隙ありっ
□隙ありっ
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キッドVS四神探偵団
…なーんて。なーにがいつものメンツだしな、だよ!
思いっきりいるじゃねーかインタポール(仮)⁉
『すごい雨だね〜、こっちおいで拭いてあげるから!』
「ありがとう、遥お姉さん!」
今日の天気予報を見ておいてのことだろう、タオルを持参した神崎先生が雨でぬれた子供たちの頭やらを拭いてやっている。
…つか、なんで少年探偵団のガキんちょ達と知り合いなんだよ、あんた!
「よくぞ来てくれた! 少年探偵団諸君!」
そして現れた鈴木次郎吉にささっと壁際によって空気と化す神崎先生。
しっかり気配りも取れてるし…やっぱただものじゃねーな、インターポール(仮)は。
「ん? なんだぁ? アンタ…見覚えのない顔だな…。」
『…ああー!? 怪盗キッドといつも対決してる警部さんだ! ファンなんですよ私ー!』
「おおっ⁉ お、おお…」
『握手してください!』
かと思えば、またまた一気に表情を変えて中森警部に取り入る神崎先生。
…やるな! インターポール(仮)!
まああの中森のおっさん相手ならあんな風にファンを装えば…。
「いやあ、ハハハ…」
『キャー! 大ファンの中森警部と握手までしちゃったー!』
うん。こんな感じでデレデレするだろうな。
『ちなみに今回の作戦はどんな感じなんですか⁉ 中森警部っ!』
「良ければ今回の宝石も見ていくか?」
『ええー⁉ いーんですか⁉』
宝石がある部屋の隅には4つの色の違う石の台座があり、その台座には1つずつ鍵穴がある。
黒、白、赤、緑の台座1つ1つには軽く電流が流れているらしく、宝石を確認するため、今からその電流の電源を1つ1つ切っていくとのことだ。
「…あれ? なんか変な音がするよ?」
「ああ、これは電流を切る音だよ。」
「じゃあ、このポーンって音は1つ1つの台座の電流が切れる音なんですね! 中森警部!」
「おう。」
凄いです! と目を輝かせるガキ1。名前は確かミツヒコだったか?
1回音が鳴るごとに緑、赤、白、黒の台座の順番に電流が止まっていく様をキラキラとした目で見つめる少年たち。
『へえ〜…』
「警部、合図を。」
「ごほん。…1、2、3!」
中森警部のカウントに合わせ、4つの台の前に立つ警察官全員が同じタイミングで鍵を回した。
すると建物全体が揺れ始め、真ん中の太い柱が上下に動きその中に隠された麒麟の像…そして宝石部分である角が姿を見せた。
「…よし、閉じろ。」
そしてまた合図に合わせて警察官たちが鍵を回し、宝石が柱に隠されていく。
『流石鈴木さん…! こんな仕掛けがあるなんて私感動ですっ!!』
「む? 確か君は少年探偵団の保護者の…?」
『神崎遥です! ずっと中森警部と貴方のファンでした!』
「おおそうかそうか! どれ、握手でも…」
ありがとうございますー!とぎゅっと手を握った神崎先生。
それを呆れて眺めていると、名探偵とその隣に立つ茶髪の少女もひく、と呆れた顔を浮かべたのが見えた。
『この複雑なシステムを作られたのも鈴木さんですかっ⁉』
「はっはっは! もちろんじゃ! これならキッドは同時に4人に化けんとこの仕組みを解除できないということじゃろう! これではあのキッドでも手も足も出まいっ⁉︎」
「いや…前の瞬間移動の件で奴に協力者がいる事は分かっているからな…。油断はできん。」
そんな風に会話を中森警部と鈴木次郎吉を横目に見ていた神崎先生が動いたのが見えてそちらに視線を向ける。
巨大な柱に刻まれている文字を見て何やら考えている様子の名探偵の傍で足を止め、足を屈めたのが見えた。
『何か気になることでもある?』
「うん…これ。」
『 “正しき理に拠らず 麒麟を求めんと欲する者 移ろひに身を委ねるべし 三水吉右衛門 ” …。』
「さっき次郎吉さんに聞いてみたけど、あの人も知らないみたいなんだ。」
『ふうん…』
2人してじいいっと柱を眺める神崎先生と名探偵に中森警部が呆れたようなしぐさを見せて言う。
「ったく、呑気な奴等だぜ…。いつこっちの部下もキッドに成り代わられるか分からねぇのに…。あっ、というかあんたキッドじゃないだろうな⁉」
と、中森警部がずんずんと神崎先生の元へ向かって、その頬をつねろうと手を伸ばす。
俺はその時――…顔色を一変させる名探偵を見てかすかに目を見開いた。
「やっ、やめて!!」
しかし予想に反して神崎先生を中森警部から護ったのは――茶髪の少女で。
「お、女の人の顔を触るなんてそんなことしたら…、したらっ!」
「な、なんだよ…?」
「こっ、この人の彼氏が黙ってないと思うけど…⁉」
「か、彼氏ぃ?」
途端に少年探偵団もばばっと神崎先生の前に立ち、中森警部を睨み上げた。
「そうですよ!! 遥さんの彼氏が黙ってませんよ!」
「そーだそーだ!」
「暴力反対ー!」
「う、わ、分かったよ…」
なーにしとるんだこんな時に…。
そう呆れたように言って割って入ってきたのは鈴木次郎吉氏。
キッドがいつやってくるのかもわからんのだから、もっと警備に集中してくれんと。
それにほら…もうキッドがやってくる予告の3分前じゃ。
その言葉に神崎先生の前に立っていた子供達がはっと台座へと目を向けた。
「はっ! そうでしたっ」
「配置につこうっ、みんな!」
「オッケー!」
「哀ちゃんも、ほらっ」
茶髪の少女がじいっと心配そうな顔をして神崎先生を見る。
哀と呼ばれたその少女に先生は…。
『大丈夫…ちゃんと見てるから。』
「…うん…」
…また、あの雰囲気だ。別人みたいな。
俺は目を伏せ、何やら考えている様子の神崎先生から目が離せなくなっていた。
「ま、まあ問題はその柱を開くカギをじいさんが護り切れるかどうかだがな…。」
「ふん、心配無用じゃ。鍵はこうやって…、ほれ。壁に打ち付けてやれば簡単には取れまい! はっはっは!」
「ハハハ…」
途端に、俺の計画通りに電気が落ちる。
よし。この暗闇に乗じて窓を開き…。
「うわあっ⁉ なんじゃ⁉」
おーおー、焦る声が聞こえるぜ。
それにしても今日の天気は相変わらず悪いな…雨風がどんどん入ってくる。
まっ、それよりもさっさと宝を頂いて…
「こ、この音は…台座が開いている⁉」
暗闇の中、現れた麒麟へと手を伸ばし角をいただく。
そして…そうだそうだ、ついでに隠し場所の調達っと。
「うわっ⁉」
悪いな名探偵…暫く気絶しててもらうぜ。
どさっと倒れた名探偵ににやりと笑みを浮かべ、宝石をもって周囲へと目を向ける…というより、神崎先生に。
そこで俺は、息が止まった。
『…。』
「(…え、見られてる…⁉ いやそんなまさか、急に光がなくなった状態で目が見えてるはずがねえし…!)」
こちらをまっすぐ射抜くその瞳にバクバクと動く心臓を落ちつけつつとりあえず計画通りにすべてを行い…電気の復旧を待った。