Long Stories

□【BLEACH】
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  あなたを犠牲にさせないためだけに。

  BLEACHの松本乱菊成り代わり。
  市丸ギンオチ。
  原作通りの結末を必死に回避するお話。
  空座決戦編より。



 本当にここまで…原作通り、いや、藍染の思惑通りにすべてが進んでいた。
 織姫を餌として尸魂界の戦力の大方を虚圏に幽閉、藍染を含む我々は虚圏を去り、重霊地である空座町にやってきていた。
 しかしそれを見越していた山本元柳斎重國は浦原の力を借りて空座町での決戦へと乗り出す。
 そう。全て我々が想像していた通りに―――…。



『…』



 黒腔を通り、藍染、東仙そしてギンの隣に並んで退治する護廷十三隊を見据える。
 懐かしい顔ぶれも少なくはない…。
 護廷十三隊の中に立つ日番谷隊長と目が合った。
 彼の眼は覚悟を決めたように揺らぐことはない。
 その様子に私はかすかに寂しさを覚えた。



「皆下がっておれ。」



 そんな山本元柳斎重國が響き、その手に持つ杖が斬魄刀に変化する。
 そしてそれを抜き放ち、灼熱の炎が山本元柳斎重國の斬魄刀の刀身から溢れだす。



「万象一切灰燼と為せ…” 流刃若火 ”」



 その強大な霊圧、そして何より少し離れていても目と鼻の先で火山が噴火したような
 そのものすごい熱に破面達の霊圧が驚いたようにかすかに揺れる。
 しかしやはり傍に立つ藍染や
 その能力を以前から理解している我々の霊圧はまったくもって揺れることはない。



「城郭炎上…」



 炎の塊が藍染、東仙、ギン、そして私を押し包み
 こちらはしばらく身動きが取れなくなる。
 ギンがパタパタと片手で風を仰ぐしぐさをし
 肩をすくめて藍染に目を向けた。



「ひゃー、これはあかんわ。暑い暑い。」

「…」

「どうします? 藍染隊長。これやったらしばらくボク等、参加できへんけど…」

「…何も。ただこの戦いが、我々が手を下すことなく終わることになっただけの話だよ。」



 そうですか。
 そう言葉には出さずとも納得したようにすくめていた肩を直したギン。
 そんな彼は徐に私に目を向け
 私もその視線に応答するように視線を彼に向ける。



「暑いなあ。黒凪。」

『…うん、暑いね。』



 たったそれだけの言葉。
 この4人でいても話すことなんてほとんどないし、どうしたものか。
 私はしばらく続くであろうこの退屈に聞こえない程度のため息を吐いた。





















 
 やがてどれだけ経っただろうか。
 外では空座町を護る柱を護っていた副隊長たちほとんどが地に伏せ、こちらも十刃落ち達は殲滅させられた頃。
 黒腔から現れたフーラー、そう、私たち4人を以前尸魂界から虚圏へと送り込んだその存在が現れ、山本元柳斎重國の炎を意とも簡単に吹き消した。
 そして炎が消え失せ、改めてその惨劇が目に入る。
 誰が倒れ、誰が未だ戦っているのかは霊圧を探ればいとも簡単にわかる。
 しかしいざ倒れている檜佐木や雛森、こちらを絶望の表情で見上げる吉良などを見ると心が痛んだ。



「いやあ、やっと出れたわ。それほど時間はかからんかったなぁ?」



 そんなギンの声が耳に入る。
 ちらりと藍染を見れば、彼は表情を変えず目の前に広がる光景をただ静観していた。
 さて、我々も加わるか? 私は藍染の指示を待つように斬魄刀に手をかけた。
 …途端に、懐かしい声が耳に届く。



「待てや。」



 藍染が静かに振り返る。
 私は分かっていたため、そちらに目を向けることはしない。
 否…目を向けたくなかった。
 過去に傷つけた彼らを見るのが辛かったからだ。



「久しぶりやなあ…藍染。邪魔させてもらうで。」



 仮面の軍勢。
 彼らはこの戦況に割って入り、未だ残っている3人の十刃、ハリベル、バラガンそしてスターク等を倒すべく戦いに参戦していく。
 それでも藍染はまだ我々に指示を出さない。
 しかしこちらにちらりと向けられた彼の目に、私は静かに斬魄刀に目を落とした。
 途端に平子がこちらに向かってきたため、ギンが徐に平子に対応する。
 東仙は自分と戦うためにと現れた狛村や檜佐木たちの方へと向かっていった。






















