Long Stories

□世界は君を救えるか 番外編
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「今日は現世にやって来たニャーン!」

「鬼だとばれない様に現世の服装でお届けしまーす!」

「では早速現世の日本を護るビジネス精神についてインタビューしますニャーン!」

「こんばんは〜!どちらにお勤めですかぁ?」



 流れる様な2人の台詞の後に重低音の「地獄です。」と言う言葉が放たれた。
 即座に返された言葉に地獄のアイドルユニットまきみきが硬直する。
 …ほ、鬼灯様…?……に、似てる…なーんて…。
 絶賛混乱状態の2人の言葉に真顔で答えが返って来た。



「本人ですよ。」

「「ひっ」」

「人間に擬態する薬を飲んでいましてね…眠気を伴うので普段より多少目付きが悪いんです。すみません。」

「「(多少所じゃない…!)」」



 とりあえず笑顔を作り行き場の無くしたマイクを鬼灯に向け直す。
 此処で一体何を…?そんな風に怯えつつどうにか質問をひねり出した様子のミキに鬼灯が答えようとするとそれを退ける様に「あ!分かった!」とマキが手を上げた。



「地上げ屋だ!」

「違います。」

「ええっ!?じゃあシンプルに殺し屋…?それか借金取りとか…。」

「全く掠ってもいません。…ただの人探しですよ。よければ手伝ってください。」



 人探し??
 2人して復唱した言葉に「はい」と頷いて鬼灯が「特徴としまして」と切り出した。
 此処で鬼灯の言葉をテキトーに聞き流すと恐ろしい事が待っているかもしれない。
 そんな先入観から2人は自然と一言一句を聞き流さない様にと言葉を止める。



「まず黒髪。長さはこのぐらいです。」



 両の掌を空に向けて胸元辺りに寄せた。
 そんな風にした鬼灯に「ふんふん」と頷きつつ頭の中で想像を繋げて作り上げていく。



「それから瞳の色も黒色、名前は不明、年齢も不明、出身地も不明…」

「(不明だらけ!?)」

「(この人ホントに探す気あるのかニャーン…)」

「表情はあまりある方では…、ああでも死ぬ寸前でしたし分かりませんね。却下で。」



 死ぬ寸前!?
 色々と突っ込みたい事はある。
 しかしつらつらと話し続ける彼に向かって突っ込む余地はない。



「身長は恐らく142cm程度。あとは……。」



 長い沈黙が降りる。
 本気で考え込んでいる様子の鬼灯に声を掛ける勇気も2人には無い。
 そして途轍もなく長くも感じられた沈黙の後に彼は言った。



「…以上ですね。どうにかなりそうですか。」

「「……なりません…」」

「そうですか。残念です。」

「あの、なんでそんな人を探してるんですかニャーン?」



 気になるからです。
 ずばっと返された言葉に「そ、そうですか…ニャーン…」と歯切れの悪いミキに隣でマキも彼女と同じ様な顔をして肩身が狭そうに立っている。
 とにかく、私は彼女を探す為に現世に…。そこまで言って何かに気付いた様に鬼灯が目を見開いていく。
 その様子に「え?」と目を見張るまきみきは振り返る鬼灯の視線の先に目を向けた。



『あ゙ー…、ほんとこの声どうにかならないかな…』

「風邪で壊してからずっとそんな声ですね。ざっと1週間ぐらい引き摺ってません?」

『私ももう歳だから…。』



 掠れた声が耳にすんなりと通る。
 そうだ、あの声だ。がさがさに掠れた声で必死に。
 目を見開いてじっと白髪の少女を凝視する鬼灯の顔を見てまきみきの心がシンクロする。



「「(目付き怖ッ!)」」

『…?』



 少女が視線に気付く。
 2人の視線が交わる。2人の距離が徐々に近付いて行く。
 身長は少し伸びている。髪は色が完全に抜けている。
 瞳の色はそのまま。風邪で偶然にも掠れた声も覚えにあるまま…。
 ―――私に関する記憶は、



「…黒凪さん、約束の時間まで後20分ですよ。」

『え?ほんとだ。じゃあ後で送ってよ、七郎君。』



 すれ違う。彼女の視線は最初に交わった数秒間後には逸れていた。
 見ていたのは自分だけ。彼女の記憶にはもうない。
 はらはらと見ていたまきみきはカモフラージュの為にと鬼灯が手にしていたビジネスバッグを持ち上げる様を見てひゅっと息を飲んだ。
 想像通りにそのバッグは鬼灯の手を離れる。物凄い勢いを乗せて。



