Long Stories

□蓮華の儚さよ
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 本部襲撃編



 ドォオン…と巨大な足音の様な地響きが起こる。
 顔を上げれば江戸で見た巨大なアクマが此方を覗き込んでいた。
 教団の面々は初めて見る大きさのアクマに顔を青ざめる。
 そんなアクマに啖呵を切ったのはソカロ元帥だった。



「アイツは俺が貰うぜェ」

「好きにしろ」

「やりたいようにすればいいさ。」

「俺は女以外に興味はねぇ。」



 ニヤリと笑ってイノセンスを解放しソカロがアクマの軍団に突っ込んでいく。
 それを見送ったティエドールもイノセンスを解放するとすぐさま教団一の防御力を誇る"抱擁ノ庭"を発動した。
 その上に降り立ったクラウドとクロスもイノセンスを構え、途端に側に落ちてくるアクマの頭や腕に顔を上げる。



「…なんだ、この悪趣味なやり方はソカロだと思ってたが…」

「お前の弟子か、フロア」

「んー?…あぁそうだね、僕ん所の子だ。」



 蹴りや拳でアクマを次々に一掃して行く黒凪に「ふーん」と呟いてクロスがイノセンスを解放する。
 途端に圧倒的な強さでアクマを一掃して行くクロスの側でクラウドもイノセンスを解放し次々にアクマを一掃して行った。
 やがて数分後には床に倒れたアクマ達で一杯になりティエドールが"抱擁ノ庭"を解除し研究員達をアレンの方舟の方へ連れて行く。
 …エクソシストが共通して身に着けている無線の電源が付いた。



≪こちらノイズ・マリ。アクマ全機活動を停止しました。これからどうしますか≫

≪こちら司令部。よくやってくれたね≫



 マリはそのままミランダの警護。
 そしてまだ体力に余裕のあるエクソシスト諸君には卵の破壊を頼みたい。
 破壊するタイミングはクロス元帥に任せます。ミランダはクロス元帥の合図で発動を停止――
 そこまで言った所で「待ちなさい」と声が入り込みクロスが微かに眉を寄せた。



「卵を破壊するですと?あれにどれだけの価値があると…」

「既に卵は伯爵の元へ渡っています。ミランダの能力は時を戻すだけ…時間を取り消す事は出来ない」



 破壊するしかありません。
 有無を言わせぬコムイの言葉にルベリエが口を噤む。
 2人の会話が止むとクロスがミランダに目を向け小さく頷いた。
 そうしてソカロ、クラウド、クロスで卵の周りに集まり顔を上げる。



「一撃で壊すには俺とソカロとクラウドで一斉に掛かるしかないが…それでも破壊出来るかどうかは正直分からん」

「…あ、あの…」

「あぁ。いつでも良いぞミランダ」

「は、はい」



 ブクッと気泡が弾ける音が微かに響く。
 その音にマリが気付いた途端、ミランダが水に飲み込まれ卵の方へ連れて行かれた。
 なんだありゃあ。そう呟いたソカロにクロスが「色のノアだ。あれは万物に変身出来る」そう返して舌を打つ。
 ミランダは水の中で息が出来ず気を失い、彼女の発動が停止された。
 途端に沈み始める卵に元帥が一斉に舌を打つ。



『――卵が優先ですよね』

「時間がねェしなァ…俺は賛成だぜェ」

「…やるしかないな」

「……一気に畳み掛ける」



 ボソッと呟かれたクロスの言葉と同時に元帥が一気に卵に向かってイノセンスを構えた。
 待ってください、ミランダは――!
 そんなマリの言葉に誰も返さず攻撃を一斉に放つ。
 そうして攻撃を受けた卵はボロボロになりながら沈んでいき、元帥達がその後を見守る様に目を向けた。
 黒凪のイノセンスが徐に卵があった位置に伸びていく。



「……。」

「酷ェ師匠だなァおい…。飛び込んでくると分かってて本気で撃っただろォ…」

「避けては撃った。あいつも一応は臨界者だ…」



 沈んだ卵の割れ目から白い塊が溢れ出す。
 白い塊が外に出る度に卵が徐々に崩れて行った。
 それを見たルル=ベルが大きく目を見開き現れた人物に歯を食いしばる。
 卵の中に方舟を出現させて内側から卵を破壊していったアレンは徐にルル=ベルを睨んだ。



「アレン・ウォーカー…!!」

「…」

「っ、止めろ!これ以上卵に衝撃を与えたら…!」



 ドンッと卵が粉々に破壊され、教団の方にもその衝撃が伝わってくる。
 それを見た黒凪はイノセンスを伸ばし中に居るアレンとミランダを引き摺り出した。
 2人が出た途端に閉ざされたノア側の方舟にアレンが安堵した様に息を吐く。
 少し遅れていれば2人は伯爵の元へ連れて行かれていただろう。



