Long Stories
□蓮華の儚さよ
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復活の葉
「きゃあ!?」
「なんだこれは!」
「え、」
「なんだ?」
やがて倒れていた親子2人も目を覚まし彼等を途中で見つけた小屋に置いて行ったアレンとラビ。
2人で少し山の奥に進んで捜索を始めてから随分と経った頃、復活の葉とやらを探しているあの親子の声が少し離れた所で聞こえた。
ついて来てたのか…と眉を下げたラビとアレンが其方に向かう。
「この!娘に何を…!」
「お、お父さん!」
持っていたスキー道具で目の前に立っている黒い包帯で出来た人形を殴りつける。
ぶわ、と一瞬形が崩れた人形だったがすぐに元に戻った。
その様子を見たラビは目を見開いて其方に駆け寄る。
「ちょ、ちょっと待った!」
「っ!?」
「あ、貴方は…」
≪…ラ…ビ…≫
掠れた機械音の様な声が人形から発せられた。
え、ラビの事を知ってる?と目を見開くアレン。
振り返ったラビは人形を見て小さく笑った。
「これは黒凪の能力さ。イノセンスに辺りを捜索させてたんだな、きっと」
「…本当だ、黒い包帯で出来てる…」
≪人間…居た……返そうとした…だけ…≫
突っ立ったままそう言った人形は控えめに言っても不気味だ。
ぶわ、と熱風が吹いたと思えば吹雪が吹き荒れる。
吹雪に顔を上げたアレンとラビは立っている親子2人を見るとため息を吐いた。
もう日が落ちて大分経つ。そろそろ休憩しなければならない。
「ほっとくわけにもいかねーしな…」
「とりあえず落ち着ける場所を、」
≪……≫
しゅるしゅると人形から包帯が溢れ出し4人の身体に巻き付いて持ち上げる。
そして徐に歩き出す人形。
4人は包帯の温かさに目を見開いた。
「あ、あの岩場良いじゃん!」
≪さっき…見つけ…た…≫
4人を地面に降ろしてせっせと火を起こす準備をする人形。
その様子を見ていたラビは笑顔でアレンに言った。
「な?実用性あるだろ?」
「は、はい…」
≪…ガガ、…ラビ?≫
「お、黒凪だ。黒凪、今何処さー?」
今はまた吹雪いて来たから岩場に居る。
もう夜だからそこで眠ろうと思ってるんだけど…。
俺等もそんな感じさぁ。んじゃあまだ捜索は続行って事だな。
そう言ったラビに「そだね」と返して通信が切れる。
人形は徐に立ち上がった。
「あ、何処かに行くんですか?」
≪…イノセンス…捜索……任された…≫
「もうちょっと俺等と一緒に居てくんね?その方が連絡も付くし。」
≪……≫
すとんと座る人形。
その様子を見たアレンは隣に座る少女に向かって口を開いた。
「…確か復活の葉とやらを探しているんでしたっけ。」
「はい。火事で亡くなった弟を蘇らせたくて…。」
「おい、そんな奴等に話すな。」
「それはないさぁ。…こっから先も俺達について来る気だろ?」
俺等は危険な相手と戦ってんだ。出来れば今すぐ返したいぐらいなんだぜ?
そう言ったラビに父親がチッと舌を打った。
…一方アレン達と通信していた黒凪は徐に目を開きくあ、と欠伸を漏らす。
ごそ、と動いた黒凪に神田も目を開いた。
『人形の内の1体がラビ達と会ったみたい。』
「そうか。」
『…!』
突然目を見開いた黒凪が外に目を向けて小さく舌を打った。
アクマが居るみたいだ。
そう言った黒凪に六幻を持ち上げる神田。
それを制した黒凪は目を閉じて先程倒された人形の位置を探る。
『…近いって言えば近い。でも場所的にはラビ達の方が近いね』
「……。」
まあラビ達も動き始めるって言えば日が昇ってからだろうし、それまでは私がイノセンスで護っとく。
目を細めた黒凪に息を吐いて目を閉じる神田。
そんな神田を見て小さく笑った黒凪はラビ達の側に居る人形に命令を飛ばした。
「ん、…夜が明けましたね…」
「そうみたいだな…。…え゙」
「え?…わ、」
日の光に目を開いた2人が見たものは随分と形が崩れた人形。
ばっと周りを見渡せば寒さをしのぐように張り巡らされた黒い包帯。
それを回収する様に人形が人型を取り戻している最中だった。
「…どうやら一晩中護ってくれてたみたいですね…」
「あれ、朝…?」
「あ、おはようございます。…僕等はもうそろそろ出発したいんですが、お父さんを起こせますか?」
「…良いんですか?ついて行って…」
貴方達を放っておく方が危険ですから。
少し困った様に笑って言ったアレンに「ありがとうございます」と頭を下げて隣の父親を起こす少女。
やがて4人で再び山の奥へ進み始めた。
「あ、あのー…」
「え?」
「ん?」
足を止めたアレンにラビも止まり、親子2人も足を止めた。
生い茂った木の中から顔を覗かせた女性。
その背後には男も2人居た。
「道に迷ってしまって…宜しければ少し案内してくださいませんか…?」
「町に出られりゃそれで良いんだ!頼む!」
「このままでは遭難してしまいます…、」
困った様に話す3人にアレンが目を細める。
キュイイ、と左目がアクマの出現を知らせた。
その事にラビがイノセンスに手を伸ばしアレンが眉を寄せる。
「貴方達はアクマですね」
「やっぱイノセンスがあるみてーだな、アレン!」
「チッ、」
【バレちゃあしょうがない…】
人の皮を突き破って姿を現したアクマに親子が目を見開いて尻餅を着く。
その前に人形が立ちそれを見たアレンとラビがイノセンスを解放した。
2人を護っていてください!
