隙ありっ Short Stories

□隙ありっif
4ページ/17ページ



  せかいはまわる

  コナン達と組織の立場が真逆だったら…。(コナン達=黒の組織、黒の組織=FBI捜査官たち)
  内容的にはわちゃわちゃしているだけ。



「――大人しく捕まったらどうだ? ライ。」

「おっと。俺のコードネームまで知られているとは予想外だったな。なら、本名まではたどり着けたのかな。FBI捜査官…黒澤陣さん。」

「さあな…テメェらをブタ箱にぶち込めばすべて分かる話だ。」



 夜の防波堤で、海を背に立つ秀一と私は、逃げ場を塞ぐように立つFBI捜査官…黒澤陣とシャロン・ヴィンヤードを前に組織からの助けを待っていた。
 すでに組織に今の状況は伝えてある…そろそろ助けが来る頃合いだ。



『それにしても驚いたわ。ここまで情報が筒抜けなんて…やっぱり米国の大女優、シャロン・ヴィンヤードは伊達じゃないのね。』

「そんな安い誉め言葉は必要ないわ。結局貴方の組織のトリプルフェイスの彼に正体を見破られてしまったし。彼、バーボンだったかしら。いい人材だわ。」

「ああ。彼は本当にいい人材だ。まさに今…君らを背後から挟み撃ちにしてくれた。」

「「!」」



 黒澤とシャロンが振り返る。
 黒いキャップを目深にかぶったバーボン…レイ君が肩を鳴らしながら地面に沈んだFBI捜査官の間を縫ってこちらに歩いてきていた。



「情けないな。この程度のFBI捜査官に追い詰められるとは…ライ。」

「助けに来てくれて恩に着るよ…バーボン。」

「フン。」

「…ここを攻略しても逃げ場はねェ。ここら一帯は包囲してある。」



 ほう。と秀一が感心したように笑みを浮かべる。



「ここ日本でそれほどまでに大規模に活動するとは…違法捜査にもほどがあるな。」

「テメェらのような殺人集団に文句を言われる筋合いはねェよ…」

《――お疲れ様です。防波堤にてFBI捜査官の中枢を担う2人…黒澤陣とシャロン・ヴィンヤードを引きつけてくださった、皆さん。》



 私たち3人がつけているインカムに届いたボスの声に目を細める。
 やっと来た。



《西側、東側の入口共にメンバーを派遣しました。約束の15分が過ぎましたし、逃走準備は整っているはず。…西側、どうぞ。》

《結構FBI捜査官を潜伏させてたみたいやけど、殲滅完了や。東側はどうや。科学者のねーちゃん。》

《シェリー、よ。全員眠らせてあるわ…。車は東側の駐車場に1台準備しておいたから、お姉ちゃん、気を付けて来てね。》

《2人ともご苦労。じゃ、皆計画通りに…。》



 ぶつ、と音声が途切れ、秀一が煙幕を地面にぶつけて視界を遮った。
 途端に黒澤とシャロンが拳銃を構える音がかすかにした、が…シャロンは背後に立っていたレイ君に、黒澤は一瞬で銃を構えて打った秀一に麻酔針を撃ち込まれ、地面に倒れる。
 そして東側の入口へ向かって3人で走り出した。



「流石。いい腕だ。」

「お前に褒められても何もない…」

『今日は早く帰れそうね。帰ったらみんなでお鍋でも食べましょう。』



 そうして妹…シェリーの指示通りに東側の入口へ向かえば、私たちを見た助手席に座る服部君が車のエンジンをかけたのだろう。ライトがともる。
 運転席にはレイ君が、後部座席には志保、私、秀一の順で乗り込む形になった。



