Long Stories

□世界は君を救えるか
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  裏界への一歩


 一方、少し時間を遡り…黒凪達がミチルたちとの決着をつける少し前。
 裏会総本部では夢路と正守が向かい合っていた。



「…それで、話とは何でしょうか? 私が以前に下した決断に不満でも?」

「いえ。…ただ、事の根本を見極めようと思いまして。」

「根本?」



 この騒動の根本ですよ。
 そう言った正守に夢路の目がゆっくりと彼を捉える。
 その目に微かに宿った殺意を正守は見逃さなかった。



「…一連の騒動が貴方達の仕業だと言う事は掴んでいます。」

「貴方 ”達” ?」

【――貴方と総帥の事ですよ。】



 すっと現れた奥久尼に夢路が微かに目を見開いた。
 しかしその半透明な彼女の姿に合点が言った様にすぐにその目を細める。



「成程…霊体ですか。」



 落ち着き払った様に言った夢路に正守が頷き奥久尼が笑った。
 以前夢路の目には静かな殺意が宿っている。
 彼はもう目の前に座る正守と奥久尼が何を言うつもりなのか分かっているようだった。



【一月ほど前に多発していた神佑地狩りの首謀者は総帥で間違いありませんね? 夢路さん。】

「…。さあ、断定は出来ませんね。」

【間さんが直接確認しているのですよ。既にかなりの力を蓄えているそうで。】

「…それが本当ならば、私の目を掻い潜って行ったという事ですね。…上手くやったものです。」



 何処か馬鹿にしたような口調で言った夢路に正守が微かに眉を寄せる。
 一方の奥久尼は夢路を暫し見つめると再び口を開いた。



【やはり貴方からは…総帥のこととなると “対抗心” という感情が顕著に見られる。】

「どういうことでしょうか?」

「…貴方は今までの行動を全て裏会を護るだのなんだのと言ってはいるが」



 そう話始めた正守に夢路の冷え切った目が向く。
 その視線の先にいる正守は落ち着き払っていて、まっすぐに夢路の目を見ていた。



「実際は見下していた兄に先手を打たれ…焦って対抗する術を持とうとしただけだ。その為にあんたも兄に続くようにして神佑地狩りに手を出した。」



 正守の言葉に夢路が沈黙した。
 そして奥久尼と正守の言葉が重なる。
 "ふざけるな" と。



【夢路さん。始まりはどうであれ…裏会や各地の神佑地の被害を広げ、悪化させる原因は貴方のその態度にあるのですよ。】

「…私の態度が兄を神佑地狩りに走らせたと?」

「あぁそうだ。ったく馬鹿馬鹿しい…そんな事の為にどれだけの人間や神が犠牲になったと思ってる…!」



 苛立ってそう言った正守にちらりと向け、なおも表情を変えず夢路が口を開く。


「…私は裏会を護りたいだけです。」

「違う! アンタが護りたいのは自分の自尊心だけだ!」



 正守がそう声を荒げた瞬間、無数の刃が天井を貫き上空から一気に降り注いだ。
 傍に突き刺さった刃を見た正守はすぐさま絶界を発動させ続く上空からの攻撃を回避する。
 暫くして攻撃が止み、土煙が起こる中大破した建物を見渡し夢路の姿を探した。
 …目の届く範囲には夢路の姿は無い。



「(まさか、今ので…?)」



 しかしそんな正守の考えは上空から降ってきたけだるげな声に否定されることとなる。



「チッ、しくじったか。」



 そこでやっと正守が屋敷を破壊し自分たちに攻撃を加えた張本人…日永の部下である零号に目を向けた。
 正守が零号に殺気を飛ばし、それに気づいた彼の目が正守をとらえる。



「誰だ、お前。」

「…零。」

「ぜろ?」



 自身の名前を零と名乗った男は怪訝な顔をする正守にはそれ以上興味を示さず、無表情に周りを見渡し何やらぶつぶつと呟くと空を見上げた。
 すると洗脳された様子の奥久尼の部下たちが現れ、零号の傍に佇んだ。
 傍にいる奥久尼の霊体の反応を見るに、彼らは行方不明になっている彼女の部下たちに違いない。
 その様を見た正守が微かに目を見開き、結界を足場に零号へと近づいていく。



