隙ありっ

□隙ありっ
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  キッドVS四神探偵団


 ああ、何てこと。よりにもよって。言葉が頭の中をぐるぐると回る。
 そんな私の目の前には…今しがた披露したマジックの出来はどうだと目で語りかけている青年が立っていた。
 青年の顔は、声は…まさにこの世界の主人公、工藤新一と瓜二つ。そんな彼の名前は…。



「こらバ快斗! 新任の先生に何してるのよー!」

『(そう、快斗…黒羽、快斗。またの名を…怪盗キッド。)』



 そう、誇らしげに席へと戻っていく青年を見送り、気を取り直して学生たちへと目を向ける。



『ごほん、改めてだけどみんな。私は神崎遥、担当は英語です。これから貴方たちの副担任として頑張るから、ヨロシクね。』

「恋人はいますかー?」

『内緒でーす』



 ええー、とブーイングが飛び交った。
 まあ此処までは許容範囲だ。子供たちから質問の内容も予想していた通り。
 ただ一つ、予想通りじゃないのは…。
 もう一度改めて彼…黒羽快斗君を目に映す。うん。どう見てもあの有名な怪盗キッドよね。
 と、薄れつつある私の前世の記憶から掘り起こした怪盗キッドと彼の顔を重ね合わせる。
 名前だって憶えている。間違いない…。



『それじゃあこれで朝のホームルームは終わりです! 今日は一限目から英語だから、先生は一旦職員室に戻ってからこっちにきまーす。』

「はあーい。」



 子供たちの返事を聞いて予鈴に合わせて一旦教室を出て…15分後に戻ってきたわけだが…。



「ちょっとバ快斗ー!」

「だっせぇパンツ履いてるからだろー!」

「ちょっ、大きな声で言わないでよ! この変態ー!」



 どたばたどたばた。
 教室の後ろで走り回る2人に慣れた様に教科書を広げ始める生徒達。
 はたまた痴話喧嘩だなんだと囃し立てる男子生徒。
 私は思わず眉間を抑えた。はしたない上に喧しい…。



『座りなさーい。』



 …と声を掛けるが聞く耳持たず。
 教師と言うのも辛い役職なのね…。

























 今日は担任が新任教師だと言って若い女性教師を連れてきた。
 神崎遥と名乗った教師に早速マジックを披露してやれば、驚いたような様子を一瞬だけ見せたが…心臓が強いのかなんだか、なんとも鈍い反応。
 それでも少しだけ見せたその驚いたような、なんとも言えない笑顔にとりあえずサプライズは成功だと席に戻った。




「 “ 私は貴方が殺人鬼でも構わない…、愛してる! “ くうー! いいセリフだわ! 」



 そんな風にクラスメイトと盛り上がるあそこのうるさいのは俺の幼馴染の中森青子。
 けっ、またしょーもねードラマでも見てんだろ…。
 呆れたように見ていると、穏やかに青子を眺める神崎せんせーが目に入った。
 釣り目気味の、中々の美人。でもその涼し気な目元に似合わず、わりと元気でこどもっぽい。ってのが第一印象。



「遥先生はある? ドラマみたいな経験!」

『え? 例えばどんな?』

「例えば…絶対に結ばれない筈の恋とか…!」



 両手をぎゅっと祈る様に握り目をキラキラさせて言う青子。
 夢見る少女ってか? あほらしい。
 でもまあ、気にならんでもない。あれだけ美人ならそれなりに恋愛も…。
 そして目を向けた時、神崎せんせーの表情の変化に思わず目を見開いた。



『そうねえ…。ないことはないけど。』

「え⁉ どんなのどんなの⁉」

『んふふ、秘密っ!』

「ええー!」



 そしてまた戻った表情に思わず立ち上がって、ずかずかと先生に近付いて…じいっと顔を見つめた。
 そんな俺にぽかんとする神崎せんせ。



『…近くない?』

「…あっれ…?」

『なになに、どしたの?』



 おっかしーな、神崎せんせ…。
 一瞬表情がまるで別人のものみたいになったような…。



「ていうか、私は今はドラマより怪盗キッドだな〜!」



 と、青子に向かってクラスメイトの女子生徒がいう。
 キッドの話題となれば別だ。そうだよ、ドラマなんかより俺の話題だよ!



