Long Stories

□蓮華の儚さよ
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 復活の葉



『いやー、凄い吹雪だねえユウ』

「……。それ寄越せ」

『えー…』

「うわっ!?…ほ、包帯が…」



 列車に揺られる事数時間。
 目的の地に着いた面々は吹き荒れる吹雪に一斉に嫌な顔をした。
 黒凪はその寒さからか黒い包帯で普段は覆っていない口元と額まで覆っており、もはや見えるのは癖毛の黒髪と両目だけになっている。



『んじゃあ歩きながら貸したげるよ。行こ』

「チッ」

「え、行くんですか!?」



 驚いた様に言ったアレンに2人共一言も返さない。
 あれ、なんで返してくれないんだろう。
 そこではっと気付く。
 巻き戻しの町で共に任務をして距離が縮まったと思っていたが、それは勝手に思っていただけで。
 いつも彼女は自分から僕に話しかけてくれた事はなかったな、と。



「(つまり全然仲良くなれてない…!)」

「ん?どうしたさ、アレン」

「あ、いえ…(うわー、勝手に仲良くなったつもりでいたな…)」



 行かねーの?
 そんなラビの言葉にはっと目を見開いて「行きます!」と駆けだした。
 少し離れた所には黒凪に包帯を分けて貰っている神田が居る。


























「さ、寒いさー…。……黒凪さーん…」

『…寒いの?』



 うんうん、と頷くラビにため息を吐いて手を伸ばす。
 手先からゆるゆると動き出した黒い包帯が伸びて来た様子を見るとラビが手袋を取って手を伸ばした。
 ラビの指先に触れた包帯はするすると袖から中に入って行き、やがて震えていたラビが「おっ!」と目を見開く。



「すげー!めっちゃ暖かいさー!」

『ん。』

「え、」

『良ければどーぞ。死なれても困るしね』



 ぺし、とアレンの頬を叩く包帯。
 是非お願いします、と答えると包帯が首元から中に入って行った。
 黒凪の目がブックマンにも向く。
 それに気付いたブックマンが手を上げた。



『ったく…』

「…おい。」



 ん?と神田の声に振り返る。
 ブックマンに包帯を巻き終わった黒凪が神田の視線の先に目を向けると深いため息を吐いた。
 前方に2人が倒れて雪に埋もれている。
 近くに寄ると少女とその父親の様だった。



「だ、大丈夫ですか!?」

「しっかりするさ!」



 するすると包帯が2人の服の隙間から中に入り込み黒凪が目を細める。
 倒れたのはついさっきみたいだ。
 ボソッと言った黒凪にアレン達が目を向けた。



『体温は維持しとくから何処か近くの宿に連れてってあげな。私とユウは探索を続けるから』

「行くぞ。」

『はいはい』



 歩き始めた2人を見送って1人ずつ持ち上げるアレンとラビ。
 ブックマンもその後をついて行き5人は完全に二手に分かれた。
 持ち上げた2人の体温が温かい事に気が付いたアレンがラビに目を向ける。



「あの、黒凪のイノセンスの能力って一体…」

「ん?」

「この黒い包帯と赤い包帯は見たんですが…いまいち分からなくて…」



 あぁ、とラビが背に負ぶった少女を持ち直して口を開いた。
 黒凪の包帯には色んな名前と力があるんさ。
 色が変わる事に能力も変わる。



「黒い包帯はティーテレスって言って人形劇の意味を持つ名前さぁ。」

「え、って事は常時開放したままなんですか!?」

「そうじゃ。黒凪・カルマはイノセンスを解放していられる時間に関してはエクソシストの中でも群を抜いておる。」

「ティーテレスはアクマに対する戦闘能力は低いけど防御力は抜群。ついでに実用性も高いからすっげー便利なんさ。」



 だから任務中はずっと解放してるぜ。
 そう言ったラビに「へー…」と感心した様に目を見開いた。



「後は赤い包帯だっけ?」

「はい。たしかクイーン・オブ・ハートって…」

「そ。あれは速攻に特化したバージョン。早く方を付けたい時とか暗殺向き。」

「暗殺向き…」



 勿論他にも色々バージョンはあるさぁ。派手な攻撃とか黒以上の防御壁を作れる色とか…。
 笑ったラビに「やっぱりそうなんですか」と目を向ける。
 でもなー、アイツ嫌いだからなぁ…。
 そう言ったラビに首を傾けた。



「黒と赤までならギリギリダサくねーだろ?でも黄色とか緑とかなるとダセーって本人も嫌がってんの。」

「あー…」

「あ、ちなみに派手な攻撃が出来るのは灰色の時さぁ。この色はまだ許容範囲。」

「灰色…」



 気を付けた方が良いぜ?
 え?と振り返る。
 結構気付かねー内に黒いのがちょっと薄くなってたりするから。
 色が変わってる事に気が付いたらすぐさま耳塞いだ方が身の為さぁ。
 耳を塞ぐ?そう訊き返すと「ま、見てからのお楽しみだな」とにやにや笑って言った。



「(一体どんな派手な攻撃を…)」



 気になるなぁ…と神田と黒凪が去って行った方向に目を向ける。
 依然として吹雪が吹き荒れていた。
 …ねえ、もう日が落ちて来たけど。
 気だるげに言った黒凪に前を歩いていた神田が振り返った。



『周りの捜索はこの子達がするから一旦休もうよ。』



 そう言う黒凪の背後には5体程の黒い包帯で出来た人型のイノセンスが立っていた。
 チッと舌を打って周りを見渡す神田。
 近くに丁度良い洞穴を見つけた神田はそちらに向かって歩き始めた。
 その様子に小さく笑ってついて行く。



『…ユウ、アンタまだ゙あの人゙の事探してんの?』

「あ?」

『アレンが言ってた。』



 また舌を打つ神田。
 どうやら口走った自覚はあるらしい。
 全くもう、と目の前で燃える炎に手を翳してため息を吐いた。



『懲りないねえ。』

「るせぇ。…テメェは思い出したのかよ」

『ん?』

「…こうなる前の事だ」



 この体に移される前。
 随分と薄れた記憶の先。
 黒凪は小さく笑って言った。



『いーや?…全然。』

「…」

『ま、頑張りなよ。』



 会えると良いね。
 炎を眺めて言った黒凪に「あぁ」と呟く様に言った神田。
 その言葉に眉を下げて彼の肩に頭を傾けた。



「…寝るのか」

『うん。』



 おやすみ。
 そう言って目を閉じた黒凪の顔を横目で覗き込む神田。
 そして目の前の炎に目を移すと彼も徐に目を閉じた。



 
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