「お疲れさん。怪我は?」



 無言で車を発進させたレイ君に服部君が問う。



「問題ないさ。君たちも大丈夫だったかい?」

「こっちは余裕やったで。なあ?」

「ええ…。皆お姉ちゃんたち3人ばかりに集中していたから。」

「で? 今日はいっぺん本部に戻るんか?」



 ぎし、と座席に背を預けて言った服部君に「ああ」と秀一が小さく頷き口を開く。



「シャロン・ヴィンヤードに潜入されていたからな…早急に対策を考える必要がある。…強盗担当の彼、今日は本部にいるんだろう?」

「ん? あー…黒羽か。確か工藤と話すことがあるとかなんとか…もう来とるかは知らんけど…」

『先に連絡を入れておこうかしら?』

「いや、いいよ黒凪。もう着くし直接確認しよう。ボスに言えば彼も本部に顔を出すだろうし。」



 バックミラー越しにこちらを見て言ったレイ君に「そう?」と頷いて携帯に伸ばしていた手を戻すと、その手を掴んで秀一が自身の口元へ持っていく。
 そして手の甲に落とされたキスにきょとんとしていると、チッとレイ君が露骨に舌を打った。



「調子に乗るなよ赤井…。お前だけ歩くか?」

「はは。それは勘弁願いたい。」



 そうして車が地下の駐車場に入り、5人揃って少し開けた居間のような部屋へ。
 すると奥に座っていた彼…新一君がくるりとその椅子に座ったまま回ってこちらに顔を向けた。



「お疲れ様でした。またあのFBI捜査官に会ったんですね。たしかジン、でしたか?」

「新一君…いや、ボス。あの男は確かに面倒な男だが、早急に対応を考えなければならないのはシャロン・ヴィンヤードだ。あの女の変装技術はさらに上がってきている…うちの怪盗をしのぐレベルだ。」

「うん、そうですね。それもあって到着時間をずらすように言っておきました。そろそろ…」



 途端にがちゃ、と扉が開閉する音がかすかに聞こえた。
 噂をしていれば、だ。



「うーす。来たぜ名探偵。あと表で会ったんだけど…」

「新ちゃん♪ 優作からお小遣いよーん!」

「あれ? 母さん…。父さんに任せたニューヨークの標的は? 期限はまだ…」

「優作がもう始末しちゃったわよ? もう家に帰って、新しい軍資金を稼ぐために小説を1本完成させるってこもっちゃった。」



 ハハハ…と乾いた笑いが上がる。
 今部屋に入ってきた工藤有希子さんは現ボスである工藤新一君のお母さま。
 そしてその夫である工藤優作さんはこの組織の元ボス。新一君にボスの座を譲ったのはつい1年ほど前のこと。
 つまり1年前に現役は一応退いているのだが…まだまだゆっくりするつもりはあまりないらしく、こうして時折誰かの標的を奪っては一瞬で任務を完了させ、小説を書いたりと好きに暮らしている。



「えー…どうやって政府から逃げ回ってる元軍人を1日で見つけ出して始末したんだよ、父さん…。」

「うふふ、でもここ1年の新ちゃんの仕事ぶりを見て感心してたわよん? じゃ、このお小遣いここに置いておくわね〜!」



 そう言ってるんるん言いながら出て言った有希子さんを見送り、やっと終わった…なんて顔をして黒羽君が一歩前に出る。



「さて、じゃあ明日も俺学校あっから、先に要件を済ましてくんねーか? ボスさんよ。」

「学校は理由にならねーぜ黒羽…。俺も服部も同じ立場だ。」

「ははは。同じ立場? 馬鹿言うなよ工藤…」



 若干怒りのこもったその黒羽君の言葉に「ん?」と工藤君を除く、彼の前に立っていた我々が黒羽君を振り返る。



「おめー、俺ぁまだ忘れてねえからな⁉ 前の現場で俺にサッカーボール当てやがったの!」

「あれは何度も説明したろ? 外では俺は怪盗キッドを追う高校生探偵で、お前は宝石を盗む犯罪者。」

「おおそーだよ。おめーの命令で宝石を奪ってんだよ、お・れ・は! なんで積極的に俺がいる現場に足を運ぶんだよおめーは⁉」

「警察に俺を頼ってくれる人がたくさんいるせいだな。うん。」



 あっけらかんと答える新一君にびきびきとおでこに青筋を浮かべていく黒羽君。
 ま、結局は目当ての宝石ではないことを確認するとそれらを元に戻す決まりになっているし、その手柄をボスである新一君に還元すれば、最終的に組織のためにはなる。が。
 毎度毎度汚れ役をさせられる黒羽君ももちろん面白くはないだろう。



