Long Stories

□世界は君を救えるか
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  黒芒楼への一歩


『良守くん、元気?』

「おぉ黒凪…」



 雪村家を抜け出して墨村家にお邪魔し、その食事処へと入るとそこにはどよーんと疲れた様子の良守が。
 仮にも夜行は裏会の実行部隊。男性陣は必然的に体格が良かったりと、良守にとっては中に入りずらい面々だろう。
 黒凪は良守の隣で細々と茶を飲んでいる限の隣に座り、限に目を向ける。



『限も元気? 楽しい?』

「…まぁ、」

『正守君は久々の実家だね。よかったね。』

「そうでもないよ。てかなんだよ正守 "君" って。逆戻り?」



 あ、ごめんごめん。正守だね。
 そう言って笑った黒凪に良守は愕然とし、「兄貴を呼び捨てだとー!」とちゃぶ台をひっくり返さん勢いで叫んだ。
 何だよ良守、と正守が不思議気に首を傾げると、震える良守の人差し指が彼と黒凪に向く。



「お、お、お前等いつの間にそんなに仲良くー!?」

「あー…、ま、色々あってな。」

『そうそう。』



 ねー。と正守と黒凪で同時に言い合うと、その恋人の様な状況に「ギャー」と目をひん剥く良守。
 すると黒凪の隣にドカッと閃が座り、机に肘を付き良守に目を向ける。



「…よう。」

「え、あ、…おう」



 突然話しかけてきた閃に少し驚いた様子の良守。
 そんな2人に助け舟を出すように黒凪が閃の頭に手を乗せて彼を少し引き寄せる。



『あぁこの子ね、閃って言うの。限と同じで私と相性の良い妖混じりで、夜行にいる時はよく一緒にいるんだあ。』

「へー…」



 つかお前、相性とかあったのかよ。と良守が黒凪に目を向けた。
 頷いた黒凪は「限、閃、京と正守がそうだよ」と教え笑顔を見せる。
「ふーん」とそれぞれの顔を見た良守は再び閃に目を向けた。



「俺と同い年?」

『そうだよ。見た目は大人しいけど、結構社交的だから仲良くできると思う。』

「そうなんだ、よろしくな。えーっと…」



 影宮。影宮閃だ。
 そう言った閃に「じゃあ影宮な、」と良守が笑った。
 そんな良守に小さく頷き、隣の黒凪に目を向ける閃。
 するとそんな2人を見て良守が何かに気が付いた様に「あ。」と声を漏らす。



「何処かで聞いた事あると思ったら…。黒凪があの時言ってた閃って…」

『あ、そうそう。あれ、閃の事だよ。』

「あの時?」

「亜十羅さんのテストを受けた時黒凪が言ってたんだ。万が一にでも志々尾が夜行に帰ることになったら…その後釜は閃にやらせるって。」



 良守は「お前の事よっぽど信用してるんだな、」と笑い、その事を訊いた閃は微かに頬を赤く染めながらそっぽを向いた。
 そして照れ隠しの様に黒凪に出された湯呑を奪い中身を飲み干す。
 すると限が徐に黒凪に湯呑を差し出し、その様子を見た閃はチッと舌を打つと限を睨んだ。



「テメェ余計な事してんじゃねーよ…」

「別に余計な事じゃない。俺はお前のを貰うからな。」

「んだと!?」

「お前は黒凪のを飲んで俺はお前のを飲む。それでイーブンだ。」



 イーブンじゃねぇよ。と言い返した閃を見て、それから限を見る良守。
 良守は自分たち以外の人と普通に話している限が余程珍しいのか若干目を輝かせていた。
 するとつかつかと食事場に入り込む青い髪の女性。
 その女性を見た黒凪は「げ。」と顔を引きつらせた。



「こら黒凪。掃除を抜け出したわね。」

『…体力がある人がやれば良いと思うのだけど…』

「そんな事言ってるから体力が付かないのよ。来なさい。」

『ううう…』



 じたばたと暴れる黒凪の首根っこをひっつかんで出て行った女性。
 あの人誰だ? と正守に聞くと「刃鳥だよ」と短く答える。
 補足を求めて限を見ると、夜行の副長であると説明してくれた。
 一方の閃も良守と話している限が珍しいのか微かに驚いた様にその様子を見ている。
 そんな良守と閃を見ていた正守は微かに微笑んだ。





























