Long Stories
□蓮華の儚さよ
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北米支部・アルマ=カルマ編
「フーム…、てっきり吾輩は今更聞く神田ユウの本音に大混乱して暴れ回るものだと思っていたのですがネェ…♡」
「あの子って毎回私達の期待を裏切るからめんどくさいよねー♪」
"禁忌"三幻式。
神田の瞳に紋様が浮かび上がり一気に加速する。
黒凪は一瞬で目の前に迫った神田に目を細め横一門に振り下された刀を身体を逸らせて回避した。
そしてそのまま後方に身体を傾け足を振り上げて神田を蹴り上げる。
『…!』
いつもの癖でイノセンスを操ろうと手を開く。
途端にダークマターで形成された武器がイノセンスと同じ形を作り動き出した。
その様子に困った様に笑って真っ赤な刃を神田に向けて伸ばしていく。
神田の瞳の紋様がまた変化し、今まで以上の速度を使って方向を変え黒凪の横腹を切り裂いた。
『っ、』
「私ハ敵じゃ、なイ」
『…。サードか』
震えた声に顔を上げれば体内の細胞が半AKUMA化した所為で暴走しているトクサが立っている。
先程アレンのイノセンスが彼を敵だと認識して攻撃していたし、そのショックで自我を失っているのだろう。
私は敵じゃない。その言葉を繰り返しながらアレンを此方に向けて放り投げて来た。
側に落下したアレンを無表情に見下ろし、少し離れた場所に立つ神田に目を向ける。
「っ、黒凪…!」
『悪いねアレン。こっちも徐々にダークマターに呑まれて行ってるからさ』
あのサードを止める方法は多分ないよ。
そう言って困った様に笑った黒凪に神田が刀を振り下す。
イノセンスと同じ姿をしたダークマターで受け止めた黒凪はトクサに足を掴まれ持ち上げられていくアレンを目で追った。
ギリギリと力で押し合っている黒凪と神田が目を合わせる。
互いに眉を寄せ、歯を食いしばっている。…でも、目だけは逸らさなかった。
「(くそ、トクサも黒凪も破壊なんて出来ない…!でもどうすれば、)」
「吾輩の元へ来るのデス、アレン・ウォーカー♡」
「!」
「教団を捨てるならこの悲しい戦いを吾輩が止めてあげマショウ♡」
…馬鹿馬鹿しい。誰が信じるってのよ。
黒凪が神田と力比べをする中で千年伯爵を睨んで言った。
そんな黒凪の言葉に同意する様に黙っているアレンに千年伯爵が笑みを深める。
「AKUMAの核であるダークマターは製造者の分身…いわば吾輩の分身なのデス♡」
『……。』
「14番目…、お前が望むなら黒凪とサードの中からダークマターを消し去ってあげマショウ♡」
アレンやジョニー達が目を見張る。
神田も目を大きく見開いて千年伯爵に目を向けた。
…ダークマターを、消し去る?
そう呟いた神田に黒凪が眉を寄せ、一瞬だけ力が緩んだ隙に彼を殴り飛ばした。
『無理よ、ユウ。私の中からダークマターが消えたら身体が限界を迎えて結局死ぬ。』
どっちみち死ぬんだ。あんたが殺して。
泣きそうな顔をして言った黒凪に神田がゆっくりと起き上がり口元の血を片手で拭う。
…それは"仮定"の話だろうが。
立ち上がって言った神田に黒凪が微かに目を見張る。
「…俺に会いたいっつったんだろ。実験の前に。」
『!』
「俺はそれを聞いて、ノアの要求を呑んだ。」
お前に記憶を見せさせたのは俺だ。お前に会いたいかと問われて俺は頷いた。
信用ならねえノアの言葉にだ。
無表情でそう話す神田に黒凪が眉を寄せる。
「…お前が生きられる可能性があるなら」
『ユウ、』
「俺はモヤシを切る」
『ユウ!』
ばっと方向を変えて走り出した神田に黒凪が手を伸ばす。
神田が刀を振り上げた先には逆さまになってぶら下がっているアレン。
トクサに捕まりながらもどうにかイノセンスで六幻を受け止めたアレンは神田を睨んだ。
「な、にするんですか…!」
「教団を捨てろ」
「はぁ!?」
「お前が伯爵に着けばあいつが助かる」
感情を押し殺した様な声。
そんな声で無表情に話す神田にアレンが表情を崩した。
俺はあいつを生かす。…何を敵に回しても。
只管無表情に、そうとだけ言って再び刀を振り下す。
その威力はアレンを掴むトクサの腕を斬り落とし、アレンを地面に強く叩きつけた。
「止めろ神田!」
「っ、ぐ…!」
「嘘だろ神田…、本気でアレンを斬ったのかよぉ…!」
見兼ねたリーバーやジョニーがそう神田に向けて叫ぶも、彼はそんな声に見向きすらしない。
六幻によって傷付けられたアレンの腕からは血が流れ出ている。
くそ、黒凪は何して…!
