でしかない。うちはに里を乗っ取られては困るのだ。



「…その内殺す事になるかもね。」

「うちはを、ですか」

「うん。…開祖なら…いや、」



 黒凪ならやるよ。
 真っ直ぐと前方を睨むような表情で言った正守に「そうですね」と目を伏せて翡葉が口を開く。
 貴方でもやるでしょう。頭領。
 続けて放たれた言葉にちらりと正守が翡葉に目を向ける。



「…ああ。違いない。」



 間時守はこの屋敷に住んでいる妻である月影を失いたくない筈だし、正守自身も夜行の部下達を失いたくない。
 墨村の家族も、雪村の家族も。…間一族の人間は誰一人として。
 その為に非情になれる様にと里との関わりを一切絶ち、能力についても多くを語らず、そして圧倒的な力を蓄えてきた。



「――誰にも手出しはさせない。それが俺達間一族の理念だ。」

「…はい。」






























 それから数か月後。
 三代目火影の元へ呼び出されたカカシは先に火影室の中で立っていた火黒に驚いた様に足を止めた。
 カカシの気配に気付きながらも火黒は興味が無いように振り返る事はしない。カカシは驚いた表情のままで中に入り込んだ。
 三代目火影であるヒルゼンがミナトと違って火黒を信用しきれていない事は分かっていた。
 だからこそ、彼が火黒1人を呼んでいた事に驚いたのだ。



「火影様、お呼びですか。」

「うむ。…カカシよ、現在木ノ葉の里を護るのは里を囲う結界システムと扇一族の風であると言う事は知っておるな?」

「はい。確か、無断で侵入した人間を探知するって言う…」

「そうじゃ。…ところが近頃、その結界システムを何者かが擦り抜け里に侵入を繰り返している様なのじゃ。」



 その話を聞いて何故火黒が居るのか納得出来た。
 大方、守護に携わっている扇一族の当主も間一族の当主も現れる見込みがない為、唯一のパイプである火黒を呼んだのだ。
 現に結界システムを担当する忍は火影室の中に立っている。



「特に多く侵入されている場所などは?」

「…うちは地区の周辺じゃ。」

「!…成程。」

「…。侵入方法についてお主はどう思う、火黒」



 ヒルゼンの言葉に気だるげに「あー…、」と声を発して火黒が話し始める。
 九尾の事件があった時、九尾が出現する寸前でうちの人間が侵入者を感知してた。
 火黒の言葉に付け足す様に「その侵入の形跡は今回のものとよく似ているのです」と結界システムの責任者が言う。
 その言葉に「まさか、」とカカシが眉を寄せた。



「うむ。儂はこの情報から今回の事は裏切り者の仕業などではなく、結界を通り抜けられる人間が外部に居ると言う事じゃと思うとる。…しかも里に何やら恨みを持つ者がな。」

「……、火黒。」

【あ?】

「お前達間一族はこれまでその侵入者について気付かなかったのか?」



 気付いていたんだがね、人手が足りないもので。
 その声にカカシが目を見開いて振り返る。
 扉を擦り抜ける様にして火影室に入って来た人物にヒルゼンが微かに目を見開いた。



「…時守殿」

「侵入者に気付いてはいたんだ。だが今はうちはとのゴタゴタで此方も忙しくてね。」

「……。」

「ああ、何も見てみぬふりをしていたわけじゃないよ。侵入される度に火黒を向かわせていた。」



 カカシが驚いた様に火黒に目を向ける。
 最近君の"ろ班"にあまり火黒は来なかっただろう?
 確かに最近は火黒は暗部の任務に参加していなかった。



「火黒はずっと侵入者を追い払う役目を全うしておった。こやつならうちは地区にも気づかれず入る事が出来たからのう。」

【…。】

「(…火黒…?)」



 この2年の間にどことなく火黒と疎遠になっていた気はしていた。
 しかしいつの間にかヒルゼンの信頼を受け、彼の任務に従っていたとは。
 恐らく間一族の当主である時守様の手引きなのだろうが、それにしたって…。



「とにかくカカシ、お主にはこの件について調べて貰いたいのじゃ。…頼んだぞ。」

「…分かりました。」



 頭を下げて出て行ったカカシを見送り、時守も火黒を引き連れて火影室を後にした。
 里の中を進み、間一族の領地に入った所で暫く無言だった中で時守が口を開く。



「黒凪に会って来た」

【…で?】

「私が現れて驚いていたよ。…そして間一族に戻って来ると言っていた。」

【……】



 何も言わない火黒をちらりと見て「だがこの世界についてあの子達は何も知らない」そう続けて足を止めた。
 だからあの子達に見せる事にしたんだ。この世界の闇を。
 ――…今夜、うちは一族はうちはイタチによって抹殺される。



「その様を見たら必ずあの子は戻って来る。」

【…。】

「…まあ、気長に待っていると良い。」



 そう言って姿を消した時守に、やはり何も言わずに火黒が歩き出す。
 その背後にイタチが音も無く現れた。
 何も言わずに振り返れば、彼は間一族の領地ギリギリに立っているのが分かる。



「…火黒さん、少しお時間良いですか」

【……お前誰だっけ?】

「暗部でお世話になったイタチです。」

【……面倒くせェ。帰れ。】



 では一言だけ。
 そう言って一旦口を閉ざしたイタチに火黒が目を向ける。
 貴方は結局、誰の為に動いているのですか。
 その問いに火黒がにやりと笑って言った。



【お前に言う事じゃねェよ】

「…そうですか。」



 失礼します。そう言って去ろうとしたイタチの手首を小さな手が掴んだ。
 動きを止めたイタチが振り返り、間一族の領地の中から手を伸ばす少年に微かに目を見張る。
 そして少年はイタチをその場に留めると振り返り火黒の名を呼んだ。



