Long Stories

□世界は君を救えるか 番外編
11ページ/14ページ



  霊能者は今すぐ裏会へ情報登録を。

  転生トリップではありません。
  あくまでも結界師の世界とゴーストハントの世界は同じ設定。
  時間軸的には結界師長編終了後。
  多少ゴーストハント原作と設定が違っています。



「――麻衣。」

「…ふぁい…?」

「今は7時36分48秒よ。そろそろ起きないと準備が間に合わない。今日も学校なんでしょう」

「……7時っ!?」



 がばっと起き上がった麻衣は傍らに立つ白髪の女性の隣をドタドタと通過して洗面所へ向かって行く。
 それを無表情に見送り、女性は静かに台所へ向かった。
 顔を洗って制服を見に着けて並べられた朝食を前に椅子に座った麻衣は一度机を見渡すと白髪の女性に目を向ける。



「お母さん、お箸ないよ?」

「…あぁ、ごめんね。さっき床に落として洗っていたの」



 そう言って無表情に差し出された箸を掴んで朝食を口に放り込む。
 麻衣はおかずを咀嚼しながらテレビをつけ、徐に台所で洗い物をしている"母"に目を向けた。
 …母とは言っても血が繋がっている訳ではない。
 私の本当の両親は既に他界している。
 彼女はなんでも私の母方の遠縁の人らしく、中学3年生の始め頃からこの家に一緒に住んでいる。



《――初めまして谷山麻衣さん。私は貴方のお母様の遠縁の間と言うものです。》

《え、あ、…はい…。("はざま"さん…?)》

《身寄りがないと聞きましたので貴方の母親代わりにと送り込まれました。これからよろしくお願い致します。》



 そう言って丁寧に頭を下げた女性の髪は真っ白。
 およそ日本人の様には見えなかったが、外国人かと言われればそうとも言えない様な容姿をしていた。
 彼女は最初の挨拶こそ丁寧にしていたが、次の日からまるでインプットされたかのように母親らしく私の世話を始めた。
 今となっては慣れて彼女の事を母と呼んでいるが、どうも操り人形の様に動く彼女は今も尚不気味である。



「…それじゃあ行って来るね!」

「ええ。いってらっしゃい。」



 無表情に手を振る母に笑顔で手を振り返して麻衣が家を出て行く。
 そんな麻衣を見送った母は手の平を見下ししゃがみ込んで床に手の平を付けた。
 途端にぼふんっと煙が起きて同じく白髪の少女が現れる。
 母はその少女を無表情に見上げると徐に頭を下げた。



「ご主人様」

『急に魔方陣を使わせて悪かったね。少し此方で用があったものだから。』

「はい」

『…確か麻衣だったかな。彼女はどう?』



 大きな怪我も病も無く無事に育っております。
 無表情にそう言った式神に「そう」と白髪の少女、黒凪が相槌を返した。
 彼女は裏会総本部の相談役であり総元締の地位につく結界師、間黒凪。
 彼女が何故都内に住むごく普通の女子高生である谷山麻衣の元に式神を放っているのか。
 その理由は彼女が黒凪の母である月影側の血筋の遠縁に当たる為である。



「――ただ、昨日からゴーストハントなるものの手伝いをしているそうです。」

『…え? ゴーストハント?』

「はい。学校の旧校舎で起きている怪奇現象を調べていた人物の1人に怪我を負わせてしまった様で。」



 その為に麻衣がその調査の手伝いを。
 式神の言葉を聞いた黒凪は目元を覆って「あー…そうなんだ…」と困った様に呟いた。
 その様子を見ていた式神は無表情のままに口を開く。



「ご主人様が此方にいらっしゃった理由もその事と関係が?」

『まあね。学校の生徒の中にどうも異能者の素質がある女の子がいるみたいで…』



 その子が遂に周りに影響を及ぼし始めたから夜行で引き取るかどうかの最終決定を下す為に来たのよ。
 そう言って黒凪が携帯を開くと丁度良く電話がかかって来た様で携帯を耳に押し当てた。
 電話を掛けて来たのは既に学校に潜入していた閃。



≪あ、黒凪?今何処だ?≫

『今から学校に向かう所。そっちはどんな感じ?』

≪前々から黒田が引き起こしてた怪奇現象を調べに昨日からサイキックリサーチって奴等が学校を出入りしてる。ま、変な邪魔は入ったけど黒田の力を見定めるにはいい機会だと思うぜ。≫



