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□小悪魔なきみに恋をする
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 きみが誰かと笑うたびに
 with 折原臨也 from デュラララ



「ああもう、またあの子は…」



 ひゅう、と風が吹いて黒い髪が揺れた。
 ビルの上から獲物を狙う様に目を細める。
 視線の先に居るのは自分の宿敵ともいえる平和島静雄。
 その隣にいる黒髪の少女は自分の所謂恋人である。



「何度言ったら分かるのかな?…静ちゃんとはしゃべらないでって。」

『あ、臨也…』

「いざやあああぁああ!」

『きゃ、』



 ふっと静雄の背後に現れた臨也は黒凪に向かって言った。
 現れた臨也に微かに黒凪が笑顔を見せたのも束の間、一瞬で青筋を浮かべた静雄が側の街灯を引っこ抜く。
 その勢いで起きた風に目を閉じた黒凪。
 それを見た臨也は静雄に目をくれず黒凪へ一直線に走り出す。



「よっと」

「避けんじゃねぇよ…!」

「は?避けるに決まってるでしょ。黒凪が居るんだから」

『よ、よく私を抱えてそんなに俊敏に動けるね臨也…』



 臨也の腕の中で青い顔をして言った黒凪。
 そんな黒凪に臨也は笑顔で「どうって事無いよ」と軽い口調で言った。
 その背後では臨也の口調とは真逆の低い低い声が聞こえてくる。
 殺すと物騒な言葉が、聞こえてくる。



「殺す殺すって物騒だなぁ」

「るせぇ!死ね臨也ぁあああ!!」

「…あのさ。」



 黒凪を抱えたまま跳び上がり街灯を回避する臨也。
 彼は女性1人を抱えているにも関わらず振り降ろされた街灯の上に器用に降り立ち静雄を見下した。
 静雄の鋭い眼光に酷く怒った様な不機嫌な笑顔が返される。



「俺も中々怒ってるんだけど静ちゃん気づいてる?」

「あ゙?知るかよんな事…!」

「そうだよねぇ。いつも静ちゃんはそうだし」



 再び振り上げられた街灯から飛び退いて着地する臨也。
 黒凪が静かに彼を見上げると臨也の腕の力が微かに強くなる。
 珍しい、本当に怒ってる。
 ぽかーんと臨也の顔を見ていた黒凪は唖然と思った。



「黒凪に関してはホント、…殺したくなるぐらい鈍い」

「あぁ?」

「俺がこんなに嫉妬してるのにね。」



 ね?黒凪。
 …ああ、やばい。矛先がこっちに。
 黒凪は直感で感じ取り冷や汗を掻いた。
 嫉妬、嫉妬。あー…、嫉妬ね…。
 かなり混乱している頭に黒凪の頬をまた汗が伝う。



「態とじゃないから余計腹が立つ。」

「テメェ…、俺に言うなら俺を見て言え。黒凪を睨むんじゃねぇよ」

「2人に言ってるんだよ?」



 ぴき、と空気が割れた様な気がした。
 さーっと血の気が引いて行く。
 まずい、かなりまずい。
 どす黒い雰囲気を醸し出す臨也に静雄がピクリと眉を寄せた。
 彼も彼なりに普段の飄々とした臨也でない事には気づいているのだろう。



『あ、あの…臨也、』

「黒凪」

『はい!?』

「…君が静ちゃんに笑う度に俺はこんな感じなんだけどさ」



 どうしてくれるの?
 ん?と黒い笑顔が向けられた。
 ひーっと内心で悲鳴を上げる。
 本気で怒っている。こんな時どうすれば良いのだろう。



「黒凪が誰と何をしようが別に構わねぇだろォが」

「…そう言う所がムカつくんだよね、静ちゃんは」



 ナイフが臨也のポケットから出てくる。
 黒凪は間近で見るナイフに微かに目を見開いた。
 そっと降ろされる黒凪。
 臨也がナイフを静雄に向け微かに首を傾げる。



「俺だけが必死なんだ、黒凪に関しては」

「……知るか。それより死ね」

『(静雄は静雄でぶれないなぁ…)』



 でも今の一言でやっと理解した。
 おこがましいが、臨也は黒凪の事を酷く好いていて。
 いつも自分が静雄に対しては優位に立って振り回しているのに。
 …この事に関しては自分が振り回されているのが酷く彼は嫌なのだろう。



『臨也』

「!」

「……黒凪」



 臨也の首に腕を回し、抱きしめる。
 少し背の高い臨也は背後からの重みに微かにのけぞった。
 その様子を見て静雄は微かに目を見開き黒凪の名を呼ぶ。



『もう良いでしょ、帰ろうよ』

「……」

『ね?臨也。…私お寿司食べたいの、連れて行って』

「…わかった」



 アリガト。
 そう言って黒凪は静雄にぱち、とウインクをした。
 どうやら収まったらしい大規模な喧嘩に町の人々も安堵の息を吐く。
 不思議と短気な静雄の怒りも収まっていた。
 静雄は2人手を繋いで歩いて行く黒凪と臨也に背を向け歩き始める。



『そんなにため込んでたなら言ってくれればよかったのに。』

「………」

『臨也?…どうかした?まだ怒ってるの?』

「…いや、……驚いてるんだ」



 何に?と訊き返してくる黒凪に目を向ける。
 本当に、何故この子だったんだろう。
 何故自分はこんなに嫉妬深くなってしまったんだろう。
 …何故。こんなにも。



「君さ、」

『はい』

「これから静ちゃんと話すの禁止」

『え、…ええー…』



 ええー…じゃない。そう言っても黒凪は嫌そうに頬を膨らませた。
 当たり前と言えば当たり前か。
 高校の時既に友人だったのは静ちゃんと黒凪の方で、それを横から掻っ攫ったのは自分だ。
 それぐらい分かってる、2人は会えば話すぐらいの間柄だって事は。



『…どうして?そんなに嫌なの?私と静雄が話してるの』

「嫌だね。イライラするし」

『……仲悪いよねホントに…』



 呆れかえって言う黒凪に一瞬申し訳なくなる。
 それでも此処は譲れない。でないと自分のイライラは収まらないだろう。
 ね、お願い。と重ねて頼もうとした時。
 ちゅっと頬に黒凪の唇が触れた。



『じゃ、静雄と話すたびにキス1回。これでどうだ!』

「……」



 ぽかーんと黒凪を見る。
 にひひと笑う黒凪に眉を下げた。
 …本当にこの子は。



 溢れ続ける嫉妬心


 (ホント君、中毒性あるし麻薬みたいな子だね)
 (まや、麻薬!?)
 (まさにそうだと思うよ)


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