「火黒!」

【あ?】

「この人、お前に話聞いてほしいんだよ!」

【……だからなんだよ。】



 聞いてやれよ!強い口調で言った少年に火黒が嫌そうな顔をする。
 そんな火黒の表情を初めて見たイタチは少しだけ目を見張り、そして少年に目を向けた。
 …年齢的にはサスケと同じぐらいだろうか。そう思う。
 すると少年の首根っこを掴んで持ち上げた火黒がじと、と少年の顔を覗き込んだ。



【んな所で何してんだよ。良守クン】

「う、うるせえ!こっそり抜け出そうとかじゃねーからな!断じて!」

【はーん、抜け出そうとしてたわけね。】

「違うって!!」



 オラオラ帰るぞー。そう言って歩いて行く火黒に「あ゙ー!」と叫んで良守がイタチに向かって口を開く。
 あんた何に悩んでんのか知らねーけどさ!
 そう言った良守に火黒を見ていたイタチの視線が動いた。



「誰の為にって、自分にとって1番大事な奴の為で良いと思う!あんたにはいねーの!?好きな奴とか、弟とか兄貴とか!」

「……、」

【あーあー、うるっせェなぁマジで…】

「火黒さん、…お世話になりました。」



 そう言って頭を下げてイタチが去っていった。
 去っていく様子を横目に見ていた火黒が前方に目を戻して歩いて行く。
 そしてこの日、うちはイタチによってうちは一族が滅ぼされた。…うちはサスケを残して。






























「――…三代目。」

「…時守殿。来て頂き感謝します。」

「いやいや、なんたってイタチ君が呼んでいるんだろう?そりゃあ来るさ。」

「…ありがとうございます」



 ヒルゼンと時守の目が影に潜む様に立つイタチへ向けられる。
 つい数日前にうちは一族は滅ぼされた。…彼の手によって。
 ヒルゼンが徐に口を開いた。まずは礼を言う、と。



「お主のおかげで木ノ葉の内乱は未然に防ぐことが出来た。里は救われたのだ。」

「…はい」

「しかし他に手立てはなかったものかのう…」

「何だったら我々間一族が手を染めたのに。…いや、我々がやっていれば君の弟諸共殺してしまっていたかな。」



 時守の言葉にイタチとヒルゼンが目を伏せる。
 これからどうするつもりだい?そう問うた時守に「暁と言う組織の手を借りました」とイタチが答えた。
 "暁"とはS級犯罪組織として名高い者達の事だ。



「…暁におるのだな、木ノ葉へ侵入を繰り返していた者は。」

「はい。里に手出しをさせない事を約束している為、違えない為に側に身を置きます。」

「そうか…」

「…全て、サスケを護る為です。…三代目、時守様。サスケに手を出さない事をお二人にも確約願います。」



 サスケにはこの里の子供達と同じ様に接していく。
 やがてあの子も立派な里の忍となるであろう。
 …しかしお主への憎しみまでは取り除く事は出来ぬぞ。
 そう言ったヒルゼンに「覚悟の上です」とイタチが無表情に答えた。



「…もう行け。里の結界の術式は依然と変わらぬ様にしておく。」

「扇一族にも伝えておくよ、君の事は。」

「……」

「大丈夫。我々は隔離されているからね、君の情報は洩れない。」



 …いつでも戻って来ると良い。サスケが心配ならば。
 そう言ったヒルゼンに「ありがとうございます」とイタチが深く頭を下げた。
 そして顔を上げると「時守様、あともう1つだけ」そう言って目を細めた彼に時守もその内容を察したのだろう、ヒルゼンの側から離れてイタチの元へ歩いて行く。



「…あの日、うちは地区で3人の子供を見かけました。」

「中に白髪の女の子が居ただろう」

「はい」

「あの子は私の娘でね。君の様子を見に行く様に言ったんだ。」



 どう感じた?そう問うた時守に「不思議な存在だと思いました」と素直にイタチが答えた。
 その言葉に小さく笑った時守はイタチに1枚の式神を手渡し、声を小さくして言う。



「これからはあの子が間一族を動かしていく。…きっと君の助けになる筈だ。」

「…俺の、助けに」

「ああ。信じられないなら数年後に会いに行くと良い。きっと私の言葉の意味が分かる筈だ。」

「…分かりました。」



 時守がイタチから離れ、歩いて行く。
 一瞬で姿を消したイタチにヒルゼンが目を伏せた。
 これで良かったのでしょうか。そう言ったヒルゼンに時守が少しだけ笑って口を開く。



「私に聞いてはいけないよ、そんな事。」

「…、」

「でもそうだなあ、君が後悔しているのならこれは良い選択では無かったのかもしれない。でもね、」



 私達が間違った所で後の世代が軌道修正してくれれば良い話だ。
 ヒルゼンが時守に目を向ける。
 私は過去に娘に正して貰った事があるからね、きっと大丈夫だと保障しよう。
 …君の間違いも、きっと君が育てた次の世代がどうにかしてくれるさ。
 これは慰めと取ってよいのだろうか、とヒルゼンが眉を下げる。
 新しい世代を育てる、か――。


 
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