「分かった分かった。じゃあ、今回の俺の頼みを聞いてくれたら臨時ボーナス。さらに、有給を1週間やるよ。青子ちゃんと旅行にでも行けるように。」

「う、そ、…そういうことなら…なんだよ頼みって…」



 流石みんなのボス、新一君。黒羽君のニーズはしっかりと抑えているらしい。



「うちの母さんと一緒にメンバー1人1人に変装技術を軽く教えてやってほしい。もちろん声真似は無理だろうから、メイクの仕方だけでも。」

「…。分かった。有給2週間でどうだ。」

「はは。了解。頼んだぜ、黒羽。」

「よし。じゃー俺はもう寝る。その変装技術の特訓は明日からな。」



 くあ、とあくびを漏らしながら伸びをして、組織に内に用意された自室へと向かおうとした黒羽君。
 その背中を見た工藤君がにやり、と笑みを浮かべた。
 ちなみにこちらから2人の顔を並べてみていると、本当に双子かと見間違うほど似ている。



「 “本日はここまで! よい夜を、名探偵?” 」



 そう大げさに抑揚をつけ、演技ぶった口調で言った新一君にびくうっとこれまた大げさなほどに肩を跳ねさせた黒羽君。
 今のセリフはきっと外で敵を演じていた時に怪盗キッドが工藤新一へと放った言葉なのだろう。
 顔を引きつらせて振り返った黒羽君に、ついに耐えきれなかったように服部君が笑い始めた。



「お前が言うと洒落にならんな、工藤!」

「うっせぇ! 俺だって自分の上司に向かってあんな演技したかねぇよ!」



 勢いよく扉を閉じて出て言った黒羽君を見送り、くつくつと笑っていた新一君が「お待たせしました」と私たちへと目を向ける。



「ま、これでシャロン・ヴィンヤードに関する対策はとりあえず練れたとして…最後に赤井さん、降谷さん、そして黒凪さんに追加の任務の話だけいいですか? 服部と灰原は戻ってくれていいぜ。」

「了解。」

「…あたしはお姉ちゃんと一緒に帰るから、待ってるわ。」



 両腕を組んで壁にもたれかかり、そう言った志保に笑顔を向け、新一君が机に1枚の資料を出す。
 それをレイ君が手に取り、内容に目を通し始めた。



「ターゲットは裏で税金を私利私欲に使っている議員で…この人、裏ではかなり懸賞金もかけられているんで、今回はそれが狙いです。」

「…なるほど。ボディーガードも多そうだ。」



 レイ君がそう言って私に資料を手渡してくれた。
 彼と同じように資料に目を通す私に倣って秀一もすぐ隣に立って私が持つ資料を覗き込む。



「やり方に指定は? …とはいっても、このメンバーなら大体想像はつきますが。」

「ご名答。今回は狙撃がメインになりますので。ただどれだけのスナイパーが必要か分からないので、そこはお任せします。」

「確か諸伏君が1週間ほど休みを取ってるらしいな? 今、彼は?」

「長野にいるお兄さんに会いに行ってる。この任務には駆り出せない。」

「それは残念だ。」



 肩をすくめて言った秀一に、携帯でこれからの予定を確認したレイ君が言う。



「明日、午後5時。東京駅の北口集合。」

「了解。」

「黒凪もそれでいいか?」

『ええ。じゃあ明日はよろしくね、レイ君。』



 うん、と微かに笑顔を浮かべて言ったレイ君ににっこりと笑顔を返し、秀一と目を合わせて志保の元へ。
 一緒に家へと戻るためだ。レイ君は東京駅からの距離を考えるとこの本部で寝泊まりした方が早いのだろう…自室へと歩いていくのが横目に見えた。



 正義の味方ですか? いいえ、れっきとしたヴィランズです。


 (新一? いるー?)
 (あ。ボス、工藤鄭に蘭さんが。)
 (え⁉ 降谷さんそれマジ…うわあマジだ⁉ 赤井さん! 俺もちょっと乗せて行ってくれませんか⁉)


 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