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□灯火三題 -泣きそうなほどに愛しい-
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 世界で一番良い笑顔
 with アレン・ウォーカー from D.Gray-man



『えぇっ!?アレンが任務に出かけた!?』

「あ、あぁ…」

『そんでもって怪我をして帰って来たと!』

「そう、だな」



 アレンー!と叫びながら走り去った黒凪。
 足首についているブレスレットの様な装飾品がチャリチャリと音を立てる。
 その音を聞いた化学班は「また全力疾走か?」であったり「こけるなよー」と声を掛けてくれる。
 その声に大丈夫!と返しながら裸足で走る少女。



『(ああもう!また怪我して…!)』

《怪我しないでね!絶対!》

《は、はい…》

『(゙はい゙って言ってたじゃん!)』



 今現在走っているのは化学班が主に利用するフロア。
 病室とはまだ少し距離がある。
 もんもんとアレンの事を考えている内、病室への距離感が億劫になる。
 …そんな時、彼女は己のイノセンスを発動するのだ。



「おいおい、急ぐのは良いけどまた前みたいに発動は……」

『イノセンス発動』

「言ってる側から!?」



 足首の装飾品が輝き、足首の左右に炎を纏った車輪の様な物が出現する。
 黒凪が走りながらチラリとその車輪を見れば、ぎゅるぎゅると回り始めた。
 途端に黒凪は浮かび上がり、物凄い勢いで道を突っ切っていく。
 単に本人の速度が上がるだけなら別にいついかなる時でも使えばいいのだが、如何せん通って行ったあとが面倒なのだ。
 ため息を吐いた古株の化学班は新米達が白衣に炎が引火したと騒いでいる様子を見る。



「(これがあるから困るんだよ…。)」

「あれ?なんか暑くないですか?」

「あー…。また黒凪…」



 困った様に揃ってため息を吐く化学班。
 いつもこうなのだ。
 仲間の安否をリーバーに訊きに行き、怪我をしたと聞けば化学班が屯する道をイノセンスを使って突っ切る。
 その度に誰かは必ず被害を受ける。
 …うん。見事な悪循環。


























『アレン無事!?』

「うえっ!?」

「!?」



 黒凪の突然の登場にビクッと肩を震わせて驚いたアレンとリナリー。
 リナリーは思わず座っていた椅子から立ち上がり、胸元を抑えて黒凪を見た。
 何故なら廊下の方からもわぁ、と暖かいような、はたまた生ぬるい様な空気が此方に入り込んでくるからである。
 まさか…、と呟いたリナリーの視線は黒凪の足元へ。
 その視線の先にはやはり想像した通り、火を纏った車輪と明らかに浮いている足元。



「黒凪…、またイノセンスを…」

『そんな事より!』

「あつッ!?」

「ちょ、黒凪…」



 アレンとリナリーの反応に「ん?」と首を傾げる黒凪。
 それそれ、と2人に足元を指差され足元を見た黒凪。
 めらめらと燃え盛る炎を見た黒凪は「ああ、」と目を見開いてイノセンスを収める。
 ちゃりん、と着地した地面に軽くぶつかる装飾品。
 その様子と音を聞いた2人は安心した様に息を吐いた。



『だ、大丈夫?アレン…』

「え?」

『傷!傷だよ!私リーバーから訊いたんだから!』

「あー…。…大丈夫です」



 何、その変な間は!と詰め寄る黒凪。
 そんな黒凪を横目に見ながらリナリーはゆっくりと扉を開き、廊下を覗き込む。
 廊下には窓を開けているファインダー達が沢山居た。
 これも恒例だ、彼女がイノセンスと共に爆走した後には熱気を逃がそうと一斉に窓を開ける。
 しかもその仕事を受け持つのはほとんどがファインダー達なのである。



「…。ちょっと私お手洗い…」

「え?あ、はい」

『?』



 扉を後ろ手に閉めたリナリーは黒凪が通って来たであろう道を戻る様に歩き出す。
 後処理が面倒な彼女の能力。
 屋外でAKUMAと対峙する分には強力な武器になるのだが、やはり室内での使用は控えてほしい。
 ま、仲間の為にと必死になれる子だからきつく言えないのが今の現状ではあるのだが。



『ほんっとうに大丈夫なの?』

「え、えぇ…。この通り、」

『……。…そっか、…よかったぁ』



 しみじみとそう言ってへたり込む黒凪。
 力こぶを作っていたアレンはその様子を見て眉を下げた。
 そしてすみませんでした、と言えば上げられる顔。
 黒凪はアレンの顔を見るとへにゃりと笑った。



「!……すみませんでした。こんなに心配してくれるなんて、」

『いつもこれぐらい心配してるじゃん…』

「…すみません…。今度は無傷で帰れるように」

『それ前も言ってたよ?』



 ゔ、と言葉を止めるアレン。
 もう返す言葉はあるまい。
 静まり返ったアレンを見上げる黒凪。
 黒凪はにこ、と笑うとアレンが寝転んでいるベットに腰掛けた。



『もう無理しちゃ駄目だよ?』

「それをテメェが言うのか」

『へ?』

「………」



 低い声が耳に届き、振り返る黒凪。
 そこには六幻を肩に抱えている神田が。
 彼の頬には微かに汗が伝っていた。
 ん?と首を傾げる黒凪にドゴッと彼の団服が投げられる。
 どさっとベットに倒れ込む黒凪に目を見開いたアレン。
 が、そんな事を気にせず神田はずけずけと病室に入り込む。
 どうやら彼女が進んだ道の途中に修練場があったらしく、間接的に神田の修練を邪魔した。…ようだ。



「テメェな…。いつもイノセンス使って修練場の前通んなって…」

『ご、ごめんごめん!許して…』

「前も同じ事言ってただろうが!」

『うわわ!』



 ぶんぶんと鞘に入った六幻を振りまわす神田。
 それを必死に避ける黒凪。
 先程から空気が何だかぬるいし、黒凪がイノセンスを使ったからだったのか、とアレンは目を伏せる。
 皆に迷惑を掛けたのは良くないけど、それだけ必死になって此処まで。
 そこまで考えるとアレンの顔に笑みが浮かぶ。



「『?』」

「?…あ、すみません…」

「……何笑ってんだテメェ」

『そうだよアレン!私死にかけて…』



 ブンッと振り降ろされた六幻を白刃取りの要領でぱしっと受け止めた黒凪。
 その神業が遂にアレンのツボにはまったらしく、彼は楽しげに笑い始めた。
 その様子にどうかしちゃったのかと顔を青ざめる黒凪と青筋を浮かべる神田。
 ど、どうしたのアレン!?と六幻をほっぽりだして彼に詰め寄る黒凪。
 するとアレンの涙で少しうるんだ目が彼女に向けられる。



「いえ…、僕の事でそんなに必死になって貰って…。……嬉しいなって」

『…アレン…』

「……。チッ」

『あれ?神田帰るの?』



 あ゙?と振り返った神田に口を噤み、首を横に振る黒凪。
 それを見た神田は再び舌を打つとのそのそと病室を出て行った。
 怖かったー…、と項垂れた黒凪に優しい笑みを向けるアレン。
 その笑顔を顔を上げて見た黒凪は眉を下げた。




 こんなに嬉しいなんて、


 (えええっ!?アレンが任務に行って怪我して病室で寝てる!?これはじっとしてられな―――)
 (確保ォ!!)
 (確保?……うわあ!?)
 (悪い黒凪!だが落ち着け!)
 (おーもーいー!)


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