世界を君は救えるか×NARUTO

□世界を君は救えるか
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  風影奪還


「チ、チヨバア様…?」

「……っ」

『(…あの身体はどんな臭いがする?)』

【(…傀儡の臭いだ。人間の臭いじゃねぇな…)】



 あれがサソリ、なのですか。
 震えたサクラの声を聞きながらチヨバアが唖然と口を開いた。
 どういう事じゃ…。そんなチヨバアの声にサソリがニヤリと笑う。



「…昔のまま、歳をとっておらぬ…」

「どういう…サソリは20年も前に砂隠れを抜けたって…っ」

『傀儡だねえ、その身体。』

「「!」」



 いやあ、30歳ぐらいになってくると身体能力に支障を来してたりするじゃん?
 だからヒルコの中に隠れてるのかなって思ってたけど…。
 小さく笑って黒凪が前に出る。



『良いね、申し分ない』

「(申し分ない…?)」

「…得体の知れねぇガキは嫌いだ…」



 だが。そう言ったサソリの手に巻物が収まった。
 そんな奴ほど研究し甲斐がある。…殺してから存分に調べ上げてやるよ。
 巻物が静かに開かれる。そこには大きく"三"と記されていた。



「数十年ぶりの再会のついでだチヨバア…。殺すのに手間取った分、1番気に入ってる作品…」



 ぼふんっと煙が起き、その煙が消えた時…またしてもチヨバアが大きく目を見開いた。
 三代目、風影。
 震えるチヨバアの声にサクラが大きく目を見開き黒凪が片眉を上げる。



「もう10年以上も前の事じゃ…三代目風影が突然里から消えたのは…」

『(確か三代目は風影の中でも歴代最強…)』

「…まさか我が孫が三度も風影を手に掛けるとは…!」

「三度…?」



 サクラの声に頷いたチヨバアは我愛羅の父である四代目風影を殺したのは大蛇丸だがそれを手引きしたのはサソリだと言った。
 しかしサソリは「おいおい、四代目風影を殺った大蛇丸を手引きしたのは俺じゃなく俺の部下だぜ?」と言い返す。
 眉を寄せたチヨバアは上司がお主なら同じ事だと即座に言い返した。



「くく、…確かに大蛇丸と組んでた時は色々やったがな…」

「…大蛇丸と組んでたんなら、貴方に聞きたい事が山ほどあるわ」

『…。』



 サスケの事を思い返しているのだろう。サクラの目付きが変わった。
 ニヤリと笑ったサソリが右手を引き三代目風影が動き出す。
 すぐさまサクラをチヨバアがチャクラ糸で引っぱりその前に黒凪が立った。
 おい、と影の中から不機嫌な声がする。



『あの武器、壊しちゃ駄目だよね。』

【…そこまで気を使う必要があるとは思えねぇがな…】



 三代目風影の右腕から飛び出した刃には毒が塗られている。
 その刃を結界で受け止めサソリの真横から結界を伸ばした。
 それに気付いたサソリは顔を背けくいと左手を動かす。
 三代目風影の左手がパカ、と開きそこから無数の手の様な傀儡が現れた。
 無数の手は束になり蛇の様に黒凪に近付いて行く。



「黒凪!」

「駄目じゃサクラ、動くな!」

「でも!」



 ドンッと鈍い音が響き無数の手が黒凪の真上から降り注ぐ。
 しかし手応えの無い事にサソリが微かに眉を寄せた。
 しかも己の頭を横から叩こうとしていた結界もまだ存在している。



「(この術…一体どういった仕組みになってやがる…)」

『あー…。ちょっと傷物にしちゃったなぁ』

【フン。無傷で捕らえようとするからこうなる】



 降り注いだ無数の手は黒凪の周りのみ絶界で消滅した。
 出来る限り破壊したくなかった黒凪は最少まで絶界を縮めている。
 微かに眉を寄せサソリが小指を微かに動かした。
 無数の腕から毒煙が溢れ出す。それを見た黒凪はチラリと背後を見た。



『(私は問題ないけど…)』



 無数の手から縄が飛び出し躱そうとしたサクラの胴体に巻き付いた。
 ぐっと引き寄せられチヨバアが眉を寄せる。
 毒霧が大きく広がり黒凪と共にサクラも包み込んだ。



「(これで小娘と間一族の女は…)」

『結。』

「!!」



 サクラを掴んでいた縄を結界で千切りチヨバアがすぐさま彼女を引き戻す。
 咄嗟に息を止めていたサクラはチヨバアに受け止められると思い切り息を吸った。
 サソリは眉を寄せ煙に包まれたままの黒凪を見る。



「(既に呼吸は限界の筈だ…)」

「サクラ、無事か!?」

「だい、じょうぶです…」



 サクラとチヨバアも黒凪が居る方向を見る。
 出て来ない様子にサクラが眉を寄せていると彼女とチヨバアに向かってサソリが傀儡からクナイを放った。
 チヨバアはすぐさま巻物を2つ取り出し出現させた傀儡でクナイを弾く。



「…あぁ、"ソレ"か」

「そうじゃ。流石のお主も覚えておったか」

「一応俺の作品だからな…」



 その声を聞きつつ黒凪は耳元の無線の声に耳を傾けた。
 無線の向こうでは閃が話している。
 サソリの過去をざっと洗い出した。聞くか?
 そう言った閃に「うん」と小さな声で返した。



