世界を君は救えるか×NARUTO

□世界を君は救えるか
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  暗部


「――カカシ、火黒。」

「はい」

【……】

「お主等は暗部に入って何年になる?」



 四代目の時からですから、かれこれ10年程かと。
 カカシが答え、火黒は欠伸を漏らす。
 そんな火黒に近付いて彼の頭にヒルゼンが手を乗せた。



「全くお前は、あの頃から何にも変わらぬのう」

【オイオイ、俺があんたの命令に従う様になっていい気になってんのかァ?】

「その減らず口も相変わらずじゃのう。…しかしそうか、お前も10年か…」



 離れた手を睨んで火黒が息を吐く。
 随分と長く縛り付けてしまったのう。そう言ってヒルゼンが眉を下げる。
 カカシ、お主を暗部に入れたのはお主の中に在る闇が少しでも晴れれば良いと、そうミナトが思ったからじゃ。
 そう言ったヒルゼンに「そんな気はしていました」とカカシが小さく頷く。



「火黒、お主は単に危なっかしいからじゃがな」

【へえ。】

「後はカカシの友として。」

【…あ?友ォ?】



 怪訝な顔をした火黒に「お主等はずっと昔から友ではないか」とヒルゼンが笑う。
 カカシは否定も肯定もしない。火黒も何も言わなかった。
 じゃが儂の元におるからと言ってお主の闇が晴れるでもない。
 カカシを見て言ったヒルゼンは「随分とお主等に頼ってしまった。これを持って暗部の任を解く」と言い、2人の仮面を受け取った。



【…】

《もう戦時中じゃないし、そろそろカカシさんも長いから暗部の任を解かれるかもね。》



 つい数日前にそう言っていた正守の言葉が過る。
 その場合はどうすれば良い、と問えば「カカシさんと一緒に引退しても良いよ。」との事。
 やっと面倒な任務から離れられる、と火黒が息を吐いた。
 しかし次に放たれた言葉は。



「お主等には担当上忍をやってもらう。」

「は?」

【あ?】



 カカシと火黒の素っ頓狂な声が重なる。
 そして顔を見合わせ、互いに嫌な顔をした。



「(俺が担当上忍?…と言うか、火黒が…?)」

【(おいおい、なんで更に面倒なの任されてんだよ…)】



 火黒に心配のまなざしを向けるカカシ、項垂れる火黒。
 そんな2人にヒルゼンがニコニコと笑う。
 この2人にも新しい風が吹こうとしていた。






























「…おっ!?おーい、火黒ー!」

【あ?】

「一緒にどうだ!?団子!!」

【要らね。つかお前誰だよ。】

「俺はガイだー!」



 あっそ。そう言って歩いて行く火黒に「ぐぬぬ…」と歯を食いしばってドカッと椅子に座る。
 その様子を見ていた紅が「彼、ほんと変わらないわね」と茶を啜った。
 その隣に座っているアスマも「そうだなあ…」と団子を頬張り、茶を飲む。



「ずーっと退屈そうな顔して。」

「…ああ、確かにあいつはなあ…」

「いつまで経っても俺の名前を忘れているしな!ったく…」

「多分私達の事も分かってないわよ。…興味がないんでしょうね。」



 目を伏せて言った紅にアスマも小さく頷き、「まだオビトやリンが居た時はマシだった様に思うが…」と呟いた。
 アスマの言葉に確かに、と目を見開いた紅が再び歩いて行く火黒の背中を見る。



「…そっか。彼、カカシとは話すもんね…」

「なんだかんだ一緒に死線を潜り抜けた仲間はちゃんと仲間なんだよ。」

「うぬう…、ならば俺とも青春を――…、お?カカシじゃないか!カカシー!」

「?」



 一緒に団子を食わないか!?
 火黒と同じ様な切り口で言ったガイに苦笑いを溢してアスマがカカシを見る。
 カカシに至っては冷たい目をガイに向けて歩いて行ってしまった。



「…あいつの方が愛想ねぇな…」

「…、まるで暗部に居た頃の様な目だ…」

「この間も3人全員アカデミーに送り返したそうね。これで2回目よ?」

「いや、気にするべきはそこじゃない。カカシの心の闇の方だ。」



 暗部を離れれば治るもんだと思っていたんだがな…。
 そう言ったガイに「カカシの闇が分かるのはある意味火黒だけかもしれねえな」とアスマが答える様に言った。
 だからこそ、あいつ等の仲はずっと変わらねえのさ。
 そんなアスマが言葉を止め、ガイの背後に立つヒルゼンを見上げる。
 隣に座っている紅も顔を上げ、唖然と呟く様に言った。



「…え、三代目?」

「三代目?…うおぉ三代目!?」

「良い良い、座れ。儂も一杯貰おうと思っての。」



 そう言ってヒルゼンがガイの隣に座り、茶を貰って喉に流し込んだ。
 そしてガイ達に先程の話を聞くと「そうお主等が思い詰めるでない」と穏やかな口調で応える。
 でも、と食い下がったアスマにヒルゼンが湯呑をゆっくりと机に戻し、口を開いた。



「師弟とは互いに高め合うものじゃ。お主等や儂がどうこう言うものでもないわい。…ま、儂も無策と言うわけではないがな。」



 そう言って出された生徒達の資料3枚。
 そこに載っている生徒を見たガイ達は「おお、」と少し目を見張った。
 随分と個性派な生徒が載っている。
 四代目の息子であり人柱力のナルト、うちは一族の生き残りであるサスケ、そしてサクラ。