『へー結構精鋭揃いだねぇ。こう見ると。』

「お、マジで? やった。」

「限も居れば俺等のコンビネーションは完璧だしな。任せとけ。」

「拙者の刀も疼いているでござる…!」



 そんな会話をしていると良守が黒凪と限に加え、それぞれ武器を持って立っている夜行の面々を見つけあんぐりと口を開けた。
 時音も顔には出さないものの「烏森にも来るんだ…」と言った風な反応だった。



「…夜行は此処にも来るのかよ…」

「頭領の命令です。烏森の警護と実地訓練を兼ねてこれから日替わりで4人程来る事になりました。」

「またあんのクソ兄貴か…!」

『あ、私と限は常時来るからね。』



 ぐぬぬぬと怒りを露わにする良守に黒凪と限が顔を見合わせた。
 すると良守は「勝手にしろ!」と一言言い放ち何処かへ行ってしまう。
 ため息を吐いた時音が後を追い、黒凪と限も後を追った。



「くっそー…。なんか気に入らねー」

【何言ってんのさ。アンタちょっと縄張り意識が強すぎるよ?】

【そうだぜヨッシー。大丈夫だって、お嬢とかとも仲良くなれたじゃん。】

「そうよ。夜行の皆さんは協力的じゃないの。」



 むすっとしたまま黙り込む良守。
 限が徐に「良い人達だ」と声を掛けた。
 その声に顔を上げた良守は徐に口を開く。



「分かったよ…。志々尾が言うなら本当に良い奴等なんだろーし。」

【!…来たぜハニー。】

「妖?…まさか黒芒楼!?」

【いや、この匂いは違うねえ。でも複数体居るから…】



 行くよ良守! と時音が声を掛けるが何も言わない良守。
 黒凪と限も彼を呼ぶと、良守は少し不貞腐れながら立ち上がった。
 そうして現場へ直行する中、良守が限の背中に乗っている黒凪に目を向けて口を開く。



「一応聞いとく。あいつ等名前何?」

『えっとね…デカいバットを持ってるのが妖混じりの轟君、目付きが少し悪いのが戦闘班主任の異能使い、巻緒さん。』

「刀を持ってるのが同じく異能者の武光さん。…後は、紙袋をかぶってるのが箱田さんだ。」

『あら限、あんた覚えてたんだ。』



 当たり前だろ…。と呆れたように言った限に黒凪は「そうか。」と嬉し気に笑う。
 一方の良守は一応全員の名前と能力を頭に入れるようにぼそぼそと呟きながら走り、やがて妖の元へ辿り着く。
 しっかりとやる気を出した様子の良守に時音も安心した様に微笑んだ。
 すると夜行の面々もたどり着き、こちらに指示を仰ぐように目を向ける。



「あ、どうしますか? これぐらいの相手なら俺等でも多分殺れるんですけど…」

「1体ずつ確実に倒します。皆さん協力を!」

「承知した!」

『1、2、3……7匹だね』



 それぞれ1匹で良いだろ!
 そう言った良守に皆笑みを見せた。
 まず走り出したのは轟。彼は「ど真ん中ー!」と叫びながら妖をバットで叩きのめす。
 巻緒も影を使い妖を縛り殺し、続いて時音が結界を妖に突き刺し、黒凪も同様に妖を滅する。
 武光は刀で妖を一刀両断、限も爪でバラバラに引き裂いた。…そして良守もすぐさま結界で妖を囲み滅する。



『「「天穴。」」』

「おぉー…」

「…俺天穴についてちょっと調べたい。」

「何言ってんすか巻緒さん…」



 天穴で全ての妖の破片を吸い込み、妖を完全に排除する。
 すると轟や巻緒、武光が「うぇーい」とハイタッチを良守たちに要求した。
 それに応える黒凪。限もぎこちなく参加し、時音もハイタッチをする。
 その様子を横目に良守は少し息を吐き、眉を下げてハイタッチに参加した。




 影宮閃と良守の初対面


 (あはは。閃ちゃん嬉しそう。)
 (んなっ…)
 (黒凪に頼りにされるみたいでよかったね)
 (う、うるせー!)


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