 黒田とはその異能者の素質のある女子生徒の名前だ。
 麻衣がこの事に関わっている事は予想外だったが、怪奇現象を調べる様な集団が現れれば恐らく無意識下の異能も発動しやすいだろう。
 性格は目立ちたがり屋だと聞いているし。
 そう考えながら玄関に向かい扉を開いて式神に目を向けた。



「いってらっしゃいませ。」

『うん』



 谷山家から出て麻衣の通う学校へと徐に歩き始める。
 その道のりの中で改めて黒田の情報を思い返す。
 彼女が持つ異能は一般的に超能力と言われるものと同じ。
 自分から離れたものを移動させる。彼女はその能力を無意識の内に奮い多くの人を傷付けている。



《無意識の内に大切な人を傷付ける前に夜行で引き取ろうかと思ってて。せめて力をちゃんと扱えるようになるぐらいまではさ。》



 困った様にそう言っていた正守の顔が過る。
 基本的に夜行に居る子供達はそう言った危うさから引き取られた子や一時的に預かっている子が殆どだ。
 黒田も長らく気付かれずにいたが、実害が出ている以上危険であれば両親を無理に説得してでも夜行に連れて行かなければならない。



「――黒凪!」

『閃。…どういう事、サイキックリサーチって。校長に裏会から話は通ってる筈なのに。』

「行動が遅いとかなんとか言ってたぜ。おかげで今日はそのサイキックリサーチに加えて巫女と坊さんも呼んだってよ。」

『はぁ?…もー……』



 そんなに怪奇現象に参ってんの?
 そんな会話をしながら問題の旧校舎へ近付いて行くと大きなワゴン車が前方に止まっている。
 そのトランク辺りに女子高生と女性が1人、男性が1人…。そしてトランクの中に青年が1人居た。



『…えー、と。』

「「「「!」」」」



 突拍子もなく聞こえた声に4人が振り返る。
 黒凪と閃はワゴン車の影から姿を見せると顔を覗かせ立っている4人に目を向けた。
 麻衣は黒凪の姿に少し目を見開くと彼女の後ろに立つ閃に目を向ける。



「あれ? 影宮君…」

「…よう」

「影宮?…知り合いか?」

「うん。一緒のクラスの子…。」



 何で此処に?と問いかけた麻衣は彼の前に立つ黒凪の姿に言葉を止めた。
 黒凪の姿は結界師が身に着ける着物姿。
 その姿に少し顔を引き攣らせ、麻衣が口を開く。



「ま、まさかその人も除霊で校長に呼ばれて…?」

『まあそんな所だね。とは言っても元々私達だけで終わらせるつもりだったんだけれど…』

「あーら、また子供の登場ね。」

「今時の子は凄いなぁ、それ銀髪?」



 茶髪の僧侶には言われたくないね。
 そう言った黒凪に「うぐ、」と滝川が言葉を詰まらせる。
 黒凪は徐に4人の顔を見渡した。



『…君がサイキックリサーチの社長さん?』

「…ええ」

『……。名前は?』

「(げ、この子もナルのかっこよさに早速ナンパ…?)」



 渋谷一也です。
 無表情に言った渋谷に「ふーん」と呟いて黒凪が手を伸ばした。
 その手が彼の頭に乗せられようとした時、「ああ、良かったわ!」と嬉しそうな声が掛かる。
 その声にぴくりと動きを止めて黒凪が振り返った。



「この旧校舎は悪い霊の溜まり場で困ってたんです」



 嬉々としてそう話しかけてきた、眼鏡をかけたみつあみの女子生徒…。
 そんな彼女を呆れたように見て閃が黒凪の耳元に口を近づけて声を潜めて言った。



「…あいつ。」

『黒田さん?』

「あぁ」



 私霊感が強くて…。と意気揚々と話す彼女は確かに情報通りに目立ちたがり屋の様だった。
 しかしそんな彼女の勢いを削ぐ存在が1人。



「自己顕示欲。目立ちたがりね、貴方。」



 松崎だった。図星を疲れたのか、黒田の目付きが一気に変わり、彼女を睨みつける。
 黒凪はその様子を見て小さく笑い、その様子に渋谷は目を細めた。



「貴方に霊感なんて無いわ。そんなに自分に注目してほしいなら他でやってくれるかしら。」

「ちょ、そんな言い方ないでしょ⁉」



 黒田を背にしてそう松崎に言い放つ麻衣。
 しかしそんな麻衣には目も向けず、松崎を睨みつけながら黒田が言う。



「貴方に霊を憑けてあげるわ。今に見てなさい、偽巫女。」



 そう宣言して去って言った黒田を見送り、黒凪が閃に目を向ける。
 ああ言ったからには必ず松崎に何かが起こるだろう。
 彼女の無意識による異能によって。
 巫女である松崎綾子、坊主である滝川法生。
 彼等は邪魔だと考えていたが、黒田の力を引き出させるには良い人材なのかもしれない。