「この子達なら、きっとカカシを変えてくれるじゃろう。」

「た、確かに…」

「火黒の事も心配は無用じゃ。ずっと断り続けておった担当上忍の役を生徒指名で承諾しよった。」

「ええっ!?あの火黒が担当上忍に!?」



 そうじゃ。…恐らくこの子達があやつがずっと待っておった者達なのだろう。
 そう言って出された資料は3つ子の姉弟達。
 ざっと来年度の卒業生の資料を見せた所、火黒が即決で指名したらしいこの子達は別段飛び抜けた存在にも思えないのだが。



「…ま、何はともあれ良い方向に事が進めばいいがな。」

「そうね…。」

「…きっと進むさ。そう信じるしかあるまい。」

「うむ。」





























「…どんな奴だと思う?先生。」

『私はもう知ってるから何にも気にならないかなぁ。』

「は?知ってんの?」

『うん。…ね、限、閃』



 頷いた2人にシカマルが「へー…」と相槌を打つ。
 ガヤガヤとしている教室の中には新しく下忍となる子達が集められていた。
 早く来ないかなあ、とか、イケメンかなあ、とか。…ま、今日ぐらいは楽しくしても罪はないだろう。
 扉が開き、一気に会話が止まった。



「奈良シカマル、秋道チョウジ、山中イノ。お前達の担当上忍の猿飛アスマだ。早速ミーティングを行う。」

「はい、」

「じゃあねナルト!」

「じゃあね、サスケくーん!」



 きゃーっと走って行く3人を見送って会話する相手を失った黒凪は欠伸を漏らした。
 限と閃は退屈そうにしているし、黒凪は眠る様に机に伏せってしまう。
 ナルトは1人「なんだシカマル達のトコの先生かよ…」と愚痴を漏らした。
 するとまた扉が開き、次に呼ばれたのはキバ、シノ、ヒナタの3人。



「また違うのかってばよ…」

「遅いわね…、ね、黒凪…って寝てるし…」

「…時間通りに来ると思うか?」

「…いや」

「だよな…」



 閃と限は呆れた様にそう会話を交わして眠っている黒凪をちらりと見下した。
 すると扉が開き、「お?」と期待のまなざしを向けたナルトは見えた包帯に言葉を詰まらせる。



【…あ?何、お前等んトコの奴まだ?】

「ま、まだです…」

【ふーん。…黒凪。】

『んえ?』



 顔を上げた黒凪に「もうちっと待っててくんない?」と火黒が声を掛ける。
 ぼーっとした顔で火黒を見た黒凪は「いいよー」と返答を返して再び眠りに落ちる。
 その様子にニヤリと笑って火黒が部屋から出て行った。



「こ、こわ…」

「すんげー火傷だったってば…」

「…火黒より遅いってヤバいな、お前等んトコの担当上忍。」

「え゙、そうなの…?」






























「………。」

【よォ、カカシ。】

「!…火黒…」

【お前んトコのガキが間抜け面で待ってたぜ?】



 …あぁ。と返答を返したカカシが慰霊碑に目を向ける。
 すると徐に火黒が背後に殺気を飛ばした。
 カカシも背後の気配には気付いていたのか「止めてやれ」と声を掛けて振り返る。



「やっぱり気付いてましたか。カカシ先輩。火黒先輩も。」

「テンゾウ…」

「テンゾウは止めてくださいよ。もう先輩は暗部じゃないんだから。」

「じゃあ"先輩"も止めろ。」



 先輩は先輩ですよ。それは今でも変わりません。
 そう言って仮面を外したテンゾウが笑い、火黒に「お久しぶりです」と言って頭を下げた。
 火黒は「んー?」とテンゾウの顔を覗き込む。



「…な、なんですか…?」

【お前カカシの代わりに頑張ってんだってなァ。】

「あ、はい…」

「そう火黒に恐縮するなよ。お前が思ってるような奴じゃないよ、コイツは。」



 じゃ、俺達は行くから。またな。
 そう言ってカカシが火黒と共に歩いて行った。
 その背中を見て「2人共、なんか変わったなぁ…」とテンゾウが呟き、面をかぶる。
 しかし並んで歩く2人の背中は変わらない、そうも思った。






























「…此処か」

【おー。入れ入れ。】



 扉を開いたカカシが落ちてくる黒板消しに瞬時に反応する。
 しかし特に何もするでもなく甘んじて頭に受けた。
 途端にバカ騒ぎをするナルトと言い訳をするサクラ、無言のサスケ。
 閃と限は呆れた様にナルト達を見下し、黒凪は昼寝中。
 見事に三者三様と言った様子だった。



【おーい、黒凪連れてこっち来い。】

「はいはい…」

「黒凪、動かすぞ」

『んー…』



 歩いて行く限達をカカシがちらりと見る。
 彼等を指名して火黒が担当上忍になったのは知っている。
 それに彼等が長い付き合いであるらしい事も。
 去っていく火黒達を見送り、カカシが己の担当する下忍に目を向けた。






























「――これにて演習は終了!第七班は全員合格!…明日からよろしくな、お前等。」

「やったー!」

「フン」

「やったってばよー!」



 喜ぶ声を聞いて火黒がにやりと笑う。
 そんな火黒にずい、と顔を近付けた黒凪も小さく笑った。
 ん?と黒凪に目を向けた火黒はにっこりと笑う彼女の顔を見て笑顔を一瞬だけ固める。



『私が居なかった間の事、沢山聞かせて貰うからね。火黒。』

【…面倒くせェなァ】



 そう言いながらも嫌な顔をしない火黒に笑って彼の手を引いて歩く。
 良い事はあった?こっちの世界に大切な人は出来た?…楽しかった?
 沢山聞きたい事がある。でも何となくは分かってるよ。



 暗部編

 (きっと楽しかったんだね。)
 ("君が居ない世界でどう生きていけば良いんだ?")
 (そんな悲しい問いをしたこの人が、ずっと心配だったんだ。)

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