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□小悪魔なきみに恋をする
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 いっそ触れられない場所へ
 with 日番谷冬獅郎 from BLEACH



「……よぉ」

『やぁ、また会ったね』



 そうとだけ言葉を交わし日番谷は刀に手を掛けた。
 当然だ、目の前に立つ女の腰にはぽっかりと空いた穴。
 冷たい霊圧を放ちながら日番谷を見る黒凪は目を細めた。



『相変わらず君は私に一人で挑むんだね』

「当たり前だ。お前ごとき俺一人で殺らねぇと名が廃る」

『ああ、君日番谷"隊長"だからねぇ』



 くすくすと笑いながら小馬鹿にする様に言った。
 日番谷の背中からすらりと抜き放たれた斬魄刀が冷気を漂わせる。
 ピシ、と小さな音が響いた。
 黒凪はすぐさま指先を日番谷に向け虚閃が放たれる。



『不意打ちを仕掛けようとして来るところも相変わらずだね』

「…チッ」

『もう通用しないよ。君とはかれこれ5回は刀を交えている』



 その通り、今回は6回目の対決だ。
 毎回この女黒凪は"俺にだけ分かる様に"微々たる霊圧を放ち流魂街に現れる。
 俺にだけ分かる様に、と言うのは日番谷が流魂街を訪れている時にのみ現れる為だ。
 5度も戦っているのに決着はつかぬまま。



「今日こそはテメェを斬る」

『出来るかな』

「出来るさ」



 物凄い勢いで氷が黒凪に向かった。
 それを回避した黒凪は刀を抜き背後から振り降ろされた斬魄刀を受け止める。
 またくすくすと黒凪が笑った。
 嬉しげに、楽しげに。だが何処か不気味に笑う彼女が一瞬美しく見えた。



「っ!」

『私に力負けをする所も相変わらずだ、』

「…楽しくなると隙が多くなるのも相変わらずだな」

『おっと、……分かってるね』



 ガキィ!と音が響き黒凪が勢いで少し後ずさる。
 それでもにやにやと笑う黒凪に日番谷が微かにため息を吐く。
 毎度思う事だが、この女は何処か楽しんでいる節がある。
 …それは俺にも有るのかもしれないが、流石に決着を付けないとまずい。色々と。



「…悪ぃが。」

『ん?』

「今回は本気で行かせてもらう。…死んでもしらねぇぞ」

『!』



 ぶわりと溢れ出した霊圧。
 その霊圧の大きさに黒凪は目を見開き笑った。
 何だ、まだまだ底力があるんじゃないか。
 黒凪が余裕のある声で言った。
 その余裕を崩してやる、そう思う。



『おお、速い速い』

「………」



 目にも止まらぬ速度で移動する日番谷に黒凪がまた笑った。
 目で追う事は諦めたのか彼女は全く動かない。
 すると霊圧が真上から降ってくることに黒凪が気づく。
 そっちか、と笑った黒凪は真上を見上げた。



『!』

「残念だったな」



 真上から来ていた霊圧は斬魄刀のものだったのだろうか。
 降って来ているのは斬魄刀だけだった。
 本人は何処に、と考えた瞬間に背後に気配が現れる。
 黒凪は反射的に振り返り背後に跳んだ。
 急いで離れる黒凪の右手の指先に日番谷の手が微かに触れる。



「チッ、"六杖光牢"!」

『っ!』



 体が拘束され黒凪が勢いのまま倒れ掛かる。
 すると一瞬で背後に移動した日番谷がその体を支えた。
 日番谷に背を預ける形になった黒凪は体に力を籠めるが鬼道を外す事ができない。
 ため息を吐いた黒凪は体の力を抜くと完全に日番谷に体重を預け彼を見上げた。



「よぉ、アランカル」

『!』



 微かに黒凪が目を見開き、そして笑った。
 ああ、懐かしいな。
 初めて出会った時、君は本気の殺気を私に向けてそう言った。
 殺してやると自信を持った目で私を見ていたんだ。



『…やあ、死神君』

「………。」

『殺さないのかい?そろそろ君の部下が君を探しに来るだろう』



 黒凪がそう言うと従う様に喉元に斬魄刀の刃が添えられる。
 眉を下げて笑った黒凪は目を閉じた。
 刀を少しでも動かせば斬れてしまうほどに刃を近づける。
 それでも日番谷の腕はその小さな動きさえも許さぬ様にピタリと固まっていた。



「…テメェを初めて見た時」

『?』

「……綺麗だと、思った」

『…それはどうも』



 殺したくねぇ、と消え入る様な声で言った。
 黙っていると「逃げろと言ってやりてぇ」そんな言葉も続いて発せられる。
 何を弱気になっているんだろう、彼は。
 …仕方がないな。
 黒凪は誰に言うでもなくそう言った。




 一瞬だけ触れた指は


 (それ程迷うなら逃げてあげよう)
 (君の手が届かぬ、遠い遠い場所へ)
 (その躊躇に塗れた刀の力を借りて。)


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