隙ありっ
□隙ありっ
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迫る黒の刻限
「…ん、どうやら解決したようだね。」
『え?』
「ほら。フロアが解放されて人が流れていっている。」
はっと目を向ければ、確かにわらわらと人が下の階へと戻っていっている。
それを見て秀一の姿を探せば…いた。エスカレータを使って下へと向かっていた。
『…どうする? 追う? 昴。』
「いや…あれは恐らく我々の状況を確認するための罠。放っておくのが一番…」
きら、と照明で光った何かにぱっと目を向ける昴。
同じようにそちらに目を向ければ、金髪の女性がエスカレータへ向かって走っていくのが見えた。
あれはジョディさん…。どうしてここに…。
「…ふむ、意見を変えざる得ないようだ…。あれは止めないとね。」
『…そうだね。外には危険がいっぱいだし。』
よく見ればジョディさんに続いて走るあの大柄な男は…キャメル捜査官。
きっと2人でここに偶然訪れていたのだろう。
彼らを追うように私たちもエスカレータに乗り、秀一の姿をした誰かの行動を見つつ自然とジョディさんたちに近付いていく。
結局人が多くて2人に近付くことができたのは出口付近だったが。
「――シュウ、待って!! 外で奴らが狙ってるの…!」
そして同じくジョディさんたちもあの秀一らしき人物へと随分と距離を詰めていて、ジョディさんは彼をどうにか外へと出さないようにと必死だった。
それでも今まで4階で缶詰め状態だった客たちの流れは途切れることはない。
そんな中、比較的背の高い方である昴が前へ前へと進み、ジョディさんを追い越したあたりで逆方向へとその方向を変えた。
「きゃっ…」
「ああ、すみません…。」
なんて、まるで今気づいたなんて言いたげな感じで自身の体にあたって床に尻もちをついたジョディさんへと手を差し伸べる昴。
それを横目に、ジョディさんは大丈夫だとして…後は。と秀一らしき男へと目を向ける。
男は私たちには目もくれず外へと出ていき、本格的にジョディさんたちとかかわる気はないらしい、と肩の力を抜いた。
≪出てきたよ、ジン! 赤井らしき男ってあいつだろ⁉ ちょうど米花百貨店の入口…中央にいるよ!≫
「…。」
そんなキャンティの声がかすかにジンの携帯から漏れて聞こえて、思わず私も同じ方向へと目を向ける。
赤井秀一は現在別人として黒凪さんと一緒に潜伏しているはずだし、そこにいるのは赤井秀一本人のはずはない…。
そうは思っていても、まさに赤井秀一があの爆発から逃げ延びたかのような風貌にドキリとさせられる。
途端に、バイクに乗ったベルモットが私とジンの視界をふさぐようにポルシェの横に割り込んできた。
「…ベルモット。」
ジンが窓を開き、ベルモットがぐい、とその顔を近づけてくる。
「あの方の許しは受けてあるわ…。あれは私が変装させたバーボン。赤井秀一じゃない…」
「…。」
「バーボンは以前から言っていたように赤井秀一の死を信用しきれなかったから。…それにあの方は、石橋を叩きすぎて橋を壊しちゃうタイプだからね。」
ちょっと、どうすんの⁉ 撃つの⁉ 撃たないの⁉
そんな風にイライラした様子でジンの指示を仰ぐキャンティ。
ベルモットもジンの言葉を待つように沈黙した。もちろん…私も。
「…キャンティ。そこを離れろ。あれは赤井秀一じゃない…」
≪はあっ⁉ じゃあ誰だって――うわっ⁉≫
そんなキャンティの声にジンがちらりと携帯へを目を向ける。
そして続けてキャンティが放った名前は…。
≪あんた…スコッチ!≫
≪悪いが…携帯を借りるよ。≫
≪ちょっ≫
≪…ジンか?≫
ジンが目を細める。
急にそのボリュームが落ちたように感じて私には、それ以降携帯から漏れる音を拾うことはできなかった。
≪焦ったよ。まさかスナイパーまで用意するなんて…。≫
「…。」
