隙ありっ

□隙ありっ
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  緋色の序章


「―――!」

『?』



 工藤鄭。
 秀一と私の携帯が同時に鳴り響き、お互いに顔を見合わせた。
 そしてお互いの携帯を見せ合えば…秀一にはコナン君から、私には志保から連絡が入っている。



「…少し席を外す。志保と話してやれ。」

『ええ…』



 こちらに気を使って秀一が寝室へと歩いていき、それを見送ってから通話ボタンを押す。



≪あ…お姉ちゃん?≫

『どうしたの、志保。学校終わったところ?』

≪ええ…今しがたね。≫

『良かったら今日こっちに来て一緒にご飯作る?』



 うん…それもいいわね。聞きたいこともあるから…。
 そう言った志保に目を細める。



『何か気になることでもあった?』

≪…工藤君がFBIのジョディさんと学校帰りに会っていたから、何かあったんじゃないかって…。お姉ちゃん、最近大丈夫なの?≫

『大丈夫よ。きっとバーボンとスコッチのことで彼女と会っているんでしょう。』



 ああ…彼らね…。
 そう言って志保が少しだけ沈黙を落とす。そして、



≪私…お姉ちゃんはちゃんと何事も周到に準備して行動に移してることは分かってるわ。でも…これだけ聞かせて。≫

『うん?』

≪バーボンとスコッチは…大丈夫なのね?≫

『…ええ。理由は言えないけれど…大丈夫。私を信じて。』



 …分かった。じゃあ今日は博士の家で子供たちと遊ぶ予定だから…また料理は後日ね。
 そう言った志保に「ええ。」と返して通話を切る。
 通話を切って少しすると携帯を片手にした秀一もリビングに戻ってきた。



「志保はなんだって?」

『レイ君と諸伏君のことを心配してたみたい。コナン君もやっと2人の猛攻に焦り始めてるみたいだしね。』

「やはりな…ボウヤからの電話も同じ話題だったよ。」



 昨晩、あの病院…杯戸中央病院から帰ってきたお前が開口一番に言っていたことでな。
 杯戸中央病院でレイ君と諸伏君が楠田陸道の行方を探しており、偶然居合わせた高木刑事と話すようになって…よりにもよって、高木刑事が楠田陸道の車に残された血痕のことを漏らしてしまった。



『あの高木っていう巡査部長も、毛利さんとよく一緒にいるレイ君に警戒心が解けちゃったのねえ。コナン君に事件のことをちょくちょく話すぐらいだもの。』

「だろうな。それを受けて先ほどジョディに一応釘をさしておいたらしい。楠田陸道のことは話さないように、とな。」

『さて、それが吉と出るか狂と出るか…彼ら、特に諸伏君は心理戦に強いから。』





























 なんて、話していたのがお昼前。
 コナン君から1分おきに秀一の携帯、私の携帯と電話がかかってきたのが…夜。



「…ふむ。やられたらしいな。」

『あ…またかかってきた。もしもし?』

≪ご、ごめん! 今大丈夫⁉≫

『大丈夫よ。お風呂中だけど。』



 お風呂っ⁉ とコナン君の声がひっくり返る。
 そう、私たちが電話に出られなかったのは一緒にお風呂に入っていたから。
 工藤鄭はものすごい豪邸だから、お風呂も大きいのだ。それはもう2人でなんて余裕で入れるぐらいに。



≪ど、どうりで声が反響してると思った…っていうか、それより…!≫

「バーボンとスコッチにしてやられたか?」

≪っ! …う、うん…≫

「…話を聞こう…。」



 そうしてコナン君が話してくれた内容はこうだ。
 本日コナン君がジョディさんと会っている時、彼女の知り合いが事件に巻き込まれたとの一報を受ける。
 その連絡を受けてその知り合いが働く小学校へ行けば、なぜかレイ君の姿が。
 レイ君は被害者…ジョディさんの知り合いのストーカー被害の相談を受けていたようで、クライアントが事件に巻き込まれたために招集されたそう。
 ちなみに、ジョディさんと同じくFBI捜査官のキャメル捜査官も、諸事情からその場に居合わせたらしい。



「くく、キャメルはことごとく組織が絡むと運がないな。」

『笑うところじゃないわよ。』



 そうして事件を解決に導いたはいいが…病院から被害者の容体が急変したと連絡が入り、急いで杯戸中央病院へ。
 しかし病室に入ると被害者はぴんぴんしていた。



≪後から分かったことだけど…容体急変の電話、スコッチの罠だったんだ…≫



 僕らを追いかけてきた安室さんを放っておくわけにもいかないから、キャメル捜査官が安室さんと一対一で対峙する状態を作るためにね…。
 そして安室さんは執拗にキャメル捜査官に楠田陸道のことを聞き、そこにジョディ先生に変装したベルモットが割り込んでくる。
 そしてジョディ先生の登場に安心したキャメル捜査官は、



≪ベルモットに、楠田陸道が自殺したことを漏らしてしまった…≫

「…。」





























「…また協力してもらってすみませんね…ベルモット。で、結果は?」

「貴方達が予想した通り…楠田陸道は拳銃自殺。自身の車の中でね…。」



 運転するゼロの口元が吊り上がる。
 そしてきっと、俺も。



「それで? そんなことを知ってどうするの?」

「…どうもしませんよ。ただ組織の情報をFBIに捕まれていないか不安だっただけです。」



 FBIに情報を渡すのだけは…どうしても癪に触るのでね。
 そうごまかしたゼロを横目で見るだけのベルモット。
 彼女自身も様々なことを組織に隠している身だ、こちらの状況に土足で踏み込むつもりはないのだろう。



「そう。」



 とだけ言って彼女は煙草に火をつけた。



「何をしているか知らないけど…せいぜい目を付けられないことね…。」

「目を付けられる?」

「ジンよ。貴方たち、彼の獲物を奪ってるから。」



 獲物? 眉を顰めれば、煙草の煙を吐いてベルモットが言う。



「…ベレッタ。彼が愛用する銃と同じコードネームを与えられるはずだった存在…」



 宮野黒凪をね。
 ゼロが驚いたようにベルモットに目を向ける。



「あれでも、キールをかくまっていたFBIと行動を共にしていた彼女を、キール奪還に合わせてなんとしても始末するつもりだったらしいわよ。その前に逃げられてしまったけど。」



 それからずっと今か今かとその時を待っていたのに…結局シェリーが足手まといになってベルツリー急行の爆発であっけなく死んでしまった。
 不完全燃焼でずっと機嫌が悪いのよ、彼。その一報を受けた日からね…。



「…ご忠告どうも。気を付けることにするよ。」



 やはり宮野さんの話題になると冷静さを欠くゼロをフォローするため、ベルモットにそうとだけ返しておく。
 ベルモットはバックミラー越しに俺を見て不敵に微笑み、また煙草を肺いっぱいに吸い込んだ。



 Vermouth..


 (ベルツリー急行から下りてくるシェリーを見た。)
 (その後宮野黒凪の姿を見つけることはできなかったけど…)
 (シェリーが生きていたなら、十中八九彼女も…)
 (そりゃあそうよね。なんたって彼女は)
 (ベレッタなんだから。)

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