隙ありっ

□隙ありっ
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  キッドVS四神探偵団


「!…あ…」

「電気が付い……た……」

「んなぁ…!?」



 全員の視線の先は縦に開いた柱の中央で、そこにあるはずの麒麟の角が跡形もなくなっていた。
 一方の私は怪盗キッドの動きを見逃さないように必死に目を見開いていたから、目を軽く押さえてうなだれる。



『(キッドが明かりを奪うのは常套手段だから目を暗闇に慣れさせて置いたけど…雨戸が開いたおかげで逆に見づらかったわね…)』

「くそ、キッドの野郎…雨戸をあけて我々をパニックに陥らせ、その隙をついて逃げやがったな⁉ とにかくこの気絶させられた小僧を病院に…」

「け、警部! 今しがた連絡があり…現在土砂崩れで道が…!」

「なっ何い⁉ じゃあ逃げたキッドも追えねえじゃねえか⁉」



 安心せい! そうカツを入れたのは他でもない、鈴木次郎吉さん。



「このわしがキッドに対して何の策も練っていないと思っておるのか? わしが保障しよう…この部屋からは誰も出ておらん。勿論、宝石が盗まれる前から今に至るまで誰も、じゃ。」



 そうして麒麟の角の捜索が始まった。…わけだが。



「―――何ぃ!?誰も麒麟の角を持ってないじゃと!?」

「えぇ…。一応私達の荷物や江戸川君の服も調べたけど…」

「だから外に逃げたんだよ! さっさと扉を開いて追わせろ!」

「うむ…、し、しかしのぉ…」



 そんな会話を繰り広げる中森警部と鈴木次郎吉さんの横を通り抜けてこちらを見上げてくる志保。
 しかしその不安げな顔に気づいて神崎遥ではなく私の笑顔を見せればやっと安心したようにこちらに近づいて来た。



「どう思う? お姉ちゃん…。」

『…柱に文字があったのは読んだ?』

「ええ…鍵を使わずにカラクリを開いたところから見ても、きっとキッドは三水吉右衛門が作ったもう一つのカラクリ解除方法を使った…。」 

『同感。…それより志保、コナン君起きてるわよ。』



 私の言葉に弾かれるように振り返り、コナン君の元へ向かう志保。
 それを見送り…おそらく意識が戻ったとしてもキッドが自身を眠らせた理由を解き明かすまではそのままでいるつもりであろうコナン君のために台座を観察する。



『(赤い台座に雀の文字…、白の台には虎。…なるほど。)』



 まだ眠ったふりをしているコナン君の元へ向かい床に寝かせたままでは可哀想だしとゆっくり彼を持ち上げる。
 そこで気づいた。彼のフードの中の不自然な重みに。
 コナン君も微かに目を見開き…、微かに焦りを見せた黒羽君。
 でも私は別に今日…生徒の1人を警察に突き刺すためにここに来たわけではない。



『…。スタンガンの痛みは大丈夫? コナン君。』

「…うん。大丈夫。…じゃあ、状況を教えてくれる? 遥さん…。」

「こ、コナンく…うぐっ」

「静かに。江戸川君はまだ気を失ったふりをしているから…」



 コナン君の意識が戻っていることに気づいた少年探偵団の面々が志保の言葉を受けて一様に声を潜め、すぐに私と共にコナン君を隠すように立った。



『まず、コナン君も知っていると思うけどキッドは鍵を使わないもう1つの何らかの方法を使ってカラクリを解除している。それから…』
 
「4つの台座全てにはキッドからのメッセージが貼り付けてあったわ。それに、窓を開いた理由もまだ分からないまま…」

「それは僕たちを驚かせて、警戒心を疎かにするとか…」

「それは電気を消した時点で十分のはずよ。」



 うんうんと子供達が唸る中「その台座のメッセージの位置はどれも同じ?」とコナン君が問いかけてきた。
 子供達が台座へと目を向ける。もちろん私も。



『…うーん、高さはバラバラかな…? そこまで大きな背はないけど…。』

「例えば、台座を守ってた4人の背格好の差程度かな?」

『そうだね。…え?』

「…なるほどね。という事は、協力者は今日はお休みってところかしら。」



 私と志保の言葉にコナン君が笑顔を見せる。
 なるほどそっか、メッセージを貼り付けたのはキッドじゃなく、子供たち…。
 それにキッドがそこまで回りくどいことをしたという事は今回は協力者はここにはいない。
 ちらりと黒馬君へと目を向ける。大丈夫だとは思うけれど…もしもの時は手を貸してあげないといけないかしら。



