Long Stories

□蓮華の儚さよ
8ページ/30ページ



 巻き戻しの街


『っ、最悪…』



 ゆっくりと顔を上げた黒凪が手元を見下した。
 かなり複雑に絡まっている鎖。
 これぐらいなら破壊するのは容易い。…しかし。



『もう夜だし…』



 こんなに再生に時間が掛かったのは久々だ。
 いや、むしろ初めてと言ってもそう相違ない。
 どれだけ無茶苦茶にして…、…いや、



『(…私の寿命がもう短いだけかな)』



 眉を下げて小さく笑う。
 そして黒く染まった包帯を一気に膨張させ鎖を破壊した。
 息を吐いて立ち上がりミランダの部屋に向かう。
 するとドタタ、と焦った様子で外に出て来るミランダ。
 彼女は黒凪を見ると物凄い勢いで掴みかかった。



「ド、ドクターを…!」

『え?』

「アレン君とリナリーちゃんが大変なの、起きないの…!」

『…。分かった、着いて来て』



 ミランダと共に部屋に入るとぐったりとした様子で倒れているアレンとリナリー。
 恐らくロードと戦ってやられた後、か。
 どうにか足止めして軽くこの任務も済ませるつもりだったのに。



『…上手くいかないもんだね』

「え?」

『内緒にしてて』



 少し振り返って言った黒凪に再び「え?」と訊き返すミランダ。
 しかし彼女の包帯が白く染まり薄く光り出した光景に言葉を飲み込んだ。



『イノセンス発動。゙白ノ誓詞(フローラ)゙』

「っ…!」



 白い包帯が2人を包み込み黒凪が倒れ込む。
 それと同時に包帯が黒凪の元へ戻りアレンとリナリーが同時に目を開いた。
 起き上がった2人にミランダの目に涙が浮かぶ。
 2人は唖然と周りを見渡し倒れている黒凪を見下した。



「…黒凪…?」

「黒凪!?どうしたんですか!…ミランダさん!」

「え、ええ!?」

「一体何があったんです!?」



 アレンが焦った様にミランダの肩を掴んだ。
 しかしミランダにも状況は理解出来ていないのか首を横に振るばかり。
 リナリーは焦った様にゴーレムに目を向け自分の兄を呼んだ。
 巻き戻しの町の中では繋がらなかった筈のゴーレムが反応し少し遅れてコムイが出る。



≪やあリナリー!任務はどう…≫

「兄さん!神田は!?」

≪か、神田君?…神田君なら、≫

≪どうした≫



 コムイの声を押し退ける様にして通話に出た神田。
 その声を聞いた途端にリナリーがゴーレムをガッと掴んだ。



「気が付いたら黒凪が倒れてて…!目を覚まさないの!」

≪……。≫

「もしもし!?神田!?」

「黒凪は大丈夫なんですか!?傷だらけだった筈なのに治ってるし何が何だか…!」



 アレンの言葉を聞いた神田は微かに目を見開きやっと納得が言った様に舌を打った。
 その様子に「何か分かったの!?」とリナリーが焦った様子で問いかける。
 落ち着け、と落ち着き払った神田の声が聞こえ2人は思わず口を閉ざした。



≪寝てるだけだ。そのまま連れて帰れ≫

「ね、寝てる?」

「どうして急に…?」

≪さあな≫



 それを最後にブチッと通信が切られアレンとリナリーの目が黒凪に向いた。
 確かに寝ていると言われれば眠っている様にも…。
 助けを求める様にリナリーに目を向けると彼女も困惑した様子で口を開いた。



「とりあえず教団に帰りましょう。…神田が言うなら大丈夫だろうから」

「…解りました」

「だ、大丈夫なの?本当に?」

「大丈夫よミランダ。…とにかく私達は教団に戻るから、…貴方は…」



 …私はこのイノセンスの適合者、なのよね…?
 涙でぐしゃぐしゃな顔で言った彼女に頷くリナリー。
 時計を撫でたミランダはゆっくりと顔を上げた。



「…私も連れて行って」

「!」

「やっと役に立てそうな気がするの、」

「…解ったわ。一緒に行きましょう、…教団へ」


























「なー、ミランダ引っ越すんだってさ」

「え?…追い出されるんじゃなくて?」

「なんか凄い所に行くんだってさ」



 不思議気にそう話す子供達の前を通り馬車に乗り込んだ。
 眠っている黒凪を隣に乗せたアレンはリナリーの隣に座っているミランダに笑顔を見せる。
 出発しましょうか。アレンの言葉にミランダはしっかりと頷いた。



「…にしても…」

『………』

「よく眠ってるなぁ…」

「本当に…」



 揺らしても叩いても落としても起きなかったわね…。
 困った様に言ったリナリーに「ははは、」と乾いた笑みを返す。
 確かに黒凪は何をやっても目を覚ます事は無かった。
 一体いつまで眠り続けるのか、それはどうしてなのか、…それは結局分からず終いで。



「神田に聞けば何か分かるんでしょうか」

「…きっと教えてくれないわ。お互いに口が堅いから」



 すやすやと眠り続ける黒凪に困った様に息を吐く。
 本当に謎の多い2人だなぁと思う。
 結局ミランダの部屋を出てから彼女の消息は少しの間掴めなかったわけだし、次に目覚めた時は肝心の本人は眠っていて。
 …それに。



「(…団服に空いた弾丸の跡、そして首元の血の跡…。)」



 一体彼女は何を。
 どんなに考えても浮かぶのは憶測だけで。
 そうなれば自分に出来る事は何もない。
 彼女が目覚める事を待って、…そして。




 黒と赤と白。


 (チッ、…あの野郎…)
 (ま、まあまあ…)


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