Long Stories

□蓮華の儚さよ
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 復活の葉



「っ、そんな…!」

「?…どうかしたんですか、」

「父さんが居ないの!」

「ええっ!?」



 小屋で眠っていたアレンが飛び起きて中を見渡した。
 確かに父親の姿が無い。
 急いで扉を開いて外に出ると足元に山の方へ向かう足跡が残っている。
 後を追う為に一旦小屋へ戻りコートを羽織るアレン。
 そんなアレンに少女が口を開いた。



「私も行きます!」

「でも、」

「行かせてください、…父さんを放って1人で待つなんて出来ない…!」

「……、分かりました。行きましょう」



 アレンの言葉に少女が安心した様に笑顔を見せた。
 そうして2人で小屋を出て父親の足跡を頼りに進んで行く。
 一方、その足跡の先に居る神田達はイノセンスがあると思われる洞穴の前にまで迫っていた。
 しかし洞穴から吹き荒れる猛吹雪に近付けずにいる。



「っ、此処か…!」

『洞穴から吹雪の時点で大分不思議だからね…っ』

「…っ、ちょっとぐらいならこの吹雪、止められる筈さ…!」



 ラビがイノセンスを取り出し2人に目を向ける。
 神田と黒凪は少し移動してラビから離れた。
 ぐん、と巨大化したラビのイノセンスの周りに複数の円盤が浮かび上がる。
 その内の1つをイノセンスで地面に叩きつけた。



「木判!」

「(自然物に影響を及ぼす、)」

『(ラビのイノセンス特有の特殊技…)』

「天地盤回。」



 すっと空をラビが指さした瞬間、吹き荒れていた吹雪が一瞬で止まった。
 さて、中に入るさー。
 にっこりと笑って言ったラビに何も言わず洞穴に入って行く。
 その背後ではその様子を見ていた父親が洞穴に入って行く3人の後をついて行った。



「!…奥が光ってる」

「行くぞ」



 洞穴の奥に辿り着くとそこには1本の木が立っている。
 その木の葉は青々と生い茂りその真上には空が見えていた。
 明らかに異様な木の姿に目を細めた神田が近付くが、途端に熱風が吹き彼を吹き飛ばす。
 それを黒凪がどうにか受け止めた。



『〜っ』

「2人共大丈夫さ!?」

「くそ、近付けば熱風が行く手を阻みやがる」



 …やっぱりあったんだ。
 信じられない物を目の当たりにした様な声が響き3人が振り返る。
 そこには小屋に居る筈の父親が立っており3人で眉を寄せた。
 しかし父親はそんな3人に目もくれず木に向かって走って行く。



「これで…これであの子を蘇らせる事が…!」

「よせ!危険さ!」



 ぶわ、と熱風が吹いて父親を吹き飛ばした。
 手を伸ばした黒凪は彼を包帯で受け止めて威嚇する様に熱風を吹かせる木を睨む。
 立ち上がった神田が六幻を構えた。



「力尽くでやるしかないらしい…」

『同感。』



 神田がイノセンスを解放し黒凪の包帯が赤く染まる。
 吹き始める熱風を刀で受け止めた神田の背後に黒凪がすぐさま回った。
 熱風の中に鋭い雹が紛れ、それを見た神田が刀で力任せに斬り伏せる。
 一瞬止んだ熱風にそのタイミングを見計らって黒凪が走り出した。



『――その首頂いた。』



 一瞬で鋭い刃が木を切り裂き真っ二つに。
 倒れた木の葉が一瞬で枯れ果て、その木の中心部分で輝くイノセンスに手を伸ばした。
 しゅるしゅると包帯が黒く染まり黒凪の元へ戻って来る。



「…イノセンスは回収した。戻るぞ」

「ま、待て!それを寄越せ…!あの子を、息子を蘇らせるんだ!」

「イノセンスにそんな力は無い。諦めるんだな」

「だが…!」



 ホントにこのイノセンスに力は無いんさ。
 神田の前に立ったラビが言った。
 多分このイノセンスは偶然この木に宿ってその葉を輝かせた。
 それを見た誰かが復活の葉だって噂を広めたもんで、色んな奴がその葉を取りに来たんだと思う。



「そんな事をずっと許してたらこの木が枯れちまうだろ?…だからイノセンスは木を護る為に吹雪や熱風を吹かせたんさ。」

「っ、」

「これで気が済んだか?…これは復活の葉じゃない。イノセンスなんさ」

「…。外に出るぞ」



 神田の言葉に従って外に出る。
 外には晴れ渡った空が広がっていた。
 いやー、やっと晴れたさ!
 快晴の空を見上げるラビだったが、ガサッと微かな音を聞くと目を見開いてイノセンスに手を伸ばす。
 神田も六幻を掴んだ。



「来るぞ」

「おう!」



 雪が盛り上がりアクマが姿を現した。
 すぐさまイノセンスを発動し構えるラビと神田。
 黒凪もため息を吐くと包帯が巻かれた拳を握りしめる。



【イノセンスを渡して貰おうか!】

「渡すかよ!…大槌小槌、」

「災厄招来、」

【っ!】



 ラビと神田がすぐさま2体のアクマを吹き飛ばし残った女のアクマがチッと舌を打つ。
 2人の一撃を食らっても破壊されていないアクマの頑丈さを見た黒凪は刀を構える神田に向かって口を開いた。



