Long Stories

□世界は君を救えるか 番外編
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  くろくろしろ。

  300000hit企画にて制作した番外編。
  火黒と夢主の完結前のお話。



『火黒ー。…かーぐーろー。』

【はいはい】

『…あんた気配消すの上手いねぇ。』

【そりゃどーもォ。んで?なんだよ】



 座っていた木の隣に一瞬で現れた火黒に笑顔を見せてトントンと隣を叩いた。
 座れと言う事だと理解した火黒は何も言わずその場に腰を下ろす。
 すると真下を閃と宙心丸がドタドタと走り去って行った。



【良いのかァ? 大事な弟を放っておいて】

『閃が面倒見てるし大丈夫でしょ。結局本体は封印されてるわけだから無害だしね。』

【…鬱陶しいなァ。コイツ等】



 ぺしっと片手で小さな妖をはたく。
 側に宙心丸が居る為此方にも数匹流れて来ているのだろう。
 そんな雑魚を限が走り回って倒している。



『…随分量が多いなぁ。限の修行に丁度良いわ。』

【最近はよく言うなァ?その台詞】

『ん?』

【限の成長がどうだの、閃の実力がどうだの…】



 自分が居なくなっても大丈夫そうだの。
 火黒の言葉に微かに目を見開く。
 …そんな事言ってた?
 少し困った様に言った黒凪に火黒がニヤリと笑う。



【いや?言ってねェなァ】

『…何、カマかけてるの?』

【まあそう言うなよ】



 笑い交じりに言った火黒にため息を吐いて目を逸らす。
 色々と見抜かれているような気が。
 困ったように息を吐いた黒凪の目の前に一瞬で火黒が移動した。
 んー? と覗き込んでくる火黒にじと、と目を細めて言う。



『なにさ。セクハラ親父。』

【その言い草はねェだろ。俺は善意で言ってやってるんだぜ?】

『何が。』

【俺にさえばれてんだ。あのガキ共にもばれてるってコト。】



 また元の位置に一瞬で移動する。
 再び息を吐いて体勢を元に戻す。
 チラリと向いた黒凪の目に火黒がまたニヤリと笑った。



【ま、どこまで感づいてるかは知らねえが…。違和感は持ってるだろうなァ。】

『…どうも、力だけはあった分隙が多くてね。昔から。』



 私は結界師の中でも比較的読みやすい方らしいし。
 だから中身を見せねぇ術を身に着けたのかァ?
 火黒の言葉に動きを止める。



【あの辛気臭いガキが言ってたぜ?お前は心境を見せない術を持ち過ぎてるってなァ】

『…心配してた?』

【さァ? 俺は知らね。】



 アンタ盗み聞き好きだもんねえ。
 黒凪の言葉を聞きながら火黒は徐に目の前に落ちて来た落ち葉を掴み取った。
 俺の気配に気付かずお前等が話してるだけだ。
 あっけらかんと言った火黒に黒凪が眉を下げる。



【死にそうな顔してんなァ】

『!』

【そんなに死にたいか?】



 振り返ると火黒の顔がすぐ側にあって固まった。
 どうなんだ?
 火黒の声がまた此方に向かう。



『…別に。死にたいわけじゃないけど…』

【でも死ぬ気満々だろ】

『だーかーらぁ』

【お前には生気を感じねェんだよ】



 少なくとも俺を引き抜こうとしてた時はまだ"生きてた"ぜ?
 だがお前はあの白い結界を見てから変わった。
 死ぬ事しかお前の頭の中には無ェ。
 何だ?あの結界に何がある。



『…。あんまり探ろうとすると…間違えて消しちゃうかもしれないよ。』

【俺にそんな脅しが通じると思うのかァ?】



 黒凪が何も言わず目を逸らす。
 ニヤリと火黒がまた笑った。
 そしてガサッと草に紛れて姿を消す火黒。
 すると「姉上ー!」と声が黒凪に掛かった。



『…宙心丸?』

「こいつは飽きた!あの包帯男はおらんのか!?」

『…火黒。宙心丸が呼んでるけど…。』

【ヤダね。追い払え】



 ここには居ないよ。
 そう言うとムスッとして閃を引き摺って行った。
 髪を掴まれた閃は「いだだだ!」と叫びながら連れて行かれる。
 それを見送ると見計らった様に火黒が戻ってきた。



『当分は閃で我慢してもらうしかないか…。』

【時間が経っても俺はあのガキを見る気は無ェがな】

『ふーん。ま、火黒は子供嫌いそうだしねえ・』



 そう言った黒凪の頭に火黒の片手が徐に乗った。
 俺にはお前もまだまだ子供だけどなァ。
 その言葉に黒凪が微かに目を見開いた。



『…白髪なのに?』

【あー…まァそれは別だろ】

『確かに火黒の方が生まれるのは早かっただろうけどさあ』

【キミにも俺に散々迷ってるって言っただけの事はあるみたいだけどさァ】



 ずいと火黒の顔が近付いた。
 キミはまだ無意識に迷ってる。
 黒凪の見開かれた目が火黒と合った。



【俺は全部壊した結果にキミに負かされたわけだけど】

『……』

【キミには全部受け入れた末に何がある?】



 その結末はまだだけどさァ。
 火黒の顔が遠のき頭の上の手がぽんぽんと上下した。
 長い年月を生きたからって完全に理解出来るものでもないと思うけど?
 黒凪が徐に目を伏せた。



『…アンタに説教されるなんてね』

【はっ、説教じゃねェよ。】



 …ただ俺も、
 黒凪が顔を上げる。
 キミ等みたいな人間と一緒に過ごして思う所があっただけで。
 別に根本は変わってない訳だし?



【俺はまだこの世界に対して疑問を持ってる】

『…。』

【まだ俺はこの世界とのズレを感じてる】



 キミもだろ?
 俺とキミは似てるからなァ。
 黒凪は否定する事はせず小さく笑った。



『中身はそんなに似てないさ』

【あ?】

『私達が似てるのはその生きて来た時間だけ。…随分と長い時間を生き過ぎて何が何だか分からなくなってるんだ』



 私もアンタも人間だからね。
 人間には理解出来ない領域に入り込んじゃったんだよ。
 黒凪の言葉に火黒はニヤリと笑った。



【違いない】

『でしょ?』



 クククと火黒が笑う。
 キミと居ると面白い事ばかりだ。
 火黒の目がぎょろりと向いた。



【俺は結構キミの事を気に入ってるんだけどなァ】

『!』

【キミが死んだら俺はどうすりゃ良い?】

『…そんな事言わないでよ。』



 黒凪が眉を下げた。
 彼女の反応を分かっていた様に見届けた火黒はまた笑い立ち上がる。




 くろの勝ち。


 (これ以上迷わせないで。)
 (楽しいだなんて思わせないでよ)


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