Long Stories
□世界は君を救えるか 番外編
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冷たい冷気が漂う。
轟は己が作り上げた氷に完全に呑まれて行った火黒を警戒する様に睨む。
途端に氷にヒビが入り、粉々に砕け散った。
そして氷の上をゆっくりと歩く火黒は笑いながら肩を鳴らす。
【いやー、こりゃ寒ィな】
「……」
再び氷が向かうと火黒の一撃でスパッと真っ二つに割れる。
そして足を踏み込んだ火黒は一瞬にして轟の目の前に迫った。
それを見た轟はすぐさま目の前に氷を造形し火黒の攻撃から身を護る。
しかしその氷もすぐに斬られ、刃が轟に迫った。
「っ…!」
【お。】
炎が溢れ出し火黒を遠ざける。
着物に引火した火を払って火黒がまたニヤリと笑った。
そして「成程なァ」と再び走り出す。
次々に防御壁として現れる氷を斬り本体に近付けば炎が向かってくる。
それを只管に繰り返しながら火黒が口を開いた。
【右は氷で左は炎ってトコかァ?面白いねェ】
「…!」
火黒の右手が轟の炎を纏う左手の手首を掴んで遠ざけ、轟の右腕は左足で遠ざける。
そうして左手から刀を伸ばした火黒は轟の左側から真っ直ぐに首を斬りに行った。
咄嗟に氷で首をガードするが恐らく止める事は無理だろう。
轟があがく様に左手の炎を強くするが火黒は己の手が焼け焦げる事など何とも思っていないように笑うだけだった。
流石にまずいと止めに入ろうと目を見開く相澤だったが火黒の刀は消えない。
「(くそっ…!)」
「先生!?」
『――火黒。』
【!】
びたっと轟の首まで数センチの場所で刀が止まる。
飛び込もうとしていた相澤もその様子に思わず足を止め、火黒の視線の先に己も目を向けた。
そこには黒凪が立っていて、彼女の右手の人差し指と中指はぴんと立っている。
『そこまで。なーんで殺そうとするかなぁ』
【…あーあ。良いトコだったのになァ…】
轟の目が火黒の肩や腕の関節に向けられる。
火黒の関節全てが小さな結界によって固められていた。
轟の左手首を掴んでいた右手をぱっと離し、足も退けると結界が解かれて火黒が飛び退き黒凪の隣へ。
黒凪は火黒の右手を覗き込むとぺしっと彼を戒める様に叩いていた。
「…轟、無事か」
「…はい」
『もー。あんた楽しみ過ぎ。』
【んな事言ったってよォ。あいつ良守クンみたいに底なしな感じで面白いんだぜ?】
久々にゾクゾクしてなァ…。
それはそれは嬉しそうに言う火黒に目を覆い、ため息を吐いて轟の元へ黒凪が歩いて行く。
彼女は轟をちらりと見るとまず側に立っている相澤に目を向けた。
『そちらの生徒さんを危ない目に遭わせて申し訳ない。』
「……いや、」
『君も大丈夫だった?怖かったでしょ、あいつ顔怖いし…』
そう言って手を差し伸べた黒凪は素直に手を掴んだ轟ににっこりと笑った。
彼を立ち上がらせて雄英の生徒達に目を向けた黒凪は「それじゃあ中でちょっと休んで――…」と声を掛けてふと空を見上げる。
晴れていた筈の空はいつの間にか曇り、ゴロゴロと雷を紛らわせていた。
『……。奇襲かねえ』
「き、奇襲!?」
「まさかヴィラン…!?」
『いや、ヴィランとはまた違った来客。…竜姫』
はいはい。と肩を竦めて竜姫が瞬く間に龍の姿に変化する。
その様子に生徒達が目をひん剥く中で竜姫は空へ向かって行き、雲の向こう側から龍の甲高い鳴き声が響いた。
『皆早く中に入って。多分その内落ちて来るから』
「お、落ちて来るって何が…」
『とりあえず中に入って。』
黒凪に急かされて生徒達が屋敷の中に入って外を覗き込む。
するとまた一層大きな龍の鳴き声が響き渡ると巨大な龍が1頭落下してきた。
地面に落ちて悶える様に動く龍に黒凪の影から出た鋼夜が向かって行く。
鋼夜も普通の犬のサイズから巨大な姿に変化をすると獲物を捕らえる様に噛み付いて暴れる龍を抑え込んだ。
『…白龍か…。多分また住む場所でも無くして暴れてんのかね。』
「ったく、最近多いな…」
『数珠何処だっけ?』
引き出しをいくつか開いて数珠を出した黒凪が徐に外に出て行く。
鋼夜に押さえつけられている龍の頭に跨って首に数珠を巻き付けた。
そして一気に引き込むと先程までとは比にならない程の大きな龍の悲鳴が響き渡る。
竜姫が変化を解いて降り立ち、屋敷に入ってその様子を見ると「うわー…」と顔を顰めた。
「あれって洒落にならないぐらい痛いんだってね。」
「らしいですね。やった事無いんで分かりませんけど。…でもま、」
素人がやるよりはマシらしいですし。
そう言って閃が目を細めた途端に封印が完了し龍が小さな蛇ぐらいの大きさにまで萎んでいく。
そうして目を回している白龍を片手に黒凪が屋敷の中に鋼夜と共に戻ってきた。
『とりあえず捕まえた。竜姫、この子なんだって?』
「またヴィランとヒーローとのいざこざの所為で住む場所を無くしたんだって。場所もないし此処に置いておくのが得策じゃない?」
『そだねえ…』
「…あの、その龍が暴れた理由ってヒーローにも原因が…?」
眉を寄せて言った緑谷に「あ、治ったの。よかったねえ」と笑った黒凪は手元の龍を見て困った様に眉を下げる。
まあ仕方がないんだけどね、戦わないとヴィランは減らないし…。
でもその所為で自然が破壊されてこんな生き物の住む場所も限定されていってんのよ。
『まあこれが現代の性って所かね。仕方ないよ、この世は人の為に回ってるようなもんなんだから』
眉を下げる緑谷に小さく笑って彼の髪を掻き混ぜる。
良いヒーローになるんだよ、少年。
そう言って笑顔を一掃深めた彼女は確かに少女らしくは無かった。
何百年も生きた貫録を確かに持っている。そんな笑顔だった。
600年生きた少女
(ありがとうございました!!)
(うんうん。ヒーローになったら登録においでねー)
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