Long Stories

□世界は君を救えるか 番外編
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 そうして全員で旧校舎の中へ。
 渋谷は設置したカメラやサーモグラフィーなどの映像を前に何やら作業をしている。
 その様子を眺めながら手持ち沙汰になっている麻衣、そしてジョン。
 黒凪と閃は霊などそもそもいないことは見抜いており、何かが起こるのを待つように窓の外を眺めて時間を潰している。
 一方の松崎と滝川は各々旧校舎の中を見回りに行った…のだが。



「キャー!」

「どうした⁉」

「扉が開かないの!」



 全員で松崎が閉じ込められた教室へ。
 確かに扉は押せども引けどもうんともすんとも言わない。
 扉に集まる渋谷達から少し離れた位置で閃が目を変化させた。



「…うん。黒田の力だ。引き戸にがっちりなんか噛ませてる。」

『分かった。』

「蹴破るしかないか…! どいてろ綾子!」

「ちょ、どさくさに紛れて呼び捨てにしないでくれる⁉」

「せー…」



 の、という直前。
 黒凪が引き戸に触れてすっと横にスライドさせた。
 そして意図も簡単に開いた扉に勢いをつけていた滝川が倒れ込む。



「うわあっ⁉」

「え、開いた…」



 全員の怪訝な目が黒凪に向いた。
 そしてとりあえず松崎が閉じ込められていた教室に入り、彼女の話を聞くことに。



「この教室の中を見て回ろうとしたら、突然扉が閉まって開かなくなったのよ。やっぱりここ、何かいるわ。確実に。」

「てか、あんたさっき扉に触れた時に除霊したんじゃないか?」

『え? いやあ…除霊はしていないけどね。』

「え、じゃあなんでさっき扉が急に開いたんだよ。」


「――それは、相手が霊ではないからでしょう。」



 突然聞こえた、聞き覚えのない声。
 振り返るとそこにはおかっぱ頭の着物を着た少女が無表情で立っていた。



「これはこれは…あの有名な霊媒師の原真砂子じゃないか。」

「ふん、ちょっと顔がいいからってテレビでちやほやされてるエセ霊媒師でしょ。」

「お褒め頂いて光栄ですわ。」

「ぐ、このマセガキ…」



 表情を変えず松崎の嫌味にそう返した真砂子がちらりと黒凪に目を向け、そしてその家紋にかすかに目を見開いた。



「その家紋…、結界師の方ですね?」

『ん、ああ、ええ。』

「結界師だろうとなんだろうと良いわよ。私はこの土地の精霊の仕業だと思うし、さっさと払って帰る。」



 そう言って教室の外へと歩いていく松崎を横目に滝川が口を開く。



「俺はこの旧校舎についてる地縛霊だと思うけどなあ。ここが取り壊されるのを嫌って色々悪さしてんだろ。」

「…ジョン、君はどう思う?」



 渋谷がそう問いかけるとジョンは少し自信なさげに応えた。



「いやあ、ボクにはなんとも。でもこれだけおかしなことが起きてると、やっぱりゴーストやスピリットですやろか…」

「スピリット…精霊か。ふむ。」


「っ、とにかく私は私でやるから!」

「貴方に祓えるかしら。」



 今度こそ教室を出ていこうとした松崎の前に立ちはだかったのは黒田。
 ここに住む幽霊は強力なのよ。貴方じゃきっと無理。
 そう言い放つ黒田に何も言わず、松崎が教室を出て行った。
 それを見送り、黒田が不安げな顔をして己に近付いてきた麻衣に言う。



「さっき廊下で髪を引っ張られて、首を絞められたの。」

「ええっ⁉」

「私の霊感は強すぎるからダメだって、そうも聞こえた…」


「それはいつの話です?」

「さっきよ。2階の廊下…」



 そして皆でモニタールームに戻り、映像を確認してみると丁度黒田が襲われたというタイミングで映像が一旦途切れていた。
 それを見て「意味深だな…」と顎に手を持っていく渋谷、そして畳みかけるように言う黒田。