「――十二人会の幹部達を殺したのはお前か?」

「…あぁ。そこの奥久尼は俺がやった。だが他の奴らは俺じゃない。…どうせあいつだろ。扇七郎。」

「! (な…扇七郎が総帥側…⁉)」

【いえ、きっと彼は雇われているだけ…扇一族は基本的に個人的な問題には介入しませんから。】



 正守の驚いたような目が奥久尼に向けられる。
 …特に、七郎さんは兄上の一郎さんとは違って淡白なお方ですし。
 そんな奥久尼のフォローもむなしく、未だ正守の頭は混乱しているばかり。



「(…だとしても、結局扇七郎が敵に回っていることには変わりない…)」



 あの扇一族の正統継承者筆頭候補だぞ…?
 正守の殺気立った目が零号に向く。



「(となると…少しでも戦力を削ぐためにもこいつを此処で――)」

「…そう熱くなるなよ。今回の標的にお前は入ってねえ。」



 正守から目を逸らし「んじゃあ頼むわ」と奥久尼の部下達に声を掛ける零。
 すると彼らの上空に歪みが現れ、神佑地である大首山の映像が投影された。
 その映像には黒凪の姿もある。



「大首山のライブ中継だ。夢路…いや、月久に向けてのな。」

「な…」

「まあ聞いとけ。別にお前等に不都合な事じゃねえから。」



 零号が徐にすう、と息を吸い「月久!!」と大きな声で言った。
 その声に木の影に隠れていた夢路は少し顔を上げ、上空に流れる大首山の映像をその目に映す。
 そして映像に映る黒凪を見ると徐に舌を打った。



「逢海日永から伝言だ。よく聞けよ。」



 夢路…いや、本当の名前を逢海月久という。
 彼に向けて話し始めた零号を横目に正守は夢路の姿を探す。



「…月久。お前はまだ私に勝てるとでも思っているのだろうな。…私がいる異界とお前がいるそちらの世界…これらを断絶させた時お前の側に少し部下を置いて行っただろう。」

「…」

「あれらはお前の行動を監視するためにと態と置いて行った。案の定お前は焦り…私の部下だった者たちであろうと見境なく自分の駒とした。おかげですべて見させてもらってたぞ。」



 …何もかも私の予想通りに行動するさまは実に滑稽だった。
 私が神佑地から集めた力に対抗心を燃やしたお前はすぐに私の後を追うように神佑地狩りに手を出し…ことごとく返り討ちにあったな。
 我々が自身で大罪と定めた行為に手を出したのにも関わらず、成果は0。



「…私は今回の事に覚悟を持って臨んでいる。お前への復讐の為なら今後私の身がどうなろうと構わない。」



 しかしお前は違うだろう。
 お前はそこまでの覚悟を持って神佑地狩りを行ったか?
 お前は私への対抗心だけの為に大罪に手を染めたのだろう。
 分かるか? …それがお前の人間性の低さだ。
 既に覚悟に雲泥の差があるというのに…お前はまだ俺に対抗するつもりか?



「…ま。こんなもんだな。後はこの映像でも見とけ。」

≪力の差を思い知れ…! アタシ達は最強なんだ!!≫

≪君が持つそのチート…決して君だけのものだとは思わないことだよ。≫

「フツーに考えて勝てるわけねぇよな。コイツ等じゃ。」



 零号のその言葉に改めて正守と夢路が映像に目を移した。
 …確かに勝てそうにはないな、と心の中で零号に同調する。
 そりゃあそうだ。黒凪が敵にいては…誰も勝てはしないだろう。
 ミチルと呼ばれた女性の背後に火黒が回り、その刃が振り上げらる様を見ると正守が映像から目を逸らした。



「――ははは。流石だな。黒凪のやつ。」



 一方、異界の城で零号が流している映像を同じものを見ている日永が呟くようにそう言った。
 そんな彼の後ろには思いつめたような表情をして映像を見ようとしない水月。
 ククク、とそれはそれは楽しげに笑う日永。
 その背後で黙って立っている水月は悲しげに目を伏せた。



≪…死にたい。ミチルが居ない世界なんて…アタシは要らない…!≫



 次はカケルが黒凪の手によって命を終える様が映像で流れた。
 砂の様になって崩れ去ったカケルを見て日永が少し目を細め、遥が居る部屋の方へをちらりと視線をやる。
 しかしすぐに零号本人を映している別の映像に目を映し、口元を吊り上げた。



「どうだ月久…侮っていた相手に出し抜かれる気分は…!」



 ドスン、と映像から鈍い音が流れる。
 壱号もクシナダの拳によって潰され、ついに月久の部下たちが全滅したさまが晒された。
 その映像を見た日永が耐えきれない様子で笑い始める。
 …ああ、月久の顔が思い浮かぶ。
 どれだけ間抜けな顔をしているのだろうか。



 
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