『ユウ!一気に方を付ける!』

「…解った。馬鹿ウサギ!」

「へ?…うっそ」

『……。』



 黒凪の灰色に染まった包帯が彼女の真上に集結していく。
 その様子を見たラビはさーっと顔を青ざめるとイノセンスを構え直しアクマの攻撃を防いだ。
 それを見た女のアクマはチッと舌を打つと倒れている他の2体を見て口元を吊り上げる。



【良い事を思い付いた…!】

【っ!?お、おいお前何を…】

【止めろ!おい!】



 吹雪が吹き荒れ、やがて倒れていた2匹が姿を消した。
 そして残った女のアクマに目を向けると彼女の身体に先程の2体の能力が備わったかのような姿になっている。
 成程、合体しやがったか。
 神田の言葉に黒凪が小さく笑う。



『上等。』

「あーらら、的を絞る様な事しちゃって。ユウ、やるさ…」

「あれを寄越せ!」

「な、」



 振り返ったラビは父親に取り押さえられている神田に目をひん剥いた。
 ユウ!?と驚いた様に言うラビに黒凪も神田に目を向ける。
 アクマもその様子に気が付いたらしくその隙をついて冷気を漂わせラビと神田の足を氷漬けにさせた。



「チッ、離せ…!」

「あれがあれば…あれがあれば息子が生き返る!」

「こんな時にふざけた事言ってんじゃ、」

【アハハハ!全員死になさい!】



 ドドドド、とアクマから銃弾が撃ち出される。
 舌を打って黒凪が目を細めた時「ラビ!神田!」とアレンの声が聞こえた。
 その事にすぐさま踏み止まった黒凪はアクマと向き直っているアレンに目を向ける。



「良かった、間に合って…!」

【チッ、次から次へと!】

『…!』



 アクマに応戦するアレンを見ていた黒凪が真上を見上げる。
 灰色の包帯で作り上げられた大砲の銃口に光が集まっていた。
 その様子を見たラビはすぐさま両耳を塞ぎ「アレン!」と声を上げる。
 え!?と振り返ったアレンは「え゙!?」と目をひん剥いた。



「灰色さ!耳塞げー!」

「っ!」

【はァ?】

『灰ノ砲撃(ティラ・ラルク)』



 ドンッ!と吐き出された巨大なミサイル。
 その衝撃に黒凪も耳を塞ぎ少し後ずさる。
 それ程の威力で吐き出されたミサイルに目を見開いたアクマはすぐさま回避する為に飛び上がった。
 しかしミサイルは方向を変えアクマを逃がさない。



【な…!】

「アイツの砲撃から逃げられると思うなよ…」

「何処までも追い詰める。それが黒凪の砲撃の醍醐味さ!」

『消飛べ…!』



 アクマに直撃して周りの雪を吹き飛ばす程の衝撃波が起きた。
 そんな衝撃波に吹き飛ばされて転がるアレン達。
 やがて衝撃が収まり顔を上げると辺り一帯の雪は何処かに吹き飛んでいた。



「あ、相変わらずなんつー威力…」

「こんなの撃つべきじゃないです、人が居る所で絶対撃ったら駄目なやつです…!」

『だからこんな山奥で撃ったんだよ。』

「人!俺等人だから!」



 自分を指差して言ったラビにアレンが激しく同意する様に頷いた。
 そんな中、ゆらゆらと神田に近付いた父親が「あれをくれ、」と言う。
 まだ言うか。とげんなりした様に言った神田に父親が地面に膝を着いた。



「頼む、息子を…あの子を蘇らせたいんだ…!」

「父さん…」

「あ、…大丈夫でしたか?」



 現れた少女にアレンが問うと小さく頷いた。
 父親は神田に縋り付く様に手を伸ばす。
 その手を阻む様にアレンが前に出てしゃがみ込んだ。



「いい加減にしてください。…貴方は今、死んだ息子さんの事しか見えてない」

「っ、」

「貴方が救うべきは彼女です。これじゃあ生きている筈の娘さんがまるで死んでいる様じゃないですか」

「!」



 父親が目を見開いて地面に手を着いた。
 そんな父親に駆け寄った少女が言う。
 私は良いの、と。
 その言葉を聞いた父親の目に涙が浮かんだ。



「ぐ、…くそ…っ」

「…。俺はイノセンスを持って先に教団に帰る。」

「え、一緒に帰らねーんさ?」

「これは遠足じゃねえんだぞ」



 黒凪は?と問うラビに振り返る。
 此方を睨む様に見る神田に気付いた黒凪は小走りに近付いて隣に並んだ。
 やっぱ仲良いさ、と笑ったラビは親子を見ているアレンに目を向ける。



「それじゃあ俺等も帰るか、アレン」

「あ、…はい」

「…我々も帰ろう」

「!…父さん、」



 今まですまなかった。
 涙を流して言った父親に少女が「うん」と頷いた。
 その様子を振り返って見ていた黒凪はぼそりと言う。



『生きてる筈の、私が』

「あ?」

『え?…あー…なんか言ってた?』

「あぁ。聞き取れなかったが」



 そ。じゃあ別にどうでも良い内容だと思うよ。
 そう言うと「そうか」とだけ言って歩いて行く。
 …ねえユウ。



『(私は死んだまんまだよ)』



 いい加減に生き返らせてほしいかな。
 …なんて。




 囚われた人。


 (あいたたた、さっきの一撃で腰痛めた…)
 (…チッ)
 (あ、おぶってくれんの?)
 (乗るなら早くしろ)


.
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