 やがてバラガンが倒れ、スタークも斬られた。
 残るはハリベルのみ。しかし彼女も決定的な打撃は3体1という劣勢の中で与えられないようだった。
 そんな様子を藍染がつまらなさそうに見下ろしている。
 徐に藍染がギンに声をかけた。



「ギン、もういいよ。」



 と。
 ギンが刀を振り上げ、平子が距離を取る。
 私はこちらを振り返ったギンを見下ろし、ちらりと藍染に目を向けた。



「終わりにしよう。」

『…はい。』

「あ? なんやと?」



 平子のそんな困惑した声が響く。
 途端に藍染が移動し、ハリベルの背後へ。
 そして彼女を斬り伏せた。



「⁉」



 ハリベルが突然の出来事に目を見張り、そのまま落ちていく。
 


「用済みだ。どうやら君たちの力では私のもとで働くには足りない。」

「な、にを…」

「ギン、要、…黒凪。行くぞ。」



 ハリベルの目が私に向いた。
 私は徐に彼女に背を向け、片手をあげる。
 そんな私の行動にハリベルが息を飲んだのが分かった。
 ハリベルがなすすべもなく落ちていき、そしてその霊圧が急速にしぼんでいくのが分かる。

 そんなハリベルを背にした私たちの前に立ちはだかるように
 まだ動ける護廷十三隊の面々、それから仮面の軍勢が姿を見せた。



「油断すんなよ。藍染が相手やからな…」

「分かっとるわ、ボケェ」



 平子とひよりのそんな小言が耳に入ってくる。
 懐かしいやり取りだ。



「流石、思いやりのある言葉だ。平子隊長。」



 藍染の声に手のひらに力を籠めるひより。
 彼が憎くて憎くて仕方がないのだろう。
 声を聞くだけで額に青筋を浮かべられるのだから。



「迂闊に近付こうが、慎重に近付こうが、或いは全く近付かずとも全ての結末は同じことだ。君達の終焉など既に逃れようの無い過去の事実なのだから。」

「あぁ?」

「ひより! 安い挑発に乗るな! やから慎重に行けって…」

「何を恐れる事が有る?百年前のあの夜に君達は既に死んでいるというのに。」



 ぶち、とひよりの額の血管がちぎれたのではないかと思った。
 なぜなら彼女が爆発する感情を乗せた雄たけびを放ちながら
 鬼のような形相で走り始めたからだ。
 刀を振り上げ、藍染にとびかかっていく。
 私はその様子を…その背後から刀を伸ばすギンを、見ていた。



