隙ありっ

□隙ありっ
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  隙のある日常 with 毛利蘭


『――もう、心配しなくて大丈夫だって昴。…うん、うん。…はーい、夕方には帰るからね。』

「…。」

『…あれ、蘭ちゃん?』



 遥さんの声にはっと意識を現実に戻す。
 私ったら、考え事してた…⁉



「す、すみませんっ! ぼーっとしてました…!」

『あはは、本当にどうしたの? なんかあった? …もしかして、恋の悩み〜?』



 ニコニコと笑って小首を傾げた遥さんに図星を疲れて「う、」と言いよどむ。
 確かに私は、まるで当たり前のように恋人と連絡を取る遥さんを見て…正直、ずっと新一のことを考えていた。
 新一と会えなくなってからずっと、新一は色々な事件を追っていて忙しいから、連絡は取らない方が良いと自分自身に言い聞かせていた。
 連絡を取らない方が良い。それは私が決めたこと。でも…納得はしていても、寂しい気持ちがそれで癒えることはなくて。



「…うらやましいなあって」

『うらやましい?』

「はい。…新一は全然、その…。…私に電話してくれないから…。」



 そう。私は連絡をしないようにしてるけど…。
 新一だって、少しぐらい連絡をくれればいいのに。
 眉を下げて、うつむく。
 いけない。せっかく遥さんとお茶を飲んでるのに、落ち込んじゃダメだ…。



『…実はね、私も当分昴と連絡出来なかった時期あったんだー。』

「え、…そうなんですか…?」



 顔を上げれば、眉を下げて私を見つめる遥さん。
 たまに遥さんはこんな表情を私に見せてくれる…。
 とても明るくて、私たち学生とも近い距離感で接してくれる遥さんだけど…たまにこうして、大人としての側面を見せてくれる。



『うん。だから余計に今ベタベタしちゃうのかなぁ。お互いに、さ。』

「…なんで昴さんと暫く会えなくなっちゃったんですか?」

『えっとねー…大学受験!』



 受験…。
 そう私が復唱すれば「うん」と遥さんが大きく頷いた。



『ほら、昴って東都大学生でしょ?』

「はい。…とっても頭が良い所ですもんね…。」

『うん。だから受験の時は昴の勉強の邪魔をしたくなかったの。』



 邪魔をしたくなかった…。そうだよね。
 私と同じ…。
 沈黙が落ちる。遥さんはきっと私の言葉を待ってくれている。
 私が悩んでいることを、きっと分かってくれているから…。



「…あの」

『うん』

「…新一、今大きな事件を抱えてるらしいんですけど…」

『うん。』



 笑顔で私を見つめてくれている遥さんを、おずおずを見上げる。



「…やっぱり邪魔しちゃ、駄目ですよね?」



 ずず、と私から視線を外さずに珈琲を飲んだ遥さんを見て、なんだか叱責されるような気がして縮こまった。
 でも遥さんから帰ってきた言葉は予想外にも、



『大丈夫。私だって我慢出来なくて電話したもん。』



 という、私が望んだ答えだった。



「え」

『我慢なんてできるわけないよねー! そこまで大人じゃないわ、私!』



 自分がぽかんとしてしまっているのが分かる。
 だって、本当にそんな答えが返ってくると思っていなかったから…。



「…その後どう、なったんですか?」

『……。喜んでくれたよ? 本当は昴も連絡取りたかったみたい。』

「…いいなぁ…」



 私にはきっと無理です…。
 なんて言いかけた時「でもさでもさ⁉」と遥さんがぐぐっと身を乗り出してきた。



『新一君に好きだって言われたんだよね!?』

「は、はい…」

『付き合ってるんだよね⁉』

「う、…はい…」



 じゃあ今電話しようよ⁉
 そう、キラキラした目で言われて一瞬時が止まった。



「…ええっ⁉ む、無理ですよ!」

『出来るよ! ほらかけて!』

「え、ええー⁉」



 携帯を握りしめて、画面を見て…もう一度遥さんを見て。
 こくこくと頷く遥さんに手が震えて、また携帯の画面を見て…。
 そして、結局その勢いに乗せられて通話ボタンを押して、携帯を耳に宛がう。



≪…っ、もしもし?≫



 焦ったように電話に出た新一に心臓が大きく跳ねた。
 遥さんに目を向ければ、遥さんは口パクで「頑張れ!」とエールを送ってくれる。



「ぁ、…新一…?」

≪おう。…どうした? なんかあったのか?≫

「あ、ううん…そうじゃないの。…その…」

≪ん?≫



 予想以上に優しいその対応に、一瞬だけ言い淀んで遥さんに目を向ければ、



『電話したくて、っていうの!』



 と間髪入れずにカツを入れられて、はじかれるようにその言葉を復唱した。



「し、新一と電話したくて…」

≪え、あ、…おう≫



 きっと私の顔はゆでダコみたいになってるはず…顔が熱くて熱くてたまらない。
 この時実は電話口の新一…兼コナンも顔がゆでダコみたいになっていたわけだが、直接顔を見合っていない2人がそれを知ることはない。



「〜っ!」

『…あ、切っちゃった?』

「もう限界です…」



 うなだれてそう声を絞り出せば、遥さんが途端に噴き出してけたけたと笑い始めた。



「……恥ずかしい…」

『あはは。あたしもそうだったよ、気にする事無いって!』

「…でも遥さんは昴さんと本当に仲が良くて…、…羨ましい、です…」

『新一君と蘭ちゃんも、すーっごく仲がいいじゃん!』



 ぼんっとまた顔に熱が集まった。
 仲がいい…そうなの、かな。
 途端に遥さんの携帯がまた着信を知らせる。
 はっと時計を見れば、もう17時を過ぎていた。



『もしもし、昴?』

≪まだ喫茶店に居るのかい?≫

『うん、居るよ?』

≪蘭さんも一緒に?≫

『うん。』



 やっぱり昴さんだ…! 長居しすぎちゃったかな⁉
 はらはらして昴さんと遥さんとの会話を見守っていると、暫く昴さんからの言葉を聞いていた遥さんがちらりと私に目を向けた。



『…蘭ちゃん、コナン君と夕食の買出しの約束してた?』

「えっ…あー! そうでした!」

『あはは、コナン君が心配して昴に電話かけたみたい。』



 すっかり忘れてた…! ごめん、コナン君…!
 立ち上がってから会計を済ませないことに気づいて、急いで財布へと手を伸ばす。
 そんな私を遥さんが「落ち着いて」と制止した。



『昴がね、駐車場まで迎えに来てくれてるの。だから大丈夫。それからここのお勘定は私持ち。ね?』

「え、あ…は、はい…」



 そうして会計を済ませてくれる遥さんの後ろで、また新一との会話を思い返して顔が熱くなる。
 そんな熱が冷めやらないまま外に出れば…なぜか私と同じぐらい顔を真っ赤にしたコナン君が昴さんが運転する車の後部座席に乗っていた。



 寂しい気持ち。


 (こ、コナン君顔大丈夫⁉ 熱でもあるんじゃ…!)
 (そ、それはこっちのセリフだけど…)
 (え、あ…こ、これは熱じゃなくて…!)

 (それじゃあ出発しますよ?)
 (ほら蘭ちゃん、シートベルト! コナン君も!)

 ((はっはいっ))

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