そう言って振り返ったリーバーの目に倒れ込んでいる黒凪が映った。
「黒凪!!」
「「!」」
リーバーの声にアレンと神田が振り返る。
所詮は死に損ないの半端者ですカラネェ…♡
ダークマターで力が湧いたとてこの程度デスヨ♡
そんな伯爵の言葉に神田が歯を食いしばりイノセンスをまた一段階解放する。
彼の髪が白く染まり、アレンが神田の眼光に眉を寄せた。
「…全部お前の所為だ」
「!」
「黒凪がAKUMAになったのも、サードが化け物になったのも」
全部ノアのくせに教団に居るお前の所為だろうが。
アレンが何も言えず歯を食いしばる。
彼も迷っているのだ。自分が教団を裏切れば黒凪を助けられるのではないか。
…神田の言う通りなのではないか。
「全部お前の所為だろうが!ノア野郎!」
…全て、自分の所為なのではないだろうか。
神田がイノセンスの切っ先を自分に向けて振り下して来る。
アレンは眉を寄せ、その一撃を受けた。
途端に黒凪が神田の名を叫ぶ。
神田はその声にはっと目を見開いて、自分が突き刺しているアレンに目を向けた。
『何やってんの!アレンに当たるな馬鹿野郎!』
「…っ、」
アレンの肌が突き刺さった六幻を中心に黒く染まっていく。
途端にアレンを中心にノアの力が暴発しその衝撃で神田と黒凪が吹き飛ばされた。
辛うじて着地した神田だったが、力なく落下して行く黒凪を見て走り出し彼女を受け止める。
そして周辺に響き渡る様な笑い声に顔を上げてアレンに目を向けた。
「遂に覚醒しましたネェ♡!!貴方のおかげですよ神田ユウ♡!!」
「あ…?」
「ノアは決してイノセンスへの憎しみを忘れナイ♡貴方がイノセンスでアレン・ウォーカーをぼろっぼろにしてくれたおかげで内に眠っていた14番目が目覚めたノデス♡」
本当にありがとウ♡!!
そんな伯爵の言葉に神田が呆然と「俺が、あいつを」と呟いた。
黒凪は「くそ」と毒づくと神田を押し退けて地面に足を着ける。
「おい、黒凪」
『この周辺の結界を破壊する』
今ティムキャンピーがクロス元帥の術で向かって来てんの。
黒凪の言葉に神田が眉を寄せる。
予想以上にあんたが暴走してアレンを傷付けちゃったから、結界を壊してアレンの対処をするとティムキャンピーが失敗しかねないからさ。
『だから私が手助けする』
「…何言ってんだよ」
『大丈夫。あんたの所為じゃない。』
アレンは元に戻る。
笑って言った黒凪がダークマターの力で内側から外の結界を破った。
うおお、と顔を上げたノア達は黒凪にばっと目を向ける。
「…ちょっと千年公、あいつダークマターの力使いこなして来てるよ?」
「本当に読めない人間デスネェ…♡」
破られた結界の先から現れたティムキャンピーの術でアレンの左目がゆっくりと開く。
途端にノアの力が内側に縮こまって行き、左目が黒凪を映した。
何が言いたいんだ、左目。そう心内で呟いて目を見開いたアレンは黒凪の姿を見て息を飲む。
「(…まだ、完全に呑まれたわけじゃない)」
『っ、』
「黒凪!」
「(黒凪の、…セカンドの治癒能力ならもしかすると)」
倒れ込んだ黒凪に駆け寄る神田にアレンが目を向ける。
その視線に気付いた神田もばっとアレンに目を向けた。
神田の目を見返したアレンは「助けられるかもしれない!」と声を張り上げる。
その声に目を見開いた神田は腕の中で衰弱して行く黒凪に目を向けた。
「僕を信じてください!」
「…っ、助かるのか」
「助けてみせる!」
即答したアレンに覚悟を決めた様に口を閉ざし、神田が頷く。
アレンはすぐさま退魔ノ剣を出現させて黒凪の元へ走って行く。