「鍵なしでこのカラクリを解除するには、決まった順番で台座を傾ける必要があったんだ。お前ら4人は知らず知らずのうちにキッドの手助けをしてたんだよ…。」

「そんな…じゃあキッドは誰なんですか⁉︎」

「1人だけいるだろ? 台座の電流が切れて…お前らが台座には触れていいタイミングと順番を教えてくれた人が。」



 やっと子供達が閃いたように目を見開き、外に逃げたキッドを追うためにと外に出ようと交渉している中森警部の元へと走っていく。



「だーかーらぁ! さっさとこの扉を…」

「駄目よ。…キッドは今、予想以上に脱出に手間取っているみたいだから。」

「そうだぞ! 扉は閉めとかねーと!」

「うむ? どういう事じゃ?」



 怪訝な顔をした大人たちを見上げ、子供達がコナン君の代わりにトリックを説明する。
 まず鍵を使う以外の方法がある事。
 この4つの台座は四神を現している事。
 柱に書かれた“流れ”とは季節の事であり、青龍、朱雀、白虎、玄武の順で春夏秋冬になる。
 つまり春夏秋冬の順に身を委ねる…、身を預けると言う事。



「身を預ける、じゃと?」

「つまり体を預けて、台座を傾けろ。って事です!」



 光彦君の言葉に合わせて歩美ちゃんが台座に凭れ掛かった。
 ガコ、と音が鳴り続いて春夏秋冬の順に元太君、志保…そして光彦君が台座に凭れ掛かり、傾けていく。
 途端に開いていた柱が閉じていき、この場にいる全員が大きく目を見開いた。



「じゃ、じゃがキッドは一体どうやって台座を傾けて行ったんじゃ? 台座の周辺には警備が…。」

「キッドじゃなくて、私たち少年探偵団がやったんだよ!」

「そう…中森警部に言われたんですよ! 緑、赤、白、黒の順番に電流が切れるから、その順に守ってくれって!」

「な、”中森警部”に…⁉︎」



 全員の視線が中森警部へと集中する。



「台座に貼り付けられたキッドのメッセージは、子供たちのフードの下に予め貼り付けられていた。だからキッドは窓を開いて雨風を中に入れ…子供達がフードをかぶるように仕向けたんだ。」

「…! おお、起きとったのか…。」

「ちなみに台座を傾けるタイミングと順番はキッドが仕掛けた…モスキート音で子供達にのみ伝達されてた。そうでしょ?」

「モ、モスキート音⁉︎」


 なるほど、じゃからわしら大人には聞こえなかったのか…。
 感心したように言う鈴木次郎吉さんへとゆっくりと歩いて行きながらコナン君が自身のフードへと手を伸ばす。



「ちなみに宝石は僕のフードの中。キッドはきっと僕を病院に連れて行くように見せかけてここから脱出する予定だったんだろうけど…。」

「ぉおーい‼︎ わしはここだぁー‼︎」



 ドンッと奥から音が響いた。
 大方目を覚ました中森警部が壁やらを必死に叩いている音だろう。
 ちらりと偽の中森警部…いや、黒羽君を見て目を閉じる。



「入れてあげたら?」

「うむ…そうじゃな。」



 と、扉を開こうとした途端に再び部屋の明かりが消えたらしく、焦ったような声が響く。
 やっぱり…。危なくなるとまた視界を奪うと思っていたのよね。
 そこで目を開いて周りを見渡す。そして元太君へと音を立てずに近づく黒羽君を見て目を微かに見開く。
 しかし目にも止まらぬ早業でやってのけたその変装にすぐに感心した。



「ーーたっ、助けてくれよぉっ!」

「え…元太!?」



 光が戻り、元太君の声に振り返った全員が穴にすっぽりと嵌まっている彼の姿に目を見開いた。



「しまった、床に爆弾を仕掛けて逃げたんだ! 元太を栓にしてるから…外から探さないと!」

「くっ…待てキッドー‼︎」



 どたばたと建物を出て行く面々を見送り、最後の1人となった私は元太君の頭にぽんと手を乗せた。



『もう、子供に乱暴ばかりして。』

「!」

『…また明日、学校でね。』



 ぽかんとした黒羽君を置いて建物を出て行く。
 結局彼はその後機動隊に変装し直して宝石を手に取り、それが目当てのものでないと悟ると宝石を置いて逃げて行った。
 さて…明日学校で、とは言ったけどどうしたものかしら。



 あんたは誰なんだ?


 (…ぼ、ぼっちゃま⁉ どうしたんですそんなに焦って…⁉)
 (ちょ、ふ、風呂入る風呂…。そんで頭冷ます…。)


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