Long Stories

□蓮華の儚さよ 番外編
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  Poisson d'avril

  エイプリルフールに因んだ番外編。
  完結前のお話。



「わ゙ー!! ユウ! ユーウーーー!!!」

「るせえぞバカ兎! 一体なん…だ……」

「黒凪が急に苦しみだして…!」

「黒凪!黒凪!!」



 慌てふためくラビ、アレン、リナリーの様子に神田が目を見開いて硬直する。
 ラビの腕の中には気を失った様子の黒凪が横たわっていた。
 も、もしかしてあれでしょうか、僕があげたみたらし団子が喉に詰まって…!
 そう言ったアレンにびく、と神田が肩を揺らす。



「そ、そんなの詰まってたら窒息するさ!」

「とりあえず身体をうつ伏せにさせて背中を叩いて…!」



 神田が弾かれる様に足を踏み出し、黒凪をうつ伏せにしたラビの側で膝を突き彼女の背中を叩く。
 それでも反応の無い黒凪にラビが彼女の口元に耳を近付けた。
 そして大きく目を見開くと顔色を青くさせて神田を見る。



「い、息してねーんだけど…」

「…じ、人工呼吸…」

「神田…!」

「っ、」



 硬直した様に身体が動かない。
 神田の頭の中に警報の様に鳴り響く声と途轍もない頭痛に頬を汗が伝う。
 そんな神田にラビが黒凪に目を向け、覚悟を決めた様にごくっと生唾を飲んだ。



「しゃーねえ、こうなりゃ俺がやるさ…!」

「ラビ…!」

「良いんですか神田!?」

「……ぐ、」



 神田が固まっている間にもラビが黒凪に顔を近付けていく。
 その様子を横目に見て目を見張り、力任せにラビを蹴り飛ばした。
 そして黒凪を奪い取ると黒凪の顔を此方に向けてぐっと眉を寄せる。
 鬼のような表情をして黒凪を見る神田を「お、おおお…」とアレン達が固唾を飲んで見守った。



「(くそ、頭痛ぇ…)」

『……ユウ?』

「!」

『え、何これどんな状況?』



 怪訝な顔をして言った黒凪にアレンとラビがばっと目を逸らす。
 その様子にリナリーが頭に「?」を浮かべて首を傾げた。
 そんな彼等を不審に思った黒凪が神田との顔の距離をぐっと近づけて小声で言う。



『あんたの視界に誰か怪しいの映ってない?』

「……いや」

『じゃあこっちかな……。…ん?』

「なんだ」



 コムイさんが悔しそうな顔してこっち見てる。
 小声で言った黒凪がコムイをじーっと見つめると彼はその視線に気付き、咳払いをして姿を見せた。
 そして振り返った神田を見るとばっとその背中から看板を出す。



「じゃじゃ〜ん、ドッキリ大成こ」

「死ね」



 コムイが言い終わる前に神田がコムイを蹴り飛ばし「ギャー!!」と叫びながらコムイが転がって行く。
 そんなコムイに「コムイさーん!!」と叫んだアレンを次に睨み付けた。
 神田の視線に冷や汗を流すアレンの前にラビが割り込み、神田を宥める様に笑顔を見せる。



「落ち着くさユウ!な!」

「…何した…?」

「え、あー………もしも黒凪が倒れたらユウがどうするかっていう実験て言うかその…」

「黒凪に変なもん食わせてねえだろうな」



 そ、そりゃあ勿論!睡眠薬だけさ!
 焦った様に言ったラビに舌を打って神田が目を逸らす。
 黒凪は彼等の会話から何となくの経緯を知ったのだろう、嬉しそうに神田の首に腕を回して彼にすり寄った。



「…んだよ」

『へへ、ラッキースケベ。』

「るせえ」

『何照れてんのよ、あんた私のめっちゃ近くにいたじゃん』



 あれは…。
 そこまで言って神田が固まった。
 そして数秒程黙ると黒凪をべりっと引き剥がして立ち上がり、不機嫌な顔のままで歩いて行く。
 その背中を見送り、ボロボロになって戻ってきたコムイを黒凪が見上げる。



『随分無茶したねえ』

「うぅ…神田君ならこのユーモアに気付いてくれると思ったんだけどなあ…」

『ユウは気付かないでしょ…』




 はやく、自由が手に入ればいいのに。


 (遂にキスするかなって思ったんだけどなぁー)
 (僕もまさかと思いながらも期待していました…)
 (ぐぬぬ…でもまだエイプリルフールは始まったばかりだからね、ここから沢山の嘘を…)

 (ユウを次また騙したらぶん殴るよ)
 (斬り殺されてぇのか)


 2018.4/1
 
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