「ぐっ⁉」



 ひよりの鈍い声が響く。
 そして彼女の体を横に綺麗にスライドしていった、ギンの斬魄刀が起こす風を斬るような音も。



「ひっ…」

「ひより―――!」



 破面の軍勢たちが息を飲み
 力なく落ちていくひよりを平子が受け止めるために走る。
 その様子を見てにやりと笑ったギンが言った。



「おひとりさん、しーまい。」

「っ、市丸…!」



 日番谷がそう叫び、ギンに目を向ける。
 途端に私が彼の視線を遮るように
 ギンの手前に姿を見せた。



『…』

「…松本…!」

「待ちぃ。黒凪…あんたはあたしとや。」

『…リサ』



 ちらりと目を外野に向ければ、平子は藍染と戦闘をはじめ
 檜佐木、狛村は東仙と。
 そのほかは藍染を倒す前にまず周りから
 ということで私とギンを睨んでいる。



「うーん。この人数をボクらでやることになるんかなぁ?」

『そうでしょうね…。』

「まあ、いけるか。黒凪とやったら。」

『…』



 ギンの言葉にラブやローズが目を細め口を開く。



「随分となめられたもんだな…。お前はともかく、松本は副隊長だったはずだ。」

「そうだね。霊圧も依然とそれほど差はない…。どう考えたってそっちが劣勢だよ。」

「いや…、油断はするべきじゃねえ。松本は…」

「分かってる。正直黒凪はちゃらんぽらんにふるまってるくせに、つかみどころがなかった。なんか隠してるにおいがプンプンするからな。」



 日番谷の言葉を受け継ぐようにリサがそう締め括り
 ラブとローズも静かにうなずいた。
 そしてそんな中で京楽も刀を構える。



「いやあ、悲しいねえ…。松本副隊長。君とはよく一緒に飲んで、リサちゃんに怒られてたっけ。」

『…あれもまあ、良い思い出ですけどね…。』

「酔いつぶれた君を介抱してたのはいつも市丸隊長だった…。日番谷隊長が隊長になってからは隠れて飲むのが厳しくなって、苦虫を嚙み潰したような顔して僕の隊舎を睨んでたっけね。」

『思い出話はそれぐらいで。』



 いいじゃない、ちょっとぐらい。
 そう言った京楽隊長が私の背後に一瞬で移動する。
 刀が振り上げられ、私はそれを避け
 ギンの隣に移動した。



「君が裏切ったときは正直信じられなかったよ。…でもま、市丸隊長が一緒だったのを見てなんとなーく納得はできたんだけどね。」

「松本…俺は今でも納得してねえぞ。」

『…』

「テメェは必ず倒して尸魂界に連れ帰る…そして全部話してもらう。」



 そう言って刀を構えた日番谷隊長に向かって私は徐に口を開く。



『それは、私があなたを助けたからですか?』

「!」

『だからそんな甘ったれたことを私に言うんですか、隊長。』



 申し訳ないですけど…。
 そう言って人差し指を向けると
 日番谷が私の腰のあたりを見てかすかに目を見開いた。
 そして京楽も私の腰のあたりを見て
 それから私の目を静かに見据える。



「松本…お前…」

「君―――…斬魄刀を、どこにやったんだい?」



 途端に他の面々の視線も私の斬魄刀があるはずである部分へ向かう。
 そこには鞘しかない。
 しかし私の手にも、どこにもその中身がないのだ。
 ギンがにやりと笑う。



『申し訳ないですけど、私は流ちょうにあなた方と話すつもりなんてこれっぽっちもありませんでした。ただ…あなたたちを倒すことだけを考えていたんです。』



 私が目を細めると
 同時に目の前に立つ面々が胸や首を抑える。
 そして一様に苦しみだし
 私を睨んだ。



「松…な、にを…」

『私の卍解は…灰猫の粒子を目に見えないほどの微粒子に変化させ、更にその成分に猛毒や神経毒を持たせるもの。』



 あまりに小さすぎて
 灰猫が目に映ることはなくなり
 皆それを気づかずに吸い込んでしまう。
 そう言うと皆の顔色が一気に変わった。



『吸い込まれた灰猫は血管を通り、全身へと流れていく。もちろん心臓にも。』

「ほんま、改めて聞いてると怖い能力やわぁ。」



 ギンが肩をすくめ、笑いながらそう言う。
 体に入った灰猫は私の意のまま。
 粒子を使って血管を傷つけることも、血の流れをせき止めることも…
 そして心臓をこうやって握ることだってできる。
 心臓にイヤな感覚が広がったのだろう、一様に彼らの顔が歪む。



『そして私の卍解で最も嫌なところは、やがて灰猫が能にまで到達するということ。』



 そうなったら…どうなるんでしょうね。
 私の言葉にリサが歯を食いしばり斬魄刀を振り上げる。
 しかし途端に無理やり開けられたかのように
 勢いよく彼女の両の掌が開いた。
 もちろん手放された斬魄刀は落ちていく。



「くっ…!」

『もちろん今となっては指先の血管にまで灰猫は侵食しているはず。…もう…その体は自分自身の意志では動かせない。』



 もう…勝負はついているんです。
 そうして彼らは皆、地に落ちて行った。

 


 あと少し。


 (迷いはない。最初から。)
 (しいて言うなら、ずっとそばにいてくれているあの子だけ。)

 (最後は、一体どうなる?)


.
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