隙ありっ

□隙ありっ
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  隙のある日常 with 江戸川コナン
  - 漆黒の追跡者後日談B -


 カサ、と動いたそれ…蜘蛛を睨みつけながら、手に持った拳銃をくるくると手の中で回す。
 正直この世で苦手なものの上位に入るその存在を前に私は落ち着くことなんてできず、ひたすらに拳銃をいじっている。
 もちろん蜘蛛を前に直立不動。おめおめ椅子に座ることさえできない。



『(…秀一、いつ帰ってくるかなあ。)』



 蜘蛛のためだけに仕事から呼び戻すなんて可哀想よねえ…。
 でも1人では対処できないし。



『…!』



 と、携帯に電話がかかってきた。
 相手は…コナン君。



『もしもし?』

「あ、遥おねーさん?」



 この呼び方は周囲に誰かいるのね。



「今からそっちに行ってもいいかな? 見たい資料があって…」

『ええ勿論。ちなみに今はどこに?』

「今あゆみ達と別れて…もう前にいるよ?」

『じゃあできる限り早く入ってきてくれる?』



 え? うん…。
 と怪訝に言いつつもコナン君が工藤邸に入ってきた音がした。
 そしてリビングの扉を彼が開いた途端に…振動に驚いたのか蜘蛛がぴくりと動く。
 反射的に拳銃を構えてしまった。驚いた。



「わあっ⁉︎ 黒凪さん⁉︎」

『ご、ごめんね! でも蜘蛛が動いてもうパニックなの私…!』

「く、くも?」



 そして彼は床にちょこんと立つ蜘蛛を見て、拳銃を構えて顔を青ざめる私を見て…何も言わずにティッシュを掴んだ。



「外に逃しますね…」

『う、うん、』



 そうして難なく蜘蛛を掴んでぽいとリリースしたコナン君。
 彼が救世主に見えた。冗談抜きで…。



「黒凪さんにも苦手なものってあるんすね。」

『そりゃああるわよ。…助けてくれて本当にありがとうね、コナン君。』



 きっと今の私は緊張が切れて顔がふにゃふにゃに緩み切っていることだろう。
 すると蜘蛛とコナン君に集中しすぎていたせいだろうか…秀一が家に入っていたことに気づいていなかった。
 リビングの扉が開いて、驚いて目の前のコナン君に抱きついてしまったのだ。



「んぐっ!?」

『あ…、ごめんなさいコナン君』



 コナン君の声に我に帰って腕をとき、コナン君を覗き込む。
 そんな中、しばし無言で私たちを見ていたらしい沖矢昴の姿をした秀一が真顔で口を開く。



「…随分仲が良いんだな。」



 その声に顔を見上げ、む、と秀一を軽く睨む。



『貴方が突然入ってくるから驚いたんでしょ。』



 ちなみにこの時俺…コナンはふわ、と香った香りに思わず自分の腕に鼻を近づけ、そして黒凪さんを見上げた。
 優しい香りだと、そう思ったのだ。
 そしてそんな黒凪さん越しにこちらを静かに見下ろす赤井さんを見て、我に返って背中が冷えた。



「何故ボウヤが居るんだ?」

『蜘蛛が出たから外に出して貰っていたの。』

「なるほどな。蜘蛛だけはどうしても無理だと言っていたしな…。」

『貴方が用事で外に出ていたから…頼りになるこの子に頼んだの。』



 にっこりと笑って言った黒凪さんに、一瞬だけ部屋の空気が冷えたように感じたのは俺だけだろうか?



『――ああそうだ、丁度いいわ。』



 そう言ってポケットに手を入れた黒凪さんが取り出したのは…1つのUSBメモリ。



『これ、アイリッシュの聴取の記録。』

「それほんと⁉」

「ほう。流石は日本警察…仕事が早いな。」



 赤井さんがすぐにノートパソコンに手を伸ばし、3人でソファに座る。
 そしてUSBメモリの情報をパソコンに映し出し…3人でその内容にくぎ付けになった。



「まずこっちが組織が血眼になって探していたノックリスト…そしてアイリッシュ本人が知る組織幹部のコードネームと特徴だな。」



 ノックリストを開く。
 これは…組織の人間が別の組織に潜入しているノックのリスト。
 つまりは、ここの人間を辿れば組織にたどり着ける…。
 情報をスクロールする赤井さんの指が止まる。
 俺も思わず、隣に座る…黒凪さんを見た。



『…あら、私の情報もある。』

「過去の分も一応取ってあったらしいな。」



 宮野黒凪、コードネーム:なし
 潜入先:日本警察、警視庁――。



「…この情報の中でも、コードネームがあるのは3人か…。奴らのことだ、情報を分けて保存しているだろうし、これは氷山の一角に過ぎんだろうがな。」

「 ”スタウト”、”アクアビット”、”リースリング”…。全員国外の一般会社などに勤務…。FBIで確保できそうかな?」

「カナダにいるアクアビットなら恐らく公安よりも先にたどり着けるだろう。」



 早速ジェイムズさんに連絡を取る赤井さんを横目に、1人アイリッシュが知る組織幹部の調書内容を確認している黒凪さん。



『…うん?』

「どうしたの? 黒凪さん。」

『このコードネームは初めて見るわ。…そうね、幹部に昇格したのは私が組織を抜けてからみたい。名前は…ピンガ。』



 このピンガに関しては、秀一も私も知らない幹部だから…姿を見せても後手に回る可能性が高い。
 そう言った黒凪さんに「確かに…」と思わず口をついて出た。



『まあ、コードネームを与えられる以前に会っている可能性は十分あるけどね。』



 なんにせよ、警戒するに越したことはない…。
 黒凪さんと赤井さんの言葉にごくりと生唾を飲む。



 Pinga


 (ラムの腹心に昇進して…同じくラムのもとで仕えるキュラソーと話した)
 (ラムが独自に調べている情報など、様々なことを聞く中で)
 (宮野黒凪の話になった。)


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