Long Stories

□蓮華の儚さよ
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 本部襲撃編



「――下がってても良いんだぜ」

「またまたぁ」



 2人で落下したエレベータの側に居るコムイを護る様に武器を片手にレベル4を睨む。
 向かってきたレベル4に歯を食いしばって同時に武器を振り上げた。
 …コムイの元へ向かう最中、頭が一瞬だけ酷く痛んだ。



《(…黒凪に何かあったな…)》



 そう頭の中でだけ呟きながら走り続ける。
 同じ場所で生まれたからか、境遇が同じだからか。
 何故か彼女の危機は不思議と察知出来たし、何を考えているのかも何故か理解出来たりもした。
 ――今、恐らくあいつはこっちに向かってる。
 あいつにも届いてる筈だ。俺が今レベル4と対峙している事、俺が今、



「っ、」

【なんてあっけない。…おや?】



 あっちに人がいる。
 そう言って興味を失った様に掴んでいた神田を離した。
 …届いてる筈だ。
 落下する神田に向かって黒凪が走って行く。
 俺が今、レベル4と対峙している事。…俺が今、死にかけてる事も。



『ユウ!』

「…っせぇよ」



 ごぽ、と溢れ出した血に上手く話せない。
 機転を利かせた黒凪が神田の身体を仰向けからうつ伏せに移動させて血を吐き出させてやる。
 そして顔を上げれば倒れているヘブラスカの側にレベル4が見えた。
 ――その足元にはリナリーがいる。彼女が必死に手を伸ばしているのはイノセンスだろうか。



『(…あぁ、リナリーのイノセンスも破壊してあげたい)』

「…リナのとこ行け、鈍間」

『分かってる』



 でも私よりも先にアレンが着くから。
 ちらりと神田の目がリナリーに向いた途端、黒凪が言った通りにアレンが現れてレベル4を遠ざけた。
 現れたアレンを見たレベル4は「あれ?」と首を傾げる。



【おかしいな、ぜんいんころしたとおもったのに。】

『私も居るよ。』

【うん?】



 ドンッと振り下された黒凪の足を片手で掴み取るレベル4。
 チッと舌を打った黒凪は身体を捻じって拳を横っ面に叩き込みレベル4を床に叩き落とした。
 その間にもコムイがイノセンスを両手に持って座り込んでいるリナリーの元へ向かっている。
 その様子を横目に黒凪は起き上がったレベル4に目を向けた。



【げんきそうですね、えくそしすと】

『1回リセットしたからね。全力でやってやる』

【はは♪】



 ぶつかり合う黒凪を見ながらリナリーが液体になったイノセンスを見下した。
 飲み込め、そう言っているようだった。
 リナリー。コムイの震えた声が彼女の耳に届く。
 振り返ったリナリーが眉を下げて笑った。



「いってきます、兄さん」

「っ…!」



 迷いなく飲み込んだリナリーにコムイが息を飲む。
 途端に彼女の足首から血が溢れ出し、側に立っていたルベリエがヘブラスカに駆け寄った。
 今すぐリナリー・リーを診るんだ、ヘブラスカ!
 ルベリエの声にヘブラスカがリナリーに手を伸ばした。
 しかしその間に黒凪が物凄い勢いで落下し、痛みに項垂れる黒凪にルベリエが目を見張る。



『、った…』

「黒凪・カルマ!?」

「ぐっ!」



 続けてアレンも黒凪の側に落下し、2人でレベル4を睨む。
 レベル4はニヤリと笑うと片手にエネルギーを集中させ一気に放った。
 このままでは皆でその攻撃を受ける事になる。
 立ち上がろうとした黒凪を止める様に「僕が…!」とアレンが言ってイノセンスを持ち上げた。



「っ…!!」

『…アレン、』

「…踏ん張りやがれ…!」

「どうにか受け止めんぞ、」



 アレンのイノセンスの柄の部分を神田とラビが共に持って足を踏ん張る。
 しかし攻撃を完全に受け止める事は叶わず、徐々に押されて行った。
 そのまま持ってなよ。黒凪の言葉に3人がちらりと目をこちらに向けてくる。
 黒凪が足を振り上げ、アレンのイノセンスをレベル4に向かって蹴り上げた。
 その衝撃でレベル4の攻撃が跳ね返され、「ほう♪」とレベル4が笑う。



『…っ、リナリー』

「分かってる」



 黒凪が横に手を伸ばし、それを掴んだリナリーが黒凪を上空に運んで行く。
 ふっと消えた2人にアレン達が目を見開き、レベル4も一瞬見失った様に周りを見ると上空を見上げた。
 レベル4が笑ってその後を追って行く。
 アレン達は顔を見合わせ「見えた…?」「いや、見えてない…」と呟き合った。



「…あれ?(こんなに飛ぶつもりなかったのに…)」

『…リナ、降ろして』

「あ、うん」



 ふっと降ろされた黒凪がくるっと一回転して足を振り下す。
 それを避けたレベル4はその一撃の衝撃で起きた突風に少し目を見開いた。
 その隙にリナリーが足を振りおろしさっと標的を切り替えてレベル4が対応していく。
 一方の黒凪はアレンを抱えると壁を蹴り上げまた上空へ跳び上がった。