『怪盗キッド? また何かやるの?』

「ほら、有名な資産家の鈴木次郎吉っているでしょ? キッドに勝負をしかけてるんだって!」

『へぇ…、でもあたし “盗人” には興味無いからなー』



 盗人だと…? なんかむかつく言い方だぜ…。
 と、こちらに神崎せんせの目が向き、ばばっと目を逸らす。
 しまった、露骨だったか…? とドキドキと動く心臓に気づかぬふりをしてもう一度先生に目を向ける。
 俺など気にしない様子でまだ青子たちと話していて、正直ほっとした。



「あっ、私新聞持ってるよ! 先生見る?」

『え、みるみる〜。ありがと!』



 なんでえ、盗人なんて呼んでおきながらなんだかんだ興味津々…。



「うわっ!?」

「ど、どうしたの先生……」



 ばーん! と大きな音を立てて机の上にある新聞に手をついて立ち上がる先生。
 え? 何? と青子と思わず顔を見合わせる。正直言って、先生の顔は少し…いや、かなーり怖い。



『…あ、ごめんね。アハハ。ちょっと電話かけてくるね〜』



 なんて、ころっと表情を切りかえて教室を出ていく先生。
 それを見送った青子が不思議気に言う。



「新聞に何か載ってたのかな? それともキッドが嫌いなのかな?」

「(キッドが嫌い〜?)」



 徐に新聞へと目を向ける。
 大きく載っているタイトルは「麒麟の角を狙う怪盗キッド」。
 他に掲載されている事といえば、俺が送った予告状、少年探偵団が対決に参戦するという文字。
 窓から見える校庭に神崎先生の姿が見えて、窓枠に腕を乗せてそちらに目を向ける。



『…! ………?』



 何やら携帯で誰かと通話中らしい、神崎先生。
 なーんか気になるんだよな、あの先生…。
 徐に立ち上がり先生を追うために階段を下りていく。そして外に出ると…。



『あら…、じゃあ貴方は他の探偵団の子たちの巻き添えで? ……うん。』



 やっぱ雰囲気が全然違う…。
 授業と授業の合間のためか、俺以外には生徒はいない。



『とにかく、メディアにも出るような有名人を相手にするのは怖いし…。ええ。一応私も保護者として行ってもいい? …ありがとう。』



 そうして通話を終えた先生の背後にしのびより、声をかけようと息を吸った途端。



「わっ⁉」

『…あれっ? 黒羽君じゃない!』



 と、不気味なほどに雰囲気をこれまた180度変えた神崎先生が俺を迎えた。
 まさか、気づいてたのか? 俺が聞き耳を立ててること…。
 いや、それにしては口調も変えたまま電話を続けてたし、どういうことだ?



『盗み聞き? 趣味わるーい。』

「…今、口調違いませんでした? センセ。」

『君は社交辞令はしないタイプ? 大人の世界では色々あるんだよ、少年。』

「…ふーん。」



 上手く丸め込まれた感は否めない。
 が、こういわれてしまっては突っ込んで聞けるほど、自分が感じるこの先生の違和感に自身があるわけではない…。
 俺は納得したような顔を先生に見せて、素直に教室へと戻ることにした。




















「…っていう感じでさあジィちゃん。正直俺もなんでこんなにこの神崎先生が気になるのかわかんねーんだけど…。」

「ふむ…。」



 学校に持って行っていた携帯でこっそり撮った神崎せんせの写真をジィちゃんに見せながらソファに身体を沈める。
 なんで気になるんだろう? なんだ? …あ。



「…そっか。あれだ。」

「うん? なんですかな? ぼっちゃま。」

「この違和感…初めてあいつ…。名探偵に出会った時と同じなんだ。」

「え?」



 見た目と、その言動がマッチしない。そんな感じ。
 正体を隠そうと…他人の前では上手く誰かを演じるくせに、ふとした時に漏れてるんだ。
 得体のしれねー本物の人格っていうか、本質みたいなもんが。



「なるほど…。」

「だってよ、ここは日本だぜ? これほど安全な国はない。俺だって怪盗キッドとして色々と危ないことに手は出してる。けど…」



 だからこそこの日本で改めて得体のしれない何かを見つけると、どうもそれが目立つわけだ。
 …不気味なんだ。本質が見えなくて。



「…ですが、もし本当にその新任教師の方が誰かのふりをしてぼっちゃまの学校にいるのであれば寺井は少し心配でございます。」

「うん、そうだな。…まさかキッドである俺を狙ってインターポールが学校にやってきたとか…そんなんじゃねえよな? ハハハ…。」

「ふむ…」



 まあ、誰もはっきりとその可能性を否定はできないよな…。
 マジで乾いた笑顔しかでねーぜ…。



「…ま。こんな周りくどいやり方をするってことは、相手が何であれまだ俺がキッドだとは確信にいたってねーはず。とりあえず様子見だな。」

「そうですね…。しかし気を付けてくださいね、ぼっちゃま。」

「うん。ま、大丈夫だろ。とにかく次の現場にいるのはガキんちょ達と、いつものメンツだろうしな。」



 
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