≪それほど赤井秀一に会いたいのは分かるが…あいにくあれは奴に変装したバーボンだ。殺さないでやってくれ。≫
徐にジンがぶつっと通話を切る。
そして私に向いていた拳銃が下ろされ、やっと本当に潔白が証明されたのだと知った。
「相変わらず気に食わねえ奴らだ…」
その言葉にやっと理解した。
あの赤井秀一らしき男は、本当にベルモットが変装させたバーボンで…。
この計画には恐らくスコッチも関わっていたのだ。と。
「――ジョディさん! 大丈夫でしたか⁉」
「え、ええ…でもシュウは見失っちゃって…」
「そうですか…。」
そんな風に会話を交わすジョディさんとキャメル捜査官のそばを通り過ぎ、そのまままっすぐ昴の元へ。
昴は今回の4階の事件に巻き込まれていたコナン君たちのところを訪れていた。
「お久しぶりです、蘭さん。それにコナン君。」
「あれ⁉ 昴さんどうしてここに⁉」
「誰だ? この男…。」
昴を見上げて驚いた様子の蘭ちゃんを見て怪訝な顔をした小五郎さん。
彼らの邪魔にならないように少しだけ離れた位置で足を止めれば、コナン君がこちらを見て驚いたような顔をした。
「前に言ったでしょ、新一の家を掃除に行った時に泥棒と間違えて蹴りかかっちゃった人がいたって…」
「ああ、あの探偵ボウズの家に居候してるっていう?」
「そう、その人よ。沖矢昴さんっていうの。」
「初めまして。」
ちなみに…前に言っていた、一緒に住んでる彼女さんは今日もいらっしゃらないんですか?
そんな風に言った蘭ちゃんに「居ますよ? ここに。」なんて言って私を紹介するものだから、私もそれに合わせて昴の背中からひょこっと顔を出した。
『初めましてー!』
「わあっ⁉」
『きゃー! ごめんなさいびっくりさせちゃった⁉』
目を白黒させて私を見る蘭ちゃんと小五郎さんに内心申し訳ない気持ちが広がる。
でも許してね…これが神崎遥なの…!
『うふふ、昴を蹴り飛ばしたかわいい高校生がいるって聞いてたから、楽しみにしてたの!』
「あ、その節は本当にすみませんでした…」
『ううん! ちゃんと事情を説明してなかったこっちが悪いんだからいいのよー! っていうか、キャー! 本物の毛利探偵ですか⁉ 握手してください! 大ファンなんです!』
「だ、大ファン⁉ まいったな…ハハハ」
小五郎さんの右手を両手でつかんでぶんぶん振る私を背後からチクチクと呆れた視線が突き刺さる。
仕方ないでしょ、これが神崎遥なのよ…!
「そ、それにしても…昴さんと遥さんはどうしてここに?」
「ん? いや…本当に偶然遥の新しい服を見るためにね。」
そんな昴の言葉に袋を持ち上げれば、コナン君の目がこちらに向いた。
「そうしたら4階で事件があったようだし…それに知り合いもいたものだからなんだかんだこんな時間までここにいたんだ。」
「知り合い?」
「ああ。まだ誰なのかは思い出せてないんだが…ま、それは追々。」
コナン君の顔が真剣なものに変わる。
彼自身も昴が誰のことを話しているのか見当はついているはずだろう。
あの秀一らしき男…今の昴の言葉から組織の人間の誰かであることは確実に理解したはず。
問題は、誰だったのか…。
『…コナン君。』
「うん?」
『きっと彼ら…米花町にいると言うことは毛利小五郎さんを狙っていると思うの。』
「うん…。僕の発信機がばれた時にきっとジンに目を付けられちゃってるしね…。」
秀一の働きでFBIの仕業のようには見せかけられたが、用心深いジン相手では不十分…。
ここ米花町で奴らが調べたい人物といえば、小五郎さんしかいない。
Bourbon
(初めてその姿を見つけた時、自分でも驚くほどに自身の身体が硬直した。)
(動けなかった。声も出せなかった。)
(そしてそんな俺を見て、何ら気にする素振りを見せず目を逸らした彼女を見て、俺は確信したんだ。)
(ずっと探していたんだ。…なのにどうして…。)
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