『アレン、イノセンスで奴を』

「はい!」



 リナリーが戦っている隙間を練ってアレンと共に黒凪がイノセンスの切っ先をレベル4の腹へ突き刺した。
 しかし自分の身体との間に手を差し入れていたレベル4は黒凪とアレンの力を徐々に跳ね返していく。
 ざんねんでした、と小馬鹿にしたようにレベル4が言った時、2人を後押しする様にリナリーが上空から一気に落下し尻柄の部分を思い切り踏み込んだ。



【ぐっ、】

「(もう一度…!)」

【(また来る――!)は、な、せえええ!】

「離すもんか…っ」



 ふっと上空に飛び上がったリナリーが一層強く踏み込んでレベル4へ向かって行った。
 それを見たレベル4は額に青筋を浮かべてアレンのイノセンスを押し返していく。
 そんなレベル4に眉を寄せた時、突然レベル4の動きが止まり腕の力が抜けてリナリーの一撃と共にアレンのイノセンスが深く突き刺さった。



≪ガガ、…撤退は中止だ。俺がくそアクマを破壊してやる≫

「…クロス元帥…!」

≪さっさとあんたは上に戻れ。第五研究室が火の海になってる。≫



 研究員達は無事だが、その火事で動けないらしいからな。
 クロスの言葉に目を見開いてコムイが走り出す。
 その背中を黒凪が見送っていると足元のレベル4が動きだしアレンのイノセンスを掴む。



【い の せ ん す】

『!…アレン、』

「っ!」

【きらいきらいきらいきらい!!】



 ぐんっと持ち上げられ放り投げられる。
 アレンのイノセンスと共に転がった黒凪とアレンは起き上がってレベル4を睨む。
 ゆっくりと立ち上がったレベル4が此方に目を向けた途端、2人の前にクロスが降り立ちイノセンスを構えた。



「師匠…!」

『…元帥』

「よう黒凪。お前、火の海になった第五研究室を放ってっただろう。」



 おかげであっちはてんやわんやだ。…ま、エクソシストとしては最善の行動だったと思うがな。
 ドンッとイノセンスを撃ちレベル4に5発程弾丸を命中させる。
 そんなクロスの背中を見上げ、黒凪がふ、と笑った。



『だってユウが心配だったんですもん』

「はは、美人に好かれて羨ましいな。」

【ぉおおおおっ!!】



 クロスの攻撃によって身体がボコボコと膨らみ、雄叫びを上げながらレベル4が逃げようと上空へ飛んで行く。
 すぐさまヘブラスカが上空のゲートを閉じようと動くがレベル4の速度を見ると間に合いそうもない。
 黒凪がイノセンスを伸ばしてレベル4を拘束し、足を踏ん張った。



「…手伝ってやる」

『!…ありがと。大好き。』

「るせえ」



 身体が浮きかけている黒凪を抱き止める様にして神田が抑え、ラビも黒凪の肩に手を置いて踏ん張る。
 その間にもアレンとリナリーがレベル4に向かって行き、2人が同時にレベル4の身体を貫いた。
 途端に黒凪を引っぱっていた力が抜け、ふっとレベル4が落下してくる。
 それを見た黒凪がくっとイノセンスを引き、ドォオンッとレベル4が爆発した。
 衝撃でもげたレベル4の首が落下してクロスの足元に転がり、その目がぐりんっとクロスを映す。



【くははは!いいきにならないでくださいよえくそしすと!どうせおまえらなんてすぐにほろぼせる…!かつのはわれわれなのだ!!】

「ぶえっくしょい」



 ドンッとクロスがイノセンスで頭を粉々に破壊し「あ゙ー、花粉かな」と鼻を啜る。
 それを見て「ふん」と鼻で笑った神田はどさっと座り込んだ黒凪に己もしゃがみ込んだ。
 そんな神田に黒凪が顔を上げて小さく笑う。



『終わったねえ』

「あぁ」

『…疲れたねえ』

「…あぁ」



 …生きててよかったねえ。…あぁ。
 ゆるーく会話をする2人に思わずラビがぷっと吹き出した。
 振り返った2人はそんなラビをじっと見るとふいと顔を逸らして同時に立ち上がる。



「(えっ、振り返ったのにまさかの無視?)」

『行こっか』

「あぁ」

「…ぷっ」



 相変わらず踏み出す足が一緒…、立ち上がるタイミングも一緒だし、会話も一本調子。
 あんな風に2人が気を抜くのは大きな任務が終わった証だ。
 つまり本当にこの長い戦いは幕を閉じた訳で。
 そこまで考えた所でラビにもどっと疲れが押し寄せ、彼は固い床にどさっと寝転ぶのだった。




 長い朝が終わる


 (ユウ、あんた私に助け求めたでしょ)
 (あ゙?)
 (ふふん、全部聞こえてんだからね。)
 (……チッ)


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