アレンの言葉に頷いて2人を抱えた人形は走り出した。
【逃がさないよ!】
「そうはさせません!」
【ケケケ、お前の相手は俺様だァ!】
「アレン!」
女のアクマが人形に攻撃を仕掛け、それを阻止しようとしたアレンが他の1体に攻撃された。
それを見たラビが助けに入ろうとするが、そのラビを吹き飛ばしたのはまた別のアクマ。
偵察能力しかない人形は親子を庇って消え去ってしまった。
「きゃああ!」
「っ…!」
「くそ、このままじゃ2人が…!」
「ぐ、んの…!」
ラビを見れば彼はイノセンスをアクマに捕まれ身動きが取れなくなっている。
其方に目を向けた瞬間、背後に迫ったアクマに吹雪をぶつけられアレンも身動きが取れなくなってしまった。
親子に迫るアクマ。アレンがその様子にギリ、と歯を食いしばった瞬間。
「災厄招来…界蟲゙一幻゙!」
『ティーテレス』
神田の一撃がアクマ達に直撃し、アクマ達が怯んだ瞬間に残っていた人形3体がそれぞれの背後に立った。
人形がアクマに抱き着く形で拘束しそれぞれの包帯が黒凪の手元に集結する。
ぐっと包帯を握った黒凪は「んー…」と微妙そうな顔をすると一気に手元に引き込んだ。
【ぐ…っ】
【て、撤退するぞ!】
【っ…!】
逃げて行ったアクマに「あー…」と黒凪がため息を吐いた。
すると背後に居たラビが「サンキュー2人共!」と笑顔で言い神田がフン、と背を向ける。
そんな神田に小さく笑ってラビがアレンの元へ向かった。
「アレン、…アレン大丈夫か?」
『やっぱ色んな所に力を分散させてると力が弱まるな…』
「ブツブツ言ってんな。それよりモヤシはどうなってる」
『え?』
吹雪に当てられて倒れたままのアレン。
彼に近付いた黒凪は団服の首元を少し引っ張り包帯を探す。
黒い包帯を見つけた黒凪はゆっくりと引き抜いた。
『あー…こりゃ駄目だ。アクマの攻撃にやられてボロボロになってる』
「うわ、ひでーなこれ…」
『これだけの攻撃を受けたんなら気を失うのも無理ないね。』
「…とりあえず俺が担ぐさ。小屋とか探そーぜ」
チッと舌を打って歩き出す神田。
彼に続いて山を捜索していると運良く小屋を見つけ中に入り込んだ。
目を覚ましたアレンに毛布をかぶせ小屋の暖炉に火を炊く。
椅子に座っていた神田は衰弱した様子のアレンにまた舌を打った。
「チッ、情けねぇ…」
「…すみません。」
ずび、と鼻水を啜るアレン。
チッと舌を打った神田はチラリと外の様子を見た。
窓の側にはアレンの様子を見ている少女の父親と黒凪が立っている。
『それにしてもアクマを殲滅出来なかったのは辛いね』
「確かにな…。イノセンスを先に見つけられたらヤバいさぁ」
「…ったく。イノセンスを探しに行くぞ」
『えー…この吹雪の中を…?』
当たり前だ。殲滅しきれなかったお前にも非はある。
睨んで言った神田にむっと黒凪が眉を寄せた。
それを見た神田も微かに眉を寄せる。
『気にしてる事を言わないでくれる?』
「…。チッ、悪かったな」
『ふん。』
神田から目を逸らし準備をする黒凪。
それを見たラビも立ち上がり「それじゃあ俺も行くさ」と笑った。
徐に荷物に手を伸ばす父親。
神田がそれを見て眉を寄せた。
「ついて来る気か?」
「…俺の事は放っておけ」
「駄目よ!父さんが行くなら私も…!」
「娘の事はどうする。こいつもお前のくだらん意地の巻添えか?」
神田の言葉に父親がぐっと眉を寄せた。
ここならアレンも残るし安全さ。夜が明けるまでは待ってな。
眉を寄せて父親が椅子に座ると3人で顔を見合わせて外に出て行く。
吹き荒れる吹雪の中を進み始めた。