Long Stories
□世界は君を救えるか 番外編
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『どうぞ。何処からでもかかっといで。』
「…舐めやがって…!」
待っていても来ないと判断したのだろう、爆豪が走り出して手の平に爆発を起こす。
ドンッと爆発を起こす拳を爆豪が振り上げて黒凪に狙いを定めた。
それを見た黒凪は結界でその手首を弾き、瞬く間に彼の顎を下から結界で殴り飛ばす。
どさっと尻餅をついた爆豪に黒凪がにっこりと笑った。
『完膚なきまでの敗北ってやつ、味わってみる?』
「んだとコラァ…!!」
額に青筋を浮かべて爆豪が右腕を持ち上げ手の平を黒凪に向ける。
緑谷や他のクラスメイト達はその構え方から彼が何をしようとしているのか瞬時に理解した。
最初のヒーロー基礎学で緑谷に向けて放ったあの強力な一撃だ。
「ば、馬鹿野郎!止めろ爆豪ー!」
「そんなの撃ったら建物壊れるよ!?」
『え、そんなに?』
仕方ないなぁ、それじゃあ建物壊れない様に結界張っとかなきゃ。
そう呟いてステージを護る様に結界を作る。
そうして彼に目を向ければ既に爆豪の腕の武器にかなりの熱が集まっていた。
「ちゃんと受けろよ総元締ェ…!!」
『……』
気だるげに後頭部を掻く黒凪に舌を打って一気に巨大な爆炎を彼女に向けて放つ。
黒凪がすぐさま結界を三重にして自分を囲み、そこに爆炎が直撃した。
途端にステージを囲む結界の中に爆炎が充満し、皆が結界の中で暴発した爆発に目を見開く。
「お、おいおい…」
「これじゃああのステージの中に居る爆豪まで巻添えじゃねーか…!?」
切島の言う通り、結界で囲まれたステージの中に爆炎が凝縮されステージ全体が火の海となっている為、これでは技を放った側の爆豪も無事ではない筈。
そんなステージを見て緑谷は「珍しい」と思った。
爆豪は例えキレていたとしても状況把握はしっかりとするタイプだったし、まさか自分が巻きこまれる想定をしていなかったとは…。…いや、
「(総元締の人がステージにあの箱を作ったのが見えてなかった…!?)」
そう考えれば辻褄が合う、あの人はかっちゃんが技をぶつけようと構えた時に唐突にあの箱を作った。
となればかっちゃんは確実に自分の防御なんて考えてない…!
かっちゃん!!そう叫んで緑谷が結界に近付き手を付いて何度か殴る。
「かっちゃん!大丈夫!?」
…デクの声が聞こえる。
そう頭に浮かんではっと目を見開く。
そして顔を上げると自分を囲む様にして設置されている"箱"が見えた。
「…は…?」
『いやー、凄いねえ君。』
「っ!」
徐に掛けられた声に爆発によって発生した煙の向こうに目を向ける。
そうして目を凝らすと煙の向こうにどす黒い球体を纏った黒凪を見つけた。
彼女の身体に焦げた跡も、傷も何1つ見つからない。
先程の攻撃のダメージを全く受けていない彼女の様子に爆豪は愕然とした。
しかし外から戦いを眺めていた竜姫や閃は「お、」と微かに目を見開いて感心した様に爆豪に目を向ける。
「凄いわねぇあの子。黒凪に絶界使わせたわぁ」
「あんな子供相手に使ったのは初めてっすね…」
【…へぇ】
「……」
ステージ上の結界が解かれ煙がもわっと外に流れ込む。
そうして自分の絶界と爆豪の周りの結界を解くと地面に腕を付いている彼の元へ黒凪が歩いて行った。
そして自分を睨む様にして顔を上げた爆豪に黒凪がにっこりと微笑む。
『凄いね君。何君だっけ?』
「…爆豪…」
『ばくごー君?おっけい、覚えとく。』
雄英を卒業してプロになったら偶にはうちの手伝いもしてね。
そう言って歩いて行った黒凪に爆豪が地面を殴りつける。
一方の生徒達はあれだけの攻撃を受けても余裕の表情で歩いている黒凪にだらだらと冷や汗を流していた。
「あれが裏会の総元締…、やべえ…」
「あの人自分の防御もしながら爆豪も護ったんだよな…?」
「かっちゃん!大丈…」
「うるせえ!!」
駆け寄ってきた緑谷の手を払って歩いて行く爆豪に黒凪が困った様に眉を下げる。
あの調子だとその内修行して道場破りに来そうだな…。そう思った。
そして「さて次に戦うのは誰?」と振り返ると飯島が「はい!」と勢いよく手を上げる。
「俺にやらせてください!」
『ん。じゃあ対戦相手は誰にする?』
「……、そこの側近の方で!」
『分かった、限ね。』
限が徐にステージに歩いて行き飯田に目を向ける。
飯田もステージに上がるといつでも走り出せる様にと体勢を低くした。
始め。と黒凪の声が掛けられる。
途端に飯田が脹脛のエンジンを起動させ一瞬で限の背後へ回り込んだ。
その速度に目を細めた限は一気に踏み込んで飯田の拳を回避する。
「飯田君の速度に反応した!?」
「すごーい…」
飛び上がってステージの端に着地した限は飯田の脹脛を見てため息を吐くと両手と両足を変化させてぐっと足に力を籠める。
そうして限は一瞬で飯田の足元まで移動した。
飯田はその様子に目を見張るとエンジンを使って限から距離を取る。
『…あの子速いね。』
「あぁ。多分限より速いな」
『うんうん。…脹脛にエンジン付いてるのちょっと面白い』
「わかるわぁー」
流暢に話している3人の前で限と飯田が速度を競う様に互いの不意を突き合っている。
…どうも限は飯田に対して攻撃を踏み込めない様子に見えた。
恐らく傷つけたくないのだろう、一瞬の隙をついて限が飯田の足を払いその腕を掴んで一気に場外へ放り投げる。
180cm近い大柄な飯田を片手で放り投げた限に生徒達が目を見張り、落下してきた飯田を皆で受け止めた。
「…裏会側の勝利。」
「くそ…!!」
「ドンマイ飯田君…。」
「毎年雄英側が敗北してるらしいからそんな落ち込むなよ!」
だからこそジンクスを俺が崩そうと…!