させませんヨ♡とトクサのダークマターを操る伯爵にバクが精霊石を使って対抗した。
その様子を横目に黒凪に近付いたアレンは退魔ノ剣を持ち上げ、眉を寄せる。
「黒凪、痛いと思います」
『…痛いのは、慣れてる』
黒凪の言葉に眉を下げて剣を振り下す。
剣が胸元に突き刺さり、物凄い勢いでダークマターを消し去って行った。
身体の大半を侵食していたダークマターの消失によって黒凪の身体もどんどん石の様にひび割れていく。
アレンはその様子に嫌な未来を一瞬だけ想像して、頭を左右に振った。
「(お願いだ、再生してくれ…!!)」
『っ、(駄目だ、もう再生能力が、)』
痛みを我慢する様に固く閉ざされた黒凪の唇に神田が唇を押し付ける。
その行動に驚いて微かに口元を緩めた黒凪の口の中に鉄の味が広がった。
どくん、と胸元の術式が動きだし身体を再生させていく。
唇を離した神田が黒凪の前髪を掻き分けた。
「…死ぬな」
まだ俺はお前と生きていたい。
その言葉に黒凪の目から涙が零れた。
――ほんとに私で良いの。
震えながらに放たれたその言葉に神田が笑う。
「俺はきっと何度生まれ変わっても同じ奴を好きになる」
『!』
「勘違いするなよ。今の俺がだからな。」
あの人を愛してた俺じゃない。
――私はあの人じゃない。
…ユウも、もうあの人を愛していた彼じゃない。
良かった。セカンドの治癒能力が無ければこんな荒療治、出来ませんよ。
眉を下げて心底安心した様な声で言ったアレンにちらりと目を向ける。
『(…そ、か)』
この身体のおかげで私は助かったのか。
この身体のおかげで、まだもう少しだけユウと一緒に生きられるのか。
この身体の、
『…この身体を作ってくれた人のおかげ、で』
「!」
神田が微かに目を見開いた。
黒凪が此方に攻撃を仕掛けてくるノア達に対抗しているフォーに目を向ける。
そして側で膝を着いたバクに視線を移動させた。
「!バクさん、」
「そろそろフォーも限界だぞ、ウォーカー…!」
『…バク』
黒凪の言葉にバクが此方を振り返る。
その顔を見て眉を下げた。
全体的に似てるのはエドガー先生だけど、目元はトゥイ先生だね。
え、と眉を下げたバクに黒凪が微笑む。
『この身体を作ってくれたのは、エドガー先生とトゥイ先生。』
「!」
『ユウと一緒に居られるのは、2人のおかげ』
ぽろ、とバクの目から涙が零れた。
今此処で、私達を護ってくれたのはあんただから。
私がユウと一緒に居られるのは、あんたのおかげでもある。…ありがとう。
その言葉に何かを言おうと口を開いたバクだったが、フォーがノアに吹き飛ばさればっと其方に目を向けた。
「…神田、方舟で君達を遠くへ飛ばします。」
「!」
「場所は僕等の最初の任務先。…あそこなら当分見つからない」
「…あぁ」
神田が黒凪を片手で抱きかかえてアレンに手を伸ばす。
その手を掴んだアレンは"道化ノ帯"で伯爵を縛り彼の重みを利用して上空に神田と黒凪を連れて跳び上がった。
はっと其方に目を向けたバクはぐっと涙をこらえる様に眉を寄せ、フォーに目を向ける。
アレンが方舟ゲートを開き、其方に向けて神田の手を離した。
途端に神田が振り返って口を開く。
「礼を言う。アレン・ウォーカー。」
「!」
「お前のおかげで助かった」
『…ありがと、』
笑ってそう礼を言った2人にアレンも眉を下げて笑い、大きく頷いた。
どうか、もう離れない様に。
誰も彼等を引き裂かない様に。
ずっと彼等が。
一緒に、いられますように。
(さよなら黒凪)
(ゲート"破壊")
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