Long Stories

□蓮華の儚さよ
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 土翁と空夜のアリア



「う、うぅうう…っ」

「なんで、なんであんな若さで…!」

「…………」

『…………』



 二人して箸が止まった。
 背後をチラリと見れば涙を流している探索部隊が複数。
 心なしか塩の味がしてきたような。
 そこまで考えるとなんだかうどんを食べる事が億劫に感じた。
 それは横の彼も同じらしくチッと舌を打つとボソッと、だが比較的大きな声でこう言った。



「余所でやれよ。鬱陶しい」

「!…んだと?テメェ今ぁ!」

「あ?鬱陶しいっつったんだ。飯食ってる後ろでメソメソしやがって」

「テメ…、仲間が死んだんだぞ!?」



 その言葉に知った事かと目付きを鋭くする神田。
 その様子に相手も怒りが込み上げて来たのか神田が箸を置いたと同時に拳を振り上げた。
 おー、怖い。と目を逸らした黒凪は水を一口飲む。
 そして背後を見れば神田が殴りかかってきた探索部隊の首を掴み持ち上げている状態。
 持ち上げられている男は物凄い力に泡を吹き始めた。
 やばいかもと立ち上がろうとした黒凪だったがそれよりも早く神田の腕を誰かが掴む。



「離してあげて下さい。この人の言い分も分かるでしょ」

「あぁ?」

「ぐっ、そ……だ…俺達は、お前等の為に…っ」

「俺達の為?…それしか出来ねぇんだろ。仲間が死ぬのがそんなに嫌か」



 なら探索部隊なんざ止めちまえ。
 その言葉に神田の腕を掴んでいる力が増す。
 「そういう言い方はないでしょ」そう言った少年が神田を睨み上げた。
 白髪に、顔の傷。服装からして入団希望者だなと目を細める黒凪。
 すると少年と目が合い彼は黒凪に向かって口を開いた。



「彼と知り合いですか?」

『…まぁ』

「止めてください。出来た筈です」

『……悪いね、昔からこうなんだ』



 黒凪が立ち上がると神田が掴んでいた男を落とした。
 それと同時に少年も神田から手を離し睨む神田を睨み返す。
 黒凪はせっせと神田の食器も持ち上げ歩き出した。



「早死にしなきゃいいがな。モヤシ野郎」

「アレンです。…随分嫌な言い方するんですね」

「はっ。テメェには関係ねぇだろ」

「…見過ごせない言い方でした」



 お前、俺の嫌いなタイプだ。
 そう言っているのが耳に届いた。
 さっさと食器を厨房に返した黒凪が帰ってくると遠目にリーバー班長が見える。
 彼は睨み合っている少年、アレンと神田を見ると「お、」と目を見開き口を開いた。



「おーい、神田とアレン、昼食10分で食って室長室に来てくれ!」

「あ?…任務か」

『頑張れ。私は昨日帰って来たし、今日は非番だわ』



 チッと一足先に室長室に向かい始める神田。
 そしていつの間にか椅子に座りバリバリと恐ろしい勢いでかなりの量の昼食を頬張る少年。
 彼は良く知っている。
 この物語の主人公、アレン・ウォーカー。
 彼は今後始めての任務で気難しい神田と力を合わせて戦ってくれる事だろう。




 主人公。


 (あの、僕アレン・ウォーカーです)
 (…黒凪)
 (あ、はい。よろしくお願いします。…ところであの、)
 (?)
 (室長室は何処に…)

 (ん?手を縦に…あ、付いて来いって事か)
 (寡黙な人だなぁ)


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