Long Stories

□蓮華の儚さよ
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 江戸・方舟編



 ――何だ、感覚的には一瞬なんだ。
 ぼーっと可愛らしい外装の天井を見上げて思う。
 目の前に座っていた神田は唖然とした顔で周りを見渡していた。



『ユウ、おはよ』

「あ、あぁ」

『…多分アレンだよ。』

「…なんで分かる」



 何となく。
 そう言って立ち上がった黒凪が手を差し出した。
 その手を掴み立ち上がると顔を見合わせ扉を開く。
 そうして道を進んで行くと図書館の様な場所でクロウリーが倒れていた。
 ため息を吐いて神田がクロウリーの腕を掴み共に歩き始める。



『…階段長い…』

「…チッ、コイツ重てぇな」

『代わろうか?』

「…いい」



 目を逸らして言った神田に笑みを向け長い階段を登り終える。
 そうして次の扉を潜り抜けた頃、神田、黒凪、クロウリーの名を叫ぶラビの声がした。
 姿を見せた3人を見ると大きく腕を開いてラビが走ってくる。
 クロウリーを担いでいる神田を抱きしめるよりは手ごろな黒凪に向かう訳で、ラビは黒凪を思い切り抱きしめた。



「良かったさー!」

『…これがユウだったら…』

「うん!いつもの黒凪だな!」

≪あ、あの、今からそっちへ行きます!ノアが居ないか確認しないと…≫



 空から響いたアレンの声に顔を上げる。
 やがて突然現れた扉から姿を現したアレンに目を向け怪訝な顔をしつつ方舟の中を見回った。
 黒凪はアレンと入れ替わりになる様にしてクロウリーを連れリナリーとクロスの居る部屋に足を踏み入れる。



「黒凪…!」

『あ、良いよ座ってて。…クロウリーを寝かせられるソファとか…』

「あぁ、だったら此処使え。」



 クロスによって示されたソファにクロウリーを寝かせ上着をかけてやる。
 上着を脱いだ黒凪を見たクロスが一言「ほう」と呟いた。
 え?と振り返ったリナリーはボンッと顔を赤らめる。



「ちょ、黒凪!」

『何?』

「下着は!?」

『…。…イノセンスがあるし』

「Eだな」



 ところがどっこいFなんですよねえ。
 半笑いで言った黒凪に顎を撫でまたクロスが「ほう」と笑った。
 現在の彼女の上半身はイノセンスである包帯で胸元が隠れているだけ。リナリーの言う通り下着はつけていない。
 座っていたクロスが立ち上がり黒凪の肩を抱く。
 側で吐き出された煙草の煙にチラリと目を向けた。



「アンタの顔は見た事が無いな…。誰の弟子だ?」

『貴方と仲が悪いティエドール元帥です。悪い噂はかねがね』

「はは、そりゃあ困ったな」

『私は今の状況に困ってますよ』



 無表情で言う黒凪にニヤリと笑って彼の唇が耳に近付いた。
 あんた中国人か?…にしては肌が白いな。
 薄く笑みを浮かべたまま言うクロスにため息を吐きいい加減に身体を離せと言う様にイノセンスが動く。
 しかしその瞬間に扉が思い切り開かれアレン、ラビ、チャオジー、神田が一斉に固まった。



『!』

「…え、黒凪…?」

「黒凪まで師匠の手に…!?」

「てか待って何その格好!?」



 唖然と呟くアレンとラビには目を向けず共に入って来た神田に目を向ける。
 笑顔を見せた黒凪に気付き振り返ったクロスは己を睨み付ける神田に少し目を見張った。
 そんな神田の反応に驚いたのはクロスだけでは無い。
 黒凪も酷く驚いた様に目を見開いていて。
 そんな黒凪の反応にアレンとラビが驚いた様だった。



「…え?何この雰囲気」

「修羅場っすか…?」

「あれ?神田と黒凪って…」

『(…あ、本能的に怒ってる感じかな?)』



 私、魂は"あの人"な訳だし…。
 神田も何と言って良いのか分からないのだろう、言葉が出ない様子で只管クロスを睨んでいる。
 クロスが神田をじっと見たまま肩を抱く力を強める。
 ギロッと神田の目付きが一層悪くなった。



「…ほう。Fカップにしては中々華奢だな」

『へ?…あぁ、でしょ?』

「でしょ?じゃないさ!今すぐ離れ…」



 神田が刀を鞘に納めたままクロスの首元に向けた。
 流石に元帥に武器をそのまま向ける事は止めたのだろう、しかし神田の目付きはクロスを殺しかねない。
 テメェ、と吐き出された低い低い声に笑ってクロスは素直に黒凪から離れた。



『……(あれ?本気で怒ってる…)』

「…」



 刀を腰に指し直し目を逸らした神田をじっと見上げる。
 そして視線を合わせようと少し移動するとそれに合わせて神田も動いた。
 そんな事を繰り返し2人でくるくる回っているといつの間にかアレンがピアノを弾きだし、方舟の外へ道が繋がる。
 そうして外に出るとアレン達の姿を見た皆が各々涙や笑みを浮かべた。



「皆無事さー!?」

「遅くなりましたー!」

「うぅ、消えた皆の時間が戻って来た…っ」

「神田と黒凪も無事か!」



 マリの声を聞いたティエドールの目にぶわっと涙が溢れ出した。
 眼鏡を外し涙を拭き取るティエドールに小さく笑いラビが駆け寄ったブックマンを見ると彼の目にも涙が浮かんでいる。
 再び己の師匠に目を向けた黒凪にティエドールが涙ながらに上着を差出し彼女に羽織らせた。
 そうして皆で方舟に戻ると次はアジア支部の教団に道を繋げ其方に入り込む。



「ウォーカー!無事だったか!」

「あ、バクさん。本部に帰る前に連絡を入れたいので電話機貸してください」

「貸してやる!貸してやるとも!」



 バクの声を聞いた黒凪はピタリと足を止め神田を見上げる。
 神田も気付いたらしい。…やはり声だけでも随分と似ている。
 アジア支部からすぐに方舟に戻りアレンが本部に道を繋げるのを待つ事にした。
 ティエドールは戻ってきた2人を見ると眉を下げて微笑む。



「大丈夫かい?」

「あ?」

『何がです?』

「…そうだったね」



 うふふふ、と笑うティエドールを怪訝な目で見る。
 すると本部に連絡を入れたらしいアレン達が方舟に戻ってきた。
 そうして本部に道を繋げると入り口のすぐ前にコムイが立っている。
 彼はアレン達を見ると大きく腕を広げて口を開いた。



「おかえり!」



 
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