「――やあやあ皆さんお揃いですな。紹介します、此方エクソシストのジョン・ブラウンさん。」

「オーストラリアからジョン・ブラウンっちゅうもんです。安生可愛がっておくれやすです!」



 変な日本語を話すジョンに松崎や滝川が吹き出す。
 そんな中で黒凪が徐にジョンを連れて来た校長の元へ歩き出した。
 校長は「ん?」と黒凪を見ると驚いた様に目を見開いて後ずさる。



『校長先生。随分と余計なものを呼び寄せてくれましたねえ。』

「え、ええっ!?」

『貴方のご要望通り、幹部などには任せず私が来た訳ですが。』

「こ、これは失礼致しました!」



 大の大人が少女に向かって最敬礼。
 なんじゃあありゃあ…。そんな目で見る麻衣達を尻目に黒凪が呆れた様にため息を吐く。
 ちょっと校長先生?その子は一体…。
 眉を寄せて言った松崎に黒凪が徐に彼等に向き直った。



『私は裏会総本部の相談役をやっている間黒凪と言う者です。』

「!(間…?)」

「う、裏会総本部!?」

「マジかよ!」



 渋谷やジョン、麻衣が怪訝な顔をする中で松崎と滝川が目を見開いてそう叫ぶ。



「あの、裏会総本部? って?」



 怪訝な顔のまま麻衣が問うと、ごほん、と滝川が咳ばらいをして口を開いた。



「裏会総本部って言うのはな、まー簡単に言えば日本全国の霊能者のデータを扱う機関って所だ。」



 その役割は多岐に渡り、神佑地…いわば神社や寺、パワースポットの管理やメンテナンス、全国に住む神様や霊能者の情報の管理と統括…。
 へー。とぽかんと返す麻衣にずいっと松崎が顔を近づけて言う。



「あんたね…分かってないようだから言ってあげるけど、裏会総本部で働くってことは霊能者の中でもエリート中のエリート…しかも相談役なんて、いわばそのナンバー……」



 そこまで言ってからギギギ、と松崎と滝川が顔を青ざめて黒凪に目を向ける。
 そんな2人に「ナンバー? ナンバー何?」と問いかける麻衣。
 その頃には渋谷とジョンも黒凪に目を向け、その力を図らんとしている様だった。
 そんな3人には目も向けず、黒凪を凝視したままで松崎と滝川が同時に言う。



「「1…」」

「1…って、トップ⁉ トップってこと⁉ 一番偉い人⁉ でもどう見たって私よりも若い…」

「…にわかには信じてなかったけど、裏会総本部の人間の殆どは ”人じゃない” って話だぜ…」



 その言葉にまたしてもぽかんとして、それから麻衣が飛びのいで渋谷の背に隠れた。
 って、てててことは幽霊⁉ え⁉ でも皆見えてるよね⁉
 なんて感じで焦る麻衣には目もくれず、渋谷が挑戦的に笑って言う。



「人じゃないものは幽霊だけに限定されないだろう。」

「へっ…」

「妖、妖精、悪魔や天使…または」



 日本で言う、神様というもの。
 その言葉にごくり、と麻衣が息を飲んで…。
 そしてこの重苦しい空気を変えようとぱっと渋谷に目を向けた。



「そ、それよりナルちゃん! 今日は私何すればいいかな⁉」

「! …お前、今俺を ”ナル” と呼んだか? …何処で聞いた?」

「えっ…」



 怪訝な顔でそう麻衣に問いかける渋谷に閃が少し目を細める。
 しかしそんな閃には気づかず、麻衣がぷっと噴き出して言った。



「なーんだ! やっぱり誰でも思いつくんだ、ナルシストのナルちゃん!」

「…。」



 表情を変えず黙り込む渋谷。
 閃が黒凪に近付いて言う。



「なんか気になるな。調べるか?」

『うん、よろしく。…ま、裏会を知らない霊能者なんて日本には存在しないはずだからね。大方日本生まれじゃない気もするけど。』

「それは俺も思ってた。時間かかるだろうけど、まあどうにかする。」

『分かった。』


 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