「共に死の淵を彷徨った相手を忘れるとは何事か!!」

「「(えええええ!?)」」



 鬼灯が怒号を響かせたと同時か、否か。
 黒凪が隣に居る七郎と呼ばれた青年の背中にぽんと手を当て、そして振り返る。
 軽い身のこなしでバッグを避け、一歩踏み出して。
 そして鬼灯諸共一瞬で消え去った。
 その様を見てまきみきは「え゙」と固まり、七郎は「あ」と呟いて呆れた様に後頭部を掻く。































『転生したの?それとも妖になった?』

「……。此処は?」

『分からない?あの夜に一緒に居た森。』

「……あぁ、随分と景色が変わりましたね。」



 もう2000年は経つからねえ。
 目を伏せて言った黒凪に無表情に鬼灯が目を向ける。
 で、今は何してるの。丁君。
 そう言った黒凪に少しだけ目を細めて鬼灯が口を開いた。



「今は地獄で閻魔大王の第一補佐官をしています。名前は鬼灯と改めました。」

『地獄で?…へえ、凄い。』

「貴方こそ今は何を?…地獄の記録を確認しても貴方はいなかった。」

『私?』



 ――…神様。
 少し困った様な笑顔で言った黒凪に鬼灯は表情を変えない。
 しかし実際彼は心の底の方で驚いてはいた。ただ表情に出す程の事では無くて。
 そもそも初めて彼女と会った時から不思議な存在だとは思っていたのだ。
 あの頃の現世は貧困に溢れていたのに身なりは良い上に贄にされても平然としていた彼女を。



「……。」



 ふと、閻魔大王の言葉を思い出す。
 ――…ええっ!?生贄として殺されたの、君…。
 ええまあ。よくある事ですがね。
 へえ…、大抵そう言う子はそのまま神様に連れて行かれて黄泉には来れないんだけどなあ…。
 よく此処まで来れたねえ、と不思議そうに、また感心した様に閻魔大王が言った。
 その言葉を受けて後から自分で調べてみれば人間の頃は想像も付かぬ程に神とは厄介な存在だった様で。



《…。"生贄として神の僕、または一部となった霊魂は金輪際転生する事はない"。》



 その一文はつまり一度神に捕まれば逃げられないと言う事で。
 自分がそうならなかったのは只の偶然か、それともあの森に神など存在しなかったか。
 しかし自分の前にあの森で生贄として葬られた者達は誰1人として黄泉にはいなかった。
 まあ今の様に全て記録されているわけではない為に本当にいなかったのかは分からず仕舞いだが。



「…。この森、随分と荒れ果てましたね。」

『ああ、此処の神様が死んだ後に放浪してた妖が主になったみたいだけど、どうも上手く行かなかったらしいね。』



 ま、あの神様じゃあ生きてても同じだったと思うけど。
 そう言った黒凪に鬼灯が目を向ける。
 ああ、居たんですか。神様。
 平然を装って言った鬼灯に「うん」と当たり前の様に黒凪が返す。



『此処の神様はね、私達みたいに生贄にされた人間を食べてたんだ。でも彼は水神じゃなかった。だから生贄に込められた願いとのずれにやられて可笑しくなってた。』

「!」

『君も食べられる所だったんだよ?でも君、あの世に行きたがってたでしょ。だから神様を殺した。』



 殺した。その言葉を当たり前の様に言った。
 あの神様の影響で雨も降ったりと色々弊害が出てたからね、まあ100%悪い事したわけじゃないよ。
 つらつらと言う黒凪を見てからちらりと再び森を見る。
 生贄であった我々を"私達"と称した事や、まるで自分の為に神を手に掛けたと言った様な彼女の言動を思い返した。
 そして目を細めると「この後お時間は?」と鬼灯が言う。
 その言葉に黒凪が顔を上げた。



『…ごめん、この後会議があって。』

「…ああ、そう言えば先程一緒に居た彼とそんな話をしていましたね。私と話していて大丈夫だったんですか?」

『あ、それは気にしないで。君と話す事を優先させたのは私だし。』

「…そうですか。では今度にしましょう。…今度何か奢ります。」



 じゃあご飯一緒に行こ。
 そう言って笑った黒凪の様子を見て「変な状況だ」とふと思った。
 2000年も前に死に別れた者同士が再び相見えて、そして共に食事をする。
 "奢る"などと2000年前には使う事の無かった言葉を放ち、2000年前には絶対に出来る事の無かった次の約束をして。




 案外そこらにいるものですね。


 (あの村人達には復讐出来た?)
 (ええ。勿論。)
 (あはは、そう。良かったね。)


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