「幽霊の仕業よ、これでわかったでしょ⁉」

「いいえ、霊の仕業ではありませんわ。ここには霊は居ません。」

「なによ、あなた本当に霊感あるの?」

「あなたこそ。」



 黒田と真砂子が言い争う中、早速松崎が除霊を始める。
 その声を聞きつけて徐に黒田がそちらを見に行き、麻衣や滝川、渋谷もそれに続く。
 その様子を横目に黒凪が閃に目を向けると、徐に閃は正守へと電話をかけ始めた。



≪もしもし?≫

「あ、頭領。良ければ夜行から1人送ってください。例の女子生徒…うちで面倒見た方がいいと思います。」

≪黒凪もそうした方がいいって?≫

「はい。幸いにも命に関わるほどのことはまだやらかしてないですけど…きっとそのうち。」



 そうこうしているうちにも除霊が終わり、除霊に携わっていた校長が松崎を連れて旧校舎を出ようとした、その時だった。
 出口のガラスにひびが入り、一気にそれが飛び散ったのだ。



「きゃあっ⁉」

「うわあっ」



 その叫び声に電話をかけていた閃が顔を上げ、しまった、といった風な顔をする。
 きっと今電話をかけていなければ扉に向かった黒田の力を見てガラスが飛び散ることは閃になら予測できただろう。
 しかしそれも後の祭り。滝川と渋谷が倒れ込んだ校長と松崎の元へと走っていく。
 2人が倒れた位置には、大量とは言えないが、血が流れていた。



「…悪い。俺の注意不足だった。」

『いや、こういうこともあるって。…ただ、怪我人が出た時点で…彼女には一刻の猶予もなくなったけど。』

「今翡葉さんがこっちに向かってる。まずは黒田さんのご両親に事情を説明してから本人を連れていくことになるだろうって。」



 それまでは手出しは出来ない。
 事情を話したとして、本人がパニックに陥って暴れでもすれば…両親の許可が下りていない以上俺たちが無理くりそれを鎮めるわけにもいかない。



「…これは事故ですわ。」

「ええ⁉ で、でも…事故でガラスが割れるの⁉」

「…少なくとも私が言いたいのは、これは霊の仕業ではないということ。」

「ま、待ってよ! じゃあ私を襲ったのは何⁉ 扉を閉めたりしたのは⁉」

「原因はわかりませんが…霊ではありません。」



 ギリ、と黒田が歯を食いしばり顔を歪ませた。
 その様子を見て閃がため息を吐いて後頭部を掻く。



「…黒凪、俺ヒント出してくるわ…。」

『うん?』

「これ以上あいつらに頭ごなしにあんな風に言われちゃ、黒田が暴走するし。」

『…分かった。』



 肩の力を抜いて閃が一歩踏み出して言った。



「俺思ったんすけど…」



 渋谷達全員の視線が閃に向かう。
 閃は口が上手いし頭が良いから、こういうことには適任だ。



「今のところ、機械に反応は無し、その上実力派霊媒師の意見は ”霊はいない” ってことは、本当に霊じゃないんじゃないすか?」

「ちょ、私の意見は無視ってこと!?」

「俺の意見もだ!」

「霊はいるわ!」




 ぐわっと向きになって言った松崎、滝川、そして黒田に目を向けて閃が冷静に返す。



「落ち着いてくださいよ。俺が言いたいのは、いい加減霊以外の可能性も考えようってことです。」

「じゃあ何か? 地震だとかそういうあれか⁉」

「そうじゃなくて…」

「なるほど。」



 渋谷がボソッと言った。
 そして彼の目がゆっくりと黒凪に向かう。



「ずっと一緒に居ながら、何故この結論に至らなかったのか…。」

「え、ナル?」

「…明日の昼間、皆集まってください。」

「明日ぅ? 今日じゃダメなのか?」

「救急車で運ばれた校長先生にも参加していただきたいのでね。」


 
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