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□小悪魔なきみに恋をする
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 近づいたはずが遠くなって
 with 志々尾限 from 結界師



 ドォン!と大きな破壊音。
 その音の根源である岩を軽々と避けた2人は一瞬目を合わせると同時に跳び上がる。
 ガガ、と耳元の無線が微かに音を立てた。



≪そっちの様子はどう?大丈夫?≫

『ちょっとすみません、今話せないです、』

≪あ、了解。≫



 ぷつ、と通信が切れると同時に限の爪が妖を切り裂いた。
 そのすぐ後に黒凪が止めを刺す様に妖の胸元の中心に拳を叩きこむ。
 軽く突き刺さった腕を持ち上げるとぐったりとした妖も共に持ち上がった。
 その様子を見た限は徐に無線を叩く。



「頭領すみません。もう大丈夫です」

≪なんだ、余裕そうだな≫

『2人で掛かればすぐですよ、大抵』

≪うんうん。仕事が早くて大変宜しい≫



 どうも、と同時に応えた2人の頭上にまた影が出来る。
 顔を上げれば先程倒した妖とは比にならない程の巨体を持つ妖が立っていた。
 顔を見合わせ同時にため息を吐く。
 そして再び走り出した。



≪…?あれ、新手?≫

『はい。すぐ仕留めます』

「黒凪!」



 珍しく発せられた限の焦った様な声。
 声に反応して目を上げれば目の前に拳が迫っていた。
 しまった、と直感で思う。
 それと同時だろうか、ぐいと思い切り首根っこを引かれどうにか拳を回避する。



「…ぼーっとするな」

『ご、ごめん』

「……はぁ」

『…あは。』



 じろりと睨まれ頬を冷や汗が伝う。
 そしてすぐさま妖に目を向けずその攻撃を回避する。
 同時に2人は空中に跳び上がり妖を見下した。
 またほぼ同じタイミングで体に力を入れ体を空中で回す。
 足に全体重を掛ける様に振り降ろせば妖が素早く2人を個々に見上げた。



『……』

「(俺か)」



 妖の巨大な尾が限に向かう。
 俺に向かって来た方が好都合だ、と目を細める限。
 ちらりと黒凪を見れば予想通り此方には目も向けず足を振り降ろした。
 尾を軽く往なし続けざまに一撃を加える。
 妖は低いうなり声を上げた。



『…っと、』

「!」



 巨大な手が黒凪に向かう。
 思わず手を伸ばす限。
 其方に一瞬目を向けた黒凪だったがぐぐぐ、と背中が盛り上がり翼が生える。
 翼を操作して飛び上がった黒凪は限に不敵な笑みを見せた。



「……。」

『そこまで心配しなくて結構。好きにやりなよ、限』

「…ああ。お前がどんくさいからすぐに目が行くだけだ」

『そりゃどーも。』



 空を切った片手に力を籠め爪の強度を上げた。
 …アイツをまた助けようと思えばひょいと擦り抜ける。
 だがこちらが気を抜いていれば本当に怪我をするのだろう。
 アイツの行動は相変わらず読めないし、近くに寄ったと思えば遠のいて行く。
 タッグを組むのは正直言って嫌いだ、苦手な分類に入る。



「…黒凪。」

『んあ?』



 徐に片手を差し出す。
 それを見た黒凪は小さく笑うとその手を掴み取った。
 ぐいと引かれる腕、ふわりと浮く身体。
 限の身体に腕を回した黒凪は翼を大きく広げ妖に真っ直ぐと向かっていく。



『さっさと倒してね。』

「あぁ。」



 ばっと限を持ち上げていた腕を解いた。
 限がまっさかさまに落ちて行き、妖を睨む。
 ギン、と鋭くなった爪を見た黒凪はもう興味はないと言う様に空を見上げる。
 すると予想通りの妖の断末魔が辺り一杯に響き渡った。



「黒凪」



 空を見上げる黒凪を呼ぶが反応しない。
 今のアイツの中に俺はいないのだろう。
 おい、と再び呼びかける。
 次は振り返った。
 そしてふわりと微笑むのだ。



『何?限。』

「…いや、」

『?』

「……。本部に戻る、降りて来い」



 やはり距離感がつかめない。
 俺はアイツにとってどれ程の距離に居るのか。
 どれほど大事に思われているのか。
 …愛情と言う物を知らない俺には尚更分からない物で。
 珍しくお手上げで。




 揺れてまた募る愛しさ


 (俺達の関係はこれからもぐらりぐらりと揺れていく)
 (その揺れに備えているのはいつも俺だけで。)
 (幸せに生きて来たアイツには、一生理解出来ないのだろうと)
 (諦めている。)


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