「アレン!ミランダは!?」

「…、大丈夫、きっと気を失ってるだけ…」



 アレンがマリにそう言って微笑んだ途端、彼の左目が突然アクマの反応を示した。
 その左目に元帥達が気付いた時、ほぼ同時に教団内に響き渡る小さな笑い声。
 弾かれた様に走り出したアレンの後ろを黒凪が眉を寄せてついて行く。
 そうして辿り着いた場所にはリーバーやバクが血塗れで倒れており、その側にはアクマの卵の様なものを腹に抱えた奇妙な像が立っていた。
 嗚咽に足元を見れば倒れたジョニーが顔をぐしょぐしょにして泣いている。



「ごめん…っ、俺が、俺がタップを追い掛けたからぁ…!」

『…レベル4に進化する』

「え」



 黒凪の頬を汗が伝い、すぐさま彼女がイノセンスを周りに張り巡らせる。
 そして倒れた研究員達を抱えて走り出し、ティエドールの元へ駆け寄った。
 もう一度"抱擁ノ庭"を。アクマがまた進化した。
 彼女の言葉に元帥達も眉を寄せた瞬間、響き渡った絶叫の様なノイズに全員が膝を着く。



『っ、』



 イノセンスで音を遮断し研究員達を護る様にイノセンスで包み込んだ。
 他の全員はノイズの所為で動けそうにない。
 眉を寄せ、イノセンスの色を透明にしていく。
 そうして宙に浮かんだレベル4が一気に落下してくる様を見上げた。



『後何度生き返れるか分かったもんじゃないのに…!』



 歯を食いしばりここら一帯をイノセンスで包み込む。
 それと同時に掛かった負荷に黒凪が吐血した。
 黒凪のイノセンスに包まれた途端に止んだノイズに皆が顔を上げ、咄嗟にクロスがマリアの能力でアクマの視界から全員を隠す。
 …いつの間にか、黒凪のイノセンスの周りが火の海になっていた。



「これは黒凪の防御壁…、」

「俺達全員をレベル4から護ったか…」



 黒凪の透明なイノセンスの向こう側に居るレベル4が周りを見渡し、本部に向かって進み始めた。
 それを見たアレンは目を大きく見開きイノセンスを発動している黒凪を探す。
 ティエドールは隣に倒れている黒凪を見つけると眉を寄せた。



「いかん、この防御壁は全ての攻撃を己の身1つで受け止める…!」

「黒凪!黒凪何処ですか!?」



 固まっているティエドールの側に駆け寄ったアレンが顔色を無くしていく。
 倒れている黒凪の身体が上半身と下半身で真っ二つになっていた。
 まさか身体が裂ける程の攻撃を受け止めるなんて、そう呟いてティエドールがしゃがみ込み黒凪の顔を覗き込む。
 ドクンッと彼女の胸元の呪符が発動し身体をゆっくりとくっ付けていった。
 その経過を見ているティエドールの隣にアレンも膝を着いた。



「黒凪…!」

「(…よかった、辛うじて治癒されている…)」

「…大した奴だ。自分の死を微塵も恐れなかったな」



 クロスが目を細めてそう言った途端に耳元の無線が起動した。
 レベル4が第五研究室外へ侵入、ラボにいるエクソシストの安否は不明。
 黒凪が手を付きゆっくりと身体を起こす。



≪各班班長へ通達!…方舟3番ゲートを通りアジア支部へ退避する。急いでそっちへ向かってくれ≫

「!」

≪第五研究室内のエクソシストの安否が分からない今、我々が出来るのはイノセンスを守り全滅を回避する事だ≫

「コムイさん!聞こえてますか!…くそ、こっちからは無線が通じない!」



 本部から撤退する。
 コムイの命令が響くと同時に黒凪のイノセンスが解除された。
 倒れ掛かった黒凪をアレンが支える。
 彼女の目は虚ろで、ゆっくりと顔が上げられた。



『――のとこ、行く』

「え、」

『ユウのところに、いく』

「…黒凪…?」



 ユウの所に行かなきゃ、
 立ち上がろうとした黒凪に「駄目です、そんな身体で…っ」そう言ったアレンは目を見開いて固まった。
 ぼろぼろと両目から溢れ出す涙にアレンの唖然とした表情が映り込む。



『死んじゃうかもしれない、』



 震える声でそう言って、彼女の身体が藍色のイノセンスに包まれた。
 そうして瞳が赤く染まりゆっくりと立ち上がる。
 はあ、と息を吐いた黒凪は目を閉じて、静かに見開いた。



『…うわ、涙出てる』

「…黒凪、」

『…。さっきから何回名前呼ぶつもり?』

「っ!」



 私なんか変な事言ってた?
 コキ、と肩を鳴らして言った黒凪に「あ、えと…」とアレンが言い淀んでいるとドォンッとまた一層大きな衝撃が教団内に響き渡る。
 その音に顔を上げた黒凪の頭が徐にズキッと痛んだ。



『――ユウが危ない』

「え」



 藍色のイノセンスを身に纏ったままで走り出した黒凪の足はとても速い。
 何が何だか分からないままにアレンもその後に続いた。
 何故かとても信頼出来るのだ。
 …彼女が向かう先には神田が居る。神田が危ないと言う事は、



「(絶対にそこにコムイさん達が居る…!)」



 
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