Long Stories

□蓮華の儚さよ
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 土翁と空夜のアリア



『…なんかさぁ、煩かったんだけど』

「あ?」

『今朝。すぐに二度寝したけどさ』

「…門番が勘違いしやがったんだよ。入団希望者を」



 ふぅんと壁に背中を付けた黒凪。
 彼女は随分背丈も伸び身長以上もはじめは在った髪が今では肩までだ。
 勿論目の前の彼も成長している。
 あの研究所から逃げ出して9年目だ。
 色々とあったが今は普通のエクソシストとして二人共無事に暮らしている。
 ちなみに部屋は隣だ。部屋と部屋の間に扉が付いている為殆ど相室の様なものだが。



『昼食べた?』

「食ってねぇ」

『んじゃあ行こうよ。何かお腹に入れたいわ』

「よく起きてすぐ食えるもんだな」



 煩いと彼の腕を拳で軽く殴る。
 彼は特に表情も変えず己の相棒である刀を持ち上げ黒凪を振り返った。
 黒凪は自分を見下している神田を見上げるとにこっと笑い包帯でぐるぐる巻きの手を持ち上げる。
 そして位置が些か高い彼の肩に手を置くと扉を開いた。



『行くぜ、食堂』

「…一々言わなくて良いだろ」

『今日はうどんだな。ユウは?』

「蕎麦」



 その内死ぬぞと言う彼女の冗談にフンと返した神田は黒凪と共に歩いていく。
 神田が気を使っている為だろうか。
 それとも黒凪の歩く速度が速いからだろうか。
 二人とも不思議と歩幅が乱れる事は無かった。
 まるで双子の様に速度を乱す事無く歩く二人。
 そんな二人は食堂に着くなりこれまた同時に今日の昼食をコックである彼に頼む。



「蕎麦で」

『うどん』

「はいはーい!やっぱり仲良しね!」



 目の前の彼が放った何気ない一言に頬を緩めた黒凪。
 そんな彼女は神田の腕を肘で軽く子突き、振り返った神田に笑顔を見せた。
 えへへと笑った黒凪に目を逸らして少し笑みを見せる神田。
 やがて渡された昼食に再び二人して席につき手を合わせた。



「『いただきます』」



 
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