「サソリ…お主が最初に作った傀儡、」

≪サソリは幼い頃に父と母を木ノ葉の忍、カカシの父親であるはたけサクモに殺されている≫

「父と母じゃ」



 チラリと目を向ける。
 顔を上げた2つの傀儡は確かにサソリの面影を帯びていた。
 チヨバアって言う祖母が居て、その人がサソリに傀儡を教えた張本人だ。
 そのチヨバアの弟の記憶を読んだ所、



≪サソリが最も最初に作った傀儡は父親と母親。両親の愛に飢えていたが故の作品だったんだってよ≫

『うん』

≪ちなみに父と母は普通の傀儡だが、今のサソリが扱っている傀儡の殆どは人間の死体を使った人傀儡ってものらしい。≫



 その人傀儡は元の人間のチャクラを使う事が出来るって話だ。
 閃の言葉に片眉を上げる。
 …とりあえず分かったのはこれぐらいだな。
 今は側に限がいねーから暁に近付くのは流石に怖いし、最近の情報はまだだ。
 一旦言葉を切った閃に「ありがとう」と返して無線を切った。
 両親の愛に飢えて父親と母親の傀儡を、ねえ。



『やっぱりこの世界には可哀相な子が多い…』

【……】



 ぐぐぐ、と周りにあった無数の腕が動き始めた。
 それに気付いた黒凪は絶界を止め戦い始めた三代目風影と父と母の傀儡に目を向ける。
 黒凪に気付いたサクラが駆け寄り彼女の手を引いた。



『わ、』

「チヨバア様が下がっている様にって、」

『…解った。』



 2人で少し離れた場所からチヨバアとサソリの一騎打ちを眺める。
 チヨバアとサソリは互いに目にも止まらぬ速さで傀儡を操り互角の戦いをしていた。
 やがて傀儡同士が離れ術者の元へ戻っていく。
 互いの傀儡の武器はボロボロになっていた。



「…流石に面倒だな…。さっさとやるか」

「!」



 ガコ、と三代目風影の口が開きそこから黒い砂がゆっくりと姿を現した。
 砂は宙に浮かびざらざらと嫌な音を立てている。



「…やはりその傀儡、三代目風影の術を…」

「三代目風影はこの術で最強と詠われた。俺が使わない筈がないだろう」

「チヨバア様、あれは…?」

「あれは砂隠れで最も恐れられた武器、砂鉄じゃ。三代目風影はチャクラを磁力に変えられる特別な忍でのう…」



 そのチャクラを使って砂鉄を様々な形に変化させ、状況に応じた武器を作り上げていたのじゃ。
 砂鉄がアジトの中に広がっていく。
 チヨバアがチラリと出口を見るが今更サクラを逃がす事は出来ないだろう。
 次にサクラの隣に立つ黒凪に目を向ける。



「…間一族の、」

『!』

「お主、…あの武器からサクラと己を護る術はあるか…?」

『……あるって言えばあるけど』



 サクラを護ってくれぬか。
 チヨバアの言葉に黒凪がピクリと眉を寄せた。
 あの術はとても厄介なもの。…わしでないと太刀打ち出来ぬ。



「砂鉄時雨!」

「(いかん…!)」



 チヨバアが傀儡を前に立てチャクラを練る。
 サクラと黒凪の元にも砂鉄が向かった。
 黒凪の顔を見た鋼夜が物凄いスピードで彼女をサクラとチヨバアの前へ運んで行く。
 そこに砂鉄が突き刺さる様に降り注いだ。



「……!」



 サソリが目を見張る。
 構えていたチヨバアとサクラも大きく目を見開いた。
 双方の真ん中に立つ黒凪の周りに禍々しい球体の結界が出来上がっている。
 絶界の禍々しさにサクラの背中を寒気が駆け抜けた。



「(何あれ…、なんだか怖い…っ)」

『…。もう無理っぽいですね、チヨバア様もサクラも。』

「(何だあの術は…)」

「(あれが間一族の…?)」



 2人共、外に…。
 そこまで言った黒凪の真上から砂鉄で作られた無数の針の様な物が降り注いだ。
 それでも無傷な彼女の様子にサソリの眉間に皺が寄って行く。



『無駄だよ。この術は領域に入った自分以外の全ての物を消し去る。』

「…どす黒い力だな」

『あぁ。世界を憎み、途方に暮れていたら完成した術だ』



 サソリがピクリと片眉を上げた。
 サクラとチヨバアを黒凪の結界が包む。
 結界の中に入った2人は己を囲った結界に顔を上げた。



『その中に居ればとりあえずは安心なので。そこで大人しく。』

「…フン、ガキ1人で何が出来る」



 サソリが傀儡を操り砂鉄の巨大な塊が降り注ぐ。
 その攻撃を受けつつ黒凪は歩きながらサソリに近付いて行った。
 舌を打ったサソリが攻撃をサクラ達に向ける。
 2人を囲っている結界を3重に作り直した。



「…チッ」

『結構頑丈に作ったから壊れないと思う。…それより良いの?』



 私、もう君の目の前だけど。
 サソリの目の前に立ち小さく笑った黒凪。
 彼女の背後に迫った三代目風影。
 しかし三代目風影はその場でぴたりと動きを止めた。


 
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