そう言って悔しがる飯田を緑谷が宥めていると「次は君で。」と黒凪が緑谷の顔を覗き込んできた。
ははははい!!と黒凪から一気に距離を取って返事をした緑谷が残った竜姫と火黒に目を向ける。
「(包帯の人はちょっと怖そうだしなぁ…、でももう1人の人は女の人だし…)」
「…緑谷。俺はあの包帯と戦いたい」
「ぅえ!?」
緑谷にこそっと声を掛けた轟に目を向けて黒凪が小さく微笑む。
緑谷は轟の言葉に小さく頷くと「じゃあ…女性の方で…」と竜姫に目を向けた。
竜姫はおどおどとする緑谷ににこっと笑うと「良いわよぉ」と緩いテンションでその申し出を受ける。
そうしてステージに上がり、戦闘が開始された。
「(まずはどんな戦い方をするのか確認を…いや、でもな…)」
「(あの様子だとこっちから仕掛けてあげるのが優しさかしらね。)行くわよボウヤ。」
「っ!」
竜姫が徐に空に向かって人差し指を立て、緑谷の真上から雷が落ちてくる。
瞬時に反応した緑谷はその場を回避して先程まで自分が立っていた場所に直撃した雷に冷や汗を流した。
「あたしは雷を操る。それだけよ」
「!」
「だからさっさと対策考えてかかってらっしゃいな。」
にやりと笑った竜姫にごくりと生唾を飲み込んで緑谷が眉を寄せる。
物理的な攻撃を主とする緑谷としては電撃や雷の類との戦いは相性が悪い。
そんな中で彼女に勝つ方法と言えば――…。
「そっちが来ないならまた行くわよ?」
此方に向かって手を伸ばし電撃を真っ直ぐ緑谷に向けて放つ。
それを見た緑谷は地面に向けて指を折り曲げ「SMASH!!」と心内で叫んで指を弾いた。
途端に地面が一気に破壊され電撃を弾く。
あら。と竜姫が目を見張る中で緑谷が彼女の懐に入り込み再び他の指を折り曲げた。
「(この人を傷付けずに勝つ方法は1つだけ――!)」
「!(この子…)」
「(ワン・フォー・オールで突風を吹かせて場外に放り出す!!)」
SMASH!!そうもう一度心の中で叫び竜姫に向けて突風を巻き起こす。
これで2本の指が折れ、緑谷は恐る恐る顔を上げた。
何だ…?皆凄く静かだ…。
そう思ったのも束の間、
「…え…?」
「私が妖混じりじゃなかったら確実に場外だったわぁ。」
竜姫の足元には緑谷の攻撃を受けて背後に向かって引き摺った様な跡がある。
しかし場外までは届かず、緑谷から離れた位置で彼女は平然と立っていた。
そんな…、と目を見開いたままで立ち竦む緑谷の指を見て黒凪に目を向け口を開く。
「黒凪!医療班呼んだげて!」
『え?…あ、ほんとだ。痛そう』
建物の中へ入っていく黒凪を横目に竜姫が緑谷に目を向けて徐に口を開いた。
惜しいわねぇあんた。さっきの威力も諸刃の剣的な感じ?
眉を下げて言った竜姫に緑谷が悔しげに顔を伏せる。
「…ま、多分君はあたしに直接その拳を向ける度胸は無いだろうしねえ」
「っ、」
「此処までにしておきましょうか。…あ、勘違いしないでねボウヤ。ヒーローにはそう言う優しさも必要よ」
良いヒーローになりなさい。
そう言ってステージから出て行った竜姫は黒凪が連れて来た医療班を見るとステージに戻って片手で緑谷を持ち上げた。
その様子にまたも生徒達は驚愕。飯田程屈強でもないが緑谷とて子供ではない。
それを華奢な竜姫が片手で持ち上げるとかなりの違和感だった。
『じゃあこの子お願いね』
「はい」
『…えっと、それじゃあ最後の戦いかな?うちからは火黒と…そっちはそこのオッドアイの子だっけ』
黒凪の声に静かに轟がステージに上がり、ニヤリと笑って火黒もステージに上がる。
やり過ぎない様にね。と掛けられた声に「わぁってるよ」と火黒がぶっきらぼうに返した。
その様子に轟が微かに目を細める。
――始め、の合図と共に巨大な氷が火黒に襲い掛かった。